東方槍呪伝   作:金沢文庫

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第二話 槍

「ん………あれ、鬼は?」

 

「? 何寝ぼけてるのさ、剛ちゃん。早く起きなよ。なんだか変な場所にいるんだ」

 

 佐々木の声で目を覚まし、剛は辺りを見渡す。周りは木に囲まれた森、まるでワニの腹の中にでも入ったような薄気味悪さを感じる。

 

「どこだ、ここは」

 

「それが俺にもよく分からないんだ。家に帰ったら変な人に襲われて、気がついたらここに………」

 

それを聞いて剛は鬼と戦ってその後気絶したことを思い出した。

 

「ようやくお目覚め?」

 

 目の前に突如スキマが現れ、とっさに剛は身構えるが、中から出てきたのは一人の美しい女性だった。

 

「そんなに身構えなくてもいいのよ。ここがどこか、知りたくはない?」

 

 彼女はゆっくりと剛と佐々木を落ち着かせるようにそう発言した。

 

「失礼ですが、あなたは一体………?」

 

 剛が恐る恐るそう尋ねると、

 

「まぁ、まずはある場所まで来てくださいまし。木に印をつけてるのですぐにお分かりになりますよ」

 

と告げて、スキマに入っていった。

 

「あ、待ってくれ!」

 

と剛が叫んで手を伸ばしても、すでに手遅れだった。

 

「ど、どうするのさ、剛ちゃん」

 

「とにかく行ってみるしかなさそうだな」

 

と言い、佐々木を連れて、木に印がついてることを確かめ、進みだした。

その途中で野犬がグルル………と身構え、襲ってきたが、剛は手刀で首を切り落とした。

 

「あ、相変わらず強いね、剛ちゃん」

 

「ああ、親父にガキの頃から鍛えられたかんな」

 

 そんな会話を繰り広げているうちに、森から抜けることに成功し、周りを一望できる場所まで着いた。

そこには道路や電柱や車、外に出たら誰もがすぐに目にするものは一切無く、田園地帯や木製の家が立ち並んでいた。

 

「何だってんだ………一体」

 

「口で説明するよりもまずは見てもらったほうがいいと思ってね」

 

 再び女性が現れた。

 

「ここは幻想郷と言ってあなたたちが住んでいた世界とは結界で隔絶されているのよ」

 

 彼女は再び口を開き、ここには妖怪がいること、明治時代に外と結界で隔絶されたこと、その他もろもろを剛と佐々木に伝えた。

 

「………ここが幻想郷だ、ということは分かったけど、なんで私たちを連れてきたんですか?」

 

 佐々木が恐る恐る尋ねる。

 

「そうでした。剛、あなたに頼みがあるの」

 

 そう言って剛と佐々木をスキマに落とし、ある場所まで連れて行った。

いくつもの石が無造作に転がり、周りは先ほどの森のように木で囲まれている。

 

 

「自己紹介がまだだったわね。私は八雲 紫、幻想郷の管理者、といったところかしら」

 

 ふぅ、と紫が一息ついて、

 

「ここは無縁塚と言って、無縁仏の集合体なの。私の頼みはあそこに刺さっている槍、それを持って立ち去ってもらうこと」

 

と告げた。

 

「………なんでわざわざ外から俺たちを連れてまでこんな物を?」

 

 剛が尋ね、佐々木も同調するような目で紫を見つめる。

 

「この槍は私たち妖怪を見境無く殺し、使う人間の命を削るもの。だから妖怪は持てないし、肉体的、精神的に弱い人間にも扱えないの。あなたを探すまで何十人という人間が犠牲になって、この槍に取り込まれていったわ」

 

 紫がどこか哀愁のある視線を空に向け、そう呟く。

 

「今の幻想郷は妖怪を恐れる人間、そしてそれを糧として存在し、人間を襲って退治される妖怪との奇跡的なバランスで保たれている。この槍はそれを乱すもの。だからこれは幻想郷の人間が持ってもいけないの。外の人間に持って帰ってもらうのが一番いいと思ったのよ」

 

「………あんたの言い分は分かったよ。けど何十人も犠牲になった、ってのは聞き捨てならねぇな」

 

 剛が非難するかのように紫を鋭く睨み付ける。

 

「人の命ってのはそんなゴミみたいに使い捨てていいもんじゃねえんだ。あんただってそれぐらい分かるだろ?」

 

「………何と言われようと私の最優先事項は幻想郷の安全。それが守れるのなら多少の犠牲は厭わない」

 

 冷徹な声で紫は二人にそう告げる。

 

「ざけんじゃねぇぞ!」

 

 剛がいきなり拳を紫の顔面目掛けて飛ばす。が、あっさりとかわされ、剛は地面に倒れこむ。

 

「人間風情が」

 

 鋭い眼光を剛に向け、剛は蛇ににらまれた蛙のように動けなくなっていた。

 

「いいわ、私が彼を連れてきたのはこんなときのためだもの」

 

 そう言って紫は佐々木の下まで移動すると、彼の背後に回り、腕を首に回して

 

「あなたが拒むのなら彼もここに埋まることになるわよ

 

 深く、剛を威圧するようにそう言った。

 

「く………」

 

 剛は歯を食いしばり、爪が手に食い込むほどに怒り、同時に己の無力さを噛み締めると、

 

「………分かった」

 

ぼそりと、そう告げた。

 


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