パーティー用のスーツを身に纏い俺はリムジンの中にいる。
隣にいるのはパーティードレスを纏った大井。
緑を基調としたスカートドレス、ヒールを履いて、髪は珍しく後ろで一まとめにしている。
どうも、大井に決めた理由がはっきりと思い出せない。
最後に覚えているのは彼女の部屋でお茶を飲んだ時。そこから記憶がきれいさっぱり抜けている。
「どうしました?」
「いや」
「もしかして、緊張しています?」
クスクスと小さく笑う大井から目をそらす。
護衛件パートナーとして大井がいるがこれから行く先は魔窟としか言いようがない場所だ。
政治家、軍人、企業家。
この国を支えている連中ばかりが集まり息抜きを、さらにいえば自慢話ばかり。
そんな面倒なところに艦娘を連れて出席となると。
「(本格的な提督の話だな)」
俺の意思に関係なく提督となるべく話が進められていることだろう。
抗う事すら許されず二十歳を過ぎれば提督とされるだろう。
だが、俺は提督になるつもりはない。
武蔵にも伝えたことだが俺はヘルヘイムに入り黄金の果実を手にする。
提督になっていたらそんなことすらできなくなる。何よりクソおやじの操り人形などまっぴらごめんだ。
「廉太郎?」
考え事をしていた俺の手に大井の手が重なる。
「考え事ですか?」
「まぁな」
もし。
もし、だ。
首を傾げている大井に俺が提督にならないという事実を伝えたら。
彼女はどんな反応を示すだろうか。
怒るのか?
それとも武蔵みたいに何かしでかすのだろうか。
それを考えたら少し、体が震える。
「廉太郎?」
「目的地についた。降りよう」
停車したリムジンから俺と大井は出る。
スーツの男性に誘導される形で大きな屋敷の中へ入った。
そこでは様々な人がドレスや服を着飾っている。
招待状を入口の男に見せて俺と大井は中に入った。
「どうするんです?」
「隅っこでおとなしくしておく。厄介ごとに巻き込まれるのは御免だ」
「わかりました」
にこりと大井が頷いたのを確認して隅っこへ移動しようとした時だ。
「おや、貴虎きてみたまえ、ここに我々と歳の近い者がいるよ」
ぴたりと俺の足の動きが止まる。
嘘だと思いたかった。
聴き間違えだと思いたい。
動揺を隠せない俺に声の主たちが近づいてくる。
「ほらみたまえ、私の言った通りだ」
振り返ると髪を後ろで束ねて白いメッシュを入れて、パーティー会場なのに白衣を纏った青年が俺の前にいる。
「凌馬、周りの迷惑になる。もう少し小さい声にしろ」
続いて黒いタキシードを着た鋭い目つきの青年がやってきた。
両方とも顔見知りだ。
但し、前の世界でという前置きがつく。
戦極凌馬と呉島貴虎。
「すまない、私の連れが」
「大丈夫。気にしていない」
「呉島貴虎だ。こちらは」
「戦極凌馬という」
「……俺は黒崎廉太郎だ」
「大井です」
ぺこりと挨拶をする。
「キミ達はどうして」
「親に言われて呼び出された。それだけのことさ」
「そうかい、驚いたな。貴虎と同じような理由だ」
「同じ?」
「私も父に呼び出されたのさ。何でも大事な発表がという」
「見つけたぞ!廉太郎」
横から太い手が伸びて俺の肩を掴む。
振り返る暇すら許さずに壇上へ連れていかれる。
「皆さん、彼こそが我らの希望を担うべき存在であり、息子の黒崎廉太郎です」
ポンポンと肩を叩く男はクソおやじだ。
白い海軍の服を身に纏い張り付けた様な笑みを浮かべている。
はっきりいって嘘くさい笑顔だ。
「来年には提督として鎮守府へ所属して未だなされていない海域解放を成し遂げてもらう」
隣で俺は人形のように立つ。
話しはだんだんと自慢話へ発展していく。
如何に自分が艦娘を見つけて協力にこぎつけたかという。
あまりに白々しい。
代償を息子に押し付けておきながら。
睨みたい気持ちを堪えているとクソおやじはとんでもない爆弾を放った。
「そして、あそこにいる彼女こそが、我が息子の婚約者なのです」
「はっ!」
「黙っていろ」
驚いている俺の前で話が終わる。
するとクソおやじは何も言わずに離れていく。
呆然としている俺は大井を探す。
しかし、彼女の姿はなかった。
屋敷内を駆け回る。
大井の姿はない。
入口でリムジンの運転手に聞いたがまだ戻っていないという。
「どこに」
「何かあったのか?」
反対側から呉島貴虎がやってくる。
「大井をみなかったか?彼女を」
「いや、みていない。探すのを手伝おう」
「すまない」
「気にすることはない。何より、キミと話をしてみたかった」
「俺に?なぜ?」
貴虎は小さく肩をすくめる。
「世界を救うという使命をキミはどう感じているのか」
「使命か…………俺にとってはそんな大層なものじゃないな」
「そうなのか?」
「おやじがあんな最低な奴だからな。こればっかりは反抗心とか、色々な気持ちでぐちゃぐちゃになりつつも、決めたことがある」
「それは?」
「向き合う、歩み寄る。そして、全てを手にする。それが、俺の、覚悟だ」
貴虎は小さく頷いた。
それから俺達は大井を探すため、その場から別れる。
「うふふふ」
夜空の下、大井は楽しそうに笑っている。
誰もいないテラスで彼女はくるくると回っていた。
「本当なら北上さんと一緒の方が嬉しかったんですけど。これはこれでいいものですねぇ」
くるくると一人で踊る大井の手は空に伸びる。
月に輝いているその手はとても細く、戦場に立つ者の姿に見えない。
「何か、ようかしら?」
くるくる回っていた大井は動きを止めて振り返る。
かつかつと靴音を鳴らしてあらわれたのは戦極凌馬だ。
「邪魔するつもりはなかったんだけどね。艦娘というものに興味があったのさ」
「あら、そうですか」
さっきまでの笑顔は嘘のように能面の態度で接する大井。
「しかし、キミ達も面白いね。一人の男にここまでの表情を見せるなんて」
「只の男じゃありません。唯一、私達の力を完全に引き出せる人物なのですから」
「そうか、さて、実は君にというか黒崎廉太郎君に提案があったのさ」
「提案?あぁ、あの妖精が話していた事ですか」
「妖精?」
「何でもありません。その案でしたら直接、廉太郎としてください。私は廉太郎を脅かす相手に魚雷を撃つことしかできませんから」
「おやおや、物騒なことだ」
「なんとでもいいなさいな」
「おや?」
戦極凌馬が驚きの声を漏らす。
「爆発音?」
ある方向から音が響く。
その時、艦娘たる大井はある事に気付いた。
戦っている相手は廉太郎だと。
時間は少し巻き戻る。
俺は貴虎と合流したところである怪物の攻撃を受けた。
ずんぐりむっくりの怪物。腕や足は赤い光をしている。
息を飲んだ。
目の前に現れた異形は間違いない。
インベスだ。
下級インベスは唸りながらこちらへ迫ってくる。
「コイツは…」
「インベス、馬鹿な!?」
俺の傍にいる貴虎が驚きの声を漏らす。
もう、インベスを知っている!?
驚いている俺の前で貴虎は戦極ドライバーを取り出す。
ドライバーをはめてロックシードを取り出そうとしたところで別のインベスが貴虎に迫っている姿が見つけた。
「させるか!」
ドライバーをはめて、メロンのロックシードをはめ込む。
「変身!」
メロンディフェンダーで相手を突き飛ばす。
「黒崎、その姿は」
「話は後だ。呉島、今はこいつらを潰す」
「……仕方ない」
白いアーマードライダーへ変身した貴虎は無双セイバーを構える。
同じスタイルという事に相手が驚いていることに気付きながらもインベスを投げ飛ばす。
インベスは唸りながら背中から羽を生み出す。
「ちっ」
無双セイバーのエネルギー弾を放つ。
ひらひらと回転するようにして回避運動をとる。
「わかってるってぇの!」
メロンディフェンダーを投げる。
くるくると回転して盾が羽を斬りおとす。
落下するインベスへ接近、無双セイバーの窪みにロックシードをはめ込む。
「このまま、沈め!!」
エネルギーを纏った刃がインベスを両断する。
インベスを倒したことを確認して嫌な気分になる。
わかっていた。
インベスはヘルヘイムの果実を食した者の成れの果て。
動物か、人間か。
あの正体を俺は知らない。
もしかしたら、人間かもしれない。
人を殺したという罪悪感に今更ながら支配されそうになっていた。
だが、止まるつもりはない。
俺はここで止まる気はないのだ。
何よりも。
「お前は、何者だ」
隣を見ると白いアーマードライダーが無双セイバーを構えている。
「そのドライバー、どこで手にした?」
「持っていたといえば正しいかな」
「恍けるな!」
「残念ながら貴虎、その話は事実だ」
つかつかと戦極凌馬がやってくる。
大井は俺の姿を見て、駆け寄ってきた。
「廉太郎!大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない」
変身を解除してドライバーからロックシードを外す。
「貴虎、どうやら我々が作ったドライバーを模倣したものらしい」
「なんだと?」
「性能は大差ないものだという」
驚いている貴虎が俺達へ視線を向ける。
「お互いに情報の交換しよう」
俺の提案に貴虎は小さく頷いた。