寄生少年の学園生活日誌   作:生まれ変わった人

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ようやく書けました……
ようやく修論発表が終わり、引っ越しと修論修正に入りました。
残り少ない学生生活の中でもがいています。

社会人になるのが今から不安で仕方ないですが、この作品の執筆は続けたいと思っています。


そして少女たちは集う

新一がモールに到着する数分前、宇田たちは既に行動に移していた。

 

モールにジョーの反応を辿ってやってくるパラサイトの存在を美紀たちに伝えられるわけがない。

だが、それでも美紀たちを危険に晒す訳にはいかなかった。

 

ジョーとしては一応、保護対象として認識させられているが、自分たちが死んだ後はどうでもいい、ということで何も言わずに作戦に移すのがいいのでは、と思った。

しかし、そんなことを宇田が許すわけがないと知っていたため、彼女たちへの対応は宇田に全面的に任せることにした。

 

ジョーからの許可が降りた後に美紀たちを集め、大事な用事がある、とだけ伝えた。

口頭でそれしか言われず、急に自分たちの元から離れると告げられた美紀たちの胸中は複雑なものだった。

 

「宇田さん……その用事は、私たちじゃ力になれませんか?」

「それはできない」

 

美紀からの問いに躊躇いなく答える。

答える宇田の表情には強い意志が宿っているのが彼女たちに伝わる。

そこには悪感情がない、純粋な強い輝きを秘めている。

 

彼女たちを護る。

 

 

損得なしで人のために体を張る宇田の覚悟がそこにあった。

そして、僅かな時間を共にした彼女たちも彼の覚悟を感じ取り、理解した。

 

だからこそ、自分たちにできることがないことが辛かった。

 

「だからこそ、これから僕の言うことをちゃんと聞いてほしい」

 

背の高い彼が屈んで目線を合わせる。

 

それは言葉だけではない、目で、心で向き合うことを意味している。

考えすぎかもしれないけど、そんな気がした。

 

 

 

モールの外に停められていた車が一台出て行った数分後、すれ違うようにミニクーパーが辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ショッピングモールの中を静かに、そして迅速に動き回る影がある。

少しの綻びで「奴ら」に襲われるという不安が付きまとう中で、その一行の足は軽かった。

 

 

ついでに言えば、その雰囲気もどこか緩かった。

 

 

その理由は、新一の頬に張り付いた綺麗な紅葉のような打撲痕で9割方勘づくだろう。

 

「はぁ……」

 

何とも締まらない表情でため息を吐きながら先導している新一はため息を吐く。

元から怪我を承知で今日の作戦を実行したつもりだったが、まさかこんなに情けない痕を付けられるなんて思わなかった。

 

まあ、雰囲気に流されてからかった自分が悪いのだが。

 

そう思いながらくるみの方へ視線を向けると、無言でシャベルを構えられた。

 

(何も言うな!)

 

睨みだけでそう言われた気がしたため、すぐに視線を戻して先導に徹する。

今の状態で話しかけるのは得策じゃないと判断し、しばらくはそっとしておく。

 

ただ、くるみ以外の皆まで自分に意味深な視線を送るのは止めてほしい。

鋭い感覚だからこそ余計に意識し、自分だけ微妙な気持ちになってしまうではないか。

あのユキまでも自分を責めるような目で見てくるのは意外であり、それだけダメージも大きかった。

 

 

(そりゃ、調子に乗った俺も悪かったけどさ……)

 

悪ふざけとはいえ、これでもデリカシーは考えた方だという自覚はあった。

だからこそ、避けられたくるみの一発もあえてもらったのだから。

 

もちろん、今の状況が持続性のものではないと分かっている。

だからこそ、ここの探索とか必要なことをして時間を潰したいという気持ちもあった。

 

そう思っていた時、ユキが突然立ち止まった。

 

「どうしたの? ユキちゃん」

 

りーさんたちも立ち止まってユキに問いかけるが、肝心の本人はとある方向に首ごと視線を向けて呆けている。

最近になっていつもの調子を取り戻しつつあるユキにしては珍しい反応だと思っていたが、めぐ姉がその原因にいち早く気が付いた。

 

「あぁ……そういうこと」

「あらあら、ユキちゃんったら」

「あ~、そういえば必要かもな」

 

女子勢は合点がいったように頷くが、新一には何が何だか分からない。

ただ、反応からして必要なものだと思って聞いてみることにした。

 

「何か必要なものでもあった?」

「えぇ、それはもう」

「異性の目もあるしな」

「ん?」

 

自分が思っていた返答と違うことに疑問を抱きながら皆の視線を辿ると、そこには服を着たマネキンがあった。

 

「え……これが必要?」

 

思わず出てしまった言葉だが、新一は思いもしなかった。

特に何も考えずに漏らした言葉が女性たちを刺激してしまったことに。

 

「そりゃ必要だよ! 私たちだってお洒落くらいしたいもん!」

「新一くんだっているもの」

「男には分からねえかな~。こういうの」

「女の子には色々とあるのよ?」

 

軽はずみな発言が女性の何かを刺激したらしいことに遅れて気が付くも、新一にはそれが分からない。

今の状況を考えると服よりももっと必要な物を探したほうがいい気がする、と思って言葉に出そうとする口を閉じる。

 

こういった状況で自分の軽はずみな発言が自分を追い詰めることを経験で分かっている。

 

 

自分とミギーが混ざり合った時を境に、自分の中の人間らしさが失われたことは自覚している。

特に、生物が従来持っている欲求とは別の、人間特有の感情というものが普通の人より希薄になっている。これでも以前よりはマシになったとは思っているのだけど。

 

それのおかげで村野と仲たがいになったことは自分の中で未だに後悔として残っている。

引き下がるときは引き下がるのが一番。

 

こういった人間らしさをを残すには自分よりも彼女たちの在り方に従った方がいいと判断した。

 

「分かったよ。物資もまだ余裕あるし、気分転換ということで」

「そうこなくっちゃ!」

 

ユキの弾けたような喜びに苦笑しながら嬉々として店に入っていく女子勢を見送る。

こういう時、女子の買い物が長くなるという前情報は持っているため長期戦は覚悟している。

 

(この隙に必要そうなものでも見繕っておこうかな)

 

とりあえず時間はかかりそうだから時間の有効活用をしようと店とは別の方向へ足を向ける。

しかし、その足を皆が止めた。

 

「あの、何してるの?」

「いや、時間かかりそうだし今の内に必要な物資の確認とか脱出経路とか見ておこうかと」

 

そこまで言うと、先生を含めた全員がため息を漏らした。呆れた目線も込みで。

自分が何かおかしいことでも言ったのか。

言い知れない不安に襲われていた時、両脇をくるみとりーさんに固められた。

 

「どうせならお前もお洒落くらい楽しめよ」

「こうして男の子と出かけるなんて初めてだもの。貴重な感想、聞かせてね」

 

既に不機嫌さは消え、悪戯そうな笑みを浮かべるくるみと豊満な果実を当てて色気を醸し出す笑みを浮かべるりーさんを振り払うなど新一にできるわけがない。

 

「え、ちょ、俺も!?」

「新ちゃんの、いいとこ見ってみたい♪」

「うふふ、楽しそうね」

 

女子二人に組み付かれて顔を真っ赤にしている新一を面白がるユキとめぐ姉の姿に味方無しと判断して諦めた。

 

「うぅ~、こんなの俺じゃあ荷が重すぎるって……」

 

女子の服なんて見繕ったことすらない男子にファッションチェックなどできるのだろうか。

どこから湧いてくるか分からない女子の底力に気圧されながら数多の服が並ぶ店の中へ連行されて行った。

 

 

 

 

 

「いや~、なんだか楽しかったねー!」

「だな。久しぶりだったから少し盛り上がったわ」

 

久しぶりに女子の時間を堪能した女子勢は満足に満ちた表情を浮かべている。

見る限り、彼女たちのガス抜きは間違いなく成功したと分かる。

 

「……」

 

ただし、女子のファッションチェックに付き合わされ、途中から着せ替え人形として成すがままにされていた新一の疲労の色は濃かった。

 

最初のころは先生を含めた女子全員が各々の意匠を凝らして服を着てお披露目していた。

ユキがネタと思わせるようなアダルト路線で攻めて来たり、めぐ姉が人知れずウエストサイズに苦戦したりと平和で賑やかな様子を眺めると癒されたりした。

 

しかし、皆が新一に「男目線」からの意見を求めた辺りから雲行きが怪しくなった。

男としてどんな感じが魅力的かを求め、詳細に意見を求め始めた時が本当に焦った。

その時は自分の乏しいファッションセンスからの意見を必死に振り絞って対抗したが、その時の皆からの生暖かい目線やら優しい目を向けられた時は本気で穴の中に入りたいとさえ思った。

 

その後はなし崩し的に皆がそれぞれの意匠を新一に合わせ、彼のコーディネートを務めながら着せ替え人形にしていた。

くるみやりーさんはともかく、ユキのふざけた組み合わせで全員に笑われたときは優し目にアイアンクローを喰らわせてやった。

 

そこまでやって荷物量の関係で必要最低限の下着や水着のみの持ち帰りになったのだから後に残る疲労感もひとしおだった。

ただ、皆の満足げな笑顔を見ると、この疲労感が嫌なものではないと思う。

 

(まあ、いいか)

 

いつ、死ぬか分からない状況の中でもこんな風に笑っていられる……それはとてもすごいことであり、尊いものだ。

そう思うと、今日の遠征は思った以上に有意義なものだったと思える。

 

 

ただ、遠征はまだ終わっていない。

 

物資の目途が立ったのなら、次にすることは事前に確認していた。

 

「よし、そんじゃあ後半戦といくか」

 

さっきまでリラックスしていたくるみはシャベルを担いでやる気を見せている。ただ、余計な気が抜けて変な力も入っていない状態はいい兆候だと分かる。

 

「後半ってなんだっけ?」

「ユキちゃん?」

「はう! 冗談だよ! 分かってるから怒らないでー!」

 

冗談か本当か分からないと問いかけるユキにりーさんが笑顔を向ける。

しかし、その笑顔を見た瞬間に顔を青ざめて訂正するユキは必死だった。

その様子にりーさんは剣呑な雰囲気を抑え、再び聖母を思わせるような慈しみの笑顔を向ける。

 

ただ、直前の笑みの後だと素直に喜べないのはここにいる全員の共通の見解だった。

 

「こんな時にふざけないの。今もこうして怖がっている人たちがいるんだから」

「うぅ、ごみん……」

 

めぐ姉からお叱りでユキは委縮し、謝りながら気合いを入れなおす。

まるで親子を思わせるようなやり取りに新一たちは笑みを漏らす。

 

「そんじゃ、生存者を探すか」

「えぇ」

 

ここで言う後半戦

それは『生存者の探索』のことである。

 

(やっぱり必要最低限の集中じゃあそう簡単には見つからないか)

 

もちろん、今までの探索最中でも新一は耳を澄まし、目を凝らしてモール全体を見ていた。

しかし、優先すべきはユキたちの安全だったため五感の集中も最小限に済ませていた。それが理由かは分からないが、新一はここに来て一度も生存者の気配すら見つけられていない。

 

もうここに生存者がいない可能性の方が高いが、一縷の望みに縋るように深呼吸をして精神を集中させる。

まず、目で見えないなら耳を澄ませる。事前に打ち合わせをしていたくるみたちは新一の邪魔をしないように物音を立てることなく周りの警護を担っている。

 

ただ、その他の些細な音はもちろん、「奴ら」の足音が邪魔で聞き分ける作業が困難なことである。

普通の人間からしたら静かに思えるが、神経を研ぎ澄ませた新一の耳には絶えず百以上の音が頭の中に響いてくる。

 

(やっぱりいないのか……)

 

それは「奴ら」の足音から風の音、小鳥の囀り、果てにはくるみたちの心音さえも聞き取れる。

故に、その中から数少ない生存者の音を聞き分け、探し当てるという作業は過酷を極める。

砂漠の中の一粒に混ざった宝石を探すような作業……新一でなければ10秒とも持たないだろう。

 

 

 

うっすらと汗を額ににじませながら新一は音という音を聞き分ける作業を続ける。

もうだめか、新一が諦めかけた時、一つの『綻び』を掴んだ。

 

(これは……!)

 

今まで別の音の中に紛れ込んでいた、そして壁の向こう側だったことで今まで見つけ出せなかった音を確かに聞き取った。

 

 

 

3人

 

 

1人の足音が不定期で息も荒い

 

 

残りの2人はまるで遅い動きに合わせるように歩いている

 

 

そして、ささやいている……頑張れ、と

 

 

「見つけた……!」

 

久しぶりに見つけた生存者に手を握った。

そして、その熱気と声はくるみたちにも伝わった。

 

「い、いたのか!? 生存者が!」

「3人だ。でも、動きが遅すぎるし息も荒い……多分、怪我してるんだろう」

「なら、早く行かないと!」

「そうだな。とりあえずその人たちに合流―――」

 

感情のままに生存者の元へ向かおうとした時、俺は一瞬だけ頭が真っ白になった。

そして、その後に感じたのは焦燥、そして恐怖を味わった。

 

「新ちゃん?」

 

一瞬だけ固まった俺を丈槍が声をかけるが、それに返事をする余裕はなかった。

何故なら、その3人が向かう先に何が潜んでいるかを『聞き取ってしまった』からだ。

 

 

 

 

 

 

 

外から迫ってくる、何かを。

 

気のせいかと思っていたが、その音は徐々に大きくなっていく。

質量、速度……そのどれもが期待していたものであり、今となっては脅威であると確信した。

 

 

音が、近づいてくる。それに気付いた新一の体は知覚する前に動いた。

 

 

くるみとめぐ姉の体を突き飛ばし

 

 

ユキとりーさんを両脇に抱えてその場から弾かれるように跳んだ。

 

 

 

その直後、モールの出入り口が突っ込んできた車によって破壊された。

 

 

 

ガラスが割れ、タイヤがタイルを引っかきながら蛇行し、新一たちがいた場所を過ぎ去っていった。

 

 

「……っ!!」

「っつう!」

「きゃあ!!」

 

一瞬の出来事にくるみたちは突き飛ばされた衝撃から反応できないまま床に倒れた。

乱暴に突き倒したことに謝罪する暇も与えないほどの衝撃がモール内に響いた。

 

そこを見ると、スリップしたのかモールの壁に正面衝突することなく横ばいになって激突していた。

それ故に、運転席は無傷であったため運転していたであろう人物が這い出るように車から降りてきた。

 

 

その人物に新一の顔色が真っ青になる。

 

「……っ!!」

「新一!?」

 

何も言わず、まだ状況を把握しきれていない彼女たちを置いて駆け寄った。

こんな状況で彼女たちを置いていくのははっきり言って自己中心的な気持ちだったと後悔するが、ここで動かなかったらさらに大きい後悔が自分を蝕むだろう、そう思ったから。

 

十秒も経たずに這い出た人物の前に辿り着いた新一は確かめるように、呼び起こすように絞り出した。

 

「宇田さん……っ!!」

 

頭部から血を流し、気絶している体を支えて呼びかけるも、起きる気配がない。

一瞬だけ最悪な予感が頭の中で警鐘を鳴らすように響き、正気を失いかけるが、その懸念は第三者によって否定された。

 

「これは衝突の時に付いたものだ。俺がいるのに嚙まれてなんかいねーよ」

「!?」

 

後方のくるみたちからは見えないように、顎の一部から伸ばされた管の先端が口となり、新一の耳元で囁かれる。

それに新一は感極まり、様々な感情が入り混じった叫びを漏らしかけた。

しかし、すんでの所でその感情を押し込み、今すべきことのみを即座に頭の中で導き出し、実行に移そうと動いた時だった。

 

「宇田さん!?」

 

金切り声のような悲鳴が上の階から響いた。

そこへ視線を向けると、くるみたちと同じ制服の女子が二人、身に覚えのない幼い女の子がこっちを見降ろしていた。

 

「人が、いたのか……!?」

「まさか……無事だったのね……っ!!」

 

くるみたちも突然現れた生存者に驚きを隠せないでいる。その中でもりーさんの反応は皆と比べて顕著に表れているが、今はそれを気にするときじゃない。

それはお互い同じだったことは言うまでもない。驚きがあまりに多すぎて今の状況を飲み込めずにいるのもお互い同じ状況だった。

 

既に騒ぎを聞きつけて「奴ら」が集結しつつある。

それを察知していた新一は誰よりも早く声を張り上げた。

 

「頼む!! この人を休ませる場所に案内してくれないか!?」

「!!……は、はい!!」

 

突然、呼ばれたことに相手は驚いた様子だったが、すぐに現実へ引き戻したからか気を引き締めた表情に戻り、応えた。

 

「皆も、早くここから離れよう!!」

「わ、分かった!!」

「悠里さん、ユキちゃんも!! 早く!」

「は、はい!!」

「分かった!」

 

すぐに皆も状況を把握してきたのか、走って停止したエスカレータを登る。

それを見届けた俺は宇田さんを担いで皆の後へ続く。

 

幸いにも「奴ら」は一階に集中していたということもあったため、二階以上の階にはそれほど多くない。

決して走って来ない「奴ら」を相手に逃げるのはそれほど難しいことではなかった。

集結しつつある「奴ら」に一瞥さえもくれてやることなく少女たちの下へ向かう。

 

「こっちです!! 早く!!」

 

焦りからか上から急かす声を聴きながら向かっていると、ジョーが再び俺の耳元に囁くように言ってきた。

 

「あいつらがいると伝えるのが難しそうだから今伝えてやる……『仲間』が現れた。明確な敵対行動を見せてな」

「なっ!?」

 

小さく、そして大きく驚きながら逃げることを忘れない。

 

動揺を最小限に抑えられたのは、少なからずの可能性として考えていたことが現実に起きたからのことだ。

 

 

危機はすぐ傍にまで近寄っている。




ようやく主要人物が集まりました。
ここまで長くなってすみませんでした……またこれから忙しいですが、これからも書いていきます。

それでは、また次回にお会いしましょう!

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