魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第九十九話

 朝の慌ただしい目覚めから数時間後。旅支度を整えたアルハレムと彼に従う五人の魔女達は、王城シャイニングゴッデスの通路を歩いていた。

 

「はあ……。まったく、アリスンにも困ったものだよ」

 

 通路を歩きながらアルハレムは疲れきったため息をついた。疲れている原因は当然、朝にアリスンがベッドに潜り込んできた件である。

 

 いくら妹とはいえ、昨日の晩にリリア達と肌を重ねているところを覗かれて、その上ベッドに潜り込まれて平気でいられるほどアルハレムの精神は強靭ではなかった。

 

「そうですね。アリスンさんは私達から見てもアルハレム様を強く愛していますからね」

 

「………」

 

「確か、に、あれ、は、少し、愛し、すぎ、かも」

 

「にゃ~。そういえばツクモさんが十年前に初めてマスタノート家に訪れた時から、アリスンってばアルハレム殿にベッタリでござったな。最初の頃のアリスンは、ツクモさんにアルハレム殿を盗られると思ったのか、警戒心むき出しでござった」

 

「そうなのですか? ……あの、旦那様? どうしてアリスンさんはあそこまで旦那様に強い好意を持っているのでしょうか?」

 

 アルハレムの呟きにリリア、レイア、ルル、ツクモの順で答えて最後にヒスイが、アリスンがあそこまで兄に強い好意を持つのか聞いてきた。

 

 魔女であるリリア達に妹を変わり者扱いされたアルハレムだったが、彼は特に怒ったりはせず苦笑をしながら自分なりの心当たりを話す。

 

「まあ……、アリスンは俺が小さい頃から面倒を見ていたからかな。……実はアイツ、今では信じられないかもしれないけど、昔は体が弱くてずっと寝たきりだったんだ」

 

『ええっ!?』

 

 アルハレムの口から告げられた意外なアリスンの過去にリリア達五人の魔女が声を揃えて驚く。だがこの反応は彼女を知る者であればある意味正しかった。

 

 言った本人であるアルハレムも乾いた笑みを浮かべて話を続ける。

 

「はは……。それでアリスンの固有特性『長期間活動』は『二、三日休まずに活動できる代わりに丸一日の睡眠をとらなくてはならない』っていう特性なんだが、それって逆に言えば『一日寝てしまえば二、三日は眠ることができない』って意味なんだ。

 ……小さい頃のアリスンは外で遊ぶことも眠ることもできず、ずっとベッドに縛り付けられていた。母さんや城の皆は仕事、姉さん達は剣の稽古や勉強等があってアリスンにずっと構ってやれず、自然とアイツの側にいるのは城で一番暇だった俺の役割になったんだ。

 あの頃の俺とアリスンは片時も離れずいつも同じ部屋で生活をしていたな。眠れないアリスンの為に絵本を読んだり遊びに付き合ったり……そのせいか、ツクモさんが初めてマスタノート家に来た時には元気になっていたんだけど、俺以外には中々心を開かないようになったんだよな」

 

『…………………………』

 

 アルハレムの話した昔話にリリア達は無言となり、アリスンのあの異常なまでの兄への執着心の根源を見た気がした。

 

「……なるほど、大体ですがアリスンさんがアルハレム様を愛する理由は理解できました。……でもそれでしたらアリスンさんが兄離れするのは中々難しそうですね」

 

「そうなんだよな……。ある意味、自業自得といえばその通りだから、どうしたらいいのかな……」

 

 リリアが魔女達の代表となって言うとアルハレムはため息をついて答えた。


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