オーバーロードと魔法少女   作:あすぱるてーむ

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長くなったので分割して投稿します。
今回は陽光聖典との戦い前編です。



黄昏の戦い 前編

ガゼフは言い知れない胸騒ぎを覚えていた。

最後に休憩してから2時間ほど馬を走らせ、馬も随分と疲労している。その甲斐あり、カルネ村まで目と鼻の先の所まで来た。

あたり一面広がる麦畑は、沢山の穂を実らせ黄金色の野に染め上げている。なのに、収穫する者の姿が何処にも見えないのだ。

今回こそは間に合って欲しいと急いだが、この村も一足遅かったのかと沈痛な面持ちをする。

 

「隊長! あれを!」

 

副長が右後から追いつき併走すると、緊張した声を上げ村道の入り口を指し示す。

村の入り口付近で、一体のアンデッドの騎士が不動の姿勢で立っていた。邪悪な視線は真っ直ぐガゼフと戦士達に向けられている。

その姿を見た瞬間、背中にぞわりとした悪寒が走った。

全身に震えがこみ上げ、背中には汗が吹き上がる。

ガセフが感じたそれは言い知れぬ恐怖であった。

 

「あれはまずい……なんだあれは……」

 

全身を覆う漆黒の全身鎧(フルプレート)には血管の様な赤い文様が浮かび上がり、兜からは悪魔の角が生えている。刃が波打つ形状をした大剣と、身の丈ほどの巨大な盾を持つ死者の騎士。それが、此方を観察するように見ている。

死の騎士は踵を返すと、村の中へと駆け出した。

ガゼフは、これからあの化け物が村人達に及ぼすであろう惨劇を想像し、戦慄が走る。

 

「追うぞ。あの化け物を村に入れるな!」

「はっ!」

 

全力で馬を走らせながら部下に視線を向ける。彼らは皆、彼我の差を本能で感じているのだろう。顔色は血の気が引いて死者のように白く、その表情は硬い。しかし、逃げる者は一人もいなかった。ガゼフは思う。死者の騎士と戦っていったい何人が生き残れるのか……殆ど生き残れまい。しかし、ここで討ち取らなければ、王国にどれ程の被害が出るのか皆が分かっているのだ。だからこそ、ここで命を賭してでも食い止める必要がある。

 

村の外では死の騎士に追いつくことが出来ずに村の中へと進入を許してしまう。その後を追い、雪崩れ込むように村道に突入する。

村の村道に入って速度が落ちたとはいえ、騎馬を疾駆させているのだ。死の騎士との差は徐々に縮まりを見せた。

 

その距離は、残すところ30メートルほどの距離まで近づく。ガゼフは短弓を取り出して矢を番えると狙いを定めて放つ。弓矢は寸分違わず死の騎士の頭部へと向かい、フランジュベルの一刀で斬り落とされた。

当然、弓矢ごときが死の騎士に通用するとは思っていない。足止めが目的で放った一射である。

その狙いは的中した。

死の騎士の走る速度が緩んだ一瞬の隙に、一気に距離を縮めて周りを取り囲むことに成功したのだ。

 

王国の戦士達は馬に乗ったまま速歩で旋回し隙を窺う。

死の騎士は完全に足を止めると恨みの篭った悔恨の声を上げる。

警戒すべきはお前一人だと言わんばかりに、死の騎士の視線は、常にガゼフに向けられていた。

「各員、一人で当たるな。必ず複数で攻撃しろ。いくぞぉ!!」

剣を抜き放ちガセフが叫ぶ。隊員も同様に剣を抜くと、自身を鼓舞するように吼えた。

 

――今まさに、死闘が始まろうとしたその瞬間――

 

「この、ばかものがああっ」

 

突然、空中に現れた女の子が、そのままの勢いで死の騎士の後頭部に飛び蹴りを食らわせたのだ。

少女は器用に地面に着地すると両手を腰に当てドンっと仁王立ちする。

死の騎士は、少女に振り返り膝を付く。右拳を地面に当て少女が見下ろせる位置まで深くお辞儀をした。

 

「全くお前は、何でも力ずくで解決できると思うな。まずは相手を見定め、思慮深く考えることを……」

クドクドと説教を始めた少女は、呆気に取られて放心状態の戦士達に気付いて言葉を打ち切る。佇まいを正すとにっこり微笑んでお辞儀をする。

「ようこそカルネ村にお出でくださいました。私はしがない村娘のネムです。そして――」

ネムは死の騎士の方に手を向ける。その手の平を追うように戦士達は一様に死の騎士に顔を向けた。

「そして、こちらは私の召か……かし…ん……下僕のモルダーです」

下僕と呼ばれ、死の騎士のリアクションが何故か嬉しそうだ。たぶん、気のせいだろうが……。

「見ての通りモルダーは決して私達に危害は加えません。寧ろ、村を襲った騎士から皆を護ったのは彼なんですよ。そろそろ、剣を下げてくださいませんか?」

ガセフはこの時、初めて死の騎士――とネムに向けて剣を構えていたことに気付いた。

「こ、これは申しわけない。私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフです」

ガセフは剣を鞘に戻し馬から下乗した。他の戦士達も彼に習う。

この少女は何者なのだと警戒心を最大限に働かせながら注意深くネムを観察する。

「先程、騎士が村を襲ったと……」

ネムは手を上げてガゼフを止めると、年相応にしか見えない屈託のない笑顔を浮かべる。

「詳しい話は村の代表、村長に聞いてください。今、広場で皆さんを待っていますから」

ネムの言動や仕草とその容姿容貌がまるで合わない。その事が余計に得体の知れなさを感じさせた。

 

 

中央広場では既に村長がガセフ達を待ち構えていた。

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフです。貴方がこの村の村長ですか?」

「は、はい。私が村長です」

広場まで全力で走ってきたため、村長は顔を紅潮させて荒い息をしている。

ガセフは、村長から伸ばされた手に一瞬躊躇し、握手を交わした。

「早速で悪いが、話を聞かせて欲しいのだが……」

ちらりとモルダーに視線を向ける。村長は頷き、これまであった経緯を説明し始めた。

 

今朝方、帝国の紋章を付けた騎士達に襲われ、多くの村人が犠牲となった。それに続く死の騎士・モルダーの勇敢な戦いぶりを熱く語る。死の騎士の活躍は、ガセフは俄かには信じられなかったが、不動の姿勢でネムの背後に立つモルダーの従順な姿や、村人達の雰囲気がそれが真実であると告げている。

やがて捕虜の話に及ぶと、ガゼフは一番の食い付きを見せた。

 

「是非、俺に話をさせてもらえないだろうか。できれば、此方に引き渡していただきたい」

「もちろんです。ネムも構わないね」

 

話の途中ではあったが、聞くべきことは全て聞き出した筈だ。

ネムが頷くのを見ると、村長は「それではご案内します」とガゼフを捕虜を監禁した倉庫に案内しようとする。

そこに、偵察に出ていたラッチモンが戻って来た。

ラッチモンは緊急事態であることを知らせる為、村長に大急ぎで駆け寄る。その慌しい様子に嫌な予感がしたのだろう、村長は足を止めラッチモンを待つ。

「村長!何者かが村を包囲しながらこちらに向かってきます。あいつら、見た事も無い化け物を連れていました」

ラッチモンは村長の隣に立つガセフを一瞥すると、客人に対して礼を欠いたと申し訳なさそうに頭を下げる。

傍にネムがいることも確認すると、膝をついて目の高さを合わせ、感心したように声を出した。

「すごいなネム、君の言った通りだよ」

「有難うございます。ラッチモンさん」

笑顔でラッチモンに感謝を述べると、次にガセフを見る。一変して真剣な面持ちだ。

「その人達の狙いはストロノーフ様です。話を聞きますか?」

「ああ、聞かせてくれ」

その声には力強さが感じられた。

ガゼフのネムを見るその表情に子供だからと侮った感情は微塵も見られない。一人の武人と接するような敬意が感じられた。

 

 

ネムと村長は、ガゼフのみを連れて広場から少し歩いた場所にある倉庫へとたどり着く。目的は捕虜と話をさせるためである。

モルダーと部下の戦士達を広場に残してきたのは、法国の特殊部隊に村内部まで侵入された場合に備えて、村人を警護する為である。

 

ネムは<施錠(ロック)>の魔法を解除して扉を開けると、倉庫の中から怯えた声を上げる捕虜の騎士をガゼフに会わせる。

このタイミングで捕虜と合わせるのは、その方が正確に情報が伝わるだろうと考えたからだ。

思惑は正しかったようで、ガゼフの表情は次第に険しくなる。激情で騎士を殺してしまわないか心配になるほどだ。

ガゼフ自身も薄々は気付いていただろうが、村々を襲った理由が自分一人を罠にはめる、唯、その為だけであったと聞かされて気持ちの良い人間はそうはいないだろう。そして、ガゼフは怒りを覚えるタイプであった。ガゼフが放つ殺気を一身に受けて歯をガタガタと震わせる。

ネムは、感心したようにガセフを見る。殺意だけでここまで恐怖を引き出せるとは、王国最強の戦士という評価も決して大袈裟ではないようだ。

 

 

広場に戻る頃にはラッチモンの報告を受けて30分ほど時間が過ぎていた。

敵が包囲網を完成させるには十分な時間だ。

ネムはガゼフの数歩後ろを歩き、どのように行動するのか推し量るように観察する。

 

ガゼフに気付き、副隊長が一歩前に進み出る。

「戦士長、我々も敵存在を確認しました。数は不明。ですが、敵は等間隔で村を包囲しているので、村の規模を考えますと凡そ40名と推測されます」

一時の空白。苦虫を噛み潰したような顔をする。

「そして、全ての相手が天使を召喚していました」

「ふん、やはりな。相手はスレイン法国の特殊工作部隊、噂に聞く六色聖典の一角、陽光聖典部隊だ」

既に捕虜から聞いて知っていた情報である。これは部下に聞かせる為に話したのだ。我々がこれから戦い、打破しなければならない相手の正体を。

「打って出るぞ!敵の布陣を強行突破して出来るだけ村から離れた後、迎え撃つ!各員、準備せよ」

完全に後手に回っている為、戦闘は避けられない。ならば、村人を戦いに巻き込まないよう出来るだけ村から離れて戦うという覚悟の命令である。敵の罠の懐に飛び込むのだ。つまり、向かう先は死地である。

各員それが分かった上で賛同する。皆が晴やかな笑顔を浮かべている。その表情の真意は油断でも諦めでもない。危険だと知りながらも覚悟を決めた男達の顔であった。

 

ガゼフは部下達を誇らしく思い、そして、同時に失いたくないと思った。

だからこそ、死地に活路を見出す提案をする。

 

「ネム殿、我々に貴方の騎士を……モルダー殿を貸してはいただけぬか?報酬は望まれるだけの額を用意する」

「モルダー……さんに聞いてください」

ガゼフがモルダーを見ると、モルダーは大気を震わす雄たけびを上げた。

モルダーはちらりとネムに視線を向け、ネムは心底嫌そうな顔をする。

「……え?私が言うのか?えっと、私はネム様の騎士。この村と少女を愛し、守護する者。この村に災いをもたらすお前達に貸す剣はない」

棒読みである。

「そうか、ならば仕方が無い」

断られたというのにガゼフは微笑む。たとえアンデッドであっても、村のために戦うという男に共感を覚えていた。王国のために、無辜の民を守るために命を懸けて戦う自分達と何が違うというのだろう。

モルダーの骨と皮だけの無骨な手を、剣を持つ拳の上から強く握る。

「この村を護ってくれた事を心から感謝する。本当に感謝する。そして、これからも村を護って欲しい」

モルダーは当然だとばかりに頷く。

「ならば後顧の憂いなし! 我々は、唯前だけを見て進むのみ!」

「え、ちょっと待ってください、ストロノーフ様」

「んん、ああ、ネム殿。君にもお礼を……」

「いえそうじゃなくて、私が力を貸しましょうか?」

「それは、大変ありがたい申し出だが……」

ネムを子供と侮ってはいない。しかし、子供に助けを求めるわけにはいかない。それとこれとは、話が違うのだ。

だが、ここでネムも引き下がれない理由がある。どうしても、ガゼフに感謝される形で同行できるよう話を持っていきたかった。

「相手は全員が魔法詠唱者(マジック・キャスター)です。ならばこちらも魔法詠唱者(マジック・キャスター)の助けが必要ではないですか?」

「……確かにネム殿の言うとおりだ。しかし」

待ってくれとばかりに手を上げ、楽しげにネムは笑う。

「あくまで後方支援ですし、危なくなったら直ぐに逃げますよ。それに、ただでという訳ではないんです。この村を救ったのは、全て貴方達だということにして欲しいのです」

「それは出来ん。貴公らの手柄を……」

「お待ちください。もし、帝国の騎士達を退けた村があったとしたら、その村にアンデッドの騎士とそれを使役する魔法詠唱者(マジック・キャスター)の噂が広まれば、余計に厄介ごとを招き入れることになるとは思いませんか?」

ネムの言うことは尤もだ。此度の件が王国に知られれば調査隊が組まれこの村に派遣される可能性は高い。そして、そうなればモルダーの存在は双方にとって非常に危険である。

「こちらの手柄をお譲りするのではなく、厄介ごとを引き受けて頂くのです。私が力を貸すのは、私達を護る為でもあるのです」

モルダーが口を半開きにしてショックを受ける。

『流石は我が主。そこまで考えが及ばぬ私をお許しください。私にご命令下されば、直にでも彼の敵を殲滅してご覧に入れます』

ネムはモルダーを無視して話を進める。

「如何ですか?ストロノーフ様」

「……そうだな、よろしく頼む。ただ、これだけは約束して欲しい。身に危険が及んだ場合、危ないと俺が思った場合も必ず逃げてくれ」

「はい!」

ネムは狙い通りに話を進めることができたとほくそ笑む。

実のところネムはスレイン法国の特殊工作部隊をそれほど脅威を感じていなかった。捕虜の騎士からは隊長格が4位階、その部下も3位階までしか使えない雑魚と聞かされている。危険はないと知った上での提案である。

(それに、本当の狙いは別にあるけどね)

ネムは心の中で悪戯っ子のように舌を出す。

 

 

 

 

 

村から飛び出した戦士の一団は、隊列を組み馬を走らせる。

先頭はガセフが走る。ネムは彼の騎馬に相乗りしていた。

 

突如、進路を塞ぐように100メートルほど先に炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を引き連れた魔法詠唱者(マジック・キャスター)が現れる。

最初の一人を皮切りに、戦士達を取り囲むように次々と姿を現す。

 

「<次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)>で包囲網を狭めています。一箇所だけ進路を空けて誘導するつもりのようですが、ここは敢えて突破するより敵の策に乗りましょう」

「聞かせてくれ」

「無理を通せば少なからず此方に被害が出ます。敵の包囲は時間の問題なので結果は同じです。ならば、此方の戦力を少しでも残すべきです」

 

もし、この状況で逃走を図るならば一点突破が最も効率的だろう。小を犠牲にして大を逃がす作戦だ。だが、相手の狙いはガゼフ一人である。ガセフだけは逃がすような真似はしないだろう。その犠牲がガゼフでは此方の負けなのだ。故の総力戦である。

理解は出来る。しかし、ガゼフは承服することができなかった。

結果が同じだというのであれば、周到に罠を張られた時点で、この戦は負け戦である。

だからこそ強行突破を行い包囲網に穴を穿ち、己が囮となることで部下を逃がすことが出来る。

 

「犠牲になるのは俺一人でいいのだ。なんて考えてません?」

 

ネムの言葉に、ガゼフの背中が緊張する。

それを肯定と受け取ったネムは、ガゼフに対して奇妙な共感を覚えていた。

自分のために大切な者達が犠牲になる。それは耐えがたい苦痛を伴う。ならば、自分一人が全ての泥を被ろう。

 

(俺もそう考えたんだよな。あの時に)

 

随分と昔の事が昨日の事のように思い出せる。

それは、命を懸けた本当の戦いとは違うのかもしれない。死んでもやり直しの利くゲームの世界での話だ。

しかし、似通ってる点もある。多勢に無勢で状況は限りなく不利だ。敗北を覚悟した彼は仲間だけでも助けたかった。

かつて、あの輝ける時代に、モモンガは同じような会話をしたことがあった。

 

 

     ・    ・    ・

 

 

ユグドラシルの砂漠エリアを疾走する4つの影があった。

それは全てが異型種で統一されたパーティーだ。骸骨の魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるモモンガ、二対の翼を持つ弓に特化した戦士風のバードマンのペロロンチーノ、防御に特化した武装をしたピンク色の光沢を持ったスライムであるぶくぶく茶釜、全身が蔓で作られたような姿をした植物系モンスターのぷにっと萌え。同じ種族は誰一人いない。彼らは皆、同じギルドの仲間達である。

その4人が同じ速度で――どのようにして走っているのか不明であるが――砂漠を疾走しているのだ。

 

特殊技術(スキル)を使って周囲を窺うペロロンチーノにぷにっと萌えは声をかける。

「どうですか?ペロロンチーノさん」

「いるな。全部で10人。完全に包囲されている」

「ごめん、俺のせいだ。俺が囮になるから、みんなは逃げ……」

「何らしくないこと言ってるんですかこの人は」

「そそ、水臭いですよモモンガさん。次は俺のエロ系モンスターの収集に付き合って貰うんだから」

「だまれ弟」

「ですが、ぶくぶく茶釜さん。俺のイベント消化に付き合わせた所為で」

「まずは落ち着きましょう。まだ負けると決まった訳ではないです」

「何言ってるんですか。俺ら4人じゃないですか。流石に勝ち目無いですよ」

ぷにっと萌えは顎――と思われる場所――に手を当て考え込むと、確認の為、モモンガに尋ねる。

「ゲートは駄目だったんですよね」

「ええ、転移は封鎖されています」

「ならば戦うしかありませんが、セオリーで言えば人数差を覆すのは容易じゃありません。周囲に散らばっている今、一箇所ずつ各個撃破出来ればいいのですが、相手の数と距離を考えると一人を倒し切る頃には囲まれてしまいます」

「やっぱり俺が囮に……」

「まあ、待ってください。少し整理しましょう。我々と奴等の違いは何だと思います?」

「こっちは4人、相手は10人です」

「うちらは異形種、あっちは人間種と亜人種かな」

「俺にはカッコいい羽がある。モモンガさんには燻し銀な骨が、ぷにっと萌えさんには立派な草が、姉にはピンクの肉棒がある。奴等には無い」

「……凍結(BAN)されろ弟よ」

「なるほど。他には、ここは砂漠エリアで視界良好。後は、相手の装備や職構成次第ですね。ペロロンチーノさん」

「あいよ。……やばいのは二人でどちらも戦士。あのアバターは相当気合入れてるね。装備を見る限り戦士職4人、魔法職4人、回復職2人だな」

「……試してみる価値はあるか。一つ試したい戦術があるのですが乗りませんか?」

 

同レベル帯の(プレイヤー)(VS)(プレイヤー)において、人数差は絶対である。職の相性やプレイヤースキルにもよるが、味方が一人多いだけで勝率は跳ね上がる。それゆえ4対10というのは絶望的な戦力差である。

それなのに、まるで勝ち目があるかのように話すぷにっと萌えに、驚いたように視線が集まる。

 

「え、行けそうですか?」

「まあ、見ててください。圧倒的不利を覆す勝利をね。駄目なら仲良く全滅しましょう!」

 

 

     ・    ・    ・

 

 

図星を付かれたガゼフは顔を歪める。

ネムが見かけ通りの子供ではないことは、彼女の言動や振る舞いから感じ取れていた。

だが、幼い小さな手で確りとガゼフにしがみ付き、馬から振り落とされまいとする姿は年相応の少女にも見える。

何とも不思議な少女だ。

まるで心を読まれたかのように言い当てられ、気恥ずかしさもあり堅い表情を緩ませる。

 

「……ネム殿にはお見通しのようだな」

「そうでもありません。ですが、今回に限り勝てる戦だと断言できますよ」

 

その口調には自信が溢れている。ガゼフはどんな些細な情報でも勝機があるのならば知りたかった。それが、これまでの人生で最も優れた魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるかもしれない人物の言葉ならば尚更である。

 

「随分と自信があるのだな。何か勝算でも?」

「まあ、見ててください。この圧倒的不利を覆し、必ず勝利してみせますよ」




次回は、あの方が盛大にフラグ回収いたします。

次回『黄昏の戦い 中編』

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