魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百二十三話

「それにしても朝のアルハレム様の奇声には驚きましたよ」

 

「………」

 

「女性、の、胸、触っ、て、悲鳴。少、し、失礼」

 

「にゃはは。それにしてもアリスンも中々に色々と育っていたでござるな」

 

「そうですね。アリスンさんの胸も形がよくて可愛らしかったと思います」

 

「朝食の席でするような会話ではないと思いますが」

 

 マスタノート家の人間が集まった朝食の場でリリア、レイア、ルル、ツクモ、ヒスイが朝のベッドでの話をして、ロッドの姿でアルハレムの腰に収まっているアルマが締めくくる。

 

「それでアリスン? 何であんな格好をして俺達のベッドに潜り込んだんだ?」

 

「……だって、お兄様とその魔女達ってばいつも裸で同じベッドで寝ているから、私も脱がないとベッドに入れないのかなと思って……」

 

「だから何でベッドに入ろうとする?」

 

 何だか最近、妹の思考が変な方向に向かっているようでアルハレムは少し不安になりながらも次に母親のアストライアに話しかける。

 

「母さん。俺達がいない間、王都で何か変わったことはなかった?」

 

「変わったこと……か」

 

 アルハレムの言葉にアストライアは小さく呟く。その顔は僅かだが疲れているように見えた。

 

「母さん? 何かあったの?」

 

「……我が息子アルハレム、今だから言わせてもらう。幼い頃から兄として、我が娘アリスンの面倒を見てくれて、そしてその手綱を握ってきてくれた事を深く感謝する」

 

 そう言うとアストライアはアルハレムに向けて頭を小さく下げて感謝の意を示した。これにはアルハレムだけでなくこの部屋にいるほとんどが僅かならず驚いた。

 

「え? 母さん、いきなりどうしたの? アリスンが何かしたの?」

 

「ああ……。お前がいない間に色々とやらかしたな……」

 

「……」

 

 疲れた風に言うアストライアの言葉にアリスンは素知らぬ顔で明後日の方を見て、アルハレムは嫌な予感を覚えつつも母親に訊ねる。

 

「アリスンがやらかしたって、一体何を?」

 

「まず、アルハレムの冒険の旅に同行したいと私に言ってきた。アリスンの気持ちは分かるし、個人的には許可したいのだが、アリスンは今では立派な戦乙女でマスタノート家の貴重な戦力だ。

 それで許可することはできないと言ったら暴れだしてな、あまりにも聞き分けがなかったので『当主である私の決定に不満があるのなら私を倒してみろ。私に勝てたらアルハレムの旅の同行を認めてやる』と言ったら即座に、一瞬の躊躇も見せずにハルバードで私の首を切り落としにかかってきた。

 ……まあ、すぐに叩きのめしたが」

 

『……………………………………』

 

 アストライアの話にこの部屋にいる全員がアリスンの方を見るのだが、話にあがった戦乙女はやはり自分は関係ないといった顔で明後日の方を見ていた。

 

「それからはアルハレムが帰ってくるまで、何度も何度も飽きることなく私に襲いかかってきて、それを全て防ぐと今度は城の兵士達に八つ当たりをし始めた」

 

「八つ当たり?」

 

「そうだ。自慢ではないが、私達マスタノート家はギルシュの貴族の中でも実戦経験が豊富な武闘派であることはアルハレムも知っているだろう?

 だから私とアリスンは、お前がいない間に城の兵士達の訓練を見てほしいと言われたのだが……この馬鹿娘、お前がいない苛立ちを全て『実戦形式の訓練』という名目で兵士達にぶつけたのだ。流石に本物の武器は使っていなかったから死人は出ていないが、それでも何十人もの兵士が叩きのめされて、その中には小隊規模とはいえ何人もの兵士をまとめる隊長格の兵士や戦乙女の兵士もいた。

 ……正直、アルハレム達が王都に戻ってくるのがもう二、三日遅ければ王城の戦力は半壊していたかもしれん」

 

『……………………………………!?』

 

 アストライアの話にアルハレムと彼に従う魔女達は思わず絶句する。

 

 そこでアルハレムは昨日、自分達が王城に戻ってきた時、やけにボロボロな大勢の兵士達が整列して「ローレン皇子! アルハレム様! お帰りなさいませ! 我ら兵士一同、御一行のお帰りを一日千秋の思いでお待ちしておりました!」と言って歓迎してくれたのを思い出した。あの時は「いくら自国の王子が帰還したとはいえ、皆やけに感激しているな」と疑問に思っていたが、アストライアの話でその疑問が氷解した。

 

 ……どうやら昨日兵士達が真に帰還を待ち焦がれていたのはローレンではなく、アルハレムの方であったらしい。


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