ALOが始まり数ヵ月、紛争は各地で勃発している。それも種族内部と別種族間の双方で。
クエストやアイテムを狙っての競争、それに伴い起きる紛争は基本的に同一種族内のものだ。また初期設定ではNPCが務めていた領主職、これはある程度の期間経過後はプレイヤーへと委譲されたのだが、付随する各種権限を求めての闘争も起きる。
もちろん物価の統制などワールドの基幹部分を設定できるのはカーディナルシステムだけなのだが……クエストの発注やイベントの開催といった権限を楽しみたいプレイヤー、単純に上に立って支配者ロールをしたいプレイヤー、領地内のkill設定を
まぁ当初の予想よりは大人しい状態だと思う。群雄割拠の
ALOの概況はそんな所。僕が何に励んでいるのかといえば、津々浦々への行脚である。
「須郷君、私の世界に腰痛という法則は必要ない。そう実感したよ」
「ちょっと田植えしたくらいで何言ってるんですか。ほら手ぇ洗ってきてください」
梅雨時の晴れ間、やって来た東京近郊の田園地帯。ぐぐぐと腰を伸ばして凝りをほぐし、戻ってきた先輩と土手で握り飯を食う。目を見開いた先輩は茶を飲み干すと……感慨深げに呟いた。
「味覚エンジンは重視していなかったが……本格的に手を着けてみるか」
「元々は提携先の技術でしたから、出来がイマイチなんですよね」
アーガスとタイアップした会社のダイエット用ソフト、つまりVRで満腹感を得れば痩せやすいという思惑だったのだが構築が甘く、○○のような味、という感想しか出てこないのだ。群を抜いて不評なシステムでもある。
とはいえ腹が減ったならリアルで食えという話であって、VRで満足しても腹は膨れないし、満腹感にあぐらをかいて仮に餓死などされた日にはやっていられない。そこまで面倒見切れないのだ。
だが例えば、現実では味覚を楽しめない事情を抱えた人が擬似的に食事を楽しみたいというのなら大賛成だ。そうした「どこまでやればいいのか」の線引き作業は大変で、やりがいもある。
「しかし君の提案した随意飛行というのは、慣れると楽しいものだな」
ちゃっかりスキューバダイビングやハングライダー体験までくっついてきた先輩は実に楽しそうに言ったのだ、仮想世界でもこの感覚を実現したいと。その責任者は誰かって? 僕だよ。
そうして複数の飛行形式は組み上がったのだが、結局ALOで一般採用されたのは左スティックモーションによる「肩甲骨から推進材を噴いて飛ぶ」ような飛行操縦だった。テスターをお願いした三人娘いわく──
「わたしは慣れれば鳥のタイプでもいけそうだけど……」
「大多数には無用の長物、慣れるまでに飽きられる」
「そう? ボクもう飛べるけど、ほら!」
という三人娘の感想が──一名だけ若干おかしかったが──あったからだ。一応は搭載された「肩甲骨に翼が生えている鳥方式」は利用者が未だ数%、彼らのデータを基にして今後の改良を進めていくことになるだろう。
☆ ☆ ☆
「ほら、すごーさん。早く早く!」
「そ、そんなに引っ張らないでくれユウキ」
やって来ました海水浴、とはいってもALO内のプライベートビーチなのだが。カーディナルの気候エンジンは実に良い働きをしていて、素足が踏む砂浜は既に熱され始めている。この再現がどれだけ大変だったか……ということについ意識が行ってしまうが、それは今日の本題ではない。
海洋部分のアップデート前にテストを、という名目で今日は身内だけの海水浴なのだ。茅場先輩も神代先輩を伴ってどこかにいる筈だ。何をしているのかって? 興味ないよ。
「どうかな、ボク似合ってる?」
タタッと正面に出て一回転、全身に日光を浴びて輝くユウキは紺色のスクール水着に身を包んでいた。リアルよりも髪を長く伸ばした
「おー、似合う似合う」
「ホントかなぁ、感想がてきとーじゃない?」
「いやいや、よく出来てると思うよ」
スク水の描画担当者は知らないが、よく出来ているのは本当だった。と、そこに掛かる声。
「どう、ちゃんと感想もらえた?」
「シノン、なんかテキトーだったんだけど!」
「それは仕方ない。ユウキは小六、女子力が足りないから」
「お、詩乃も来たのか…………えっ?」
あの、詩乃さん、どうして全身フル装備のぴっちり目なダイバースーツなのでしょうか。猫耳の生えた水色髪のアバターは
「似合う?」
「あ、あぁ、これ以上ないほどにキマってるのは確かだ。でも何か違わない?」
「水中活動の可能性を探りに行ってくる。昼は深海魚を期待してて」
「水中戦闘ってどんな感じなのか楽しみ! また後でね」
大きな
「あの子達はどこに向かっているんだろう……」
いや楽しそうだからいいんだけどさ。さてそろそろ僕の方も準備を始めなければ……折角の実質オフなのだ、今日くらいは仕事用のリアルアバターではなく、僕も何かしら別のアバターを用意しようと思っていた。
だが事前に作っていたアバターは……これでもかという程に酷評されたのである。
「ないと思う、うん、それはない」
「ボクもちょっとイヤかなー?」
「わたしは……やっぱり駄目」
すいませんコレ原作で
現実だって「とりあえずスーツ着とけばいいか」みたいになりかけている今日この頃、少女達のチェックは非常に厳しい。いっそお任せしたかったのだがソレもアウトらしく……まさにお手上げ状態だ。先輩のヒースクリフはどこからデザインが出てきたんだろう……あれも先輩がイメージしていた理想なんだろうか。あのダンディさ、先輩に頼めば作ってもらえるのか?
「まぁ今は適当でいいかな。リアルベースを適当に
格好つけて見せる相手なんぞいないし、仮想の肉体に何を感じるでもなし。
元々ALOに海はあった。SAOのデータを活かして中々の完成度はあったのだけれど、実際に稼働させれば不具合は出るもの。夏の季節に合わせて運営側でもイベントを開くつもりなのだが、既存の砂浜では狭すぎてプレイヤーが芋洗い状態になってしまう。それも含め拡張工事していたのだ。
今回の件に限らずカデ子──カーディナルシステムは素晴らしい働きをみせてくれている。ただたまに「なんでこんなことを?」みたいなことを平気でやらかすので注意が必要だ。
この間だって伝説級武器としてエクスキャリバーを提案してきたし。世界観が違うよ。
「しかもキャリバーって何だよカリバーだろう……エークスカーリバー? っ、何か嫌な予感が」
発声は厳禁。キャリバーについてはこれ以上考えないことにして、話はカデ子のことだ。
茅場先輩いわく「同位の二者が牽制と討議を繰り返すことにより最適解を求める構造」らしいのだが、クエスト自動生成機能などを見ると「こいつら二人で悪乗りしてるのでは?」と感じることもしばしば。カデ子の頭脳が二つしてイケイケどんどん、ワイワイやってハッちゃけている光景を幻視して……実に愉快な構図に頭を抱えた。先輩が増えてしまった気分だ。
「すごーさん、お待たせ」
「ああ、良いところに来てくれた…………っ?」
分裂した茅場先輩の被害を思い浮かべていた僕には清涼剤が必要だった。それこそ何でも。
少なくともアスナのビジュアルは暗い気分を押し流して余りあるだろうと振り向いた先には──妖精がいた。いや、ALOだから妖精なのは当たり前なのだが、
亜麻色の髪から
「え? それ選んだの?」
「え、すごーさんが作ったデザインでしょう?」
「
「誰に着せるのかなって、思ったから……詩乃のんにお願いして、調節してもらったの」
「詩乃経由か……うん、よく似合ってる」
本当? との返事に深く頷く。なんだかんだ言ってこのアバターはアスナに似合うのだから、このデザインセンスだけは
かといって……下世話な話だが、彼女の格好を見てアレコレしたいとは思わないのだ。現実と仮想を分けるよう意識しているからか、仮想世界は手段の一つだという意識が強いからか。
「とはいえアバターは現実の肉体ではないからなぁ……ドキドキは出来ないんだよ」
ポツリと呟く。アスナの姿を前にしても、どうしても造形の美麗さや荒さに目が行ってしまうのだ、開発側の性として。純粋に没入しきれないこういう所、僕は損していると思う。
「あと明日奈とは最初から現実で接していたから、リアルをベースに考えてしまうんだよな」
「じゃあすごーさん、連れてってください。海、リアルで」
「え?」
「ほら、今は今を楽しみましょう!」
言ったアスナに手を引かれて目前の海に突撃。なんだかよく解らないけど海へ出掛けることになったらしい。彰三さん達になんて言おうかなぁ…………ま、まぁ後で考えればいいよな、うん。
シノンとユウキが戻ってくるまでの間、
★ ★ ★
「とはいえアバターは現実の肉体ではないからなぁ……ドキドキは出来ないんだよ」
それはつまり……アスナの脳が活性化を始める。この格好は似合っていて、この外見に好感を抱いていて、現実の体ならば興奮するということは即ち──現実でこの格好をした明日奈を見れば似合うとも思うし興奮もするということか。つまりリアルでこの格好を催促していると。
なるほど、要は今……ナンパをされているらしい。そうアスナは結論付けた。
思い返してみればSAOにおいても何度かデートを申し込まれた際には、彼のような誘い文句を言われた気もする彼女。ことごとくを「わたし、リアルに婚約者がいるので」で撃沈してきたアスナはAGIビルドでありながら「鉄壁」の二つ名が付けられ……というのは別の話。
付け加えるならば明日奈は仮想世界で興奮することができる……というと表現に難はあるが、VRであっても感じ方が現実と大差ないのだ。SAOで約二年を過ごしたこと、日に日に向上するVR技術も相まってアスナと明日奈は当人にとってほぼ同一だったのである。
だからこそアバターに興奮はできないと言われたとき違和感を覚え、それについての原因を自分なりに見付け解決してしまったからこそ本来の──そもそも彼は明日奈に興奮するとは言っていない、という問題を無意識に飛ばしてしまったのである。
「あと明日奈とは最初から現実で接していたから、リアルをベースに考えてしまうんだよな」
決まりだ。気恥ずかしさでもあるのか遠回しな発言は、つまり現実で誘いたいことの証。
「じゃあすごーさん、連れてってください。海、リアルで」
そう言って手を引き、波間へと駆け出す。現実の海開きはまだまだ先だから、今日は今日でこの状況を楽しもうと。
☆ ☆ ☆
和人と直葉がALOを
「お兄ちゃん……じゃなくてキリト君、誰かからメール?」
「あ、あぁ……SAO時代の、なんだけど」
ALOを始めるにあたって引き継がれたデータはそう多い訳ではなかった。武器やアイテム、コルやスキルといったものは殆どがロック状態であり、そもそもレベルという概念が存在していない。90を越え100の大台に乗ったアバターは、こと攻略という点に関しては初心者と同じスタート地点からだったのだ。ついでに言えばソードスキルもなく、自力の再現に四苦八苦している所だ。
規格が共通とはいえ別のワールドなので致し方ないと、理解できても悲しくなるのがゲーマーの性というもので……そんな状態にあって引き継がれた数少ない物の一つがフレンドリストだった。
フレンド登録をした相手とはメッセージを送り合うことも現在地を確かめることもできる。ログインしているかどうかも同様に……これこそSAOと構造を同じくしているが故のことだった。
「クライン、エギル……お前達もこの世界にいるんだな」
共にアインクラッドを生き、そして別れた仲間達。現実に帰還して犠牲者はいないと知って、ならば彼らも無事だと胸を撫で下ろして…………自分が見殺しにしてしまった人も生還していることに気付いてしまったのだ。そんな彼らに連絡を取ることがキリトには出来なかった。
彼らが死んだことに衝撃を受けてSAOの頃にフレンドリストから消してしまった、そういう言い訳があった。残っていたとしても会うことなど選べなかったのに。そんな卑小さが嫌になって、SAO時代のフレンドリストそのものを記憶から消し去ってしまいたい程で。
キリトとてプレイヤーに過ぎない以上は取り零すこともある。十四年の人生経験では他人との食い違いを正すだけの力もなく、誤解を残したまま相手が死に突き進んでしまったこともあった。
その中の一つ、楔となって突き刺さる記憶の一つが「月夜の黒猫団」である。素材補充のため下層へ──キリトの主観ではだが──降りた際に出会った、同じ高校の部活だというメンバー達。しかしどうにも危なげなプレイングに、見かねたキリトは
そのときは丁度、茅場晶彦がヒースクリフとして英雄的な声望を集め始めた頃だった。アインクラッド全体に明るいムードが流れ、英雄譚への憧れに身を任せて実力以上の無謀を
それでもキリトは慢心していた訳ではない。自分であっても、油断をしていないのに足元を掬われた経験は多い。下から上がってきたばかりの黒猫団がいかに危なっかしいか理解していたし、危険を避けるために教えられることはきちんと教え込んだ。己のレベルと身分を明かしてまで。
悲しいかな、キリトが他人とまともに交流するようになったのはSAOに来てからだ。更に言えばヒースクリフと知り合ってからでもある。戦闘技能や俯瞰的視野、HPの管理やリスクヘッジを教えることはできる。けれどそれらを「守らなければ死ぬのだという真剣みを伴って理解させる」という技量は有していなかったのだ。
見れば解る、教えられれば出来る、興味のあることは延々続けて血肉に変えられる、キリトはそういうタイプだった。ソードスキルのアシストに自身の動きを合わせることでブーストを掛けられる、そんなことに気付く者などほぼいないし、モノにするため何日も何日もはじまりの街の界隈で剣を振り続ける酔狂な者など皆無である……ただ一人、キリトを除いては。
故にキリトの常識はその他大勢にとっての非常識なのだが……危険だと言われたことをキリト自身は「なるほど」とよく理解できてしまうが故に、自分の忠告を聞いた相手も同じく真剣に理解してくれるだろうと思ってしまった。加えて英雄の傍で活躍するキリトと近付きになれたことが黒猫団を、ある意味ではのぼせ上がらせた。彼の教えでメキメキと強くなる実感も拍車を掛けた。
キリトは「相手も理解しているだろう」と信じた。
黒猫団も「自分達は理解している」と信じた。
戦い抜けるような状態ではないことを唯一把握していたのは皮肉なことに、最も臆病な少女で。
けれど和を保つために口を閉ざし、本音を沈め、眠れない夜を過ごし……部外者だったキリトにだけは恐怖を打ち明けられたことで少しは持ち直すことができた、出来てしまった。自棄になった彼女の暴発、その真意が他のメンバーに知られることも共感されることもなかった。
そして死んだ。
己が死なせたも同然なのだ。少なくとも自分は、何とか出来る立場にいたんだ、と。
恐慌状態で死にゆくメンバー、怨嗟の声をあげて飛び降りたリーダー、その呪縛と折り合いを付けられたのは少女からのメッセージがあったからだ。無謀なレベリングを行い、蘇生アイテムの可能性に賭けてイベントボスに挑み、期待外れの結果に項垂れていたキリトに届いた、彼女との共通タブにあったクリスマスプレゼント────
「共通タブ…………?」
ふと、よぎった可能性。メニューを操作して呼び出したインベントリの一覧には個人用、パーティー共用、ギルド共用の他にも各自設定できるボックス枠があった。結婚したプレイヤー同士のインベントリが統合されるというのは極端な事例だが、誰とどこまでアイテムを融通し合えるかというのは非常にデリケートだったのだ。その中にはかつて、少女との共通タブを作成していた。
そしてクリスマスの日、メッセージの記録媒体はそこに、時限式で現れたのだから。
「あ、あああああっ!」
震える指の先、確かに存在したのだ、少女との、サチとの共通タブが、引き継がれていた。
音声を録音した結晶といくつかの回復アイテム、そして…………使用できなかった転移結晶。
かつては見る度に絶望した共有ボックス。それが今、希望となる。
「どうやって連絡を、って手紙でも放り込めばいい、というかログインして見てくれるのか? いやそもそも文面どうしたら」
盛大にテンパっているキリト、それを少し遠巻きにして眺めるリーファとユイ。
「ねえ、キリト君は何をしているの?」
「昔の女に連絡を取りたいんです、パパは」
「へー、昔の…………おんなぁ!?」
どどどどういうことなのかなユイちゃん! と掴みかかってくるリーファをかわしながらユイは軽やかに空を舞う。ナビゲーションピクシー枠で舞い戻った彼女は人工知能の面目躍如、人間には理解不能な「随意飛行」をそれこそ本物の鳥と同じレベルで把握し…………間違いなきALOトップの飛行技術を有していた。
☆ ☆ ☆
「それでクライン、キリトからの返事は来たのか?」
「うんにゃ、どうせまたウジウジしてんだろ」
エギルの方からもメッセージ送ってやってくれ、と返すクライン。二人もまたALOに参加し、央都アルンにて
スタート地点こそ好きな領地を選べるが、普通は己の種族を選択する。各種の優遇が自種族の領内では得られるからで、また自種族限定のクエストも数多い。それぞれの種族には別々の個性が割り振られている以上、事前に確認して選ぶプレイヤーはそのままゲームを始めるのが普通だ。
言ってみればリーファと同じスタート地点を選択したキリトの方が少数派なのだ。クラインとエギルも大多数に含まれる側であって、フレンドリストから互いに連絡を取り合い落ち合うまでに結構な日数をかけてしまったのである。更に言えば二人の初期地点は北と南であった。
「まーその内に返事は来るだろ。なかったらオレから押し掛けてやる」
「それはそうとクライン、
エギルの選んだ
だがクラインの選んだ
だからこそALO内で
「心配は感謝するけどよ、オレぁアイツらのリーダーなんだ」
リアルの話で悪いんだけどよ、と前置きを入れるクライン。
「オレが働いてるのは小さい会社なんだけどよ、そろそろ一仕事任されそうなんだわ。そうなればずっと一緒にゲームしてたアイツらとも、頻繁には会えなくなっちまう」
SAOの以前からMMOを渡り歩き、仲間達とトップを張っていた。意気揚々に乗り込んだSAOは開始早々にデスゲーム、結局は全員無事だったが仲間の中にはVRそのものに疲れてしまった者もいる。そうでなくとも今後は頻繁にゲーム内で集まることはできない。
クラインだってSAOから解放されて、届けられた熱々のピッツァの味は死ぬほど美味しかった。二度と食べられないかも知れないと思ったそれを受け取って、馬鹿みたいにボロボロと涙を零しながら食べて、ジンジャーエールを飲みながらこんな目は二度と御免だと思った。
「けどオレはよ、SAOに……アインクラッドに感謝してんだ」
あれ程までにリアルな世界で、仲間達と顔を付き合わせて必死に生きた日々。確かに大変だったけれど、普通に暮らしていたら絶対に出来ない経験を得られた。よく知っていた筈の仲間達の、想いもよらない一面に出会うことも多かった。胸糞が悪くて、涙が溢れて、怒りに胸を焼いて、心の底から笑いあった。自分達は生きていた。
そういったものを与えてくれたSAOにクラインは礼を言いたい程なのだ。だからこそ自分達の思い出を苦い記憶として残したくはなかった。幸いフレンドリストは残っている。仲間達がログインして来たら、自分がここにいることは彼らに伝わる。
「もちろんアイツらが全員戻ってきてくれるかなんて分かんねーけどよ、戻ってきたときにリーダーがいなきゃ始まらねェだろ」
それにオレ達はギルド風林火山だ。攻略はアイツらと、って決めてんだよ。呟くクラインの姿はSAO時代を彷彿とさせるものがあった。
「クライン、お前」
「へ、よせやい。自分でもガラじゃないこと言ったと思ってるんだからよ」
「いや、ちゃんとリーダーやれてたんだな」
「オイどういう意味だソレ!?」
悪かった悪かった、と