魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百三十一話

「本当のダンジョンじゃない? ダンジョンに本物とか偽物とかあるの?」

 

 首を傾げるアリスンにアルハレムは頷いて答える。

 

「ああ。ヒスイが囚われていた森は、エルフ族が霊亀の力を利用して迷宮化したものだから『ダンジョン』と呼んでいたけど、本当のダンジョンというのはこのクエストブックと同じく女神イアスが人間達の試練として創造したものなんだ」

 

 アルハレムは自分の手の中にあるクエストブックを妹に見せてから説明をする。

 

「クエストブックは『人間』に属する五種族の中で一番種としての力が弱いヒューマンの為に女神イアスが用意した試練だ。しかし後になって女神イアスは『百の試練を達成出来た者だけといっても、ヒューマンだけの願いを叶えるのはえこひいきになるんじゃないか?』と考えて残りの四種族エルフ、ドワーフ、マーメイド、バンパイアの為の試練を用意した。それがダンジョンなんだ」

 

「エルフ……ですか」

 

 アルハレムの口から「エルフ」という言葉が出たのを聞いてヒスイが複雑な表情で呟く。生まれてすぐにエルフ族に誘拐されてダンジョンの核とされた霊亀の魔女としては色々と思うところがあるのだろう。

 

「ヒスイ殿。大丈夫でござるか?」

 

「ええ。大丈夫ですよ」

 

 ヒスイの呟きが聞こえたツクモが彼女の肩に手を置いて訊ねると。霊亀の魔女は笑顔を浮かべて猫又の魔女に答える。

 

「それでお兄様? ダンジョンがあのロリ女神が用意した試練ってことは達成したら何か報酬があるの?」

 

「ロリ女神ってお前な……。ああ、あるよ。クエストブックのようにどんな願いも叶えるってものじゃないけどな」

 

 世界を創造した女神イアスをロリ女神呼ばわりした妹に苦笑しながらアルハレムが答える。

 

「全てのダンジョンの一番奥の部屋にはあるアイテムがあるんだ。そのアイテムの名前は『エリクサー』。飲めばどんなもの大怪我や重病も完治するという霊薬だ。それでそのエリクサーには嘘か本当かは分からないけどある伝説があって、それは……」

 

「ヒューマン以外の種族であれば死者であっても蘇らせることができる……でしょう?」

 

 アルハレムの言葉の途中でリリアがエリクサーに関する伝説を言う。

 

「リリア? お前、知っているのか?」

 

「ええ。お父様が生きている時に一度だけ、不幸な事故で致命傷を負ったバンパイア族の方をエリクサーで蘇らせたところを見たことがあります」

 

「何でお前の父親が……って、そうかお前の父親は……。伝説は本当だったのか……」

 

 リリアの父親は今は滅んだ大昔の大国の大神官であったのでエリクサーを所有してもおかしくはない。思わぬところにエリクサーの伝説を証明する人物がいたことにアルハレムは唖然とするが、すぐに気を取り直して説明を続けた。

 

「一度エリクサーを持ち出されたダンジョンは魔物を生み出したりトラップを動かす機能を止めて、一年かけて新しいエリクサーを作り出す。そしてエリクサーが完成するとまたダンジョンとしての活動を再開するんだ。つまり新しいクエストは活動しているダンジョンに行って、そこからエリクサーを取ってくるってことだな」

 

「なるほど。よく分かりました。ではお話が終わったところで……はい! お願いしますアルハレム様♪」

 

 リリアがそう言うのと同時に蒸し風呂にいる女性七人が同時にアルハレムに布を差し出した。

 

「……え? 何だこれ?」

 

「決まっているじゃないですか。そろそろいい感じに汗が出てきたので体を拭いていただこうかと♪ それが終わったら私達がアルハレム様のお体を拭かせてもらいますので♪」

 

「………」

 

「蒸し風呂、は、汗を、流して、から、体を、拭く」

 

「にゃはは♪ ツクモさんは意外と敏感肌でござるから優しくお願いするでござるよ、アルハレム殿♪」

 

「こ、ここ、子供の頃は、よくお互いの体を拭きあっていたよね? お兄様?」

 

「あの、旦那様……お願いします」

 

「武器のメンテナンスは持ち主の義務です。マスター」

 

「そ、そうですか……」

 

 突然のことに頭がついていけないアルハレムにリリア、レイア、ルル、ツクモ、アリスン、ヒスイ、アルマが輝くような、あるいは照れたような顔を向けてくる。そして、そんな彼女達の頼みを断ることは魔物使いの青年にはできなかった。

 

 その後、とある蒸し風呂の個室から小一時間にわたって複数の女性達の艶かしい声が聞こえてきたのだが、それはまた別の話である。


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