魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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プロローグ

 イアス・ルイド。

 

 そこは唯一神である女神イアスによって創造された世界。

 

 イアス・ルイドとは「女神イアスの子」という意味でこの世界に存在するものは全て、空も陸も海も、人間も魔物も皆、女神イアスによって産み出された子供、あるいはその子孫とされている。

 

 女神イアスは自身が産み出した「子供」達が成長する姿を見ることを至上の喜びとする神とされており、そのため女神イアスは子供達の成長を促すために様々な法則や特別な力を造り出しては人間と魔物に授けてきた。

 

 今現在の自分の力量や才能を正確に映し出す光の板「ステータス」。

 

 種族の血と個人の魂に宿る、更なる高みを目指す助けとなる異能「特性」。

 

 女神イアスの力の欠片であり、発現させることで奇跡を織り成すことができる神秘の力「輝力」と「神術」。

 

 そして「人間」と分類される種族の中でもヒューマン族にのみ持つことを許された世界に百冊しかない魔法の本「クエストブック」。

 

 クエストブックに選ばれたヒューマンは百の試練を与えられ、百の試練を全て達成した者には女神イアスにより、どのような願いでも一つだけ叶えてもらうことができるとされている。

 

 そのためクエストブックを手にした者達は皆、自らの願いを叶えるためにクエストブックに記された試練に挑戦すべく世界中を旅しており、世の人々はそんな彼らのことを「冒険者」と呼んでいた。

 

 

 

 

 

 人里から離れた森の奥。誰もおらず鳥や獣の影もない静寂のみが支配する場所に突然強い光が生まれた。

 

 光は数秒間森の中を照らした後に何事もなかったかのように消えたが、光が発生した場所を見るとどこから現れたのか一人の男の姿があった。

 

 外見から見た男の年齢は十代後半くらい。服装は黒のズボンと黒のシャツの上に白いロングコートを羽織っており、腰には一振りの長剣を差していて背中には荷物が入って膨らんだ袋を背負っている。

 

 そしてその左手は一冊の「本」を持っていた。

 

「ここは……?」

 

 白いロングコートを羽織った男は辺りを見回すがそこは彼の知る場所ではなかった。

 

 自分の部屋でもなく、無数の扉が並ぶ不思議な空間でもない今まで一度も訪れたことがない森の中。

 

「言い伝えの通りだ……。無数の扉が並ぶ部屋を出た後で見知らぬ場所に飛ばされる……それが試練の始まり。……『ステータス』!」

 

 白いロングコートを羽織った男は、自分が全く見知らぬ場所にいることを確認すると興奮したように呟き、左手に持っている本を一目見てから意を決したように声を上げる。するとブゥン、という音をたてて彼の目の前に一枚の光の板が現れた。

 

 

【名前】 アルハレム・マスタノート

【種族】 ヒューマン

【性別】 男

【才能】 3/20

【生命】 1230/1230

【輝力】 0/0

【筋力】 26

【耐久】 25

【敏捷】 30

【器用】 30

【精神】 27

【特性】 冒険者の資質、超人的体力

【技能】 ★中級剣術、★中級弓術、★中級馬術、★初級泳術、★契約の儀式

【称号】 家族に愛された貴族、冒険者(魔物使い)

 

 

「ステータスの称号に冒険者の文字がある……!」

 

 呼び出した人間の能力、才能を正確に映し出す遥か昔に女神イアスが創造した光の板、ステータス。そこに「冒険者」という文字が記されているのを見て白いロングコートを羽織った男、アルハレムは目を限界まで見開いた。

 

 冒険者。

 

 世界に百冊しかない魔法の本「クエストブック」に選ばれた存在。冒険者はクエストブックに記された百の試練を全て達成することでどのような願いも一つだけ女神イアスに叶えてもらえるとされている。

 

「俺は、本当に冒険者になったんだ……」

 

 アルハレムは自分が伝説のクエストブックを手にして女神の試練に挑戦する権利を得たという事実を認識して、喜びと緊張で体を僅かに震わせた。しかしやがて自分の気持ちを落ち着かせると左手にある本、クエストブックを持つ力を強めてゆっくりと前に向かって歩き始めた。

 

「よし。それじゃあ早速行くか」

 

 今ここにクエストブックに選ばれた新たな冒険者が誕生した。

 

 冒険者の名はアルハレム・マスタノート。

 

 自らの願いをその手に掴むため冒険者アルハレムの冒険が幕を開く。

 

「………アレ? でも本当にここはどこだ? 街にはどうやって行けばいいんだ?」


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