オーバーロードSS 『ナザリック狂詩曲』    作:kairaku

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『ナザリック狂詩曲』 その4

ナザリック第九階層 食堂

 

 

「アルベド様、ここから色を変えたいんですけど、どうしたらいいのでしょうか?」

 

「ここは色を変える段になったら変える色と一緒に少し編み込んで……そうそう」

 

アルベドに習いシクススが不器用ながらも編み進んでいく。

 

普段であれば香しい料理が並ぶ食堂は、今はメイド達が編み物を学ぶ場所になっていた。

 

「完成しました。アルベド様どうでしょうか?」

 

「あら素敵。インクリメント、あなた覚えるの早いわね」

 

「いえ」と控えめに恐縮するインクリメントだったがその顔は嬉しそうであった。

誉められたインクリメントに続けと他のメイドも黙々としかし楽しげに作業している。

 

今メイド達の間で編み物が空前の大ブームだ。

きっかけは一部のメイドがアルベドに編み物を教えて欲しいとせがんだのが始まりだった。

 

愛しのアインズの為ならば二十四時間三六五日働けるアルベドであったが、愛しの旦那様、もとい愛しのご主人様はそれがおきに召さないのか適度に休む事を勧めてくる。

 

主人の勧めを受け入れるのが臣下の勤めと、言われた通りに休日を作り休んではいるが、なかなかどうも暇を持て余している。

 

そんな中での頼み事であったため、物は試しと教師役を引き受けてみた。

 

結果としては大成功でよいのだろう。

教わったメイド達も教えたアルベドも充実した時間を過ごせた。

 

が、あまりに好評で私にも教えて欲しいとメイド達が殺到。規模も大きくなり、今では非戦闘メイドの全てがアルベドの教え子になっている。

 

(休日の暇潰しだったのだけれど……)

 

実は編み物教室はある実験場になっていた。

さすがに規模が大きくなり一応アインズに了解を得ようとアルベドが伺ったところ、アインズが面白そうに興味を示したのだ。

 

非戦闘員のメイド達はレベル1でスキルもメイドスキルしか所有してない。

なのでスキルが必要な料理等をいくらやらせても必ず失敗してしまう。

だがスキルを必要としない作業ならどうだろうか?

 

元々彼女達は外見以外の個性は細かく設定されていない。

しかし実際この世界で生きる彼女達はそれぞれに個性があり性格も様々だ。

 

そんな彼女達に同一のスキルを必要としない作業をさせた場合どうなるか。

 

どの程度に上達し、また差が出るか。

アインズはアルベドにその観察と結果を報告するよう伝えた。

 

(嬉しいわ。思わぬところでアインズ様のお役に立てた)

 

こうしてアルベドとしてみても趣味と実益を兼ねた編み物教室はアルベドの休日のいいお楽しみになっていた。

 

アルベドは音符が飛んできそうな程、上機嫌に自身の得意な編みぐるみでアインズ人形を生産している。

複雑な骸骨部分も忠実再現である。

 

「あ、そうそう聞いた? この前執務室での事」

 

メイドの一人、フォアイルがシクススに小さい声で喋りかけている。

実験場となっている編み物教室だが、それで何か特別なことなどしない。

お喋りしてもいいし、紅茶を飲んでもいい。むしろそういう差異こそが実験で知りたいことなのだ。

 

「何かあったの?」

 

「アウラ様とアインズ様二人きり……」

 

ぴくりとアルベドの黒い羽が動く。編み棒を動かす手が世話しなくなる。

 

「任務の事でしょ?」

 

「それが……アウラ様の声で……」

 

次々に生産されるアインズ人形。メイド達が嬉しそうにアインズ人形を抱きしめる。

 

「どうやら膝の上に――」

 

「おぉ凄いっす! めちゃくちゃ可愛いっす!」

 

突然の大声。メイド達が囲んだテーブルの一角にルプスレギナが現れた。

 

一人のメイドが編んでいるアインズ・ウール・ゴウンのギルドサインが編み込まれた黒地の手袋を指してはしゃいでいる。

客観的に見て可愛いと思えない尖ったデザインの手袋だがナザリックに仕える者からすると可愛いらしい。

 

「あらルプスレギナ珍しいわね……仕事はいいのかしら?」

 

「あ、アルベド様……ハイ、えぇ大丈夫です。今日は村の出来事の報告に来ました……」

 

いつもの調子に乗っている態度から一変、アルベドの前では借りてきた猫のように大人しくなる人狼(ワーウルフ)。

 

それもそのはずで一見友好的なアルベドの表情とは裏腹に体からは冷気のようなオーラが放たれていた。戦闘メイド(プレアデス)の一人として実力のあるルプスレギナはそれを敏感に感じとる。

 

少し前にルプスレギナは仕事上のミスでアインズに『激怒』されている。

 

智謀と力の王であると同時に慈愛の王でもあるアインズを本気で怒らせる者はナザリック内ではいない、というより生きてない。

 

それは万死に値する罪である。

 

少なくともアルベドはそう考えている。

 

(うーんでも、あれはあのあとちゃんとテストに合格したからOKっすよね?)

 

呑気にそんな事を考え、アルベドの態度を不思議に思うルプス。

しばらく考え、あることに思い至る。

 

「その……アルベド様にもチャンスはありますよ!」

 

訝しげにルプスレギナを見るアルベド。

 

「どういう意味かしら?」

 

「アインズ様がアウラ様に告白されたと言っても、まだアウラ様はお年が――」

 

その先は言えなかった。突然空気が無くなったように息が出来なかった。

全てのメイド達の編み棒を持った手が震えカチャカチャ音を立てる。

 

「それ詳しく教えてくれるかしら」

 

一際大きなアインズ人形を編みながらアルベドは笑顔で問いかけた。

 

 

ナザリック第六階層 闘技場

 

 

「お、お姉ちゃんに声かけました。しばらくしたら来るそうです」

 

「シャルティアニ声ヲカケタ、準備シテカラ来ルソウダ」

 

「ありがとうマーレ、コキュートス」

 

デミウルゴスは手にした資料を読みながらユリ・アルファに指示を出している。

 

闘技場内は簡素ながらテーブルと椅子が置かれ、テーブルから丁度見やすい所には即席のステージが作られていた。その上にガラガラと移動式の黒板を置くシズ・デルタ。

 

「こんなものかな、ではユリ、この資料を配ってくれ」

 

ユリは持たされた資料を見て少しだけ恥ずかしそうにテーブルに置いていく。

 

資料はこの世界で流通している『性の営み』について書かれたものを司書に命じて翻訳したものだ。ご丁寧に絵も描いてある。

 

「は、恥ずかしいです。本当にやるんですか?」

 

「気ガススマンナ……」

 

乗り気じゃない二人。

噂の誤解を解く為に何故こんなことを、といった具合で席で項垂れる。

 

「ハァ。君達がそれでどうするんだね? これはアルベドの暴走――いや、『誤解』を解くだけではなく、これからのナザリックに必要な知識だよ」

 

デミウルゴスが考えた策とは一般で言ういわいる『保健の授業』であった。

 

シャルティアはともかくアルベドは例えアウラのような子供であっても女性として認識し、嫉妬してしまう。

 

そこで考え付いたのが、アルベドにアウラの情操教育を教える教師役になってもらうことだ。

そうすることでアルベドはアウラがまだ未成熟であり、性知識の乏しい『子供』であると意識出来るはず。

 

アウラもアウラで正しい性知識を学ぶ事ができ、勘違いしているかどうかは分からないが

アインズ様の寵愛を受けいれられる身体かどうか判断出来るであろう。

 

「出来ればシャルティアが上手くアルベドとアウラの間に入って進めてくれればいいが……彼女の『趣味』を考えると……」

 

「悪イ作戦トハ思ワナイガ、マーレハトモカク私ニモ必要カ?」

 

コキュートスがガチガチと顎を鳴らす。

威嚇の音っぽいが隣にいるマーレにはなんとなく照れているように感じる。

 

「必要だとも。今回は人型に限った話だが、他の種族の事も学ぶ必要があるだろう。君の支配しているリザードマンもそうだが、ナザリックに仕える種族の生態を学ぶ事は支配する上で大変重要な事だ」

 

デミウルゴスは今回の『保健の授業』の重要性を説くが 本当の『真意』はまだ胸の内にしまう。

 

『ナザリック内の者の交配』

 

果たして我らに子供が出来るのか、また異種での交配は可能か。

ツァレとセバスの件もあるが今後将来的にもその可能性は確かめたい。

 

いずれナザリックが多くの国を支配下に置くとき、その国を治めるにはやはり忠誠心の厚いナザリックのメンバーが適任だ。

 

しかし国を動かすとなると今いる者では数が足りない。

ナザリック拡大の為にもナザリックの者の『生産』は急務なのだ。

 

(そして私個人としても成し遂げたい『夢』がある)

 

デミウルゴスは妄想する、アインズの『御子(みこ)』が産まれる瞬間を。

ただの妄想に過ぎないがそれだけで目頭が熱くなる。

 

デミウルゴスの夢――――アインズの御子に『国を一つ』プレゼントしたい。

 

出来れば美しく、国として強いものがいい。

そこにナザリックの次期主要メンバーになれる後継者を幹部に置き、治めて頂く。

 

デミウルゴスには珍しく禍々しい悪魔の尻尾をピンと立てる。

 

(いずれアインズ様に並ぶような智謀の王に成っていただく為にも補佐する者を厳選せねば)

 

今回の一件が良い足掛かりになればとデミウルゴスは張り切る。

しかし夢への第一歩は、デミウルゴスも思いも知らぬ所で崩れようとしていた。

 


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