あれから数年の月日が流れた。
その間に起こった出来事はとにかく面倒の一言に尽きる。
どうやらあのクソおやじが暗殺に絡んでいたらしく、ひと月の間に四回くらいの襲撃を受けた。
憲兵が何もしないことに腹を立てた赤城達によって大本営も渋々腰を上げたおかげで襲撃は少なくなった。
最も、俺が裏で襲撃者を半殺しにしたので追撃はない。
あれからより提督になるべく学問の多くを学ぶこととなり抜け出すことが難しくなる。
何度か脱走したが戻るとばれていて赤城に説教をされていることは記憶に新しい。
武蔵が赤城を説得して外に出る時間を作ったりと俺のサポートをしてくれる。
一つ、問題があるとすれば武蔵のスキンシップだ。
背後から抱き付くという事は前にもあったが、最近は正面から問答無用で抱き付いてくる。
俺も思春期を迎えてきているので勘弁してほしい。
二度目の思春期は昔と異なっている。ナニがとは具体的に語らないでおこう。
理屈で語れるようなものではない。
「パーティー?」
「はい」
部屋にやってきた赤城が伝えた内容に俺は困惑する。
何でもあのクソおやじから電話がかかってきて内容はパーティーへ参加しろというモノだったらしい。
「強制参加……艦娘一人、参加許可か、しかし、条件が細かいな」
年齢が近い娘、こちらが指定している子の中から選ぶことと細かい条件が付いている。
「……さて、面倒だな」
リストの中にいる艦娘に武蔵や漣はいない。
「なぁ、赤城」
「はい?」
「これ、荒れるんじゃないか」
「荒れますね。廉太郎がはっきりと誰かを選べば解決しますよ」
「……パーティー事態、参加したくねぇよ」
「無理ですね」
赤城の言葉を本気で否定したかった。
ちなみにパーティー参加者候補の艦娘は以下の通り。
空母翔鶴、空母蒼龍、重巡洋艦羽黒、重巡洋艦鳥海、軽巡洋艦大井、駆逐艦磯風。
「ほとんど、新入りで構成されているな」
「古参がいると困る事でもあるのでしょうか?」
「どうだろう?まぁ、付き合いのある大井がいるだけマシかな」
「では、大井さんを?」
「いや、勝手に決めてアイツに迷惑をかけるわけにいかない……全員と話してみる。勝手に決めて嫌がられるかもしれないからな」
「気を付けてくださいね。背後に」
「……怖いからやめてくれ」
脳裏で赤城に刺される光景が頭を過った。
それほどまでに彼女の目が怖い、気がする。
「(廉太郎が誰かに取られるくらいなら、いっそ)」
まずは空母にしておくか。
俺は翔鶴と蒼龍を探すことにする。
空母勢は弓を使うのでいつの間にか設営された弓道場にいることが多い。
ちなみに上記の二人は最近になってこの家へやってきた艦娘だ。
二人とも赤城指導のもと毎日鍛錬を続けている。
弓道場へ足を踏み入れるとカン!と乾いた音が響く。
「中にいるみたいだな」
コンコンと扉をノックして中に入る。
「すまない、翔鶴か蒼龍は」
「あ、あぶなーい!」
「っ!?」
慌てて扉を閉める。
ガコンと目の前に矢じりが現れた。
「!?」
絶句していた俺の前に慌てて扉が開いて水色の着物を着た艦娘、蒼龍がやってくる。
「ごめんなさーい!大丈夫ですか?廉太郎君」
謝罪してくる蒼龍、どうやら弓の練習で手元が狂ったらしい。
「いや、俺は大丈夫……次からは気を付けてくれ」
「はーい、ところで、どうしてここに?赤城さんならいないよ?」
「あぁ、赤城じゃなくて蒼龍に用事があったんだ」
「私!?え、なになに」
「実は」
(パーティーの件、説明中)
「へぇ、そんなのがあるんだ」
「一応、全員に聞いて回っているんだ……」
「全員でいくんですか?」
「いや、一人だ」
「……じゃあ、廉太郎君が決めてください!」
「俺が?」
「はい!」
蒼龍は微笑む。
「廉太郎君が決めたらきっとそれに従います!だから、私は任せます。廉太郎君の決断に!」
「わかった」
「次はだれの所に行くんですか?」
「翔鶴もいると踏んでここへきたんだが、みていないか」
「……翔鶴さんなら瑞鶴ちゃんと食堂に行きましたよ」
「わかった」
「なんだ、こりゃ?」
翔鶴を探して食堂の厨房へ足を踏み入れるとそこでは奇妙な光景が広がっていた。
「翔鶴姉!これ、忘れてるぅ!」
「お願い、私の事は放っておいて、瑞鶴ぅ」
厨房内をぐるぐると走り回っている五航戦という奇妙な図だった。
というか、瑞鶴の持っているあれって。
「あ、廉太郎!?」
「え、きゃああああああああああああああああああああああああ!」
顔を真っ赤にして瑞鶴の手から細い布のようなものをとって去ってしまう。
「なぁ、瑞鶴」
「なに?」
「翔鶴に伝言、頼まれてくれるか?俺が追いかけるとずっと逃げ続けそうだし」
「……うん、任せて」
(瑞鶴に説明中)
「いいなぁ~、翔鶴姉だけ~」
「機会があったら誘うから今回は我慢してくれ」
「うーん、そうだ!私と今度街に行こう!」
「……それって」
デートじゃねぇか!?
まぁ、いいか。
「わかった、今度な」
そういって食堂を後にする。
次のメンバーを探そう。
屋敷内をぶらぶらと歩いていると鳥海がすぐに見つかった。
何故か、俺の後ろにいたのだ。
「鳥海?」
「なぁに?廉太郎君」
「いつから、俺の後ろに?」
背中からドバッと嫌な汗が流れる。
気のせいか、鳥海の目が笑っていない気がするのだ。
何か、怒っているというか、獣のような目というか。とにかく油断したら俺の命がないような気がした。
「さっきからずっとです」
「すまん、気づかなかった」
「いいんです。私から声をかけるつもりだったので」
「そ、そうか」
顔を俯かせていて鳥海の素顔は見えない。
「そ、そうだ、実は鳥海に話が」
「パーティーのパートナーの件ですね」
「あ、あぁ」
「私は参加表明します。誰を選ぶかは廉太郎君が決めてください」
「わかりました」
「敬語なんてやめてください」
顔を上げた鳥海は素晴らしい笑顔でこちらを見る。
「私と貴方の仲じゃないですか」
逆らったら命がない。
そんな気がした。
残りの艦娘は後日。