魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百四十二話

「おい、アルマ。一体どうした……うわっ!」

 

 何やら様子がおかしいアルマにアルハレムが戸惑っていると、いつの間にか接近を許してしまった一体の骸骨の人形が彼の頭をめがけて武器を降り下ろしてきた。

 

「……この!」

 

 降り下ろされた敵の刃を紙一重で避けたアルハレムは、お返しとばかりに手に持ったインテリジェンスウェポンのロッドを骸骨の人形の頭蓋骨に降り下ろす。

 

 ガッ! ギン!

 

 破砕音と金属音。

 

 アルハレムが降り下ろしたロッドは一撃で骸骨の人形の頭蓋骨を打ち砕き、そのまま頭蓋骨の下にある金属製の骨にぶつかり、持ち主の手に軽い衝撃と硬い感触が伝わってきた。

 

「んふぅ♪」

 

 骸骨の人形の頭蓋骨を砕いた直後、ロッドの柄尻の宝玉から艶のある女性の声が聞こえてきた。

 

「おい、アルマ! いい加減に目を覚ませ!」

 

「……っ! す、すみません。マスター」

 

 アルハレムに一喝されてようやくアルマは正気を取り戻し、柄尻の宝玉からいつものインテリジェンスウェポンの魔女の声が聞こえてきた。

 

「初陣で浮かれるのは分かるが気を引き締めてくれ。死角の警戒を頼む」

 

「分かりました」

 

 アルマの返事を聞いたアルハレムは、目の前の階段を上がってくる骸骨の人形達に意識を集中させる。

 

 今ので二体目の骸骨の人形を倒したが、敵はまだ十体以上残っている。ここからが本番だと魔物使いの青年は心の中で自分に言い聞かせた。

 

「………ふぅん?」

 

 背を壁に預けた体勢でアルハレム達の戦いを眺めていたセイレーンの魔女が小さく呟く。

 

 階段の前に陣取ったアルハレムは、骸骨の人形達の攻撃を避けたり手に持ったロッドの姿をしたアルマで防ぎ、返す攻撃で確実に骸骨の人形の弱点である頭蓋骨を破壊していった。

 

 骸骨の人形達の実力は訓練された人間の兵士と同じくらいで、セイレーンの魔女の見たところアルハレムの実力も骸骨の人形達と同じくらいだった。それなのに次々と骸骨の人形達を倒している姿から、セイレーンの魔女はあの魔物使いの青年が経験を積んで戦いに慣れた戦士なのだと判断した。

 

「マスター! 左です!」

 

「くっ!」

 

 セイレーンの魔女の視線の先で、死角からの骸骨の人形の攻撃をインテリジェンスウェポンの魔女が自分の主に知らせて、それに反応した魔物使いの青年が防いだ。

 

(仲間の魔女と信頼関係は築けてるみたいね。いいコンビじゃない。……魔女の力を借りて一人で大勢の魔物と戦う冒険者、ね)

 

 タン。タン。タン。

 

 アルハレム達の戦いを眺めていたセイレーンの魔女は、自分でも気づかないうちに足で床を蹴っていた。

 

 タン。タン。タン。……タタン。タン。タタン。

 

 最初は無造作に、だけど途中からは徐々にアルハレムの動きに合わせてセイレーンの魔女は床を蹴る。

 

 タタン。タン。タン。タン。タタン。タタン。

 

 セイレーンの魔女の床を蹴る動きが一定のリズムを持ち、床を蹴って聞こえる音が本人だけの伴奏になると、彼女はゆっくりと口を開いた。口を開いた理由はもちろん歌うためだ。

 

 セイレーンの魔女の歌に歌詞はない。彼女は自分が見たもの、聞いたもの、感じたものをそのままに声に出して表現するだけだ。

 

 目の前で繰り広げられているアルハレム達の戦いはセイレーンの魔女に感じるものがあったらしく、彼女は魔物使いの青年の戦いを表現する歌を歌おうとしたのだが……、

 

「……っ」

 

「これで最後っ!」

 

 丁度セイレーンの魔女の口から歌声が出ようとした瞬間に、アルハレムの戦いの終了を告げる声が聞こえたのだった。


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