オーバーロードSS 『ナザリック狂詩曲』    作:kairaku

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書籍版の設定で書いてあります。第八巻の続きの話です。

前回作者が投稿した「オーバーロードSS 戦闘メイドの休日」を読むと
より状況が分かりやすいです。



『ナザリック狂詩曲』 その1

ナザリック地下大墳墓 勤務室

 

 

「ん~もう一押しといったところか」

 

いつもの黒壇の机が置いてある部屋でアインズは一人羊革紙を読んでいた。

アンティーク調に作られた大きめの椅子をしならせながら羊革紙を考え込むように覗く姿は支配者というよりも大企業の社長のようである。

 

コンコンとドアを数回ノックする音が聞こえる。

 

「入れ。――忙しい中呼び出して悪いなアウラ」

 

「いえそんな! アインズ様のお呼び出しならどこからでもすぐ駆けつけます!」

 

相変わらずの畏まった態度とやり取りにアインズは軽く頷く。

 

「アインズ様、それなんですか?」

 

アインズの座る椅子の脇からアウラがひょっこり顔を出す。

普段であれば不敬な態度と指摘されるような行動だが、今この部屋にはそれを指摘する人物はいない。

 

「ん、あぁこれは王国で売っている新聞みたいなものだ。司書長に翻訳させたやつだが……」

 

ふとアウラを見るアインズ。前に東の森を二人で探索してから、アウラは前よりも自分に懐いているように思える。

 

「?……どうしたんですかアインズ様?」

 

不思議そうにこちらを覗くアウラ。その可愛らしい仕草に微笑ましさを感じる。

アインズの顔に頬肉があればだらしがなく緩んでいただろう。

 

(共同で行動する事でお互いの意思疎通が上手く出来た結果だな。これはいい事じゃないか。仕事は仕事、それ以外の時はこうやって家族のように過ごせたら……)

 

家族という単語に感慨深い何かを感じるアインズ。

父親としての自分を想像し、その横に怪しく微笑むアルベドが現れ妄想を掻き消すように頭を振るう。

 

この部屋で押し倒されて以来アルベドの事が少し怖い。

 

「大丈夫ですかアインズ様!?」

 

心配そうなアウラを安心させるようにいつもの支配者らしい態度に戻る。

 

「ん、んん!大丈夫だアウラ、少し考え事をしていた……うん、よしアウラそこに立っていたら読みにくいだろう。――私の膝の上に座るか?」

 

えぇー!っと言った叫びが部屋中に鳴り響く。

慌ててメイドと八肢刀の暗殺虫(エイトエッジ・アサシン)が駆けつけるがアインズはなんでもないと追い返す。

 

嫌なら~とアインズが言いかけたところでアウラはこれでもかと首を振るう。

 

「違います違います! 嫌じゃありません! しかしその至高の御方の上に座るなんて恐れ多いこと……不敬です!」

 

アインズはアウラの慌て様に悪い事をしたと思いつつも、アインズの膝上を未練がましそうに見るアウラに新聞を置いて膝をポンポンと叩く。

あ、あ、とゆっくりと近づくアウラ。

 

「構わんぞアウラ。私が許可しているんだ、遠慮せずに座れ」

 

アウラは数度息を整えると失礼しますとアインズの膝の上に座る。

 

カチコチに緊張して長い耳まで真っ赤だ。

アインズからは伺えないがその顔は山頂の絶景を見下ろしてるような感動しきった顔だ。

 

うむ、と子供を膝に乗せる父親のような満足感を感じながらアインズは再び新聞を読む。

読み終えるまでの間アウラはただの置物のように動かなかったがその表情はとても幸せそうであった。

 

しばらくのどかな時間が流れ、読み終えたアインズが新聞をデスクの上に置く。

一方のアウラはアインズの膝の上から下りた今でも身体をカチカチにさせている。

 

また数度深呼吸してアインズに向き合う。

 

「ありがとうございました!一生忘れません!!」

 

「う、うむ」

 

「……そ、それでその、私を呼ばれたのは?」

 

「あぁそうだった。実はアウラに聞きたい事があるんだ」

 

なんでしょうかと少し緊張した面持ちで態度を改める。

 

「いやそんな緊張しなくていい。実は今度モモンとして王国の『慰霊式』に呼ばれてな、その際に民衆に何か激励のような事をしてくれと頼まれたのだ」

 

王国の使者には『慰霊式』と聞かされたが、詳しい内容を聞くとヤルダバオトの襲撃で犠牲になった人々への慰霊と王国の危機を防いだという祝賀を合わせたもので、どちらかと言うと『祭』のような話の印象だ。

日本人の感覚としてはやや不謹慎のように感じる。

 

「はぁ……」

 

「私としては軽く挨拶して終わりにしようと思っていたのだが……ある計画の為、より民衆に好感を持たれるような事をしたくてな」

 

アインズの作り出した冒険者モモンという人物は既に王国では絶大な人気がある。

ヤルダバオトを撃退し王国を救ったことで一般の多くの人間にもモモンの名は知れ渡ったであろう。

 

しかしと思う。アインズは新聞に目を落とす。

 

新聞に書かれた記事はどれも絶賛された内容ばかりだが、決まって『謎の』とか『実は○○ではないか』など

変な憶測と根も葉もない噂が書かれている。

 

これはモモンの秘密を隠す為仕方ない事なのだが、これからの計画を進める上で何かしら障害になるかも知れない。

 

人の口に戸は立てられぬ。噂を完全になくす事はできないが、一般の大衆にモモンという人物は好人物であるとアピールできれば流れる噂も良いものへと変わるだろう。

 

「そこでターゲットを子供に縛り、何か催しものを考えてる」

 

不特定多数に対するアピールでは効果は薄い。好感を持たれるならばやはり子供だろう。

子供に好かれる人物を怪しく思う人間は少ないはずだし、子供に好かれればその親にもいい印象を与えるだろう。

 

「なるほどそれで私が……」

 

どこかがっかりしたように返事をするアウラ。

 

(子供の事は子供に聞くのが一番。売りたい商品を売るには顧客の気持ちを考える。商売(マーケティング)の基本だ)

アウラの様子に気付かず、うんうんと一人納得するアインズ。

 

アウラは少し悩み、その後真っ直ぐとアインズを見ながらビシッとした態度で自分の答えを言う。

 

「……そうですね。私はアインズ様にして頂けるなら何をされても嬉しいです!」

 

「あぁ……うん、とても嬉しい返答だが、その中でも特にこうしてもらったら嬉しいとか、こういう事がしたいとかないか?」

 

再び悩みだすアウラ。

 

「そうですね……ナザリックがここに来たばかりの時、アインズ様が私の階層でスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力をお見せ下さったことが嬉しかったです。あとは……その……またアインズ様と二人でフェンリルに乗りたいなって」

 

もじもじと照れるアウラをよそに、なるほどなるほど、と唸るアインズ。

 

「――うん! いいアイディアが閃いたぞ。感謝するぞアウラ」

 

満足気なアインズに満面の笑みのアウラ。至高の御方に喜ばれることこそ自分の喜び。

 

「はい!アインズ様のお役に立てて嬉しいです!」

 

 


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