魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百五話

「やあ、よく来てくれました」

 

 宿場町て一番大きな宿屋の一室でシーレの街から逃れてきた貴族、クーロ・シーレはアルハレムとローレンの一行を歓迎した。クーロ・シーレは男の貴族でまだ三十代くらいなのだが、今回の事件で心労が重なったせいか外見的はそれより十年くらい老けているように見えた。

 

「貴方がシーレの街を治めていた領主、クーロ・シーレ男爵ですね?」

 

「ええ、そうです。この度は私の救援を受けてくれて本当にありがとうございます。これで街の住民達を家に帰してあげることができます」

 

 クーロはローレンに握手をして礼を言うと、窓の方に駆けて外を見た。

 

「それで王都から来た軍隊の方々はどこですか? できるだけ早く街を取り戻したいので、軍隊の方々と打ち合わせをしたいのですが……」

 

「いえ、王都から来たのは僕達だけ、この部屋にいるので全員ですけど」

 

「……え?」

 

 ローレンの言葉にクーロは目を丸くして体を硬直させる。

 

 だがそれは仕方がないだろう。

 

 クーロ達にしてみれば街を占領されてそれを解放するために王都に救援要請を出したのに、やって来たのは男二人に女八人だけ。王都から軍隊が来ることを期待していた身としては期待外れと思うのも当然と言えた。

 

「あ、あの……、ローレン皇子と貴方に従う戦乙女達の実力は私も聞いていますが、私は軍隊に来てもらいたかったのですが……」

 

「大丈夫ですよ。僕達だけじゃなく、ここにいるアルハレム君は僕と同じ冒険者だし、それに彼に従うリリアさん達は全員が魔女ですから」

 

 言い辛そうに言うクーロにローレンは自分の後ろにいたアルハレム達を紹介する。

 

 二人の冒険者に三人の戦乙女、そして五人の魔女。

 

 それはこのイアス・ルイドではこれ以上考えられない面子で軍隊と同等、下手をしたら軍隊よりも強力な戦力であった。

 

 案の定、アルハレムが冒険者でリリア達が魔女だと知るとクーロは驚きで再び目を丸くした。

 

「冒険者と魔女……!? 何で魔女がここに? ……いえ、でもそれだったら……いや、だけど……」

 

「あの、クーロ・シーレ男爵? シーレの街を占領した賊って一体どんな奴等なんですか? 俺達、シーレの街が占領されたという情報しか知らないので詳しい話を聞かせてもらえませんか?」

 

 何かを考え込むクーロの態度を不思議に思ったアルハレムは、街を占領した敵とその時の状況を詳しく聞いてみることにした。

 

「え? ……ああ、はい、そうですね。……実は私達のシーレの街を占領した賊というのは私の叔母、アンジェラ・シーレなのです」

 

「叔母……ですか?」

 

 アルハレムの言葉にクーロは表情を暗くして頷くと少しずつ事情を話し出す。

 

「はい。アンジェラ叔母さんは私の父の妹で、他家へ嫁に行かずに我が家で共に暮らしていました。……しかしある日突然、アンジェラ叔母さんの体が青白い光に包まれて戦乙女の力に目覚めたのです」

 

「『遅咲き』……か」

 

「遅咲き? それは何ですか?」

 

 クーロの話を聞いていたローレンが呟き、それが聞こえたリリアが質問をする。

 

「普通、戦乙女になれる女性は十歳前後で輝力を使えるようになるんだ。でもごくまれに十歳以上年を重ねてから突然輝力が使えるようになる戦乙女がいて、そんな戦乙女のことを『遅咲き』と呼ぶんだよ。ちなみにこの遅咲きという言葉は戦乙女を『花』ととらえた意味でもあるよ」

 

 ローレンの説明にリリアと他の魔女達は納得して頷いた。

 

「なるほど、理解できました。……つまり今回の事件は戦乙女の力を手に入れたアンジェラ・シーレさんの暴走と言うことですね」

 

 ある日突然に戦乙女の力に目覚めて輝力が使えるようになった女性が、自らの新しい力に酔って横暴なふるまいをするということはそんなに珍しいことではない。しかし今回のように街一つを占領するのは流石に今まで聞いたことはなかった。

 

「……はい。そんなところです」

 

 クーロは疲れきった力のない声でリリアの言葉を肯定した。


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