魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百十話

「大体ねえ! 年下の人間はもっと年上の人間を立てるべきなんだよ! それなのに……!」

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

「何だい!?」

 

「さっきから貴女は私を戦乙女とか人間とか言ってますけど、私は戦乙女でも人間でもありませんよ?」

 

「……………何だって?」

 

 怒鳴り散らしていたアンジェラだったがヒスイの発言があまりにも意外だったのか呆けた表情となって言葉を止めて、霊亀の魔女は自分の言葉を証明する為に左右の髪をかき上げて先端が尖った耳を見せた。

 

「私は霊亀という種族で旦那様……魔物使いの主に使える魔女です。そして更に言えば私は百年以上生きていて貴女よりずっと年上ですよ?」

 

「なっ!?」

 

 外見からヒスイを二十代くらいの人間の女性だと思っていたアンジェラは、ヒスイが実は魔女でしかも百年以上生きていると驚きのあまり絶句する。そして霊亀の魔女の実年齢に驚いていたのは話を聞いていたシーレの街の男達とローレンの一行も同様であった。

 

「ひ、ヒスイさんが百年以上生きた魔女!? アルハレム君、それって本当なのかい?」

 

「ああ、話していませんでしたか? ええ、実はそうなんですよ」

 

「……! そうですか……百年以上生きていてあの美しさを保っていられるとは……。女として理不尽を感じます……」

 

 驚くローレンの質問にアルハレムが答えると、ローレンに仕える戦乙女達を代表してメアリが呻くような声で呟く。やはりいつまでも美しくありたい女としては、死ぬまで若く美しい姿を保てる魔女は羨ましくあり妬ましくもあるのだろう。

 

 そしてそう思っているのはアンジェラも同じのようで、ヒスイが百年以上生きてなお若い姿を保っていると知ると怒りを爆発させて唾を飛ばしながら叫んだ。

 

「ふ、ふざけるんじゃないよ! 百年生きても綺麗なままなんて許されるものかい! お前達!」

 

 アンジェラの怒声に支配下にあるシーレの街の女性が数人、手に持っていた包丁やらクワやらをヒスイに向けて投げるが、それらの凶器は見えない壁に弾かれてしまう。

 

「………!」

 

「無駄です。貴女達の攻撃はこちらには届きません。それに対してこちらの攻撃は……ツクモさん」

 

「にゃ! 了解でござる」

 

 驚くアンジェラにヒスイはそちらの攻撃は通じないと言い放つと次にツクモの名前を呼び、猫又の魔女は霊亀の魔女の隣に躍り出ると一本の投げナイフをアンジェラに向けて投げる。勢いよく投げられたナイフは見えない壁を難なく通過すると、アンジェラの顔の横を通りすぎて戦乙女の後ろにある馬車のドアに突き刺さった。

 

「ひいっ!?」

 

「ご覧の通り、こちらの攻撃はそちらに届きます。更に言えばその結界、見えない壁は貴女とシーレの街の女性達を取り囲んでいて、逃げることもできません」

 

 ツクモが投げたナイフに悲鳴をあげるアンジェラにヒスイが追い撃ちの言葉をかける。

 

 霊亀の種族特性「拒絶の家と束縛の庭」。

 

 結界を作り出すことによって敵の侵入を拒絶し、時には敵を閉じ込めて束縛する種族特性。

 

 もはやアンジェラ達は籠の中の鳥であり、ヒスイの言う通り戦うことも逃げることもできなかった。

 

「……ヒスイの種族特性、以前に本人とツクモさんから聞いた時から『強力な種族特性だな』と思っていたけど、実際に見てみると凄いとしか言いようがないな」

 

「凄いどころじゃない、凄すぎるって。何、あの種族特性? ほとんど反則じゃないか」

 

 たった一人でアンジェラが率いる百人を越える集団を無力化したヒスイを見て、アルハレムが言うとそれにローレンが額に一筋の冷や汗を流しながら呟く。

 

「アンジェラさん。シーレの街の女性達を解放して降参してください」

 

 降参を呼び掛けるヒスイの姿に、これでこの戦いも決着が着いたとこの場にいる全員が思った時、アンジェラは引きつった笑みを浮かべる。

 

「ふ、ふふ……。ちょ、調子に乗るんじゃないよ……。いくらアンタが魔女で凄い力を持っていたって……いや、凄い力を持っているからこそ今の状況に不満を持っているんじゃないのかい? それだけの力を持っているなら、もっと良い暮らしができて男だって選び放題だと思わないかい? こんな所で下らない人間に使われるなんて、お強い魔女様には耐え難い屈辱なはずさ」

 

 この場にいたって突然ヒスイに話しかけるアンジェラに、アルハレムは嫌な予感を覚えた。

 

「……! 何だか嫌な予感がする。ヒスイ! ツクモさん! 早くこっちに戻って!」

 

「私だったらアンタを有効に使って良い暮らしだってさせてやるさぁ! さあ、私に従いなよぉ!」

 

 アルハレムがヒスイとツクモに向かって言うのと同時にアンジェラが叫び、戦乙女の体から青白い輝力の光が放たれた。

 

(これは……まさか女性を操るという輝力か!? クソッ! アンジェラがこの力を使うことを知って警戒していたはずなのに馬鹿か俺は!)

 

「だっはっはっ! これでアンタは私の僕さ! そう、魔女だろうが何だろうが貴族で戦乙女である私に従うのが正しい姿なのさ! さあ! ヒスイとかいったかい? さっさとこの見えない壁を消しな!」

 

 アルハレムはアンジェラの話の馬鹿馬鹿しさとヒスイの種族特性の強力さに気を取られていたとはいえ、女性を操る輝力に対する警戒を緩めていた自分を呪い、洗脳の輝力を放った戦乙女は勝ち誇った笑い声をあげながら霊亀の魔女に命令をする。しかし……、

 

「お断りします」

 

 洗脳の輝力を受けたはずのヒスイはアンジェラの命令をあっさりと断った。


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