魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百二話

 それからしばらくした後。アルハレムとローレンの一行は、クエストに挑戦するためにそれぞれ別々の馬車に乗って目的地に向かっていた。

 

 しかし馬車に乗るリリア達五人の冒険は先程までとはうって変わって不機嫌で、馬車の中は気まずい空気が漂っていたのだった。

 

『…………………………』

 

「あ~。皆、そろそろ機嫌を直したらどうだ?」

 

 馬車の中の気まずい空気に耐えられなくなったアルハレムが五人の魔女達に話しかけると、魔女達を代表してリリアが不機嫌な表情のまま、拗ねたように口を開く。

 

「……いくらアルハレム様のご命令でもこれは少し無理です。……あのメアリという戦乙女、私達だけでなくアルハレム様にまであのようなことを言うのですから」

 

 リリアの言葉に他の四人の魔女達も頷く。彼女達が不機嫌な理由は、ローレンに付き従う三人の戦乙女の一人、メアリにあった。

 

 馬車に乗って出発する前、アルハレムとローレンは話をしていて、リリア達五人の魔女は自分達の主に寄り添って二人の会話を聞いていた。そしてそんなアルハレム達に向かって突然メアリが口を開いた。

 

 

「貴方達、いい加減にしてくれませんか。私達はクエストに挑戦しに行くのであって、会瀬に行くのではないですよ」

 

 

 それがメアリが最初に言った台詞だった。

 

 その台詞だけだったら別によかった。何も知らない人が見れば、アルハレムとリリア達はかろうじて人目にはばからず愛し合っている恋人達に見えなくもないので、メアリの言葉もある意味もっともであった。

 

 しかしメアリはその言葉をきっかけに「もし貴方達がクエストに失敗すればローレン皇子の名に傷がつくのでしっかりしてほしい」とか「何故貴方がローレン皇子と同じ冒険者に選ばれたのか理解できない」とアルハレム達に次々と愚痴を言い出してきたのだ。最初の内は大人しく聞いていたリリア達だったが棘のある言葉で言われ続ければ次第に怒りを覚えていき、いよいよ彼女達が我慢の限界にたっしようとした時にローレンがメアリを叱りつけて彼女を止めたのだった。

 

 その後すぐにそれぞれ馬車に乗って出発をして今にと至る。

 

「……それにしても俺達ってば本当にローレン皇子に従う戦乙女達に嫌われているよな」

 

 アルハレムが自分達に愚痴を言うメアリの顔を思い出しながら一人呟く。

 

 この数日間、アルハレム達は何度かローレンと顔を会わせ、その時にメアリを初めとする彼に従う戦乙女達とも会っているのだが、彼女達は自分達に複雑な敵意を向けてくるばかりだった。

 

 主であるローレンは友好的であるのに、何故従者であるメアリ達戦乙女は自分達を敵視するのかアルハレムが考えていると、ツクモが少し考えてから口を開いた。

 

「……もしかしたら、あのメアリを初めとする戦乙女達は魔物に家族を襲われた過去があるのではないでござらんか?」

 

『………あっ!』

 

 ツクモの言葉に馬車に乗っていた全員が今気づいたような声を出す。

 

 聞いた話によればローレンに付き従う戦乙女達のほとんどは、幼い頃の彼に拾われた貧民の出身ばかりだという。そんな彼女達の中に、親や兄弟を魔物に襲われて失った者がいたとしてもこの世界ではあまり珍しいことではなかった。

 

 そしてツクモが言う通り、彼女が過去に家族を魔物に襲われたというのなら今まで自分達に敵意を向けてきたのも説明がつく。

 

「……まあ、ツクモさんの予想が当たっているとは限らないけどね」

 

「でも、もしそうだとしたら今回のクエストは一筋縄ではいかないかもしれませんね……」

 

 できたら仲間の予想が外れてほしいという口調のアルハレムに、リリアが心配そうに言うのだった。


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