油断したら艦娘に拉致されました   作:断空我

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LS-10 別世界の記憶を持つ者との再会

「いやぁ、驚きだね。まさか戦極ドライバーが深海棲艦の対抗策になるなんて」

 

深海棲艦撃退から数時間後、遅れてやってきた戦極凌馬は興奮を隠せていない。

 

深海棲艦を倒せるのは艦娘だけという話は今まで覆せることが出来なかった。しかし、彼が開発したドライバーにその価値があるという事に興奮していた。

 

貴虎も驚きを隠せていない。

 

「もっと情報収集が必要になる。それにはもっとスポンサーや様々な物を集めないといけないね」

 

「しかし、問題は山積みだ。廉太郎の予想通り、この鎮守府、問題ありか」

 

「あぁ」

 

貴虎の言葉に俺は頷く。

 

「所属艦娘は重巡一、軽巡駆逐を含めた総勢八名か……提督の手腕はいわゆるブラック的なものだ」

 

「非効率だ。相手の力の差があるのにせめてもこちらの損害が出る」

 

「それを考えないアホの提督が多いんだよ」

 

「成る程、だから海域解放がままならないわけだが……今度からはそうならない」

 

「何か策が?」

 

「我々も参加すればいい」

 

「なんだと?」

 

貴虎が驚きの声を漏らす。

 

「このドライバーは深海棲艦に有効だとわかった。ならば、あとは海の上を移動する手段だ。それさえ作れば多少は戦える。海域解放は深海棲艦を殲滅すれば可能なのだろう?ならば、手ではあるだろう……戦極ドライバーの性能を試せるいい機会だ」

 

「……少し検討する」

 

「まぁ、ドライバーの調整もあるし、乗り物の確保も考えないといけないから少し時間が必要だ」

 

一時解散ということで各自が与えられた部屋に向かう。

 

部屋に向かおうとしたが目の前に立っている人物に気付く。

 

「あ、あの」

 

「……電だな?」

 

「はい、なのです」

 

駆逐艦電。

 

俺の短い人生の中で愛しい人といえる人物だ。

 

勿論親愛であり、恋愛にはいっていない。

 

化け物に至った俺の心を救ってくれた少女。

 

「どうしてここに?」

 

「その、黒崎廉太郎さんなのです」

 

「そうだ、クソおやじから聞いたのか?」

 

「いえ、あの、その……」

 

右、左と周りを見ていた電はやがて意を決した表情で訊ねる。

 

「廉太郎さんはアーマードライダーって知っているのです?」

 

「お前、どうして」

 

「……電は建造されてから艦とは別の記憶があったのです。それは」

 

電の話では黒崎廉太郎という青年と触れ合い、彼に救われたという記憶があるという。

 

「お前は、あの、電なのか?」

 

「廉太郎さんは廉太郎さんなのです?」

 

「……そうだ」

 

途端、電が俺に抱き付いてくる。

 

「また、またあえて嬉しいのです。廉太郎さん」

 

「俺も、お前に会えてうれしいよ。電」

 

彼女を部屋に入れるのは不味いと考えて鎮守府に設置されているベンチで話をすることにした。

 

話しの内容は俺があの世界を去った後の事。

 

「深海棲艦と私達は滅ぼされたのです」

 

「……何に?」

 

「廉太郎さん達が使っていたどらいばーというものが大本営へ流されてやってきたあーまーどらいだーさん達によって電達は全員滅ぼされたんです」

 

「それは」

 

なんていう仕打ちだろうか。

 

俺は言葉を失った。

 

「廉太郎さんは悪くないのです」

 

「……だが!」

 

「こうして、また、廉太郎さんと会えたことが電の救いなのです」

 

「……」

 

もし、俺があの時、赤城達を受け入れていたら?

 

そうすれば彼女達は悲惨な未来を受けなかったのだろうか?いや、俺が受け入れたとしても結末は変わらなかったかもしれない。

 

ならば、今から起こりうる結末は変える。

 

それが俺にできることだ。

 

「俺も、電に会えてうれしいよ」

 

「えへへ、なのです」

 

頭を撫でると嬉しそうに電が目を細める。

 

その姿にどこか癒しさを感じてしまう。

 

「電」

 

「はいなのです」

 

「俺は向き合っていこうと思う。艦娘と、どんな結果になっても彼女達から逃げない」

 

「電も、お手伝いするのです」

 

「ありがとう」

 

自然とこの口から出た言葉は心の底から思っているんだろう。

 

不思議と嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく、電と他愛のない話をしていた俺はある視線を感じた。

 

こちらをうかがう様な……警戒する類のものだ。

 

「さて、そろそろ電も部屋に戻って休め」

 

「はいなのです!では、またあとでなのです」

 

「あぁ」

 

電に返して俺はある方を見る。

 

そこでは警戒するようにこちらを見る艦娘の姿があった。

 

「キミは……?」

 

「俺様は天龍、ここの艦娘だ。おい、てめぇは何ものだ?」

 

「此処に所属することになっている提督。黒崎廉太郎だ」

 

「あ?所属?あのクソ野郎が」

 

「彼なら死んだ。既に書類は大本営に送っている。正式に俺が此処の提督になる通達が届くよう手配されている」

 

「今度はてめぇが俺達の支配者ってか?」

 

「いいや」

 

俺は懐からある書類を取り出す。

 

「これから運営を始めるユグドラシル鎮守府のメンバーとして雇いたい」

 

「は、雇う?」

 

「これが契約書だ。書類上、ここには八人の艦娘がいると聴いている。彼女達の分の書類だ。内容を読んで理解すれば、ここに署名と捺印をしてもらいたい。勿論、わからないことがあれば執務室へ訊ねてくればいい。いつでも質問に応じる」

 

「……拒否したら、解体か?」

 

「いや、キミ達が希望する鎮守府へ行けるように手配する」

 

「…………」

 

疑う様な視線を向けてくる天龍。

 

その視線を真っすぐ見る。

 

「しばらく、考えさせてもらう」

 

天龍はそういうと去っていく。

 

残された俺は部屋に向かう。

 

――まずは第一歩だ。

 

鎮守府の一つを占拠して自分達の拠点とする。

 

此処の資材は基本的に大本営から送られてくるものと艦娘が確保するものの二つに分かれている。

 

大本営からの供給は少なく、実際は艦娘に左右されている。そこで考えたのがドライバー開発の資材をここで集めて人材を確保する。

 

艦娘は兵器ではなく、社員という形で契約を結び行動してもらう。

 

大本営が口を挟めないように海域解放も進める。

 

海域解放が進めばあちらも口を挟めない。

 

そのための策だ。

 

「ぐっ!」

 

視界が揺らいだ。

 

俺は地面に座り込む。

 

体が熱い。

 

まるで全身が書き換えられるような苦痛が体を襲う。

 

声を上げることなく、俺の意識は闇の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおやおや~、ブラッドオレンジロックシードを一回使うだけでここまで体の変化を及ぼすとはすばらしいねぇ。このまま何度も使っていけば、彼は私の望む進化に至るだろう。私のドライバーで進化する人、その結果は遠くない未来にあるようでとても楽しみだよ」

 

こつこつとワインを片手に妖精が笑っていたことに俺は気づかなかった。

 

 


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