魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百三十三話

 時は遡り、アルハレム達の一行がミナルの街を訪れる数日前、ある薄暗い部屋に三人の女性が集まっていた。

 

「お二人とも、よく来てくれました。それではこれより第百四十六万八千九百九十九回、お客様を獲得するための作戦会議を行いたいと思います」

 

 部屋が暗いため三人の女性達の姿はよく見えないが、その中の一人、両手や体に無数の金属具を身に付けている女性が口を開く。

 

「なんだいその会議は? それに百四十六万って、アタイはそんな会議に知らないけど」

 

「アタシも知らないわね」

 

 三人の女性達の内の大柄の女性が金属具を身に付けた女性の言葉に首を傾げ、残った小柄な女性もそれに同意する。

 

「それはそうです。これまでの百四十六万八千九百九十八回の会議は全て私一人だけでしたから」

 

「……それって会議っていうのかい?」

 

「暗っ、寂し」

 

 金属具を身に付けた女性の言葉に大柄の女性が呆れたように言って、小柄な女性が短く言う。

 

「く、暗くなんかないです! 寂しくなんかもないです! 営業努力に熱心だと言ってください!」

 

 小柄な女性の言葉に金属具を身に付けた女性が、両手を大きく振ってガチャガチャと金属音を鳴らしながら叫ぶ。

 

「まあ、確かに熱心ではあるけどな」

 

「でも空回りしていたら意味ないけどねー」

 

「はうっ!?」

 

 金属具を身に付けた女性はまたもや小柄な女性の言葉に衝撃を受けて胸に手を当ててうずくまる。

 

「うう……。私だって好きで空回りしてるわけじゃないですよぅ……。ああ、昔はよかった……」

 

「始まったな。こうなると長いんだよな」

 

「そうね……」

 

 震える声で言う金属具を身に付けた女性を見て、大柄の女性が呟いて小柄な女性がため息を吐く。

 

「昔はよかったです……。昔は多くのお客様が当豪華客船『エターナル・ゴッデス号』をお探しになって乗船していただいて、それに対して私達も従業員一同で全身全霊をもって精一杯のおもてなしさせてさせてもらったのに……」

 

「豪華客船……従業員一同……」

 

「精一杯のおもてなしねぇ……」

 

 大柄の女性と小柄な女性が顔を見合わせて言うが、金属具を身に付けた女性はそれに気づかずに言葉を続ける。

 

「ですがいつの間にかお客様達は自分達のお住まいに引きこもりになってしまって、当豪華客船にお乗りになるお客様はいなくなってしまいました。

 仕方なく客層を若干変更して新しいサービスを始めたら、また少しはお客様がお乗りになってくれるようになりましたけど、すぐにまた新しいお客様達も来なくなってしまいました……。

 どうしてなんですか!? 私達、あんなに必死に呼び込みまでしているのに、何でいつもお客様は来てくれないのですか!?」

 

 金属具を身に付けた女性の悲痛な叫びに大柄の女性と小柄な女性が肩をすくめる。

 

「まあ……アタイはこの船に客とやらが来なくて静かな方が助かるんだけどね」

 

「アタシも。歌を聴いてくれる観客は貴女達二人だけで充分だしね」

 

 大柄の女性と小柄な女性の言葉に、金属具を身に付けた女性が両手を大きく振ってガチャガチャと金属音を鳴らす。

 

「それでは駄目なのです! 当豪華客船エターナル・ゴッデス号にお客様をお招きして楽しんでいただくのが船長である私の役目なのですから! ……もういいです! 私達は予定通り、このままミナルという大きな港町へと向かいます!」

 

 結局、今回の会議では有意義な会話は行われずに三人の女性達が乗る船、豪華客船エターナル・ゴッデス号は、自棄になって叫ぶ金属具を身に付けた女性の言葉通りミナルの街へと向かう。

 

 そしてその数日後に豪華客船エターナル・ゴッデス号はミナルの街へと到着したのだが、ミナルの街の住人や船乗り達は全員「さまよえる幽霊船」の噂に怯えて、海に出ようとするものは一人もいないのだった。

 

「何でですか!? どうしてですか!?」

 

「流石にこうなると哀れだね……」

 

「仕方がないなー」

 

 せっかくミナルの街に来たのに乗客が一人もいないという事実に金属具を身に付けた女性が悔しさのあまりに大声を出し、そんな彼女の後ろで大柄の女性と小柄な女性はあることを考えて互いに視線を交わしあった。


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