魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百四十四話

「あー、どうやら『ハズレ』の扉を開けちゃったみたいね」

 

 アルハレムとアルマが混乱していると、二人の後ろから扉の向こう側を見たセイレーンの魔女が呟いた。

 

「ハズレの扉?」

 

 おうむ返しに聞くアルハレムにセイレーンの魔女は頷いて見せる。

 

「そっ。どういう理屈かは知らないけど、ハズレの扉を開けちゃったら、最近の休憩室に繋がる仕掛けなの」

 

「……そういえば聞いたことがある。ダンジョンの仕掛けには突然別の場所に移動させられたり、同じ場所から移動できなくなるといった、空間に作用するものがあるって」

 

 まさかその実例をこの目で見ることになるとは思ってもいなかったアルハレムは目を丸くする。

 

「このダンジョンはね、無数にある扉を正しい順番で開けていくことで先に進めて、一回でもハズレの扉を開けちゃったら最近の休憩室でやり直しって仕掛けなんだ。……あっ。言っておくけど、これはアドバイスそのにだからね?」

 

 このダンジョンの進み方を説明したセイレーンの魔女は、後になって話しすぎたと思ったのか、これは助言だと言い繕った。そしてそれにアルハレムは小さく頷いてから次の質問をする。

 

「ハズレの扉を開いたら休憩室に繋がるのは分かった。それで正しい順番の扉を開いたらどうなるんだ?」

 

「んー、まあ、ここまで言ったら別にいいかな? それじゃー、アドバイスそのさん。正しい順番の扉を開けると通路に出るの。部屋と部屋を繋ぐ短い通路。それで通路の先にある扉を開くと……」

 

 そこまで言うとセイレーンの魔女は後ろを振り返って、アルハレムが開いた扉の向かい側にある扉を右の翼の先で指した。

 

「開いた扉の丁度向かい側にある扉から出てくるってわけ。分かりやすいでしょ?」

 

「ああ、確かにな……ん?」

 

 セイレーンの魔女に返事をしたアルハレムが眉をしかめた。

 

「どうかしましたか? マスター?」

 

「いや……。扉を閉めようと思ったんだが……扉が閉まらないんだ」

 

 アルマに答えながらアルハレムは扉を閉めようと取手を持つ手に力を入れるが、扉は開いた状態のまま動こうとしなかった。それを見たセイレーンの魔女が自分の顔の前で翼を左右に振る。

 

「あー、ダメダメ。一度開いた扉は部屋の中からじゃないと閉まらないよ。あと、開けた扉をちゃんと閉めないと他の扉も開かないからね。ほら、待っててあげるから休憩室からやり直してきなよ」

 

「……仕方がないか」

 

 セイレーンの魔女の言葉に従ってアルハレムが休憩室に入って扉の取手を掴むと、今度はあっさりと扉が閉まった。

 

「……これは長期戦になりそうですね」

 

「ああ、これはかなり厳しいかもしれないな」

 

 扉が閉まったのを確認してからアルハレムの手の中にあるアルマが呟き、魔物使いの青年もそれに頷いて同意した。


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