寄生少年の学園生活日誌   作:生まれ変わった人

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長らく待たせてすみませんでした!
というのも、今はまだまだ忙しく、その合間に書いたので中途半端且つ、かなり文章も甘いのですが今の私にはこれが限界です。

次の更新にはまた数か月後になってしまうのは確実なので、それまではまた気軽に待ってくれれば幸いです。


雨のち、血の雨~前編~

「今日はちょっと外に出ようと思うんだけど、どうかな?」

 

少し下り坂な天気の日、いつものように新一が丈槍を除いた面々と朝食を食べていた最中の新一の提案に生徒会室の誰もが時間が停まったかのように動きを止めた。

新一を凝視して何を言っているのか理解していないかのように呆然とした後、先に応じたのはくるみだった。

 

「え、あ……えっと……どうしたんだよ急に。まだまだ外は危険だって言ったのはお前じゃないか」

 

あまり感情に出さないようにと努めているが、明らかに動揺し、不安な気持ちが表れている。

 

これはくるみに限らずめぐねえも、りーさんも思っていることだが新一が遂にこの生活に嫌気が差してしまったんじゃないかと不安になった。

今まで頼ってばかりだったのが、ここに来て表に出てしまったのか。

 

そんな不安が皆の中に渦巻く中、そんな空気を何となく察知した新一が慌てて否定する。

 

「あ、これは前々から考えてたことだから別に深い意味はないんだ。ただ、学校内の準備だけじゃ不安でさ」

 

少し上ずって説得力が無かったものの、新一の一言に完全とは言わないが納得してくれた。

若干の不安を残しているように苦い顔をしているが。

 

「不安……というと食料とか?」

「他にも停電になった時の対策とか、服とか生活雑貨もそうだけど……それに……」

 

ここから先の言葉を出そうにも上手く出てこない。

尻すぼみになって皆から訝し気に見られようとも、気軽に話せるような内容ではなかった。

この提案は、今の状況では確かに必要なことで、仕方ないの一言で片づけられるようなことだともわかっている。

 

しかし、その提案は皆の倫理観を害し、下手をすれば皆の溢れんばかりの優しさを壊すことになってしまう。

 

それでも、皆の安全の可能性を上げるためなら言わなければならない。

新一は自らの揺れる心を鬼にして、皆に告げる。

 

「……皆でも扱えるような武器もやっぱり必要だからさ」

 

その一言に皆の表情が沈んだ。

予想通りだったとはいえ、罪悪感が湧いた。

 

でも、これもまた必要なことだから納得してもらう他ない。

 

「武器……かぁ。やっぱり必要だよなぁ」

「そうね。新一くん一人に任せるのも酷な話だわ」

 

くるみと若狭はどうやら覚悟はしているようだった。

おれの意見に異を唱えない辺り、先生も同じ考えなんだろう。

 

よく考えれば、今までにそういう備えをしていなかったことがそもそも迂闊だった。

 

でも、この話は三人、特に丈槍にとっては物凄くつらい決断だ。

 

『奴ら』はもともとは人間だったのだ。

中にはおれとも面識があった顔もあったし、中には事件直前まで馬鹿な話をして盛り上がった奴の顔もあった。

 

おれはまだいい。

もう割り切れているから耐えられる。

 

でも、彼女たちは違う。

今でもどこか夢見心地さが残る彼女たちに、『奴ら』を倒す……いや、殺すことができるだろうか。

 

中には部活仲間もいるだろう。

 

同じクラスの友達だっているだろう。

 

 

中身が変わっていても、顔や体の特徴……外面だけを見ると思ってしまうのだ。

 

―――何で、大事な人に刃を振りぬこうとしているのか……と。

 

これは、母さんの件で既に経験済みだ。

最後の止めを刺す直前、母さんの手の火傷を見て手を止めたのも無意識的な希望を見ようとしたからだったと思う。

 

そして、そんな気持ちの後に思うのは『恐怖』

これは『A』との戦いの後に基づいた経験則だ。

 

思えば、あれが初めて、おれが手を汚した瞬間だったとも取れる。

パラサイトだったとはいえ、身体はそのまま人間……元の宿主の体を鉄棒で刺したのだ。

あの時の感覚は生涯忘れられないし、忘れてはならない。

 

 

人を貫く感触を手に伝わってきた時のことを

あの、肉や脂肪を裂いて内臓を貫いた時の感覚を

 

『生命』を終わらせた時の感覚はいつまでも色褪せない。

 

相手が化物だと知っていても、おれの気持ちが沈んだ日々は辛かった。

どんな命であれ、決して軽い物じゃないと今更ながらに思う。

 

そんな苦悩をおれは彼女たちに押し付けようとしている。

それが必要だと分かっていても、血も肉を裂く感触も知らない子たちに“殺す”ことをさせようとしている。

 

「本当はおれだけで何とかできればいいんだけど、こればかりは流石に一人でどうこうできる問題じゃないし、おれがいつも皆の傍にいてやれる保証もない……おれがいない間にこの中の誰かがやられたらと思うと、すごく怖い」

 

真剣味を帯びた新一の言葉に誰もが息を呑む。

言葉では説明できないような迫力を感じた。

気を抜けば引き込まれてしまうような瞳に唖然とすると同時に新一の本心が遺憾なく伝わってくる。

 

普通に聞いていたら圧倒されるような迫力も、新一の境遇や過去を聞いた後なら十分に受け入れられる。

くるみたちは呆れでも疲れでもない溜息を漏らす。

 

「少しは自分のことを気にしろっつーの……武器のことなんだけど、実はもう目処は立ってるんだ」

「あ、そうなんだ」

 

くるみは聞こえないようにボソっと言ったつもりだけど、新一の耳にはしっかりと届いている。

新一の聴力の良さを失念したのだが、本人はそれに気づいていない。

 

そして、新一はその呟きに少しやり過ぎたか、と思ってそれ以上の追求はしない。

 

もっとも、くるみは新一のどこか辛そうな表情に思うところがあり、仲間想いはありがたいけどそれで自分の事を蔑ろにしてしまわないか、といった不安を思わず口に出してしまっただけだ。

無論、くるみの最初の言葉は新一以外のこの場の全員の総意であることは言うまでもない。

 

「新一くんはパラサイトと戦ったことあるって言ってたけど、なにか武器とかは使ってた?」

 

りーさんの質問にめぐねえも同意して頷く。

くるみも、かつては普通の高校生だった新一が如何にパラサイトの魔の手から生き延び、撃退したか聞きたがっているように催促してきた。

 

既にパラサイトの事細かな説明は受けていた。

 

頭部を変形させて刃にしたり、人間並みか若しくはそれ以上の知能を有し、人体の潜在能力を引き出したり仲間同士で電波のようなもので居場所を察知するなど。

 

聞けば聞くほど、下でうろつく『奴ら』よりも厄介な存在であり、そんなのを相手に生き延びた新一の規格外さもより際立った。

だから、彼女たちからしたら新一のアドバイスというのは非常に興味深い物だ。

 

「武器か。大抵はミギ……友達と協力してその都度の状況によって戦ってたから慣れ親しんだような武器ってのは無いかな」

「その友達も大概だな……ちなみにどうやって倒したりしてた?」

 

その問いに言葉が詰まる。

 

これは答えによってはミギーの存在に行き着いてしまう可能性も無くはない。

ミギーのように考えて発言できるならまだしも、こういった頭脳労働に少々疎い新一にとって巧みに嘘と真実を織り交ぜた話をするのは荷が重い。

 

そう思いながら自分の中で話してもいいと思った例を思案するが、全く浮かばない。

とりあえず誤魔化すことにした。

 

「例えばだけど、バリケードを作ったり刃物で斬ったり友達と助け合った、ってだけで……要は我武者羅に生き延びたってだけだから慣れ親しんだ武器ってのは無いんだよ」

「そうかぁ。まあでもお前よく考えれば器用だしな」

 

多分、それは右手の効果というのもある。

 

でも確かにくるみの言う通り、自分の汎用性が高くなっているのは確かだ。

考える限り、血の滲むような努力はおろか練習すらしていないのに野球の投手とかバスケとか……明らかに右手の性能が格段に上がっている。

 

細かい作業から力仕事に至るまで今までできなかったことができるようになっている……こうして考えてみると、確実にミギーの影響が響いてるんだよな。

 

そう考えると、連鎖的に『あること』を思い出した。

 

それは、おれが夢の中でミギーから一方的に別れを告げられた時のことだ。

今までミギーの力があったからパラサイトとの戦いも生き抜いてこれたけど、ミギーが眠ってしまったら奴らに対抗できる手段が無くなってしまう。

もし、またおれが襲われたときのことをミギーが想定していない訳が無い。

 

その確信はあいつの言葉の中にあった。

 

『君なら大丈夫だろう』

 

最終的に大分変わって凄く人間臭くなったところはあったけど、基本的にあいつは確かなことしか言わない。

おれがパラサイトに襲われた時のことを想定して、ミギーはおれに『何か』を遺して旅立った。

でなければ不確実な慰めを言うはずがない。

 

どうやら、また確かめなくちゃいけないことができたかも。

 

「とりあえず、今日は体育館とか陸上部の部室……武器にできそうな物を持ってこようと思うけど、どうかな?」

「いいと思うわ。情けない話だけど、校舎を含めて今の学校を移動できるのは新一くんだけだもの」

 

若狭は申し訳なさそうにしながら、おれの意見に賛成してくれた。

他の二人も見ると、反対はしない限り異存はなさそうだ。

ただ、先生は責任からか表情に影を差して申し訳なさそうに謝ってくる。

 

「本当、こういう危険なことは私がやらなくちゃいけないのに……ごめんなさい」

「あ、謝らないでください。この中でおれがこういうのに向いてるからやるんです。だから気にしないでください」

 

そういう事情はめぐねえも理解できているからこそ、それを歯痒く思う。

自分ではなく、年下であり、何より護るべき生徒である新一の方がこういった荒事に向いてるのに、自分は大したことなんてできていない。

護るべき生徒に護られていると思うと無性に情けなくなって、気を遣われると更に自分がみじめに思えてくる。

 

そうとは知らず、既に今日の予定について話し合っている三人の生徒を見てため息を漏らす。

 

(私、いらないんじゃないかな……)

 

あまりに逞しすぎる生徒たちを再び見て、二度目のため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

あらかたの話し合いが終わり、本日のやることが決まった。

 

まず、おれはというとこれからのことを考えて武器を調達することにした。

おれ達の学校周辺はもちろん、街全体が既に大災害に見舞われていることはもう確定している。

 

また、この学校に留まり続けるというのも流石に無理があるかもしれない。

幾ら設備が整っているとはいえ、こんな状況下では何が起こるか分からないのだ。

もしかしたら、学校をやむを得なく放棄することも視野に入れなくてはならない時が来るかもしれない。

 

その時のための武器調達だ。

 

そんな最悪の事態に備え、せめて自分の身を護れるような武器を皆に持たせることが今回の目的だ。

 

 

もちろん、それはあくまで『考えられる限りの最悪の展開』だ。

 

今は、自衛隊か誰かがおれたちを保護しに来てくれることを信じて籠城するというのがおれ達の現在の大前提である。

 

 

さて、話は少し逸れたけど、今、おれは学校敷地内の色んな場所に奔走している。

 

というのも考えられる武器の目処というのも大体が運動部由来の物しか思いつかなかった。

 

定番なのがバットとかグランド整備に使うような鉈辺りを集めたかったというのもある。

それに、今のおれなら結構な剛腕だからバットよりももっと破壊力のある物も振るえる気がする。

それに限らず、島田の時のように石然り、砲丸を投げたりすることもできるんじゃないか……と思って皆がいない場所にまで来たという訳だ。

 

未だ自分でも分からない力を秘めた右手の実験なんて危ないこと、皆の近くでやるわけにもいかないしね。

 

そういう訳でおれは現在、元は柔道部の使っていた施設に来ている。

 

学校からここに来るまで鈍い『奴ら』を振り切ってくるのはあまり難しいことじゃなかった。

柔道場に足を踏み入れて―――、一瞬の黙祷を彼らに捧げた。

 

他の『奴ら』とは違って体格が大きく、柔道着を来た彼らだった者たちに一瞬とはいえ目を逸らした。

分かってはいたけど、やっぱりこういうのを見るのは辛いな……

 

乾いて赤黒くなった畳にぶら下がった肉を引きずりながらおれの元へ向かってくる『奴ら』に対し、おれはすぐ近くに置いてあるバーベルを手に取って持ち上げた。

幸いにも重りはついていなかったから、思ってたよりも軽く感じられ、それどころか適度な重さだったからすぐに馴染んだ。

 

「―――ごめんな」

 

短い懺悔と共に、軽く振っただけで尋常じゃない風切り音のする鉄棒を右手で振り回して、無防備に晒された『奴ら』の脳天へ叩き込んだ。

 

 

 

 

 

血の付いた鉄棒を近くのタオルで拭いて、柔道場の隅に並んだ頭のない死体に手を合わせて瞑目する。

しばらくの間、彼らの死を悼んだ後、言葉にし得ない気持ちを即座に切り替えて本題に入る。

 

今回、広い場所ならどこでもよかったのだが、今回は武器となりそうな設備が揃っていることで柔道場を選んだというだけだ。

目的の物は、既に手に取ったバーベルそのものだった。

 

(最初は、右手の腕力がどれくらいか知っておいた方がいいな)

 

前々から気になっていた右手の力を大まかに数値化して見るということで柔道部のバーベルを思いついたのだ。

死体を並べるために立てかけて置いたバーベルの棒を再び右手に取る。

 

別段、重いとは感じない。

次に左手に持ち替えると。

 

「おっとっと……」

 

右手で持った時よりもズッシリと重みがかかったように感じた。

あくまで左手で持っただけでバランスを崩したのだが、あまり苦にしていないのか崩れかかった態勢を即座に持ち直した。

 

(やっぱり右手の方が強いな。確かバーベルの重さって5か8キロくらいだったっけ?)

 

普通なら片手で持とうものなら相当に負担がかかるような重量であるにも関わらず、新一はそれを棒きれのように振り回せている限り、腕力の高さが窺い知れない。

少なくとも、普通ではないとだけ言える。

 

バーベルの鉄棒を軽々と振り回す離れ業を披露した新一だが、この結果は予想できてたであろうか普通に納得していた。

むしろ、本人からしたらこうでないと困るといった表情だった。

 

(こんなもんだろ。重りも乗せて……と)

 

ただの棒だけで軽々と扱えるのだからこれくらいは、そんな気持ちで60キロを片側だけにつけて持ち上げると、少し重みは感じるけれど持てないことは無い。

むしろ、丁度いい感じに安定しているとさえ思えるほどだ。

 

(これくらいはいけちゃうか)

 

引き攣った笑みを浮かべながら、我ながら自分の筋力……ミギーの実力に冷や汗をかいた。

今は眠っているとはいえ、常識はずれの腕力は未だ健在だ。

でも、今となっては皆を護る分には心強い力だ。

 

(とりあえず武器はこれくらいにして、問題は―――)

 

とりあえずの武器を揃え、まだ考えられる限りの策を講じようと再び考えを巡らせようとした時だった。

遠くでガラスの割れる音が聞こえた。

 

「ん?」

 

ここじゃない、別の場所でガラスが割れた音に気が付いて疑問の声を上げた。

普通なら『奴ら』がまたガラスを割ったんだろうと無視する所だった。

 

でも、新一の心はその僅かな音で大きな波紋を起こしていた。

鋭くなった野生の勘が些細な問題に警鐘を鳴らしているのを感じる。

妙な胸騒ぎと額から流れる汗を振り払うように目を閉じて耳を澄ませる。

 

 

雨が降っている

 

 

グランドの足音がいつもより多い

 

 

それも決まった方向に、まるで集まるかのように

 

 

割れたガラスを踏んで集まっている場所は―――そこまで感知して表情が歪に変貌した。

 

「っざけんな!!」

 

今、学校で何が起こりつつあるかを悟った新一は幾ばくかの怒り、そして多くの焦燥に身を委ねて柔道場から弾かれるように飛び出た。

一緒に持ってきた巨大なバーベルの棒を振り回して道を塞ぐ『奴ら』を一蹴する。

武器を振るう度に付着する血やむせかえるような腐臭、肉を潰す感触も今ではどうでもいいとさえ思える。

普段なら躊躇われるような殺戮も、今現在、仲間に迫っている危機を考えればほんの些細な物だ。

 

(なぜ、こんな時に……っ!)

 

こんなことが起こる兆候に気付くことができなかった。

今はそんな自分の迂闊さへの怒りに身を委ね、それを『奴ら』の蹂躙へ昇華させる。

 

(くそ、くそっ、くそぉっ!!)

 

心が怒りに塗りつぶされながらも、心の奥では恩師と出会ってから間もない大事な仲間たちの姿―――そして、失った二人の姿が浮かんでくる。

 

「どけえええぇぇぇぇぇぇ!!」

 

嫌な予感を武器を振るって『奴ら』を潰し、その屍を飛び越えて学校へ向かう。

新一が感じ取った通り……今まで見てきた中で屈指ともいえるほどに膨れ上がった『奴ら』の大群がバリケードを侵入していく学校の元に。

 

今まさに起ころうとする惨劇を前に、新一は人の心を捨て、障害を排除する殺戮兵器となったことで気付いていない。

 

 

「   」

 

 

バーベルを振るう右手が青い筋を浮かべて少しずつ膨張していることに

 

そして、異様な姿へ変貌しつつある右腕にできた、小さな小さな“眼”から向けられる視線に

 

新一は気付かない。




今回は新一の右手に隠された能力について少し触れ、それを実験していた最中に「めぐねえ事件」がやってきてしまいました。
そして、最後にチョロっと触れたのが今作でのオリジナル設定です。
ヒントはミギーの最後の言葉にある「同時に複数のことを思考できるようになった」というものです。

色々不安ですが、このまま考え得る限り書いていこうと思っています。

それでは、本当に目が回るほど忙しいためここで終わりますが、また次回は数か月後になることは覚えておいていただきたく思います。

それでは、また次回にお会いしましょう!

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