魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百三十九話

 その後アルハレムは、身に付けている装備に何か不備がないか確認すると、入口の向かい側にあるダンジョンの奥へと続く扉に近づく。

 

「……よし。行くぞ、アルマ」

 

「はい。マスター」

 

「それじゃあアタシも一緒に行こうかな」

 

「「え?」」

 

 アルハレムとアルマがいざ扉を開こうとしたとき、セイレーンの魔女の口から「自分もついていく」という発言が聞こえてきて、二人は思わず動きを止めてしまった。

 

「……今、君もついてくるって言った?」

 

「うん。言ったよ」

 

「何の為にですか? まさかダンジョンの探索中に後ろから襲いかかるつもりですか?」

 

 アルハレムの質問に頷くセイレーンの魔女にアルマが厳しい言葉で訊ねる。

 

 今までの話から察するにこのセイレーンの魔女はダンジョンのマスター側の存在、つまりアルハレム達の敵のはずだ。それなのに何故行動を共にするのかその理由が分からない。

 

 強いて理由をあげるとしたらアルマが言ったように後ろから奇襲を仕掛けることぐらいなのだが、セイレーンの魔女は首を横に振ってインテリジェンスウェポンの言葉を否定した。

 

「そんなことはしないって。アタシはただ貴方達の後ろについていくだけ。あとは時々アドバイスを言うぐらいかな」

 

「アドバイス? このダンジョンを攻略するためのものか? ……何で君がそんなことをしてくれる?」

 

「理由は簡単。貴方達に死んでほしくないからだよ」

 

「「……………はい?」」

 

 セイレーンの魔女は簡潔にアルハレムの質問に答えるが、その答えに魔物使いの青年とインテリジェンスウェポンの魔女は揃って困惑した声を出した。アルハレムとアルマをこのダンジョンの誘拐したのは、目の前にいるセイレーンの魔女とここにはいないもう一人の魔女なのに、その片方に「ダンジョンで死んでほしくない」と言われては混乱しない方がおかしいだろう。

 

「……ええっと、ゴメン。どういうことか説明してくれないか?」

 

「うん、いいよ。さっきも説明したけど、このダンジョンって長いこと挑戦者が来ていなくて、貴方達が久しぶりの挑戦者なの。それがすぐに死んでしまったらダンジョンマスターもつまらないと思うのよ。このダンジョン、出てくる魔物は弱っちいけど仕掛けが厄介だからね。だからある程度は進めるようにアドバイスぐらいならしてあげようかなって思ったの」

 

「なるほどね」

 

「そういうことですか。理解しました」

 

 セイレーンの魔女の説明にアルハレムとアルマは納得する。つまりセイレーンの魔女は、挑戦者であるアルハレム達を長く生存させることでダンジョンマスターを喜ばせようと、あえてアドバイスを贈るということらしい。

 

「分かった。そういうことだったら別に構わない」

 

 アルハレムはセイレーンの魔女の同行に同意する。

 

 今のセイレーンの魔女の口ぶりだとこのダンジョンは何か特別な謎があって、その謎を解かないと先に進めないもののようだ。それが一体何なのかは分からないが、助言があるとないとでは攻略速度も生存率も大きく違うだろう。

 

 セイレーンの魔女が後ろから襲いかかったりしないと言うのであれば、彼女の申し出を断る理由はない。

 

「うんうん♪ 素直でよろしい♪」

 

「……変わった道連れができましたね」

 

 同行を許可されたセイレーンの魔女は嬉しそうに頷き、それに対してアルマはため息混じりに呟いた。


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