油断したら艦娘に拉致されました   作:断空我

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LS-12 人の悪意と初の海域解放

 

「ようやく、か」

 

貴虎の言葉に俺も無言でうなずく。

 

ユグドラシル鎮守府(命名、戦極凌馬)が本格的な運営を始めて二週間弱、連携を繰り返し、装備開発などを繰り返して今日。

 

「今日、我々は海域解放の為に出動する」

 

待ちに待ったその言葉に艦娘達が高揚する。

 

「よっしゃぁ!」

 

「電の本気を見るのです!」

 

「やるわ!」

 

「そして、何度も言うが、今回は私と黒崎提督が作戦に同行する」

 

そういって俺と貴虎は戦極ドライバーを机に置く。

 

凌馬がアップグレードと改良を加えた戦極ドライバー。

 

ロックビークルは間に合わなかったが船の訓練は繰り返した。大きな問題があっても対処はできる。

 

「誰一人欠けることなく、海域を解放するぞ!」

 

俺の言葉に全員が頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

港の入口に集う艦娘達と共に俺と貴虎は船で出る。

 

鎮守府は不安ながら戦極凌馬に任せている。アイツならば今のところ大丈夫だろう。

多分。

 

 

 

「標的が鎮守府を出た。これより作戦を開始する」

 

鎮守府から少し離れた所にある森林地帯。

 

そこに武装した集団がいる。

 

彼等が纏う服は大本営が管理する憲兵と同じもの。

 

「これより奪取された鎮守府の確保に向かう」

 

下された命令は着任覚えのない提督によって奪われた鎮守府の確保。

 

何でも、勝手にやってきた提督が前提督を追い出して鎮守府を掌握したという内容。大本営は主犯を射殺も可なので必ず取り戻せという。

 

射殺も可というのは本来の憲兵の規定に許されないものだ。

 

しかし、彼らは実行する。

 

彼等は憲兵でも殺害などを行う裏の憲兵なのだ。

 

憲兵が今にも鎮守府へ突入しようとした時だ。

 

「ご苦労なことだね?憲兵の諸君」

 

全員が拳銃を向ける。

 

そこには白衣を纏った青年が立っていた。

 

「予想通りだね。数日前からこちらを調べるようにしている人たちの姿があるから警戒していればこの通りだ」

 

「貴様は……」

 

「悪いが貴虎や廉太郎の邪魔はさせないよ?彼らが世界を手にする瞬間を邪魔する者は容赦しない」

 

戦極凌馬は腹部にドライバーを装着していた。

 

そんな彼の手の中にあるのはLS-99、レモンロックシード。

 

ポーズをとり、レモンロックシードをドライバーにはめ込み、カッティングブレードを下す。

 

『レモンアームズ!インクレディブルリョーマ!』

 

「さて、これからある実験にキミ達も付き合ってもらおう」

 

変身した戦極凌馬は手の中から五つのロックシードを取り出す。

 

中にあるのはクルミ、ヒマワリ×2、ドングリ、マツボックリ。

 

ロックシードを開錠するとジッパーのような裂け目から下級インベスが現れる。

 

「普通に使えば実体化しないのだがね、戦極ドライバーを用いた場合実体化するように調整した……さて、その実力を見てもらおうか」

 

「う、撃て!」

 

リーダー格の言葉と共に銃弾が放たれる。

 

しかし、インベスやデュークに効果はない。

 

フルーレを構えているデュークへ兵士の一人が襲い掛かるが足蹴にされる。

 

インベス達によって憲兵達は薙ぎ払われた。

 

「ふむ、予想よりは粘ったな。しかし、この程度か。成程」

 

結果に満足したデュークはその場から離れていく。

 

「後は海の結果だね」

 

そういって仮面の中で海を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

船の中で俺と貴虎は状況を見ていた。

 

「駆逐艦、軽巡のみの編成だが思う以上に進んでいるな」

 

「海域解放の中心に入るぞ」

 

貴虎の言葉と共に俺達は嫌悪感に襲われる。

 

海域の中心は強大な深海棲艦がおり、人間は奇妙な徒労感に支配されていくのだが。

 

「ドライバーのおかげかある程度、緩和されているな」

 

「ヘルヘイムの森の誘惑に対抗できる力は此処でも有効か」

 

「凌馬が喜ぶな」

 

「まぁ、な」

 

「そういえば、ひとつ聞きたい」

 

「なんだよ?」

 

「お前はどうして、凌馬と距離を作る」

 

「そう、みえるか?」

 

少し、と貴虎は頷く。

 

はっきりいって今の戦極凌馬に対して俺は不快感を抱いていない。

 

しかし、あの出来事があったからいつか裏切るのでは?と不信感が消えなかった。

 

「この任務が終わったらアイツともう少し話をしてみないか?」

 

「努力してみよう……貴虎」

 

「どうやら、我々に狙いを付けたようだ」

 

支配している重巡の深海棲艦がこちらへ駆逐級を差し向けてくる。

 

飛来する砲弾を回避しつつ、俺達はロックシードを開錠した。

 

『メロン!』

 

『マツボックリ!』

 

クラックから現れる二つの果実。

 

それぞれ俺達の頭に収まり、鎧となる。

 

『メロンアームズ!天下御免!』

 

『マツボックリアームズ!一撃インザシャドウズ!』

 

白と青の戦士になった俺達はそれぞれの武器を構える。

 

人間を両断できる歯で迫りくる駆逐級に槍型の武器、影松を振るう。

 

近づいてきたところで槍に刺された駆逐級は慌てて離れていく。

 

そこを貴虎の無双セイバーから放たれた光弾が貫いた。

 

しかし、数はどんどん増えてくる。

 

「一撃で数多くを沈めるとなると、これか!」

 

『イチゴ!』

 

アームズの切り替えのため、上空に現れたイチゴを纏う。

 

『イチゴアームズ!シュシュットスパーキング!』

 

手の中にイチゴクナイが現れる。

 

クナイを投擲しつつ、無双セイバーにイチゴロックシードをはめ込む。

 

『イチ……ジュウ……ヒャク』

 

チャージしている無双セイバーを前に振るう。

 

大量のエネルギーの刃が迫ろうとしていた駆逐達に降り注いだ。

 

「どんどん、入れ替えだ」

 

マツボックリを外してマンゴーに切り替えて地面を蹴る。

 

落下する勢いを利用して駆逐級にマンゴーパニッシャーを叩きつけた。

 

「廉太郎!」

 

「大丈夫だ!」

 

駆逐級を踏み台にしながら船へ戻る。

 

「無茶をするな!」

 

「これぐらい、無茶に入らないよ」

 

降り立つ俺に貴虎が注意してくる。

 

急に船が揺れた。

 

「な、なんだ?」

 

「いかん、接近された!」

 

貴虎の言葉通り、目の前にいるのは重巡だ。

 

「くそっ、やらせるかよぉ!」

 

天龍が主砲を撃っているが重巡は気にせず近づいてくる。

 

やがて白い腕が船を掴む。

 

「振り落せ!」

 

マンゴーパニッシャーを振るおうとしたところで重巡の主砲が直撃した。

 

鎧に守られているとはいえ、その衝撃は半端ないもので俺は甲板の上に叩きつけられる。

 

無双セイバーの光弾を気にせず、敵は船を沈めようとしていく。

 

「おい、そこから脱出しろ!」

 

「海に飛び降りろだと?無茶いうな!」

 

貴虎の叫びを聞きながら俺は目の前の重巡を見る。

 

ダメージを見た所大破寸前だ。

 

ドライバーの必殺技で叩き潰せるんじゃないか?

 

そんなことを考えながらマンゴーパニッシャーを構える。

 

「……廉太郎!何をするつもりだ」

 

「沈める。一撃で」

 

「無茶を、やめろ!」

 

阻む駆逐級の相手をしている貴虎の横でカッティングブレードをおろす。

 

「うぉらぁあああああああああああ!」

 

エネルギーを纏ったマンゴーパニッシャーが重巡の体を引き裂く。

 

黒い鮮血が俺の鎧を包み込む。

 

敵を倒したという感覚を理解するより早く、両断した相手が俺の体を掴んだ。

 

「なに!?」

 

事態を理解するより早く、体を裂かれた重巡級と目が合う。

 

その目の闇は深く、まるで何かを送るように。

 

主砲が顔に直撃して重巡級は海の中に沈んだ。

 

リーダー格がいなくなったことで海域を支配していた重苦しい感覚がなくなる。

 

分厚い雲に覆われていた空も明るさを取り戻す。

 

「……やった?」

 

雷がぽつりと呟く。

 

「海域解放を成し遂げたの?」

 

「ハラショー」

 

「やったのです!!」

 

全員が喜びの手を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで俺達は意気揚々と帰るだけの筈だった。

 

かっこよく帰れれば問題はなかった。

 

何があったかというと、船が壊れた。

 

「すまないな、暁君」

 

「べ、別に、あ、暁はレディーだし!これくらいのことくらい」

 

「顔が真っ赤だ。暁」

 

「うるさいわね!響」

 

「提督ゥ、大丈夫かよ?」

 

「俺はなんとか……電、大丈夫か」

 

「だ、大丈夫なのです!」

 

「電が疲れたら雷の出番よ!」

 

「小さい奴らに人気だなぁ」

 

「そう思うなら助けてくれよ」

 

「世界水準に頼りたくなかったらいつでもいいな」

 

ニタニタと笑みを浮かべている天龍に俺は肩をすくめる。

 

後日、海域解放を成し遂げたという情報は瞬く間に広がった。

 

さらに時間が進んで、俺の屋敷にいた艦娘達がユグドラシルに来ることが決定する。

 


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