『なんで、あんな奴のいう事をきいているのですか』
――あぁ、これは夢だ。
ぼんやりする意識の中で黒崎は目の前の光景を夢だと判断する。
『貴方には素晴らしい素質があります。○○になりうる素質が!こんなところにいないで戻ってきてください』
『○○のいう通りよ!アンタは絶対に○○になれるんだから!今すぐ戻ってこないと許さないわよ!』
『今まで何人もの○○をみてきた。しかし、お前ほどの素質はいない!お前ならこの○○を扱える!断言できる!』
『そうよ、貴方のいるところはここじゃない……私達のいるところ…だから』
『お願いします!○○になってください。そうしたら私達も喜びますから!』
そうして伸びてくる手を前にして黒崎は。
黒崎の意識が覚醒する。
「もう、みなくなったと思ったんだが…」
何年も前から見なくなった夢。
あの日からアイツらを決別したと思っている黒崎だが心の奥底で未だに引きずっているようだ。
――もう、いいじゃないか。
自分へそう言い聞かせる。
――俺は主任達のために戦うと決めた。あの家から出ていったのもそのためだ。
体を起こそうとすると激痛が起こる。
「あぁ、そうだったわき腹が折れているんだった、くそっ」
「無理は感心しませんね」
横から聞こえた声に顔を向ける。
そこにいたのは。
「赤城…」
「久しぶりですね。廉太郎」
ニコニコと笑みを絶やさない正規空母赤城だった。
「あぁ、廉太郎です。間違いない」
黒崎が返事をする前に赤城は手を伸ばす。
その手を払いのけた。
「ぁ」
「俺に触れるな。もう、お前達とは無縁の存在だ」
「ふふふ、つれない態度ですね。そんなに私達の事が嫌いですか?」
「あぁ、大嫌いだ」
――大嫌い。
あの事件が黒崎の全てを変えた。
ある出来事が彼女達を恨む切欠となる。
「ここにいる艦娘達が俺の事を知っていた」
ニコニコ笑顔の赤城へ問いかける。
「お前があいつらに俺の事を話したな?」
「そうですよ」
赤城を見た時、黒崎の中でくすぶっていた疑問が解消された。
どうして、彼女達が自分の事を知っているのか?
どうして、自分が狙われたのか。
この赤城がいることを見て黒崎は理解した。
「まだ、諦めていないのか」
「…当たり前じゃないですか」
笑顔だった赤城から表情が消える。
ぐぃっと体を乗りだして黒崎へ迫った。
「貴方は全てを終わらせたと思っているでしょうけれど、私達は違う。一日たりとも貴方の事を忘れたことはない。えぇ、忘れたことはないんですよ。廉太郎。貴方が何を思おうとどれだけ私達を拒絶しても変わらない。私達は貴方を手に入れる。そのためならどんな手段でも使いますよ。そう、貴方が首を縦に振るまで…貴方の気持ちがこちらへむくまでどんなことでもします」
狂っている。
赤城の告白はあの時から変わっていない。
そして、黒崎の態度も。
「俺もあの時いったはずだ。全て終わった。俺はお前達の言いなりにならない。俺がするべきことは俺が決める。何があろうとな」
「…あぁ、まだ、ですか」
黒崎へ赤城は手を伸ばす。
その目は黒崎を見ているようで見ていない。
変わっていなかった。
赤城がこのままだということは彼女達もあのままなのだろう。
「手を離せ、俺はここからでていく」
「それはできませんよ」
赤城は立ち上がる。
「ここにいる艦娘達は貴方を手に入れる為にいるんです。どんな手段を使ってもね…まぁ、殺すことは禁じていますから大丈夫でしょうけれど、あまりに乱暴なことをするならそれ相応の結果が待っているでしょう」
「やっぱり、俺はお前達の事が嫌いだ」
「あらつれないですね。“私達”は貴方の事をアイしているのに」
「何度でも言ってやる。大嫌いだ」
お互いに平行線のまま、赤城は部屋を出る。
「一応、鎮守府内を散歩することは許可します。ですが、執務室、外へ近づくことは許しません…では、また」
扉を開けて赤城は出ていく。
残された黒崎は立ち上がる。
彼女と一緒にいた空間から少しでも離れたかった。
そんな気持ちで外へ出ていく。
数分後、あいている扉を見てひとりの少女が入ってくる。
しかし、もぬけの殻の布団を見て右、左を見て、慌てるように部屋から出ていった。
「そういえば、あの時からだな。空を見上げるようになったのは…」
黒崎は鎮守府の外、港の近くで青空を眺めている。
こういう気分のときはタバコを吸いたくなるものだが、煙草とライダーは没収されたまま。
「あのまま、逃げ出していたら…」
どこかの交番か店へ駈け込んで街に戻れただろう。
それをしなかったのは。
「くそっ、俺は逃げられないってことか?」
呪縛は今も体に、心へしみ込んでいるという事なのだろうか?
浮かんだ考えを振り払うように黒崎は頭を振る。
そうしなければずっと沈み込んだままになっていただろう。
再び顔を上げた時、彼の顔は決意に満ちていた。
「必ず、ここから出てユグドラシルへ戻る…俺の居場所はここじゃないんだ」
居場所は此処じゃない。
そう言い聞かせて黒崎は空を見上げる。
ズザザと音が聞こえた。
黒崎が振り返ると荒い息をしている吹雪の姿がある。
走り回ったのだろうか額や頬から汗が水玉になって流れていた。
「み、つけたぁ!」
黒崎の姿を視認した吹雪は全力で飛び込んでくる。
――あ、ヤバイ。
気づいた時には彼女に全力で抱きしめられていた。
体の骨が悲鳴を上げる。
顔を苦痛でゆがませながら吹雪をはがそうとした。
「ふ、ぶき、離れ」
「心配しました!」
顔を上げた吹雪の顔からはぽろぽろと涙がこぼれている。
「艦娘でもないのに、私なんかの為に無茶をして、いる。黒崎さんを見ていて心配に、怖くて、死んじゃうんじゃないかって…部屋へ行ったら、誰もいなくて…もしかしたらって」
「悪い」
どうやら入れ違いで部屋へ来たようだ。
それで心配して走り回ったのだろう。
服も汗で少し濡れていた。
本気で自分を心配してくれていたという事で少し心が痛くなる。
「悪いな。傷だらけのお前を見ていると放っておけなかった」
「だからって、黒崎さんが傷ついたら私は、いや、です」
「まぁ、こんなことはそうそうないだろ」
実際の所、戦極ドライバーの爆発でロックシードも失っているので再び戦闘になったら逃げるしか選択肢はない。
「黒崎、さん、約束してください」
胸に顔をうずめたまま吹雪がいう。
服を掴んでいた手が背中へ回る。さらに顔をうずめていく。
「私を、助けるために、無茶をしないって、約束してください。今度は、私が、私が」
顔をうずめて黒崎からみえないが吹雪の瞳は徐々に光を失っていく。
――私が、守りますから。黒崎さんを。
執務室で赤城は連絡を取っていた。
「そう、そういうことよ。えぇ、無事に取り戻したわ」
電話の相手はわからないが喜んでいることはわかる。
「この鎮守府へ早く来て。彼も貴方達みんなが集うことを喜ぶはずだから。えぇ、私の事を拒絶しているようだったけれど、照れ隠しよ。本当は嬉しくて抱き付きたかったんだろうけれど、必死に我慢していたわ」
赤城の目は光を失っている。
そして、囁くように電話の相手へ伝えた。
「あとは、彼を骨抜きにするだけ…えぇ、でもその前に」
――少し、お仕置きが必要かもしれないわ。
どこか矛盾をはらみつつも赤城は微笑む。
「この時をずぅぅっと待っていたんです。楽しみにしていてくださいね。廉太郎」
そういって彼女は染みのついている絨毯をみて呟いた。
「貴方は私達の――」
タイトルサギかもしれない。
吹雪よりも赤城が目立っている。
また変身手段を失いました。
ちなみにドライバーは戦闘ダメージが残っていたことと無理な連続使用の負荷に耐えきれませんで爆発しました。
その爆発でロックシードも破損しております。
次はだれを出そうかなぁ。
ちなみに冒頭の会話は艦娘のみです。