魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第十三話

「ふぅ……。ぶっつけ本番だったけど、うまくいったようだな」

 

 輝力で身体能力を強化してアニーの剣を受け止めたアルハレムは安堵の息を吐くと、戦いの直前に聞いたリリアの言葉を思い出した。

 

『いいですかアルハレム様? 輝力を使うコツはイメージです。自分の力が強くなるイメージを正確にできれば身体能力の強化なんて簡単にできます』

 

 リリアの助言はすぐに理解できた。幼少の頃より戦乙女の姉と妹と模擬戦を行い、相手の力が強くなる感覚を肌で感じてきたアルハレムにとって自分の力が強くなるイメージを浮かべるのはそれほど難しくはなかった。

 

「な、何でよ? どうしてよ!? 何で貴方が輝力を使えるのよ!?」

 

 アニーが信じられないといった顔でアルハレムを見ながら悲鳴のような声を上げる。

 

 輝力とは戦乙女と魔女だけに使うことが許された神秘の力で、男は決して使うことができない。それがこの世界の常識だ。

 

 アニーも輝力が使えるからこそ生まれ故郷で最も強い者とされ、今まで出会ってきた男は全員彼女の力を恐れて逆らおうとはしなかった。

 

 それなのに目の前にいる、さっきまで散々見下して侮ってきた男が自分と同じ輝力を使ったのだからアニーが狼狽えるのも無理はないだろう。

 

「貴方、そんな姿だけど実は女だったりするの!?」

 

「そんなわけあるか。俺は見ての通り男だ」

 

「だったらどうして……!」

 

「はいはい♪ その説明は私からさせてもらいます♪」

 

 アルハレムの言葉にアニーが更に混乱していると、リリアがそれはそれは楽しそうな笑顔で説明を始めた。

 

「私の種族はサキュバス。サキュバスには『命と力の移動』という種族特性があります。これの効果は触れた相手の生命と輝力を吸い取って自分のものにするものなんですけど、逆に自分の生命と輝力を相手に送ることもできるんです。……ここまで言えば分かりますよね?」

 

「じゃあ、あのキスの時に……!」

 

 リリアの説明を聞いてアニーは、どうして男のアルハレムが輝力を使えるのかを理解する。

 

 戦う前にリリアがアルハレムに行った濃厚な口づけ。あの時にサキュバスの僕は、種族特性を使って自分の輝力を己の主に分け与えたのだ。

 

「そういうことです♪ これが私達の戦い方です♪」

 

 確かにこれはアルハレムとリリアにしかできない戦い方だろう。サキュバスから輝力を分けてもらい、男でありながら輝力を使って戦う魔物使いだなんて、アニーは今まで聞いたことも見たこともなかった。

 

「う、うわああぁ!?」

 

 アニーはほとんど自棄になって剣を振るうが、アルハレムは彼女の剣を今度はロッドで受けずに最小限の動きで避ける。

 

(これが輝力を使って戦う戦乙女と魔女の世界か……)

 

 アルハレムは次々に繰り出されるアニーの剣を完全に見切って避けながら自分の体に宿った力を実感していた。

 

 自分の体が自分のものでないかのように軽く、頑強で、力に満ちているのが分かる。

 

 自分が超人にでもなったかのような万能感にアルハレムは、これならばアニーのような自分の力に酔った戦乙女がいても仕方がないと納得し、それと同時に自分にこの力を分け与えてくれたリリアに深く感謝をした。

 

「この! このぉ! 男の! 男のくせに! いい加減に当たりなさいよぉ!」

 

 何度剣を振るってもかすりもしない事実に苛立ったアニーが叫ぶ。これ以上戦いを続けても意味はないと判断したアルハレムはロッドを持つ手の力を強めた。

 

「男なんかにぃぃ!」

 

「隙ありだ!」

 

 アニーが大きく剣を振り上げた瞬間、アルハレムは彼女の元に踏み込みロッドを下から上にと勢いよく振り上げた。

 

「がはっ!?」

 

 ビリリィ!

 

 無防備な状態でロッドの一撃を食らったアニーは何かが破ける音を立てながら僅かに宙に浮き上がった後、地面に激突して倒れるとそのまま気を失ってしまった。

 

 パッラララー♪ パララ♪ パララ♪ パッラッラー♪

 

 アルハレムが地面に倒れたアニーが気絶したのを確認した時、彼の荷物袋からクエストブックのクエスト達成のファンファーレが、まるで所有者の勝利を祝うかのように鳴り響いた。

 

「クエスト達成か。どうやら俺とリリアが協力して戦ったと認めてもらえたようだな」

 

「おめでとうございます♪ アルハレム様!」

 

「うわっ!」

 

 アルハレムがクエストブックのファンファーレを聞いて呟くと、その背中にリリアが抱きついてきて二つの柔らかな感触が感じられた。

 

「戦乙女の撃破とクエスト達成おめでとうございます♪ このリリア、惚れ直しました♪」

 

「リリアか。お前の協力のお陰で勝てたよ。……本当にありがとう」

 

 アルハレムはリリアの方に向き直ると彼女に礼を告げた。

 

 それはアルハレムの本心からの言葉だった。物心がついた頃から戦乙女の姉と妹との間に大きな実力の差を感じていた彼にとって、今回の戦いはとても大きいものだった。

 

「気にしないでください。私はアルハレム様の僕なのですから、これくらいの協力はなんでもないですよ。……それよりもアルハレム様♪」

 

 そんなアルハレムの心情を察したリリアは優しく微笑みながら答えた……かと思うと、その直後に彼女は自分の乳房を押し付けながら甘えるような瞳で主人である魔物使いを見る。

 

「な、何だ?」

 

「私……さっきアルハレム様に大量の輝力を渡したから少し疲れちゃいました。だから今夜はたっぷりとアルハレム様の手で私を癒して輝力を回復してくださいね♪」

 

「あ、ああ……」

 

 甘えた口調でいうリリアの頼みをアルハレムは断ることができなかった。

 

 どうやらサキュバスから協力を受けると、その分だけ「夜」に代償を搾り取られることになるのだと魔物使いの冒険者は理解した。

 

 

 

 

 

 ……またこれは余談であるが、戦いに敗けた上に森に放置されたアニーだったが(アルハレムは「看病すべきだ」と言ったのだが、リリアが「この女にはいい薬です」と却下された)魔物使いの冒険者の攻撃によって衣服がほとんど破けていて裸体を露にしていた。

 

 そして魔物使いの冒険者とサキュバスの魔女がその場を去ってからしばらくした後、森に一人の戦乙女の悲鳴が響き渡った。


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