魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百二十四話

 アルハレムとローレンの一行が王都に戻った次の日の夜。王城シャイニングゴッデスの大広間で盛大な宴が開かれた。

 

 それはアルハレム・マスタノートが正式にギルシュ公認の冒険者、勇者に認められたことを祝う宴だった。

 

 同じくギルシュの勇者であるローレンが、アルハレムがアンジェラの一件を解決してクエストを達成したことを報告すると、ギルシュ国王であるヨハン王は王族と貴族達を集めて新たな勇者を知らしめる宴を開いた。しかし今夜の宴はあまり盛り上がりを見せていなかった。

 

 本来、このような宴は王族や貴族にとって他の家との繋がりを作る重要な場である。特に実力主義であるギルシュの貴族達は、この機会に自分を売り込もうと積極的に自分達より格上の貴族や王族に話しかけるものなのだが、今夜に限っては貴族達は売り込みをしようとせずに大広間の一角の様子を伺っていた。

 

 今夜の宴に集まった王族と貴族達、彼等の視線の先にいたのは、テーブルの一つを独占して料理を食べている新たなギルシュの勇者アルハレムとドレスに着替えた彼に従う五人の魔女リリア、レイア、ルル、ツクモ、ヒスイであった。

 

 王族と貴族達は全員、アルハレムを興味深く見ていたが誰も話しかけられずにいた。その理由は彼の回りを固めているリリア達五人の魔女にある。

 

 もしリリア達が普通の人間の女性であったならば、ここにいる王族と貴族達は我先にとアルハレムに話しかけて彼に取り入ろうとするか、あるいは武勲や名誉目当てで冒険の旅に同行したいと願い出ただろう。しかしリリア達は戦乙女と同等の実力を持つ高位の魔物、魔女であるため、それが五人も従っているとなると男の貴族も戦乙女の力を持つ令嬢も自分を売り込む隙を見出だせずにいた。

 

 またアルハレムに直接話をしようにも、アルハレムは家名と貴族同士の繋がりを重視する「普通」の貴族とは一線を画する、武力と戦場での繋がりを重視するマスタノート家の人間。共通する話題と言えば戦いに関係することだけで、それだけでは話しかける切っ掛けには弱く、中々話しかけることができなかった。

 

 結果、この大広間に集まっているほとんどの人間は新たな勇者を祝う宴にいながらも、こうして新たな勇者とその仲間である魔女達の姿を離れた所から眺めることしかできないのである。

 

「……あの人達、さっきからこちらを見ていますね」

 

「そうだな。でも見ているだけなら害はないし、別にいいんじゃないか?」

 

 周囲にいる王族と貴族達を横目で見てリリアが呟くとアルハレムがものを食べながら答える。

 

 美人揃いのリリア達を連れているせいで日頃から男達の嫉妬の視線を全身で浴びているアルハレムからすれば、いくら相手が王族と貴族とはいえ単なる好奇の視線などどうということではなかった。

 

「………」

 

「我が夫、の、言う、通り。別に、襲い、かかって、くるわけ、じゃ、ない」

 

「にゃはは♪ アルハレム殿も随分と神経がふとくなったでござるな。いや、頼もしい限りでござる♪」

 

「……あら? そういえば旦那様? アストライア様とアリスンさんはどこにいるのですか?」

 

 アルハレムの言葉にレイアとルルが頷いてツクモが楽しそうに笑い、ヒスイがここにいない二人を探して周囲を見回す。

 

「ああ、母さんとアリスンだったら向こうの方で陛下とローレン皇子の二人と話しているよ。お陰で話しかけてくる相手がいないわけだけど、静かだし構わないだろ?」

 

「そうだな。お陰で俺も貴様とゆっくりと話ができるし好都合だ」

 

 リリア達に向けて言ったはずのアルハレムの言葉に一人の男の声が答える。声がした方を見れば一人の男がアルハレム達のテーブルに近づいてきていた。

 

「貴方は……ライザック皇子」

 

 アルハレムの口から自分達に近づいてくる男の名前が出てきた。


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