油断したら艦娘に拉致されました   作:断空我

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8.添い寝と模擬戦

「罰を与えます」

 

部屋へ戻ったら赤城が待ち構えていた。

 

黒崎は抵抗する暇も与えずにベッドへ押し倒される。

 

「私が戻ってきたからよかったものの、外へ抜け出そうとするなんて本当に悪い子ですね。廉太郎」

 

「いつまでも餓鬼扱いするな。俺は昔と違う」

 

「そうですか?」

 

赤城は黒崎の両手を片手で抑え込む。

 

女性の力とは思えない力に黒崎は抗うことが出来ない。

 

赤城はニコニコと微笑む。

 

「ほら、昔と一緒」

 

「くっ」

 

「あら、抵抗しても無駄ですよ?貴方は昔と同じ何もできない」

 

昔と同じ。

 

黒崎はそういわれることが大嫌いだった。

 

変わっていないといわれることが。

 

変化していない。

 

特に目の前の艦娘にいわれることが嫌だった。

 

「…一緒だと、思うなよ」

 

グググと赤城の抑えている手に力を籠める。

 

本来なら動かない筈の手がわずかに動いていく。

 

「!?」

 

目を見開いている赤城へ黒崎は言う。

 

「昔と一緒だと、思うなよ」

 

「そうですね」

 

赤城は頷く。

 

「貴方は変わった。そこを否定することはしませんよ…でも」

 

ガチャリと首に音がした。

 

気づいた時、黒崎の首に激痛が襲う。

 

「ガッ…グァアアアアアア!」

 

あまりの痛みにベッドから転がり落ちる。

 

「私達から逃げる理由にはなりません」

 

「お前、俺に、何を!」

 

「廉太郎を疑うわけじゃありませんけれど、今回みたいに逃げ出されても困るので首輪を設置することにしました」

 

「首、輪だと?」

 

首元を触ると小さな、けれど黒い輪らしきものが装着されている。

 

「逃げようとすると今みたいに激痛がやってきます」

 

「人としてすら扱わないつもりか」

 

「何を言っているんです?」

 

ニコニコと赤城は頬へ触れる。

 

「私達のモノという事実は変わらないですよ」

 

赤城の言葉にぞっと体が震える。

 

「さて、私は部屋へ戻ります…夜は大人しくしていてくださいね?」

 

忠告のような言葉を残して赤城は出ていく。

 

「クソッ…やっぱり」

 

――逃げておけばよかった。

 

けれど、そうしていたら吹雪は轟沈していただろう。

 

…どっちが正しかったのか。

 

黒崎廉太郎は悩む。

 

黒影トルーパーとして戦ったことが間違いなのか、正しかったのか。

 

誰でもいいから答えが欲しい。

 

そう思いながら黒崎が眠ろうとした時。

 

コンコン。

 

控えめに扉がノックされる。

 

「…どうぞ」

 

「失礼します」

 

「吹雪、体はもういいのか?」

 

「はい!元気いっぱいです!…その」

 

吹雪は枕で顔を隠す。

 

よくみれば吹雪はいつもの制服ではなかった。

 

ピンク色のパジャマ?みたいなものをきて、両手で枕を抱えている。

 

「その…」

 

「眠れないのか?」

 

「はいぃ」

 

後半は小さく、吹雪は答える。

 

それなら仕方ないかと思いながら一人が入れる分のスペースを作った。

 

顔を赤らめながらも目を輝かせて吹雪はそこへ入る。

 

「…電気消すぞ」

 

「はい」

 

小さく答えながら黒崎が横へなると小さな温もりが伝わってくる。

 

「くすっ」

 

「どうした?」

 

小さな笑いが漏れて黒崎が訊ねる。

 

「いえ、その…黒崎さんはちゃんとここにいるんだなぁと思うと嬉しくて」

 

「変なことを言う奴だな」

 

「…うっ、へ、変ですか?」

 

「あぁ」

 

「そうですかぁ」

 

少しショックを受けた様な吹雪を黒崎は優しくなでる。

 

「黒崎、さん?」

 

「…すまん、迷惑だったか?」

 

「いえ、その」

 

「昔、こうしてやったことが何回かあったんだよ」

 

「え?」

 

吹雪なら話しても大丈夫か?そう思いながら黒崎は言う。

 

「俺がまだ餓鬼の頃、俺は艦娘と生活していたんだよ」

 

「え!?」

 

「その時にこうやって甘えてくる奴がいたからな…癖でついやってしまうことがあるんだ。気分を害したなら謝る」

 

「いえ…その娘は?」

 

「さぁ、もう何年もあっていないからな」

 

そっけない態度で黒崎は答える。

 

吹雪はその態度を見て察した。

 

「(会いたくないんだ……よかった)」

 

もし、会いたいと彼が言っていたら。

 

それを考える必要はないかと吹雪は考える。

 

黒崎の言っていた艦娘が近づいていることを知らぬまま。

 

「あの、黒崎さん」

 

「今度は何だ?」

 

「近いうちでいいんですけれど、で、出かけませんか」

 

「は?」

 

「いや、その、あのぉ」

 

吹雪は顔を赤くしてしどろもどろになる。

 

その姿がおかしくて黒崎は小さく笑う。

 

「あ、笑わないでくださーい!」

 

ぽかぽかと彼女は服越しに叩いてくる。

 

「あー、悪い悪い。街に出かけるだな?いいぜ、ちゃんと許可がおりるならどこにだって付き合ってやるよ」

 

「本当ですか!やったぁ!」

 

子供のようにはしゃぐ吹雪を見ながら黒崎は横になる。

 

「ほら、明日も忙しいだろうし、寝ようぜ」

 

「はい!おやすみなさい。黒崎、さん」

 

そういって吹雪は眠りに入る。

 

疲れがやってきたのだろう、黒崎は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きなさい」

 

朝、体を揺らされて黒崎の意識は覚醒する。

 

「ん、吹雪か?まだ寝させて」

 

「寝ぼけないで。吹雪ならいないわよ」

 

「………え?」

 

ぼんやりした意識がはっきりしてきた黒崎がみたのは。

 

「確か、加賀だったか?」

 

「名前を憶えていてくれたのね。嬉しいわ」

 

正規空母加賀は微笑みながら黒崎の額へキスを落とす。

 

「いきなり、何をするんだ」

 

「目覚めのキスは唇がよかったかしら?」

 

「そんな刺激的なものはいらない」

 

「あら、残念」

 

残念なそぶりをみせない加賀。

 

ふざけていることはわかった。

 

「…吹雪がここにいなかったか?」

 

「彼女?私がここへ来たときに誰もいなかったわ」

 

「…そうか…」

 

誰かに見られると問題になると思って部屋へ戻ったのだろう。

 

そう結論付けて黒崎は体を起こす。

 

「今日はお前が俺の付き添いか?」

 

「いいえ、私の気まぐれで貴方を起こしに来ただけよ」

 

「気まぐれって」

 

「当番制でないことが救いね。そうでないから毎日貴方の顔を見に行けるわ」

 

「遠慮しておく」

 

「つれないわね…本当に」

 

今度はショックだったようで後半から元気がなくなる。

 

「お前じゃないなら、俺の監視は誰なんだ?」

 

「監視って」

 

「違うか?」

 

「…貴方が素直にならないからよ」

 

「モノはいいようだな…まぁいい、相手は?」

 

「外でいるわ…貴方と模擬戦をしたいそうよ」

 

「模擬戦だぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺様は天龍だ!」

 

「龍田よ。天龍ちゃんが迷惑かけるわね~」

 

一人は眼帯に鋭い瞳。腰にぶら下げている刀など、どこか物騒な印象を与える。

 

隣にいる少女もぽわぽわした印象を与えるがその後ろに般若が隠れているのではないだろうか?

 

それが軽巡天龍と龍田姉妹の印象だった。

 

「それで、模擬戦ってなんだよ?」

 

「お前、戦艦タ級相手に単身で挑んだそうだな!その実力がみたい!」

 

「実力が見たいといわれてもあれは道具があったからで」

 

「はい」

 

龍田が薙刀を差し出す。

 

「…これは?」

 

「わ・た・しの艤装」

 

「艦娘しか使えないのでは?」

 

「私が許可したら使えるわよ~、さ、頑張ってね」

 

「いや、戦極ドライバーがあったからであって…話きいてねぇし」

 

既にやる気に溢れている天龍を前に黒崎は諦めた。

 

少し距離をとって薙刀を構える。

 

「いくぞ、おらぁあああああ!」

 

叫びと共に天龍が突撃してくる。

 

かなりの速度だ。

 

薙刀を前へ構えていたおかげで初撃は防げた。

 

代償に派手な転倒をしてしまうが。

 

地面に倒れながらもすぐに薙刀をとる。

 

「ほう、普通なら一発で終わるが、流石タ級を倒した男だな!ますます気に入った」

 

立ち上がったことで天龍はよりやる気に満ち溢れている。

 

どうやら男気溢れる艦娘タイプのようだ。

 

冷静に分析しながら黒崎は天龍の攻撃を裁く。

 

まともに受けていたら体がもたない。戦極ドライバーがあって黒影トルーパーになれたとしてもまともにうちあって勝てる保証はないだろう。

 

故に流すことで負担を減らす魂胆だった。

 

しかし、黒崎は天龍という艦娘の力を甘く見ていた。

 

「おらぁああああ!」

 

叫びと共に刀が受け流していた薙刀を捉えた瞬間、派手な音と共に空中へ振り上げられる。

 

「…ぁ」

 

気づいた時には天龍に切っ先を向けられていた。

 

「…降参」

 

両手を上げて参ったポーズを上げる。

 

「中々の実力だな!ま、世界水準の俺様とやりあえたことは評価に値するぜ」

 

「それはどうも」

 

豪快に笑う天龍、様子をうかがっていた龍田は「あらあら、天龍ちゃん。嬉しそう」と微笑んでいる。

 

「どうでもいいが、お前は人間相手と戦って何がしたかったわけ?」

 

「ん、あぁ、伴侶の件だよ」

 

「私はどうでもいいんだけどぉ、天龍ちゃんが実力を見ないと判断できないっていったのよぉ~」

 

「それでこの模擬戦か?」

 

「…そうよぉ~」

 

「できれば、不合格が俺に嬉しいんだけど」

 

「そんなわけねぇだろ!この俺とこれだけ打ち合えたんだ!合格だ合格!、ま、伴侶っていうのは恥ずかしいけどな」

 

「…あ、そ」

 

「ちなみに~、天龍ちゃんが認めても私はまだ認めたわけじゃ…ないんだけどねぇ」

 

「それは良かった」

 

心の底から黒崎は感謝した。

 

「(ま、本当はかなり気に入ったんだけど~、しばらく様子を見ておくこととしましよう~)」

 

それが失敗だと気づかず。

 

 


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