魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百六話

「でも、いくらそのクーロ・シーレ男爵の叔母が戦乙女になっても、街を占領することなんてできるんですか?」

 

 アルハレムが思った疑問を口にする。

 

 いくら戦乙女の力が強力だといっても、それまで何の訓練も受けていないであろうただの貴族であった戦乙女では出来ることはしれており、一つの街を占領するなんてとても出来ないというのがアルハレムだけでなくこの部屋にいる全員の考えであった。そしてそれはクーロも同様のようで小さく頷く。

 

「はい……。確かにアンジェラ叔母さんは戦乙女になったといっても武術の心得などなく、訓練した兵士が数人がかりで挑めば充分に勝つことはできます。……しかしアンジェラ叔母さんは戦乙女の力に目覚めるのと同時に、輝力を使って厄介な奇跡を起こせるようになってしまったのです」

 

 輝力とはこの世界、イアス・ルイドの全ての生物に物質、法則を創造した女神イアスの力の欠片である。輝力はその使い手の想いに応じて世界に新たな法則を創り出し、身体能力を強化したり、どこぞの神官戦士の戦乙女のように火の玉を作り出す等の超常現象を発現させる。

 

 そしてどうやらクーロの叔母のアンジェラには余程強い思いがあったようで、輝力によってその想いを叶える奇跡を発現させたようだ。

 

「………?」

 

「厄介、な、奇跡?」

 

 暗い顔をして言うクーロにレイアとルルが首を傾げる。

 

「そうです。その奇跡というのはなんと言うか……女性を自分に絶対服従させる催眠の力と言えばいいのでしょうか? 始まりはアンジェラ叔母さんのお付きだったメイドが服従の態度をとったことでした」

 

「にゃ? メイドが上の人間に服従の態度をみせるのは当然のことではないでござらんか? 仕事なんだし」

 

「そうですね。マスタノート家にいたメイドさん達は私達にもよくしてくれました」

 

 ツクモとヒスイの言葉にクーロは軽く首を横に振った。

 

「いえ……それが、アンジェラ叔母さんは小さい頃から人よりも……その、少し我が儘で、プライドが高く、独占欲が強くて、贅沢が好きで、面倒臭がりで、怒りの沸点が低くて、執念深くて、被害妄想が強くて、自分の欠点に鈍感で、自己顕示欲が強くて……シーレの街の住人達だけでなく屋敷の者達からも苦手とされていました」

 

『………』

 

 クーロから聞かされたアンジェラの人間像に部屋中がなんとも言えない空気となった。確かにそんな厄介な人物に好きこのんで関わり合いになろうという人物はいないだろう。

 

「それでアンジェラ叔母さんのお付きだったメイドも仕事だから仕方なく仕えている感じでしたが、輝力で体を青白く光らせたアンジェラ叔母さんを見た途端に心の底から心酔した表情となって絶対服従の態度をみせたのです」

 

「なるほど、それは確かに輝力によって起こされた奇跡ですね」

 

 それまで黙って話を聞いていた戦乙女のメアリが口を開く。

 

「話を聞いた限りだとそのアンジェラさんという方は、他人が自分に従っていないと我慢できない人のようですね。でもその性格から周りから避けられていて、そんな時に人を自分に心服させて従える輝力の使い方を身につけた、と……」

 

 クーロがメアリに頷いてみせる。

 

「はい……。それからアンジェラ叔母さんは何を思ったのか、シーレの街の女性を次々と自分の配下にしていって街を占領してしまったのです」

 

「それでこの宿場町には若い女性がほとんどいなかったのか」

 

 アルハレムはこの宿場町に避難しているシーレの街の住人達に若い女性が数えるほどしかいなかったのを思い出す。

 

「そうなのです……。何故かアンジェラ叔母さんの力が通用しなかった女性も少数ながらいたのですが、それでもシーレの街にいた若い女性のほぼ全員が、今ではアンジェラ叔母さんの忠実な配下なのです。それで……」

 

 そこまで言ってクーロはリリア達魔女五人とメアリ達戦乙女三人に視線を向ける。

 

「そういうことですか……。つまりクーロ・シーレ男爵はリリア達がアンジェラさんの力で配下にされないか不安なのですね」

 

「……はい」

 

 アルハレムが言うとクーロは申し訳なさそうに答える。

 

 確かに女性を従えてしまう輝力を使う戦乙女が相手であれば、面子のほとんどが女性であるアルハレムとローレンの一行は最悪全滅する危険もありえる。一行はクーロが最初に自分達を見た時に不安そうな顔をした理由を理解した。

 

「本当に厄介な力だね。でもそれじゃあ確かに僕達はあまり役に立てそうにないね」

 

「申し訳ありません、ローレン皇子。兎に角、事情は今申し上げた通りです。そしてあのアンジェラ叔母さんのことだからしばらくはシーレの街から立てこもると思いますので、その間に王都から軍隊を……」

 

「クーロ様!」

 

 クーロがそこまで言ったところで一人の男が部屋に飛び込んできた。

 

「一体何事だ? 今、私はローレン皇子達と大切な話を……」

 

「あ、あ、あ……! アンジェラ様が、操った女達を引き連れてこの宿場町に押し寄せてきました!」

 

「はあっ!?」

 

 部屋に飛び込んできた男の口から発せられた悲鳴のような叫びにクーロは驚きの声をあげた。


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