「さて、ようやく我々は記念すべき第一歩を踏み出せたわけだ」
「……前途多難すぎるけどな」
両手を広げる戦極凌馬に俺は水を差す。
書類を見ている貴虎が頷く。
「人員の選別、これから協力してくれるだろう艦娘……試作品のドライバーの性能向上、問題はまだまだ山積みだ」
「二人とも後ろ向きはいけないよ!我々は前を向いていかないといけないのだから、とりあえず」
懐から二つのロックシードを取り出す。
「これは?」
「廉太郎君が回収した森の果実を生成して作り出したロックシードだ。アップグレードするドライバーは装着者が触れたらロックシードになるよう調整をする」
二つのロックシードLS-01とLS―06。
「マツボックリとイチゴか」
「この二つはアームズとして正式採用が可能だ。可能ならこれから行う海域解放で使用してもらいたい」
「わかった」
俺がマツボックリを、貴虎がイチゴを手に取る。
「そういえば、貴虎、ビークルの件は?」
「残念ながら間に合わなかった。そのため、移動手段は船となりそうだ」
「間に合わない物を当てにしても仕方がない。船があるだけマシだ」
「そうだ、艦娘に背負ってもらうというのはどうだろう?」
「無理だ。俺達の動きについてこられるかどうかわからない。船に乗る方がまだいい」
「残念だ」
「艦娘の背中に乗りたいとかいいだすんじゃないだろうな?」
「それもありかもしれないね」
凌馬の言葉に俺と貴虎は溜息を零す。
この幼稚な思考はなんとからないのか?
呆れながら提督としての執務を終わらせた時だ。
コンコン、と控えめなノックがなされる。
話していた俺達は動きを止めた。
「どうぞ」
俺が言うとゆっくりとドアが開いて一人の艦娘が現れる。
「失礼します、なのです」
電がやってくる。
その手には書類が。
「どうした、電?」
「この契約書について、お聞きしたいのです」
「いいよ、入って」
「あ、あの!他の子も一緒で、いいです?」
「構わない」
貴虎が答えると電がびくりと体を震わせる。
「貴虎、少し笑顔を浮かべたまえ、彼女は幼気な少女だよ?」
「……すまない」
「い、いえ、気にしないのです」
電が促すとぞろぞろと少女達が入ってくる。
それぞれが契約書の書類を持っていた。
「これはこれは」
「響だよ。質問がある」
「あ、暁よ!」
響という銀髪の少女の後ろに隠れているのは黒髪の少女。
「雷!」
元気よく手を挙げたのは電とよく似ている少女。
姉妹だろう。
「早速始めようか、契約書のどこに」
「まずは業務時間の規定とあるが、これはどういう?」
「働くというのは休みを入れないといけない。そうしないと体がもたないからだ。艦娘といっても疲労は残る。そんなことにならないように決められた時間だけ働くこと」
「き、給料って」
「働く事には対価がある。キミ達が我々の為に働いてくれることのお礼の形として給料を支払う」
「私達は兵器だ」
「違う」
「兵器にこんなことをする必要はない。命令すればいい」
響の言葉を俺は否定する。
「キミ達は艦娘だ」
その一言が弾丸のように響達に届いたのか、ぴたりと彼女達の動きが止まる。
「……本当に?」
響の後ろに隠れていた暁がおずおずと前に出てくる。
俺が前に出ようとしたら貴虎が暁と目を合わせた。
「キミ達はどこにでもいる少女のように私は見える。深海棲艦を本来なら人類が倒さないといけないのをキミ達が代わりに戦ってくれていることは感謝している。酷く申し訳ない気持ちになった……だからこそ、キミ達が戦う事に集中できるように手助けをする。私は誓おう、何があろうとキミ達……艦娘を手助けすると」
貴虎が小さく微笑む。
俺の出番、奪われたような気がするけれど、彼の言葉に暁はじわりと涙を浮かべる。
「……凌馬、廉太郎」
こちらへみる貴虎の目は困惑。
「これからどうすればいい?」
「抱きしめてあげればいいんじゃないかな?」
「よく考えろ」
ちわわのように目を振るわせる姿を戦極と共にしばらく満喫させてもらった。
「契約書だよ」
自分達の名前が記された契約書類を提出する。
「いいのか?」
「問題ない。貴方達が信頼に足る人物と判断できる」
「そうか」
響の言葉に俺達は頷いた。
夜。
「提督!那珂ちゃん、センターで活躍したいです!」
夜、執務を終えて部屋に戻ろうとしたところで那珂ちゃん(本人希望)が部屋へ突撃してきた。
「センター?」
「那珂ちゃんはアイドルなのです!アイドルはセンターで活動しないといけないの!この契約書にそれを付け足してほしいなぁ!」
「個別で追加を求めるって?」
「はい!」
「那珂ちゃん」
「はい?」
「俺さ、アイドルについて全く知らないから、今はこの書類で行くってできない?」
「ダメだよう!」
那珂ちゃんは頬を膨らませると距離を詰めてくる。
引きはがそうとするがぐんぐん迫ってきた。
嫌な予感がする。
「提督って、アイドルの事知らないんですか?」
「全く、知らない。だから、調べる時間を」
「だったら!」
顔と顔が触れ合う距離まで那珂ちゃんは近づいた。
「那珂ちゃんが提督にアイドルの良さを“徹底的”におしえてあげよーっと!」
「それはありがたいけれど、これからだと遅いから、ほら、別の日に」
「ダーメッ」
俺の鼻を指で突いて那珂ちゃんは微笑む。
猛烈に嫌な予感がした。
「提督にアイドルの良さを徹底的に教えてあげまーす!今夜は寝かせないよ」
有言実行。
マジで那珂ちゃんは俺を寝かせなかった。
「貴虎、眠そうだな」
「そういう、廉太郎も睡眠は大事だ」
「アイドルって難しいな」
「女の子というものは酷く難しい」