魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百三十話

「まずは風呂だな。体に汚れや臭いがついたまま領主に会うわけにもいかないからな」

 

 このアルハレムの発言により一行は、まず領主の館より先に街にある浴場へと向かった。ここにいる全員、王都からミナルの街までの十日間の間に水浴びや体を拭くなどをしていたが、それでもやはり垢や臭いが体についており、加えて一行は一人を除いて全員女性であることから浴場に行くのを反対するものは誰もいなかった。

 

 イアス・ルイドでの風呂と言えば大きく分けて二種類ある。

 

 一つは湯船を大量の湯で満たしてそこに入る風呂。これは準備に大変な手間がかかる上に、入れる人数と時間が限られている、貴族等の上流階級が入る風呂とされていた。

 

 そしてもう一つは密室の中に熱した石を置き、石に水をかけることで生じた蒸気で体を温めるいわゆる蒸し風呂。こちらは準備にそれほど手間がかからず、入れる人数も時間も湯船の風呂よりも上である。

 

 ギルシュでは蒸し風呂の方が主流であり、これはギルシュの土地に大きな水源があまりないことが関係しているが、庶民も上流階級の人間も蒸し風呂に入っている。その為、ギルシュではどの街にも一つは蒸し風呂に入れる浴場があって、大きな浴場になると料金は高めだが個室の蒸し風呂を用意してる所もある。

 

 アルハレム達が今回利用したのは個室の蒸し風呂で、蒸気で満たした十人くらいなら入れる密室で汗を流していた。

 

「……で? 何で全員で入っているんだ?」

 

 蒸し風呂の中で裸に腰巻きを巻いただけの格好をしたアルハレムが呟く。

 

「この個室にはリリア達だけが入って俺は一般の風呂の方に行く予定だったのだが?」

 

「そんなつれないことを言わないでくださいよ。折角なんですから一緒に入りましょうよ♪」

 

「………」

 

「我が夫、と、ルル達、いつも、一緒」

 

「ルルさんの言う通り私も旦那様と一緒がいいです」

 

「わ、私も子供の頃はいつもお兄様と一緒にお風呂に入っていたし……」

 

「私はマスターの武器であるので、万が一に備えてどんな時でも共にあるべきです。あと、この魔女の姿の時は防水の心配はありません」

 

 アルハレムの呟きにリリア、レイア、ルル、ヒスイ、アリスン、アルマが答える。

 

「にゃはは♪ 諦めるでござるよ、アルハレム殿。というよりこんな桃源郷に入れるチャンスを逃すなんて男としてどうかと思うでござるよ?」

 

「いや、それは、まあ……」

 

 からかうように言うツクモにアルハレムが声をつまらせて回りを見る。

 

 アルハレム達が入っている蒸し風呂は正方形の形の密室で、入り口から左側の長椅子にリリアとレイアが座っていて、右側の長椅子にはルルとツクモにヒスイが座っている。そして入り口の正面にある長椅子には両隣にアリスンとアルマを置いたアルハレムが座っていた。

 

 狭い個室に男一人に女七人。しかも女性達は全員美人な上に裸か布一枚を巻いた格好をしていて、汗を流している姿はなんとも言えない色香を漂わせている。

 

 まさにそこはツクモの言う通り桃源郷といった光景で、もし世の男達が見ればその男達は嫉妬のあまりアルハレムを刺そうとしてもおかしくはないだろう。……刺せるかどうかは別として。

 

「それでお兄様? 外輪大陸にまで行って挑戦するクエストって一体何なの?」

 

「ああ、その事か。それはな……ブック」

 

 アリスンの質問にアルハレムは自分のクエストブックを呼び出して新たなクエストが記されたページを開いて見せる。

 

 

【クエストそのじゅういち。

 かつどうしているダンジョンをこうりゃくしてください。

 ぼうけんしゃにとってダンジョンのこうりゃくはおやくそくですからねー♪

 それじゃー、あとはちじゅうにちのあいだにガンバってください♪】

 

 

「ダンジョンを攻略? それってうちの領地にあったヒスイがいたダンジョンと同じってこと?」

 

 クエストブックを見たアリスンの言葉にアルハレムは首を横に振って答える。

 

「いいや。ヒスイが囚われていたあのダンジョンは『本当』のダンジョンじゃないんだ」


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