魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百十八話

 床に置いたインテリジェンスウェポンが変型を終えると、床にはロッドではなく一人の女性が横たわっていた。

 

 外見から見た女性の年齢は十七、十八くらい。長く伸びた髪の色は銀で瞳の色は金、肌は褐色。猫のようにしなやかな筋肉をつけた引き締まった体つきをしているが、胸にはアルハレムに従う五人の魔女達に負けず劣らずのたわわに実った乳房がついていて、全身には鱗のような刺青が刻まれていた。

 

「どうですか? マスター?」

 

 魔女の姿になったロッドは立ち上がると、美しく整ってはいるが全く表情が変わらない顔を自分の持ち主である冒険者に向けて訊ねる。するとアルハレムは慌ててロッドから視線をそらした。

 

「ど、どうですか、じゃなくて! 何でお前裸なんだよ!」

 

 アルハレムの言う通り、魔女の姿になったロッドは全裸の姿で、秘所を手で隠す素振りもみせなかった。これまでに何度も仲間の魔女達と肌を重ねて女の裸を見てきたアルハレムだが、それでもやはり初めて会う女性にこのように出られると戸惑ってしまう。

 

「何でと言われましても、私は最初から裸ですが?」

 

 ロッドは無表情のまま、何を当たり前のことを言っているんだと言いたげに首を傾げて答える。確かに最初のあのロッドの姿も、裸であると言えば裸であった。

 

「それもそうだけど……兎に角! いいから前を隠してくれ。ほら、俺のマントを貸すから……」

 

「却下です」

 

 アルハレムが羽織っている毛皮のマントを外してロッドに渡そうとすると、魔女の姿になったインテリジェンスウェポンは即座にそれを断った。

 

「却下!? なんで?」

 

「決まっています。今の私は魔女の姿となっていますが、本来の硬鞭の姿に戻れば衣服の類いは不要になります。ですから私が衣服の類いを身につけるのは非効率的です。……それに」

 

「それに?」

 

「マスターの記憶を参考に設定したこの姿は非常に美しいと自己評価できます。それを衣服で隠す必要性はないと私は思います」

 

 そう言うとロッドはアルハレムの前で様々なポーズをとってみせる。本人(?)の言う通り、様々なポーズをとるインテリジェンスウェポンの魔女の姿は非常に美しくて扇情的なのだが、ポーズをとっている最中も全く表情が動かず無表情のままなのが残念であった。

 

「いや、それはそうかもしれないが……って、俺の記憶を参考にしたってどういうことだ?」

 

 アルハレムは今のロッドの台詞の中に一つ気になる言葉があったので聞いてみる。

 

「はい。私は魔女の魂を元に創造されたインテリジェンスウェポンですが、魔女になった時の姿は決まっていませんでした。そこで私はマスターに初めて触れられた瞬間にマスターの記憶を読み取り、マスターの理想の女性像を自分の姿に設定することにしました。そして記憶を読み取った時に私はマスターに従う五人の魔女達の姿を見て、それを参考にこの姿を設定したのです。つまりマスターの理想の女性像とは胸が大きくて裸で……むがむぐ」

 

「なに人の性癖を冷静に分析しているんだお前は?」

 

 相変わらずの無表情で淡々と説明をするロッドだったが、最後のあたりでアルハレムに口をつかまれて強制的に中断されてしまう。

 

 ロッドは今の姿は、リリア達アルハレムに従う五人の魔女を参考にした姿だと言うが、確かにそう言われてみれば彼女達の特徴が見えるような気がする。

 

「いいか? その事は絶対に口にするなよ?」

 

「ふぁい。ふぁふぁりふぁひふぁ、ふぁふふぁー(はい。分かりました、マスター)」

 

「よし。……それでお前、名前は?」

 

 アルハレムはロッドの口から手を離すと、さっきから聞こうと思っていたことを聞く。

 

「私の名前ですか?」

 

「そうだ。さっきから『お前』と呼んでいるけど、いつまでもそういうわけにはいかないだろ? それでお前の名前は何だ?」

 

「ありません。名前なんて、私は特に必要だとは思いませんが、必要だと思うのでしたらどうかマスターが名付けてください」

 

 アルハレムの質問にロッドは無表情のままで答える。

 

「そうか、名前がないのか……だったらそうだな、アルマっていうのはどうだ?」

 

「……アルマ。アルマ、それが私の名前……。分かりました、マスター」

 

 アルハレムに名付けられるとインテリジェンスウェポンのロッド、アルマは口の中で二度自分を呟いてから頷く。その顔はやはり無表情だがどこか嬉しそうに見えた。

 

「それじゃあこれから宜しく頼む、アルマ」

 

「はい。マスター」


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