はじめて戦極ドライバーを与えられた時、黒崎廉太郎は呉島貴虎と一対一で話をした。
「模擬戦?」
「はい、お願いします」
「一応、理由を聞こうか?」
「これから本格的な調査や隠ぺいが起こることになるでしょう。そうなるとこいつの性能をより引き出せることが重要になります。主任は私よりも戦極ドライバーの使用が多い。慣らしも兼ねて付き合ってもらえないでしょうか」
「……いいだろう。だが、手加減をするつもりはないぞ?」
「わかっています。全力でお願いします」
「わかった」
二人は訓練ルームへ足を運ぶ。
シミュレーターを起動させて疑似ヘルヘイムの森空間を生み出す。
貴虎と黒崎は戦極ドライバーを装着する。
メロンとマツボックリ、二つのロックシードをベルトへはめ込む。
『マツボックリアームズ!』
『メロンアームズ』
音声と共に貴虎と黒崎は変身する。
黒崎は黒影トルーパーへ。
貴虎は全体が白く、無双セイバーとメロンディフェンダーと呼ばれる盾。攻防一体のスタイル。
最初に動いたのは黒崎。
専用武器影松を貴虎へ繰り出す。
しかし、放った一撃はメロンディフェンダーで防がれる。
器用に空中で影松を回して放たれた斬撃を柄で受け止めた。
「流石だな」
「ありがとうございます。流石、戦極ドライバー、凄い性能です」
「そうだな…これの数がもっとあれば…」
「そろそろ全力でいきますね」
「私もそうするとしよう」
距離をとる。
貴虎は無双セイバーのエネルギー弾を牽制として使う。
それをギリギリのところで躱しながら影松を構えながら走る。
メロンディフェンダーをブーメランのようにして黒崎へ投げた。
「ちぃっ!」
影松でそれをはじきつつ、一気に距離を詰める。
「もらう!」
戦極ドライバーのカッティングブレードを動かす。
音声と共に影松にエネルギーが集まる。
「くっ!」
メロンディフェンダーが戻るまでに時間がかかる。
その間に倒す!
黒崎が影松を投擲した時、貴虎は戦極ドライバーを外した。
そして、ゲネシスドライバーを装着する。
「くそっ、ありか!?」
「全力というのは持てるものすべてを使うことを指す!」
『メロンエナジー』
クリアパーツのついたエナジーロックシードをドライバーの中心にはめ込む。
『ソーダァ、メロンエナジーアームズ』
眩い光と共に貴虎は次世代型アーマードライダーとなる。
そのままドライバーのハンドルを動かす。
『メロンエナジースパーキング!』
ソニックアローから放たれた一撃は影松の攻撃を打ち消す。
その事実に驚きながらも続けて放たれるエネルギー矢を躱した。
「他の連中なら今ので終わっていたが、流石だな」
「おほめに預かり光栄です、と!」
ソニックアローのソードボウと影松がぶつかりあう。
しかし、量産機と専用機。
次第に性能の差というものがでてくる。
黒崎は圧されはじめた。
下がった所でソニックアローの矢がさく裂する。
「ガハッ!」
強力な攻撃に黒崎は床に倒れる。
ダメージが一定値を超えたようで変身が強制解除された。
「大丈夫か?」
「少ししたら立てます…あ、ありがとうございます」
貴虎に手を貸してもらい黒崎は立ち上がる。
「ゲネシスドライバー、凄い性能ですね」
「量産型ドライバーよりも数が限られているのが残念だが…これがなかったら人類は滅びを受け入れるしかなかっただろう…」
「主任」
貴虎へ黒崎は言う。
「俺は・・少しでも主任の負担を減らせれるよう頑張ります」
「…あまり、無理はするなよ」
「そういう先輩こそ、俺らよりも無茶ばかりしているんですから」
「フッ、お前に言われたら返せないな」
▼
その日、深海棲艦の襲撃が起こった。
本来なら監禁部屋で大人しくしていないといけなかったのだが、担当の吹雪が慌てて出ていったことで扉が開けっ放しになる。
「チャンスだ」
黒崎は枕元から隠していた戦極ドライバーとロックシードを取り出す。
廊下を見るが誰の姿もない。
この付近まで深海棲艦がくることがなかったのだろう。
全員が出撃していれば脱走は楽なものだ。
陸路から逃げる必要があるという事。海は深海棲艦がひしめいている。
そこに行けば間違いなく。戦闘に巻き込まれる。
ロックビークルがあれば海上でも対応できるだろう。しかし、ロックビークルがない今、海上で動くことは不可能。
「何考えているんだ」
立ち止まって黒崎は思う。
戦うことをどうして考えた?
――俺はここと関係ないんだ。
そんなことを思いながら黒崎は走る。
誰もいない廊下を進み、そびえたつ塀をみた。
助走で跳べそうだ。
黒崎は少し姿勢を整えてから走る。
鍛えていたことが幸いした。一発で塀を超えることに成功。
「よし、あとは…」
整えられている道を走るのみ。
黒崎は走り出す。
すぐ近くで起こる爆発から目をそらして。
吹雪は海岸近くまで突き飛ばされた。
派手に転倒して海面へ体を打ち付ける。
「うっ、つぅ」
痛む体を無理やり起こす。
目の前にいる敵を少しでも殲滅するため。
「くる、なぁああああ!」
餌に群がるアリのように近づいてくる深海棲艦、駆逐級。
主砲で駆逐級を倒していくが数が多すぎた。
他の艦娘なら数の暴力に負けてしまっていただろう。
しかし、吹雪は改二と呼ばれる何度も強化を施された艦娘。
普通の駆逐級なら数が多くても対応はできた。
駆逐級が唸り声をあげて襲い来るが全て吹雪はいなしていく。
「すぐにみんなと合流しないと」
離れたところで仲間も戦っている。
ここは絶対に守らないといけない。
多くの仲間がいる鎮守府。
そして、黒崎廉太郎がいるここを絶対に守らないといけない。
駆逐級を倒して他の仲間の元へ向かおうとした吹雪の耳はある言葉を捉える。
「…キエ、ロ!」
気づいた時、背後から衝撃を受けて吹雪は中破となった。
「な、なにが…」
艤装の一部が使えなくなりながらも吹雪は体を起こす。
そこにいたのは戦艦タ級。
「嘘…」
顔に大きな傷があり余計におぞましさを醸し出している。
戦艦タ級は吹雪に反撃する隙を与えず主砲で攻撃していく。
攻撃を受けた吹雪は海上から砂浜の方へ体を打ち付ける。
それだけで中破から大破へ変わった。
海岸に倒れた吹雪を戦艦タ級は見下ろしている。
冷たい目だった。
感情というものが読めない目。
その目が自分を映していると思うとぞっとする。
吹雪の首へ白い手が伸びた。
気づいた時は吹雪の首をタ級が締め始める。
普通の人間ならぽっきりと折れていただろう。
吹雪は抵抗を試みるが離れていたイ級が吹雪の手足にかみついて自由を奪う。激痛で声を上げようにも首を絞められてヒューヒューという音しか出ない。
段々と意思が薄れていく。
轟沈。
沈む。
いなくなる。
結果が段々と近づいてくる。
その時、吹雪の脳裏に浮かんだのは鎮守府の仲間達。
そして。
「ァ…あぁ」
――沈みたくない、よぉ。
ぽろぽろと吹雪の瞳から涙がこぼれる時。
『マツボックリスカッシュ』
「う、らぁあああああああああああああああああああ!」
横から黒い影が現れてタ級を退ける。
さらに槍がイ級を倒していく。
落下する吹雪を冷たい何かが抱き留めた。
「くそっ、きちまったよ…」
仮面越しだが聞き間違えるわけがない。
「くろ…さき…さん?」
「喋るな。傷に響く」
黒影トルーパーに変身した黒崎は吹雪を抱えて近くの岩場に寝かせる。
「そこから動くなよ」
「だ、め」
「なぁに、時間を稼ぐだけだ。自分の領分は理解している」
――まただ。
吹雪の手は空を切る。
また、彼を行かせてしまう。
前にあった時と同じだ。
ただ見ているだけ。
それが嫌で吹雪は涙を流すだけだった。
砂浜を走りながら黒影トルーパーは吹雪を狙うイ級を影松で串刺しにする。
「よぉ、また会ったな」
目の前に現れた深海棲艦は輸送船を狙った時に姿を見せた相手だ。
スイカアームズで辛うじて撃退した相手が万全な状態でいる。
はっきりいって勝てる見込みがない。
前と違い、手元にロックビークルもスイカロックシードもない。
マツボックリロックシードだけ。
特攻覚悟でないと勝てないだろう。
影松を握る手に力がこもる。
直接的ではないがこいつにてこずっていなかったら永田達は死ななかった。
死なずに済んだかもしれない。
「これ以上…」
邪魔するイ級を切り伏せて叫ぶ。
「俺の仲間を殺させて堪るかよ!!」
タ級の主砲が火を噴く。
イ級の亡骸を盾にして防いだ。
その間もタ級の主砲は続く。
まるで嵐のような攻撃は止まることを知らないようだ。
スイカがあれば少しは変わっただろう。
無い物をねだっていても仕方ない。
それにドライバーの調子がやけに悪い。
黒崎は視線を下す。
さっきから嫌な音がドライバーからなっている。
防水加工をしているがもし、これが前の戦闘からどこか壊れているとしたら短期決戦で決めるしかない。
「…このロックシードの性能を信じて…あとは」
――運の女神に任せるしかないか?
そう考えながら戦極ドライバーのカッティングブレードをおろす。
『マツボックリスカッシュ!』
マツボックリ状のエネルギーを纏いながら黒影トルーパーは走る。
待っていたとばかりにタ級の主砲が放たれた。
砲撃はマツボックリのエネルギーが防いでくれる。
防御として使用したことはなかったが中々使えるようだ。
しかし、ドライバーにかかる負担が大きい。
「うぉおおおおおおお!」
砲撃の雨が強くなるにつれてマツボックリエネルギーが弱まっていく。
――仕方ない。
カッティングブレードを三回押す。
『マツボックリスパーキング!』
薄れていたエネルギー状がより強くなる。
飛来する砲弾を防ぐ。
「このまま、終わらせてやるよぉぉおおおおおおおおおおおおお!」
叫びと共に繰り出された影松はタ級の主砲を斬りおとす。
同時にドライバーが根をあげて爆発する。
変身が解除されるまで数秒。
構えている影松をタ級めがけて繰り出す。
「このまま、沈め!!」
叫びと共に影松はタ級の心臓辺りに突き刺さる。
人の血ではないものが黒影トルーパーの装甲にかかる。
それが合図のように変身が解除された。
タ級は未だ健在。
手が黒崎へ伸びる。
今の黒崎に対抗できる手段はない。
――終わり、か。
死を覚悟した時、上空から聞こえるプロペラ音。
気づいた時、黒崎の前にいたタ級がのけ反る。
続いて遠くから砲撃がさく裂する。
「命中!瑞鶴には幸運の女神がついているんだから!」
「艦載機の攻撃命中、続けていくわよ」
「主砲!副砲!撃てぇ!」
「お姉さまに続きます!」
ぞくぞくとやってきた艦娘達。
タ級は攻撃を受けて沈む。
目の前で沈もうとしているタ級と目が合う。
ぞくりと黒崎の体が震える。
その目はまるで深淵を覗きこんだ者のような。
考えていた所でタ級の手が黒崎の頬を掴む。
「………ミツ、ケ、タ」
その言葉を残してタ級は消えていく。
残された黒崎は呆然と見ていることしかできなかった。
深海棲艦の襲撃はこうして幕を閉じる。
「っ、吹雪!」
黒崎は水を蹴りながら吹雪の元へ駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「は、い、私、は」
「待っていろ。すぐに医者の所へ」
「それは不要です」
後ろから聞こえた声に黒崎は振り返る。
「艦娘は鎮守府にある入渠施設へ入ることで傷を癒せます。瀕死間際でもそれは変わりません」
「お前、は」
「そのことすら忘れてしまったようですね。廉太郎」
やってきた艦娘は潮風で揺れる長髪を押さえながらはにかんだ笑みを浮かべ、黒崎を見ている。
もう会うこともないと思っていた。
そんな相手が微笑みながら黒崎の頬へ手を伸ばす。
「お待ちしていましたよ?廉太郎」
正規空母赤城は歪んだ笑みを浮かべた。