魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百十二話

「くっ……! すまない、アルハレム君。君達の働きを見届けて、いざという時は助太刀する為についてきたはずなのに、逆に足を引っ張ってしまったようだ」

 

 自分に従うメアリ達三人の戦乙女を敵に操られてしまったローレンは悔しそうな顔でアルハレム達に詫びの言葉を言い、逆にアンジェラは勝ち誇った顔で高笑いをあげる。

 

「だっはっはっ! そう! そうさ! 私に黙って従うその姿が正しいんだよ! そこのアンタら! 男達を捕まえるのは後でいいから、先にその生意気な魔女達を殺しておやり!」

 

『はい。分かりました』

 

「……っ! ヒスイ殿! 下がるでござる!」

 

 アンジェラの命令に従ってメアリ達三人の戦乙女は、体から青白い光を放って身体能力を強化すると標的をシーレの街の男達からヒスイに変更して迫る。そしてそれに対してツクモが庇うように霊亀の魔女の前に出て武器を構える。

 

「ツクモ! ヒスイ!」

 

「………!」

 

「すぐ、に、助け、る!」

 

「待って! メアリ達は僕と同じ二十回クラスだ! 今の君達じゃ危険だ!」

 

 リリア、レイア、ルルの三人が輝力で身体能力を強化してツクモとヒスイの元に駆けつけようとしたが、それをローレンの声が引き止める。

 

「メアリ達は僕が止める!」

 

 ローレンはそう言って腰のバッグから数本のダートを取り出すと、左腕に装備したマジックアイテム「射手の玄弦」を弓の形にしてから素早くダートをつがえてメアリ達へと放った。

 

 ローレンから放たれたダートは以前アルハレムと模擬戦をした時よりも速く鋭い射撃だったが、メアリ達はローレンと同じ二十回クラスである上に輝力で身体能力を強化しているため、容易く彼女達が持っている武器で防がれてしまった。

 

「このままじゃマズイな……! ヒスイ! 結界でメアリ達を閉じ込めることはできないか!?」

 

「旦那様、すみません。新しく結界を造るにはアンジェラさん達を閉じ込めている結界を一度消さないといけません」

 

 ヒスイの結界ならばメアリ達の動きを封じられるかもと思ってアルハレムはヒスイに言ってみたが、霊亀の魔女は首を横に振って答える。

 

 霊亀の種族特性「拒絶の家と束縛の庭」で造り出される結界の規模と数は、その霊亀の力量によって異なり、今のヒスイの力量では一つの結界を造り出して維持するので精一杯だった。

 

「そんな……いや、まてよ……!」

 

 ヒスイの言葉を聞いて一瞬絶望しかけたアルハレムだったが、次の瞬間に彼の脳裏に少し前に神力石を使うことで修得した自分の固有特性が思い浮かぶ。

 

「だったら!」

 

「アルハレム殿! ヒスイ殿の種族特性には輝力が必要でござるよ!」

 

 自分の主の考えを理解したツクモが投げナイフを投げてメアリ達を牽制しながらアルハレムに助言を飛ばす。

 

「分かっています。……ローレン皇子」

 

「何だい!? 今、忙しいんだけど!」

 

 ツクモの投げナイフに合わせて自分もダートを放ち、メアリ達を牽制しているローレンが苛立った声で返事をするが、アルハレムはそれに構うことなく言葉を続ける。

 

「今から見ることはどうか他言無用でお願いします。……レイアとルルはシーレの街の男達を守ってやってくれ。リリアは俺に輝力の補充を」

 

「………」

 

「分かっ、た。任せ、る」

 

「はい♪ ご指名、お待ちしておりました♪」

 

 自分の主の命令に従ってレイアとルルはシーレの街の男達の避難を手伝いに行き、リリアは嬉しそうな顔を浮かべてアルハレムと口づけをすると、口から自分の輝力を主人である魔物使いの体に送り出した。

 

「アルハレム君!? こんなときに一体何……を……?」

 

 戦闘中であるにも関わらずリリアと口づけをするアルハレムの姿に、ローレンは戸惑った声を出すが次の瞬間、彼はその顔に浮かんだ困惑の表情を更に深いものにさせて言葉を失った。

 

 体から青白い光を、男では絶対に使うことができないはずの輝力の輝きを放つアルハレムを見てローレンは目を限界まで見開いた。

 

「アルハレム、君……? その光は……もしかして……」

 

「すみません。詳しい説明はまた後で」

 

 アルハレムはそれだけを言うと、強化された脚力を活かして風のような速度でヒスイの元に駆けつけた。

 

「ヒスイ! 手を!」

 

「はい!」

 

 ヒスイの元に駆けつけたアルハレムが手を差し出すと、霊亀の魔女も手を伸ばして自分の主の手を取った。

 

 固有特性「力の模倣」発動。

 

 それは触れた仲間の特性や技能を一つだけ模倣して自分のものとして使用できるようになる固有特性。自分の手がヒスイの手に触れた瞬間、アルハレムは自分の中にヒスイの力と知識の一部が流れ込んできたのを感じた。

 

「な、何だいあの男は? あの光は輝力の……いや、そんな馬鹿な事があってたまるもんかい! ……お、お前達! グズグズしていないで早くそいつらを殺さないかい!」

 

『はい。分かりまし……っ!?』

 

 輝力の輝きを放つアルハレムを不気味に思ったアンジェラが命令を出してメアリ達が駆け出すと、三人の戦乙女達はほぼ同時に見えない壁にぶつかったように弾き飛ばされた。

 

「ヒスイの種族特性『拒絶の家と束縛の庭』模倣完了。……ふぅ、初めて使ったけどうまくいったみたいだな」

 

 アルハレムはヒスイの力を借りて造り出した結界にメアリ達を閉じ込めたことを確認すると安堵の息を吐いた。

 

 これでもうアンジェラには戦う力……いや、この場合は戦わせる人間はおらず、アルハレム達の勝利が確定したのだった。


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