油断したら艦娘に拉致されました   作:断空我

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LS-13 衝撃のバイト戦士

あれからユグドラシル鎮守府はいくつもの海域解放を成し遂げた。俺達も参加をすることはあったが基本的に艦娘の奮闘による成果だ。

 

そのため、鎮守府は多くの注目を浴びて、最初の計画、ヘルヘイム対策を進めることに成功する。

 

雇っている艦娘の数もかなり増えたことでヘルヘイムの調査も進むようになった。

 

最も戦極ドライバーを艦娘は装着できないのでカッティングブレードのないドライバーを彼女達は使用している。

 

ユグドラシル鎮守府は順調に運営されている……ように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大好き~」

 

「離れろ」

 

「つれなーい!こんなに愛しているのに!」

 

 執務中に構わず俺の腕に抱き付いて来ようとする艦娘がいた。

 

 その一人、重巡洋艦の鈴谷はニコニコと笑みを絶やさない。

 

 元々、彼女は別の鎮守府にいてその提督のセクハラを受けていたのだが仲間入りしたシドの情報による合法的な話し合い(という名のOHANASHI)により鈴谷を引き抜いた。

 

 セクハラされるほどの可愛さ云々を除いて彼女の実力は中々のものだったのだ。

 

 だから引き抜いたのだがその時の俺の姿を見てから鈴谷はこういって求愛行動を続けている。

 

 拒否しているのに続けているのだ。

 

 これに焦って、漣や他の艦娘まで俺に突撃しようとしてくる。

 

 唯一、これらを止めているのは武蔵と大井のみ。

 

 他は手を回したりと俺に迷惑をかけることに積極的だった。

 

 麻薬ではないのだけれど。

 

「相変わらず、懐かれてんなぁ」

 

「うるせぇ」

 

 部屋を開けて入ってきたのは丸い帽子をかぶりキャリーケースを押している男、名前をシド、少し前に戦極凌馬が仲間として連れてきた男で、現在、他の鎮守府の動向、いわゆる情報収集を担当している。

 

 

「プロフェッサーからの連絡だ。計画の次の段階に移すとさ」

 

「……戦極ドライバーの配布か」

 

 この世界は驚くことにビートライダーズが存在している。

 

 さらに俺が驚いたのは存在しているビートライダーズが前の世界と変化ないということだ。

 

 細かい点はわからないがチーム鎧武、バロン、インヴィット、レイドワイルドといったアーマードライダーを有したチームがそのまま、しかも所属メンバーもほぼ同じと来た。

 

 本格的にドライバーが配布されれば、前と同じようなことになるのかもしれない。

 

「(いや、似た様なってだけだから、実際にあの通りに進むとは限らない)」

 

 シドはどっかりとソファーに腰かけている。

 

「そういや、お前もプレイヤーとして参加するようにという提案がプロフェッサーからきているんだろう?どうするんだい?」

 

「貴虎は侵入者の排除……連中に配布されることが確実なら監視として中に入る必要はでてくるだろうな」

 

「艦娘でビートライダーズかぁ?ハッ」

 

「試験的導入の過程で判断するさ」

 

「なになに?鈴谷達、ダンスするの?」

 

「確定していない。ただ、そういう話もあったというだけさ」

 

 より密着してくる鈴谷を引きはがしながら俺は言う。

 

 このことに艦娘を巻き込むことはあまりよくない。

 

 風評被害に巻き込まれる危険がある。

 

 それは避けたかった。

 

「相変わらずモテモテだなぁ?」

 

「シドさん、提督をからかうのもほどほどにしないと、鈴谷はともかく、他の子はそのうち、シドさんを襲いに来るかもよ?暴力的な意味で」

 

「怖い怖い、俺は退散するわ。もし、ロックシードが必要ならいいな。特別に用立ててやるよ」

 

「その時が来ないことを祈るよ」

 

 シドが出ていくと反対側のソファーに鈴谷が腰かける。

 

 脚を組む。おいおい、スカートの中が見えるぞ。

 

「シドさん、本当に闇討ちされるかもねぇ」

 

「いきなり物騒だな」

 

「だって、前に提督さんを馬鹿にしていたの、赤城さんが聴いていたんだ。その時の赤城さん、怖かったなぁ」

 

「赤城、か」

 

 ペンの手を止める。

 

 正規空母赤城。

 

 古くからあの屋敷にいた艦娘の一人、俺にトラウマを植え付けた人物。

 

 その赤城の様子がおかしい。

 

 こそこそ、何かをし始めて、俺が訊ねようとするとどこかに行ってしまう。

 

 俺のことを避けている。

 

 そんな気がした。

 

「失礼します」

 

「……間宮さん」

 

「提督?」

 

「間宮、何か用事か?」

 

「はい、今日やってくるバイトさんの面接の件で」

 

「……あぁ、そうだったな」

 

 鎮守府の食堂を担っている間宮と鳳翔、それだけで人が足りないという事で厳選しようとしたところで電が外で助けてもらった青年を推薦。

 

 その人物を見極めるべく、俺と間宮で面接することになっていた。

 

「じゃあ、食堂に行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂で俺を待っていた人物を見てこれほど、衝撃を受けたことはない。

 

 年齢は二十歳前後、爽やかな笑顔が似合うイケメン、短めの髪。

 

 鍛えているのか引き締まった体。

 

 とにかく、俺は目の前の人物に驚いていた。

 

 なぜなら。

 

「貴方が?」

 

「はい!バイトの面接できました!葛葉紘汰っていいます!」

 

 葛葉紘汰。

 

 この名前程、俺の人生に衝撃を与えることはなかっただろう。

 

 後に。

 

「黒崎さん?」

 

「あぁ、いや、何でもない。腰かけて欲しい」

 

「はい!」

 

 元気よく答える葛葉を横に俺は尋ねる。

 

「バイト希望と」

 

「はい!えっと、姉ちゃん……姉の負担を少しでも減らそうと思いまして」

 

「採用」

 

「それで…………え?」

 

「黒崎さん?」

 

 固まる葛葉と目を丸くする間宮。

 

 あることを思いついた俺は笑みを浮かべる。

 

 コイツは使える。

 

「葛葉紘汰君、キミをこの食堂のバイトに採用する。人数が多くて最初は仕事に慣れないと思うけれど、働きぶりによって正社員として採用するつもりでいるから頑張ってほしい」

 

「せ、正社員!?え、えぇえええええええ!?わ、が、頑張ります!」

 

 突然の事態に目を白黒させる葛葉に手を振って、俺は執務室へ向かう。

 

「どういう風の吹き回しだい?」

 

 執務室へ戻ろうとしたところで戦極凌馬が待っていた。

 

「なんだ?」

 

「慎重なキミがあっさりと採用したことに驚きだ」

 

「……なぁ、凌馬、お前って一目惚れとかする性質か?」

 

「どうだろうね。貴虎の時のはそれに近いかな」

 

「俺も、したかもしれない」

 

「ほぉ」

 

 驚いた顔をする凌馬に俺は提案する。

 

「お前の言っていた提案、飲むよ」

 

「それはありがたい」

 

「ただし、こちらから条件をつけさせてもらう」

 

「何かな?」

 

「俺のやることに最低限、目を瞑る事。口を挟む権利をよこせ、数回だけで構わない」

 

「おやおや」

 

「貴虎とはある程度、話をつけておくから問題はないと思う」

 

「私は構わない。ドライバーのデータが集まるならね」

 

「大丈夫だとも……」

 

 ドライバーのデータは嫌でも手に入るさ。

 

 手の中にあるマツボックリロックシードを弄りながら俺は不敵に笑う。

 

「そういえば、凌馬」

 

「なんだい?」

 

「呉島天樹のもとで作成したというリンゴロックシード、あれはどうなったんだ?」

 

「資料を見たのか?」

 

「貴虎に無理を言ってな。ロックシードについて情報把握をしておきたかったからな」

 

「成る程……リンゴロックシードなら破棄した。あれはヘルヘイムの力を操ることはできるが代償として持ち主の体を蝕む危険な代物。破棄するのは当然さ」

 

「そうか」

 

「急にどうしたんだい?」

 

「いや、なに」

 

 手元のロックシードを弄る。

 

「それをさらに強化すれば強いロックシードになるのかなと思っただけさ」

 

「強いだろうけれど、代償はデカイ。少し前に作ったヨモツヘグリ同様、失敗作さ」

 

「わかった」

 

「そうそう、キミは貴虎が世界に認められるべきだと思うよね?」

 

「いきなり、なんだ?」

 

「これだけ世界の為に奮闘している貴虎が周りから認められないなんて私は許せない」

 

「アイツを世界の王にでもしたいのか?」

 

「そうだね、それぐらいの栄光はあってもおかしくはないだろう」

 

「貴虎がそれを望んでいなかったら?」

 

「……そうなると、困るね」

 

「凌馬」

 

 考えている凌馬へ俺は伝える。

 

「一度、貴虎としっかり本音をぶちまけておいた方がいいぞ」

 

「本音かい?」

 

「お前が貴虎にどうあってほしいと望んでいるか、アイツは自分がどうあるべきか」

 

「それを知ってどうすると」

 

「道をはっきりしておいた方がいいと思うだけさ」

 

 前の世界で戦極凌馬は呉島貴虎を殺そうとした。

 

 俺は願っていた。前とは違う道を二人は進んでほしいと。

 

 決してかなわない願いだとしても。

 

 戦極凌馬の本質は普通の人間にとって“悪”だ。

 

 自身の野望のためなら手段を択ばない。

 

 おそらく、貴虎と凌馬は本音をぶつけることである程度の変化が起こるだろう。

 

 以前のように殺しあうのか、それとも違う結末がくるのか。

 

 そうなった時、俺は。

 

「戦うんだろうな」

 

 戦極ドライバーを作り出した男と俺は戦うことになる。

 

 その時は全力を出すだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大本営某所

 

 薄暗い部屋の中、そこに男がいる。

 

 室内が暗すぎる為に顔は見えない。

 

 控えめなノックと共に数人が入ってくる。

 

「来たな」

 

 男の問いに入室者は答えない。

 

「これが今回のターゲットだ。鎮守府へ異動させる手配は済んでいる。機を見て始末しろ。手段は問わない。いいな?これは我ら人類の栄光のためだ。貴様らは役目を果たせ。それが暗殺艦たる貴様らの役目だ」

 

 淡々と語る男の話を彼らは聴いていなかった。

 

 彼等の目は一枚の写真に向けられている。

 

 隠し撮りされたものだろう。男の横顔が映されていた。

 

 “彼女”達は真っすぐにその写真を見ている。

 

 瞳に光はなかった。

 

 


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