魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百四十話

 同行者にセイレーンの魔女を加えたアルハレムとアルマは、覚悟を決めるとダンジョンの奥へと続く扉を開いた。

 

 ここから先は活動をしているダンジョンの中。

 

 高度な思考を持つダンジョンマスターによって管理され、この何百年もの間、何十何百人といった様々な種族の挑戦者達を全て撃退してきた伝説のダンジョンである。中にはどの様な敵が、罠が待ち構えているのか分からず、場合によっては扉を開いた瞬間に敵や罠が襲いかかってくることだってあり得る。

 

 その為にアルハレムとアルマは緊張をしながら、何が起こってもすぐに対処できるように精神を集中させて扉を開いたのだが……、

 

「……え?」

 

「これは……?」

 

「はぁ?」

 

 アルハレムにアルマ、そして後ろについてきていたセイレーンの魔女まで、扉を開いた先の光景を見て呆けたような声を出した。

 

 扉を開くとそこにはすぐに下に降りる階段があり、階段を降りた先には数十人もの人間が集まって宴を開ける大きな広間が見えた。そして広間には十数体の金属でできた骸骨の人形がアルハレム達を見上げていた。

 

 恐らくはこの金属でできた骸骨の人形達がこのダンジョンによって造り出される魔物なのだろう。しかしそれだけなら、罠や魔物の襲撃に備えていたアルハレム達は動じたりしないのだが……、

 

「……何だかあの魔物達、思いっきり俺達を歓迎していないか?」

 

「歓迎していますね」

 

「しているわね」

 

 アルハレム、アルマ、セイレーンの魔女の言う通り、全ての骸骨の人形達は片手に武器を持ち、そしてもう片方の手に「welcome!」とか「ようこそ!」とか「熱烈歓迎!」とか書かれた旗を持って勢いよく振っていた。これは流石に予想外で、魔物使いの青年とインテリジェンスウェポンの魔女は、扉を開けるまでの緊張感やら集中力やらが一気になくなっていくのを感じた。

 

「はぁ……一体何をしているのよ? あのバカ」

 

 セイレーンの魔女が額に左の翼を当ててため息を吐く。「あのバカ」というのは言うまでもなくここのダンジョンマスターのことだろう。

 

「私達がアルハレム達を連れてきた時は『無理矢理誘拐するだなんてルール違反です。こんなのはダンジョンマスターとしてのプライドが許しません』とか言っていたクセに……やっぱり嬉しいんじゃないの」

 

「なあ、あの魔物達ってこのダンジョンが造り出している魔物だよな? もしかしてさまよえる幽霊船の話に出てくる街の住民を手招きする死者達って……?」

 

 痛む頭を押さえながら愚痴を言うセイレーンの魔女にアルハレムが質問をすると、彼女は頷いてそれに肯定した。

 

「そうよ。アイツらが幽霊船の死者達の正体ってわけ。ダンジョンマスターってば街の上空に行くと、あの魔物達を甲板に立たせてこのダンジョンの呼び込みをさせていたの。……でもその結果は分かっているでしょ?」

 

「それはまあ……。夜中にあんな骸骨の人形に呼び込みなんかさせたら、さまよえる幽霊船って呼ばれるよな……」

 

 セイレーンの魔女の言葉にアルハレムが苦笑を浮かべ、アルマが質問をする。

 

「言わなかったのですか? 逆効果だって」

 

「勿論言ったわよ? でもダンジョンマスターが聞かなかったのよ。『この子達は戦っても倒しても、お客様にご満足いただけるように私が作った力作なんです。怖がられるなんてあり得ません』って言ってね。……ダンジョンマスターってば、このダンジョンを有名にしようって努力しているけど、その努力がことごとく空回りしているのよね」

 

 今までこのダンジョンのマスターが、努力をしては失敗ばかりしている姿を見てきたセイレーンの魔女は、そこまで言ってから二度目のため息を吐いた。


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