「さて、残りの艦娘を探さないといけないわけだが……」
俺の正面は今の所真っ黒だ。
これだけ聞くとおかしな話になる。
はっきりいおう、俺は正面から抱き付かれて目の前が見えなかった。
「ふぉい、武蔵」
「なんだ?廉太郎、ふむ、これは凄い気分がいい」
武蔵に抱きしめられていた。
逃れようにも彼女は離れない。
体も成長したが武蔵の力はあれからかなり強くなっていて抜け出すことが困難になっている。
「そろそろ離れてくれ」
「嫌だ、もうしばらくお前の温もりを感じていたい」
「やらないといけないことがあるんだよ」
「赤城から聞いているパートナー探しだろ?」
「知っているなら尚の事、離してくれ。今日までに全員と話をしないと」
「パーティーならさぼればいいだろう?今までそうていきたように」
「……今回は少し必要なことがあってな」
「お前のやるべきことに、か?」
「そうだよ」
「ならば、仕方ないな。今だけ我慢してやる」
武蔵はそう言って離れる。
少し名残惜しい気分になりながらも残りのメンバーを探しに行く。
「余計な先入観をお前に与えたくはないが、気を付けろよ」
「わかっている」
「いいや、わかっていないさ」
去っていく俺の背中に武蔵はとんでもないことを伝える。
「お前がこれから会おうとしている奴らは油断すれば監禁しかねないからな。この私のように」
慌てて部屋に置きっぱなしだったドライバーを取りに走った。
運悪く、ドライバーを置いてきた。
羽黒達を探していた俺はぶらぶらと屋敷内を探す。
「成長して思うけれど、ここって、広かったんだな」
何人もの艦娘が生活強いている以上、規模は大きくなっていく。
家具妖精が働いているようだ。ちらりと横を見ると木材を運んでいる妖精の姿がある。
「何か、作っているのか?」
「夕張さんの工場らしいぞ」
「……工場?」
「何でも部屋に資材が置き切れないから専用の工房を作りたいという届け出があったそうだ」
「へぇ」
適当に頷いて俺は横を見る。
「磯風か」
「そうだ」
隣にいたのは俺が探していた磯風だった。
腰にまで届く長い髪、その髪の先端を三カ所まとめている。駆逐艦にしては少し長身かつ少女にしてはどこか妖艶さを含んでいる。
そして。
「なんで、俺の腕を抱きしめている?」
「嬉しいだろう」
目を細めたまま磯風は腕を離さない。
「何か、私に話があったんじゃないのか?」
「あぁ、実は」
「うん、任せる」
「何も、いっていないんだが?」
「廉太郎の考えていることくらい、わかる。パーティーのパートナー、願わくば私に決まることを願うよ」
「…………そ、そうか」
何で、わかんだよ!
そう叫びたい気持ちを飲み込む。
ここで相手のペースに飲まれるのは良くないと思った。
「それじゃ、俺は」
「願わくば」
離れようとしたら思いっきり強く抱きしめられる。
磯風の顔を見ると普段と変わらない目だったがおそろしいくらい不気味な笑みを。
「私が選ばれることを願うよ……あれも、全て」
そういって離れていく磯風。
俺はその顔が頭から離れなかった。
「疲れた」
誰もいないベンチに腰掛けて俺は溜息を零す。
これが町中なら自販機でドリンクを飲んでいただろう。しかし、ここは屋敷内、自販機なんてものは存在しない。
「喉が渇いたな。食堂にでも行って何か」
「あの」
声が聞こえた様な気がして周りを見る。
しかし、誰もいない。
「気のせい、か?」
「あのぉ」
聴こえた。しかし、姿は見えず。
「れ、廉太郎、さん」
「……」
気のせいか、後ろから聞こえた。
俺はおそるおそる振り返る。
「なぁぁぁぁっ!?」
驚いてベンチから離れた。
羽黒がいた。
彼女は儚げな笑顔を浮かべて手の中にあるドリンクを差し出す。
「よかったら、どうぞ」
ベンチに“腰掛けた”羽黒はそっと差し出してくる。
「い、いつからそこにいた?」
「ずっとです。驚きました。廉太郎さんが私の上に腰かけるなんて」
「ごめん」
にこりと笑顔を浮かべる羽黒に罪悪感で体が潰されそうになった。
全く柔らかいとか、そんなことを感じられなかった。まさか自分が羽黒の上に座るなど。
「気にしていませんよ…………むしろ、幸せでしたから」
「え?」
「何でもありません。それより、どうしたんですか」
「あぁ、実は」
(羽黒に謝罪しつつ、状況説明)
「パーティーですか……でも、私、行ったことないです」
「まぁ、サポートするからそこの心配はしなくていいんだけどな」
「パーティーかぁ、お姫様みたいなドレスを着るんですよね?」
「そうなる、かな?」
「じゃあ、廉太郎さんは王子様」
「は、いや、俺はスーツで」
「みてみたいです!廉太郎さんの王子姿」
目をキラキラと輝かせる羽黒に俺はこれ以上、いえなかった。
「とにかく、検討しておいてくれ!では!」
キラキラから逃げるように走り去る。
「あぁ、びっくりしたぁ」
俺は息を吐く。
まさか気弱で大人しい羽黒にあんな一面があるとは思わなかった。
足柄や那智を抑えるストッパーという部分しか見ていなかったからあれには面食らった。
「さて、残りは大井なわけだが」
「あ~」
ドシンと屋敷内の角を曲がろうとしたところで誰かにぶつかる。
「悪い、大丈夫、か?」
「酷いよぉ、れんっちぃ」
倒れている相手は北上だった。
黒髪で長い髪を三つ編みにして、どこかぽわぽわした少女。
「ごめんな」
「いいよいいよぉ~、今度、デートしてくれるなら」
「……わかった」
「絶対だよぉ?」
「そうだ、北上」
「なぁにぃ?」
「大井に話があるんだが、どこにいるか知らないか」
「大井っちなら自室だよ?」
「そうか、ありがとな」
北上に背を向けて部屋へ向かう。
俺は気づかなかった。後ろにいる北上が不気味な笑みを浮かべていたことに。
大井の部屋の扉をノックすると中から「どうぞ」という声がした。
「失礼する」
「どうしました?廉太郎」
茶色に近い髪をストレートに伸ばした少女大井。
北上の事が大好きな少女だ。
「私の部屋まで来るなんて珍しいね」
「大井に話が合ったんだよ。実は」
「赤城さんから聞きました。パーティーの話ですね」
「あぁ、とりあえず、あのメンバーの中から」
「廉太郎」
ニコニコと俺に湯呑を差し出す。
「飲んでください」
「え、あぁ、すまない」
差し出された湯呑を一口。
パーティーの相棒は大井となった。
その時の記憶はない。
次回、ある人物たちが登場。