油断したら艦娘に拉致されました   作:断空我

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3.高速戦艦四姉妹

懐かしくも最悪な夢をみていた。

 

黒崎廉太郎は腰に戦極ドライバーを装着して黒影トルーパーへ変身している。

 

影松を手に、目の前にはずんぐりむっくりした怪物、インベスがいる。

 

只のインベスではない。

 

元は人間だったインベスだ。

 

黒崎は手の中にある道具で彼らを殺さないといけない。

 

クラックと呼ばれる現象によってヘルヘイムの森と人類の世界はつながってしまう。

 

今はある程度把握できているが、少し前までクラックがどこに開くか把握できていなかった。

 

運悪く、クラックが市街地に開いてしまい、向こう側、森の中へ足を踏み入れた人間がいた。

 

ヘルヘイムの森で育つ果実は人を誘惑する力がある。

 

何も知らずにそれを食べた者は遺伝子レベルで姿が変わりインベスとなる。

 

ほとんどが低級のインベスとなるが極まれに何万分の確率で上級インベスとなることがあった。

 

黒影トルーパーとなっている自分の前にいるインベス、それは上級インベス。

 

赤い体皮に獣を連想させる貌。鋭い爪。獣のようなインベスは殺意をのせてこちらを睨む。

 

他の仲間は倒れている。

 

死んではいないがしばらく起き上がることもないだろう。

 

影松の手に力がこもる。

 

これから命を刈り取るという事を考えての恐怖か。

 

仲間を守らないといけないプレッシャーか。

 

もしかしたら両方かもしれない。

 

そんなことを考えながら影松を手に、黒崎は駆ける。

 

目の前の存在を抹殺して事実を隠ぺいするべく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢、か」

 

体を起こした黒崎は頭を押さえる。

 

まるで二日酔いみたいに気分が悪い。

 

さらに体も重たく感じる。

 

「酒を飲んだ覚えがないな…しかも」

 

――いつの間に自分は部屋へ戻ったのだろうか?

 

部屋に戻った記憶もない。

 

直前の記憶がひどくあいまいだ。

 

こういう時はシャワーでも浴びたいのだが。

 

「…そんなものがこの部屋にないしな」

 

ドアを蹴りながら叫ぶか?

 

そんなことを考えていた黒崎だが控えめなノックがなされる。

 

「ア?」

 

黒崎は少し低い声で返事をする。

 

ガチャリと扉が開いた少女を見て黒崎の目が鋭くなる。

 

「あ、あの…黒崎さん」

 

「何だ?」

 

「その…一日、シャワーとか、その」

 

「小さくて聴こえない、なんだ?」

 

「シャワー室まで案内します!」

 

少し涙目ながら吹雪が提案する。

 

熱いシャワーでも浴びればこのけだるさも少しは治るか。

 

そんなことを思いながら彼女の提案を受け入れる。

 

 

 

吹雪に先導されながら風呂場へたどりつく。

 

「一応、聴いておくがここは男性用だよな?」

 

「はい?」

 

「いや、シャワー使っていたら女性が入ってくるみたいなことはないよな?」

 

「は、はい!そんなことがないよう、私が扉の前に立ちます!」

 

「……」

 

「そ、その、信用、できないでしょうか?」

 

「人を拉致した本人だから信用できないな」

 

「うぅ!?」

 

「さらにいえば、シャワーに連れていくと見せかけて何か企んでいるかもしれない」

 

「うぅ!?」

 

「いきなりやってきて、何かされるかもしれないと思っている」

 

「うぁぁぁぁぁぁぁ」

 

吹雪は両手を地面へつけて項垂れている。

 

どうやらかなりのショックを受けているようだ。

 

――言い過ぎたか。

 

そう思いながら黒崎は吹雪と目線を合わせる。

 

「悪かった、言い過ぎたからそろそろ顔を上げろ」

 

「うぅ…」

 

「もう、お前が拉致したとかそういうこと気にしていないから」

 

「ほ、本当、ですか?」

 

顔を上げた吹雪は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。

 

ガチ泣きしていたことに驚きつつも黒崎はあやすように話す。

 

「あぁ、約束する。俺はもう気にしていない。だからもう泣きやめ」

 

「…はい」

 

ズズッと鼻をかむ音と共に吹雪は顔を上げる。

 

はて、これでいいのだろうかと思いながら顔を洗うように促す。

 

しばらくして黒崎はシャワーを浴びる。

 

熱い湯のおかげでけだるさが嘘のようになくなった。

 

「あ、替えの服がねぇや…仕方ない」

 

タオルを腰に巻いた状態の黒崎は置いてあった服へ手を伸ばそうとした。

 

「はい、どうぞ!」

 

「あ、どうも」

 

袋に入っている着替えを横から現れた少女から受け取る。

 

受け取った所で黒崎は隣を見る。

 

流れるような髪は腰まであり、きょとんとした表情がこちらをみていた。さらにいえば、巫女服のようなものを纏っていた。

 

――え、誰?

 

黒崎が呆然としていたがすぐに叫んで外に飛び出す。

 

「え、く、黒崎さん!?」

 

吹雪が慌てて後を追いかける。

 

「うーん?榛名、おかしなところがあったでしょうか?」

 

そんな二人をシャワー室から戦艦榛名がみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

受け取った着替えを念入りにチェックしてから黒崎は着替える。

 

吹雪は戸惑っていたが、状況を聞いて目を丸くしていた。

 

「おちおち、シャワーも浴びていられねぇのかよ」

 

部屋までやってきた吹雪だが黒崎の上半身を見ると顔を赤くして出ていった。

 

そこは乙女ということかと納得する。

 

悪態をつきつつ、黒崎はベッドに横へなる。

 

その時、扉がノックされた。

 

「失礼します。はじめまして、黒崎廉太郎さん」

 

やってきたのは見知らぬ少女だ。

 

ショートカットにメガネをかけている。さらにいうと巫女服。

 

嫌な予感がした。

 

「私、高速戦艦の霧島といいます。これから私の姉たちとお茶会をするのですが黒崎さんも参加しませんか?」

 

「お茶会?そんな礼儀作法とかしらねぇぞ」

 

「構いません、ただ紅茶を飲みながら楽しむだけです」

 

「…それなら、参加するかな」

 

「そういってもらえると嬉しいです。ささ、いきましょう」

 

霧島に手を引かれて黒崎は外へ出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘーイ!黒崎さん!お会いできて光栄デース!ワタシ、金剛っていいます!」

 

「金剛型二番艦の比叡です。お姉さまの次に貴方の事を尊敬しています!」

 

「榛名といいます。またお会いできましたね」

 

「最後に、私、霧島を含めた四人で」

 

「「「「我ら金剛型四姉妹!」」」」

 

「デース!」

 

「ヘー」

 

ビシッとポーズをとる四人を見て黒崎は何とも言えない表情を浮かべる。

 

「挨拶も済みましたし!ティータイムの時間ネー!」

 

「あ、挨拶だったのね…いきなりはじまったから驚いたわ」

 

黒崎はそういうと指定された椅子へ腰かける。

 

すすささ!と彼女達によって紅茶の準備がなされた。

 

「どうですか?黒崎サーン」

 

「うん、美味しいぞ。紅茶の味はあまり詳しくないけどな」

 

「そういってもらえると私達も頑張った甲斐があります!」

 

「うふふふ、嬉しいですね」

 

「私の計算通りです」

 

「なんというか、お前ら、個性豊かだな」

 

「イエス!艦娘だって色々いまーす!ワタシ達にだって感情はあるのデス!」

 

「…そう、だな」

 

何か含んだ物言いに少し戸惑いつつも頷く。

 

それから他愛のない話が続く。

 

しばらくして比叡が黒崎へクッキーを差し出す。

 

「黒崎さん、その私が作ったクッキーを食べてみてもらえませんか」

 

「え、クッキーなんて作ったのか?」

 

「は、はい!その…黒崎さんに食べてみてもらいたくって」

 

「どれどれ…うん」

 

クッキーを齧って一言、

 

「比叡」

 

「は、はい!」

 

「砂糖と塩、間違えている」

 

「ヒェエエエエエエエエエエ!やってしまいましたぁ」

 

「ま、失敗は誰にだってあるさ、気にせず頑張るんだな」

 

ポンポンと比叡の頭を撫でる。

 

「はい!気合い、いれて頑張ります!」

 

そういって微笑む比叡の姿は犬のようだ。

 

「むー、比叡お姉さまばかりずるいです!榛名も撫でてください!」

 

榛名がずぃっと身を乗り出す。

 

キスできそうな距離だった。

 

同じことを考えていたのか榛名は目を閉じる。

 

離れようとしたが榛名はがしりと肩を掴む。

 

このまま触れ合えるという時、霧島が榛名を引きはがす。

 

「ダメよ。榛名」

 

「うぅ、霧島ァ」

 

「お姉さまだって我慢しているの。ここは堪えなさい」

 

「…はぁい」

 

「な、なんだったんだ。一体?」

 

「黒崎さんの顔にゴミがついていたのです!それを妹の榛名がとろうとしたんですよ。ね、榛名?」

 

比叡はそういうと榛名を見ている。

 

こちらから顔は見えないが確認しているのだろう。

 

「そ、そうなんです。ごめんなさい。黒崎さん」

 

「あぁ、いや、ありがとう」

 

「はい!」

 

榛名は嬉しそうに微笑む。

 

とにかく、彼女が気にしていないのならもういいのだろう。

 

紅茶を一口飲む。

 

――うむ、おいしいな。

 

そんな黒崎の姿を金剛はじぃーっとみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、榛名が勝手に動き出したときはどうなるかと思いました」

 

「霧島、ごめんなさい。金剛姉さま、比叡姉さまも申し訳ありません」

 

「仕方ありませんよ」

 

「比叡のいう通りデース!私達は気にしていません。好きな人に気持ちを伝えるのは大事デース。暴走しすぎると碌な目に合いませんがー」

 

四姉妹の部屋。

 

そこで彼女達は話をしていた。

 

内容は当然の事ながら黒崎廉太郎の事。

 

「前は遠目からでしたけれど、近くで見た黒崎さん、やはりかっこいいです!」

 

「そうですネー、てっきり暴言などを言うかと思いましたが優しい対応でよかったデース」

 

このお茶会は彼の機嫌などを把握するためにという事で霧島が提案したのだ。

 

それまでに何度かお茶会のリハーサルは行った。

 

後は当日、失敗がないよう細心の注意。

 

無事にお茶会へ彼を誘うことは成功した。

 

しかし、それからが大変だった。

 

彼との親睦を深めるよりも前に彼と絆を深めてしまおうと暴走しそうになる自分を制することが大変だったのだ。

 

無事に終わったからこそ、今はそれぞれに話せている。

 

互いに止めることが出来た。それが金剛姉妹の絆であり強さともいえる。それが今回は功を成したといえよう。

 

「これからが大事デース!徐々に仲良くなっていって彼が逃げるなんて考えを起こさないよう細心の注意を払うのでーす!」

 

「はい!比叡、結婚目指して頑張ります」

 

「えへへへ、その時の事を考えたら頑張ります」

 

「私達の計画に狂いはありません。必ず、手に入れてみせます」

 

彼女達はそれぞれの壁に貼ってある黒崎廉太郎の写真を眺めながら話し合う。

 

その光景はどこか歪だが姉妹の強さが出ていた。

 

 

 


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