魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百十三話

 アルハレムが種族特性で造った結界でメアリ達を閉じ込めた後は、実にあっけない戦いの幕切れとなった。

 

 ヒスイの結界に動きを封じられて、女性を支配する輝力も通用しなくなったアンジェラはリリアとツクモの二人によってあっさりと捕まって無力化された。

 

 そしてアンジェラを捕まえて彼女に操られていたシーレの街の女性達を保護した後、ローレンは王家に二通の手紙を書いて、それを宿場町に避難していたシーレの街の兵士の一人に王都まで届けさせた。手紙の内容は一通はこの宿場町での戦いの報告書で、もう一度はアンジェラを王都に護送する人員とシーレの街の住人達を無事に街に送り届ける人員を要請するものである。

 

 手紙を出したアルハレムとローレンの一行は、王都から兵士達が来るまでの間、宿場町に留まってアンジェラの監視とシーレの街の住人達の護衛をすることにしたのだった。

 

 ☆★☆★

 

「アルハレム君、あの時は本当に迷惑をかけたね」

 

 アンジェラとの戦いから五日後。宿場町にある宿屋の一室でローレンはアルハレムに小さく頭を下げて詫びの言葉を言う。

 

 あの時というのは、アンジェラとの戦いでメアリ達三人の戦乙女が操られた時のことである。

 

「いえ、別に気にしていませんよ。それよりもメアリさん達はもう大丈夫なんですか?」

 

「はい。ご心配して頂いてありがとうございます」

 

「あの時は本当にすみませんでした」

 

「助けてくれてありがとうございます」

 

 心配するように言うアルハレムにメアリ、マリーナ、ミリーの順に礼を言う。

 

 今この部屋にいるのはアルハレムとローレンに、彼らに従う魔女五人と戦乙女三人の計十名。

 

 メアリ達三人の戦乙女はこの五日間ですっかりアンジェラの洗脳が解けていて、彼女達同様に操られていたシーレの街の女性達もまた洗脳から解放されて自分達の家族の元にと戻っていた。

 

「時間が経てば自然に解ける洗脳でよかったですね」

 

「そうだね。……というか、時間制限がなかったら反則だって。『自分と同じ不満を懐いていて、ほんの僅かでも自分の言葉に共感した女性を数日間だけ操る能力』だなんて」

 

 アルハレムの言葉にローレンは一つ頷いてからこの五日間で分かったアンジェラの洗脳の輝力の条件を口にする。

 

「そう考えるとリリアさん達にとってアルハレム君は不満に思う点が一つもない理想の主人だってことだね」

 

「当然です♪ 私達魔女にとって理想の殿方なのは今更確かめるまでもありません♪」

 

「………♪」

 

「我が夫、ルル、達、魔女、と、人間、区別、しない。同じ、ように、愛して、くれる」

 

「それにアルハレム殿は戦いの腕も『夜』の強さもあって、まだまだ伸びしろがあるでござるからな♪ ツクモさんはヒスイ殿とアルハレム殿の僕になれて幸福者でござる♪」

 

「私は旦那様に救われた身ですから、旦那様に不満などあるはずがありません」

 

 ローレンの言葉にリリア、レイア、ルル、ツクモ、ヒスイは自分達の体をアルハレムに接触させながら満面の笑みで答える。彼女達の笑顔は輝いているように見えて、この笑顔だけでも五人の魔女達の言葉には一片の嘘がないことが分かる。

 

「なるほど。……本当に、羨ましいくらいに仲がいいんだね。君達は」

 

『………………』

 

 リリア達の言葉にローレンは寂しそうに笑い、メアリ達三人の戦乙女は羨むような視線をアルハレム達に向ける。

 

「あ、はい……。ありがとうございます。……ええっと、それでクーロ男爵とアンジェラはどうなるのでしょうか?」

 

 ローレン達からの視線に落ち着かなくなったアルハレムは、話をそらそうと以前から気になっていたことを聞いてみた。

 

「そうだね……。クーロ男爵は治めている街を守れなかった責任もあるし、今回の騒動の張本人が自分の叔母だから、しばらくは王家の監視がつくだろうけどそれ以上のお咎めはないはずだよ。……でも、アンジェラはの方はやっぱり処刑、よくても終身刑だろうね」

 

「そうですか……。やっぱりですか」

 

 ローレンから聞かされたアンジェラの処置は残酷なものであったが、アルハレムは同情を覚えるより先に、それも仕方がないと納得していた。

 

 五日前に捕まって、今はアルハレム達がいる宿屋の地下室に監禁されているアンジェラは「ここから出せ!」とか「私に従え!」と怒鳴り散らすだけで、その姿からは反省や後悔の色は微塵も見えなかった。それどころか、監視に来たローレンが自国の王子だと知ってもお構いなしに暴言を吐いた時は、その場に一緒にいたアルハレムの方が恐ろしく感じたくらいだ。

 

「アンジェラの能力と性格は厄介な上に、彼女は貴族でありながら国に対する忠誠心が全くない。そんな危険な戦乙女を野放しにするわけにはいかないからね。……僕達はギルシュの王族と貴族であり、勇者だ。自国に危険をもたらす存在を見逃す訳にはいかないんだ。分かるね?」

 

「ええ、分かっています」

 

 顔から感情を消して話すローレンに、アルハレムも顔から感情を消そうとしたが失敗して、僅かに苦い表情を浮かべて頷いた。


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