「鎮守府を乗っ取ろうと思う」
「斬新な提案だな」
パーティーの一件からしばらく、戦極凌馬と呉島貴虎に呼び出された俺を待っていたのは唐突な提案だった。
「そもそも、俺は提督になるつもりはない」
「いいや、提督になりつつもその鎮守府を我々の拠点とさせてもらいたいんだ」
「何故?」
「前にも話したが、この世界は未知の世界からの侵略を受けている」
「私はそれをヘルヘイムと命名した」
「ヘルヘイム、ね」
「そう、ヘルヘイム。このドライバーはその森で活動するに必要なアイテム……しかし、これの作成には膨大な資金がいる。苦労して作り上げたこの二基で予算が尽きてしまってね。スポンサーをとろうにも」
「異世界の侵略など誰も信じられないか」
「そこで状況を理解して、かつ裕福そうな人材が欲しいのさ」
「……体の良い金づる扱いか」
「それは」
「まぁ、事実としてはその通り、否定はしないさ」
俺は鋭い眼で戦極凌馬を睨み、貴虎をみる。
彼は申し訳なさそうな表情をしていた。
「一つ、条件がある」
「なんだい?」
「俺が鎮守府に就任する際、補佐として呉島貴虎、アンタについてもらうこと」
「私が?」
「そう、はっきりいって配属される鎮守府が安全なところとは思えない。何かしら問題がある…………味方は一人でも多い方がいい。それだけのことだ」
「成る程ぉ、貴虎、どうする?彼が了承する条件は我々にとって破格のものだよ?」
「私は艦娘の運営について詳しくは」
「問題ない。そこは学んでもらう」
「成る程……ならば、引き受けよう」
俺は手を差し出す。
「ありがたい、とりあえずの協定は確実だ」
「すまない」
「これからよろしく、呉島貴虎」
「黒崎廉太郎、よろしく頼む」
俺達はそういって互いの手を取る。
「あれ、私は無視かい?」
空気になりかけていた凌馬がその上に手をのせた。
「それはそうと、あの婚約問題、キミはどうするつもりだい?」
嫌な奴だ。
「思い出せないでくれ」
「その様子だとまだ答えは出ていないようだな」
「婚約なんて人生であるかないかの問題だろ」
「確かに……そういう話と私も少なからず無縁といえるだろう」
何かを思い出すような貴虎。
その姿を見て別世界のある女性の顔が過る。
「貴虎に、想い人が?」
「…………いや、私は、世界を守るという使命がある。そんなことに裂ける余裕はない」
「アンタの覚悟にケチをつけるつもりはないけれど、本当にそれでいいのか?」
貴虎へ俺は尋ねる。
「それは」
「……後悔のしない生き方なんて誰もできない。けれど、あとで後悔するより今、動くことも大事だと俺は思うよ」
「それは面白い、貴虎、キミもこれからの事を考えるなら今のうちに行動すべきだ。私も研究の為に動き始めるとしよう」
ルンルンと戦極凌馬は去っていく。
貴虎はしばらく考えるようにして出て行った。
俺も帰るか。
お代を払ってその場を後にする。
それから少しばかりの月日が流れて俺は鎮守府へ行くことが決まった。
本来なら一人で赴くことになっていたのだが、艦娘や戦極凌馬のハッキングにより偽情報で彼らも別の部署から出向という形でやってくる。
「慣れないな、この軍服は」
白一色の軍服は染みがついたら目立つ。
鞄を手に道を歩く。
クソおやじは経費節減を語っているのか迎えの車はなかった。
屋敷は艦娘達がある程度の片づけを終えたら合流することになっている。
本来なら武蔵と赤城もついてくるはずだったのだが、何やらやることがあるというのでうまくいっていない。
「さて、目的地に着いたわけだが」
入口に到着すると一人の艦娘が待っていた。
銀髪に近い灰色の?の髪を後ろで一まとめにしてセーラー服、手にメモ帳とペンらしきものがある。
「失礼!黒崎廉太郎さんですか!」
「あぁ、そうだが、アンタは?」
「重巡の青葉です。司令官がお待ちしていますのでついてきてください」
ビシッと敬礼をして青葉が先を行く。
どこか機械的な挨拶に驚きながらも彼女の後を追う。
鎮守府は最近できたばかりなのか綺麗だった。
しかし、道を行き交う艦娘の姿がない。
「なぁ、青葉、ここに他の艦娘は」
「何をやっている!!」
叫び声が響いた。
何事か視線を向けると執務室からだった。
青葉はびくりと体を震わせている。
「戦え!撤退など認めん!戦って死ね!」
男の声だ。
話しの内容から察するに男は提督なのだろう。
しかし、あの言い方は。
我慢が出来ず俺は扉を開ける。
「おい、アンタ」
「何だ貴様!?部外者は」
「黙っていろ」
男を突き飛ばす。
目の前には立体映像と艦娘の情報がある。
相手を見てから俺は無線機で呼びかけた。
「全員、撤退だ。命令、撤退しろ」
撤退という表示を押して指示を飛ばす。
振り返ると男が拳銃を突きつけていた。
「貴様!侵入者だな!鳳翔!こいつを殺せ」
「提督、落ち着いてください。彼は」
「黙れ!!」
叫びと共に男は銃で鳳翔という名前の艦娘を殴り飛ばす。
目の前の男を殴り飛ばそうとした時、執務室の窓を壊してある怪物が飛来する。
「なっ!?」
窓を破って現れたのはインベス。
しかも、上級インベスだ。
龍を模したようなインベスは提督だった男の首を掴むと外へ放り投げる。
「青葉!あの怪物へ誰も近づかせるな!」
「え、あ、あの」
「いいな、任せたぞ」
俺は懐からドライバーを取り出して装着、メロンのロックシードをはめて外に出る。
『メロンアームズ!天下御免!』
降り立つと提督らしき男が化け物に切り裂かれたところだった。
体から鮮血をまき散らして男は崩れ落ちる。
「遅かったか」
無双セイバーを抜いて斬りかかる。
インベス、セイリュウインベスは唸り声をあげて襲い掛かってきた。
「くそっ」
メロンディフェンダーで攻撃を受け流して無双セイバーを繰り出す。
しかし、
「くそっ、硬いな」
上級インベスは恐ろしいほどの硬さを持っていた。
無双セイバーの刃が通らないことに驚きながら後ろへ下がる。
セイリュウインベスは唸りながら襲い掛かってきた。
「来るな!」
迫ろうとするインベスへメロンディフェンダーを振るう。
衝撃を受けて少しのけ反るが再び攻めてくる。
「別のロックシード……あれを使うか?」
脳裏を過ったのはオレンジロックシード。
あれの驚異的な力を使えば退けられるかもしれない。
だが、それを使えば。
「くそっ、苛立ちを覚えていても仕方ないか、今はクラックへ」
幸いにも目の前にクラックがある。
あそこへ奴を押し戻せば、俺の勝ちだ。
「さぁ、こっちにこい!」
暴れるインベスに蹴りを入れて目の前のクラックへ誘導する。
怒りながら相手は追いかけてきた。
振り返りながらインベスに光弾を撃ち込み、裂け目へ飛び込む。
幻想的な森、ヘルヘイム。
クラックに飛び込んだ俺だったがセイリュウインベスは腕を掴んで引きずり戻そうとする。
「このまま、戻そうってか!?」
インベスに抗いながら俺は目の前の蔓を掴む。
力に反抗できず、元の世界に戻される。
「くそっ、そんなにこっちの世界が気に入ったのか?だったら」
果実を掴む。
眩い光と共にロックシードとなる。
「ここで永眠させてやる」
『マンゴー!』
『マンゴーアームズ、ファイトオブハンマー!』
マンゴーを模した武器、マンゴーパニッシャーを引きずりながらセイリュウインベスへ叩きこむ。
どうやらこの攻撃は効果があるらしい。
「どんどん、行くぞ!」
マンゴーパニッシャーを叩きこみながらカッティングブレードを下す。
エネルギーを纏った一撃と共に相手は派手に吹き飛んだ。
「よし、これでひとまず……ん?」
ロックシードを外して変身を解除しようとした時、近くで水柱が起こる。
「あれは……深海棲艦か」
どうやら撤退を指示した艦娘達を追いかけてきたのだろう。
あの様子だとここまでくるかもしれない。
「……!?」
嘘だろ!?
俺は息を飲み、ロックシードを外す。
躊躇している時間はない。
俺はあのロックシードをはめ込む。
『ブラッドオレンジ』
「待っていろ」
『ブラッドオレンジアームズ!邪ノ道オンステージ!』
全身を覆う力に酔いしれそうになりながら、地面を蹴る。
衝撃が鎮守府を襲っているかもしれないが関係ない。
駆逐級の深海棲艦が一人の艦娘を襲おうとする。
栗色の髪に髪留めをした気弱そうな艦娘は目を瞑っていた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ナギナタモードにした無双セイバーで深海棲艦を轟沈させる。
驚いている彼女を一瞥する。
「また、会えたな」
別の世界の少女だが、俺にとって彼女との再会は嬉しいものがある。
暁型駆逐艦、電。
その姿を見て俺は小さな笑みを作った。
次に聞こえた声に俺は仮面の中で驚きの顔になる。
「廉太郎、さん、なのです?」