体を起こそうとするとじゃらじゃらと鎖の音と共に痛みが走る。
「くそっ」
体を見ると鎖で雁字搦めにされていた。
服はさっきまでのものだが、懐に入っていたドライバーとロックシードがなくなっている。
あの力を警戒したうえでのことだろう。
「目が覚めたようだな」
首を動かして声の方を見る。
そこでは武蔵が立っていた。
けれど、俺の知っている彼女と異なる。
少し前まで接していた武蔵じゃない、生前に俺を捕まえようとしていた武蔵の目だ。
だが、わからない。
こいつがどうしてあの目をしている?
記憶が確かならあの日、俺が拒絶したからあぁなったわけで。
そうなる切欠をまだ作っていない筈だ。何があった!?
混乱している俺の前で武蔵は頬を触れてくる。
ぞわぞわと鳥肌が立つ。
「お前、どうして」
「廉太郎が悪いんだ」
武蔵は深淵のように底が見えない赤い瞳を向ける。
「俺が、悪い?」
「そうだ、お前が私達を置いていこうとするからだ」
「なんの、ことだ」
「教えてもらったのだ。お前が私達を見捨てて遠くへ行こうと」
「何を言っているんだ?俺は」
お前達に歩み寄ろうとしているのに。
そこから先の言葉を伝えても今の武蔵に届かないと俺は本能的に察してしまう。
言葉を失っている俺に頬を触れながら武蔵は言った。
「本当はみんなと一緒に……とも考えたが気が変わった。お前を独占する」
「独占、そんなことをして何になる!?そこに、そこに意味があるのか!?」
「お前がどこにもいかない」
武蔵の両手が俺の頬を掴む。
「お前が私の傍にいてくれるだけでいい、それ以外は何も」
またなのか?
俺の中でむくりと一つの感情が叫ぶ。
目の前の武蔵はあの時と変わらない。
どこまでいっても俺と彼女達は理解できないのだろうか。
理解することは無駄だったのか?
電の言葉を信じて、もう一度と考えてきた。
けれど、と。
目の前の武蔵を見ているとその願いはかなわない物だと思いそうになる。
何度も信じようとした。けれど、裏切られ続けた。
もう、
俺の感情に反応するようにロックシードが浮遊する。
目の前にやってきたロックシードが赤い衝撃を放った。
武蔵は吹き飛ぶ。
鎖がロックシードから放たれるエネルギー波で吹き飛んだ。
「……武蔵」
ゆらりと起き上がった武蔵と俺は対峙する。
右目がやけに疼く。
そのことを考えるよりも早く、武蔵が艤装を展開する。
「仕方ない、少し痛い目をみてもらうとしよう」
「ふざけるなよ」
そのまま手に掴んだロックシードを開錠しようと手を伸ばした時。
「覚悟のない力は暴走を生む、やめときな」
ぴくりと動きを止める。
視線を向けると鳴海壮吉が立っていた。
「アンタ」
「部外者か、すぐに失せろ、でなければ命がないぞ」
「撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだぜ?レディ」
「当然、敵を殲滅する覚悟など、当の昔からある!戦艦武蔵を舐めるなよ!」
「そうか、お前、艦娘か」
鳴海壮吉は懐から赤いLを模した機械を取り出す。
「変身」
『スカル』
装着した機械に黒いメモリを差し込む。
風と閃光と共に男は黒と銀の戦士となる。
「さぁ、お前の罪を数えろ」
「黙れ!」
骸骨を模した仮面の男が指を突きつけるとともに武蔵の主砲が火を噴く。
ひらりと躱すと黒い銃を取り出して発砲する。
「坊主、動くな」
「なに」
ドライバーを装着した俺に鳴海壮吉は言う。
「お前のその力、代償があるのだろう?そんなものを使うな。俺がこのレディの相手をするから少しでも逃げろ」
「でも」
「今のお前は揺らいでいる。自身の覚悟もないような奴が戦いに入るな」
鳴海壮吉の言葉に俺は何も返せなかった。
そう、返せなかったのだ。
俺は気づいたら背を向けて走っていた。
――また、逃げるのか?
すぐに動きを止める。
近くで鳴海壮吉と武蔵は戦っているのだろう。
もしかしたら武蔵は鳴海壮吉に。
「それでいいのか?」
頭の中で浮かんだ疑問をずっと繰り返し続ける。
そして、彼女の言葉が蘇った。
――「黒崎さんは一度、電の心を救ってくれたのです。そんな黒崎さんを支えたいのです。おもちゃとかそんな最低なことは思わないのです」
電は俺を支えたいと言っていた。
彼女に俺は救われた。
自暴自棄になりかけていた俺を。
そんな俺が同じように自暴自棄になっている武蔵を見捨てていいのか?俺が原因だというのに。そんなことがあっていいのか!?
「あっていいわけがない!」
俺は立ち止まる。
手の中にあるロックシードを見る。
コイツを使えば俺は確実に人外へ至る。
そうなっては、また元の木阿弥になってしまう。
視線を彷徨っていた俺はあるものを見つけた。
「これは……そうだ」
ドライバーを見て、俺は目の前の蔓へ手を伸ばす。
「ぐっ」
「逃さないぞ、逃しはしない!廉太郎ォォォォォォォ!」
スカルはスカルマグナムを撃つが武蔵はモノとせずに突き進む。
最強の戦艦といわれる彼女にスカルの攻撃は大した効果を見せていなかった。否、ダメージは蓄積されているのだが一つの感情に支配されている武蔵が気付いていないのみ。
スカルは拳をギリギリのところで躱す。
衝撃波が飛んでいく。
「とんでもない威力だな、艦娘っていうのは……」
獣のように暴れまわっていた武蔵が動きを止める。
ある方向を見たスカルは息を飲む。
ゆっくりと黒崎廉太郎が茂みの中から現れる。
「何故」
「俺は前に、逃げた」
驚くスカルの前で廉太郎は呟く。
「彼女達とぶつからず、怖くて逃げた」
独白は続く。
「逃げ続けていれば全て解決すると思っていた、でも、逃げても逃げても終わりは来なかった。ただ、溝は深まるだけだ。差し伸べられた手すら悪意があると思い続けてしまう。負の連鎖。でも、俺はここで変わる」
――変身するんだ。
手の中にある緑色のロックシードを開錠する。
『メロン』
「俺は今度こそ、彼女とぶつかり合う。彼女達と進んでいく。これが俺の覚悟だ」
手の中で錠前を回転させながら戦極ドライバーにはめ込む。
『メロンアームズ!天下御免!』
メロンアームズを纏った真紅の鎧武はメロンディフェンダーを構える。
「俺は罪を数えた……武蔵、俺はお前を止める!」
叫びと共に駆ける。
スカルの横を通り過ぎた。
武蔵が拳を繰り出す。
拳をメロンディフェンダーでいなして無双セイバーを放つ。
「ぐっ!」
主砲が斬りおとされたが武蔵はガシッと手を伸ばす。
みしりとアーマーごと掴まれた肩が悲鳴を上げる。
「廉太郎、廉太郎!廉太郎ォ!お前を、私はのものに!」
「武蔵、俺の、話を聞いてくれ!!」
反対側の主砲をメロンディフェンダーで弾き飛ばしてさらに距離を詰める。
「俺はお前を見捨てるなんてしない!もう逃げない!」
拳を無双セイバーで防ぐ。
衝撃を殺しきれず無双セイバーがはじけ飛ぶ。
「武蔵、俺はお前達の望むような提督になることはできない。それよりもやらないといけないことがある。武蔵、この世界はそう遠くない未来に異世界の侵略を受ける。それを阻止しないといけないんだ」
繰り出される拳がメロンディフェンダーを遠くへ飛ばす。
迫る拳を片手で受け止める。
みしりと腕が折れた。
「提督など要らない。私はお前がいればいいのだ!廉太郎、ともに来い!私の為に!!」
提督が要らない。
武蔵は廉太郎個人を狙っている。
ならば。
「武蔵、俺と来い!!」
変身を解除して廉太郎は叫ぶ。
眼前で武蔵の拳が止まる。
「……な、に?」
「俺は提督になることが出来ない、いや、ならない!だが、お前が俺と居たいならついてこい!武蔵」
「……いいのか?私はお前を」
「初めの俺なら逃げたさ。でも、今は違う。お前と歩み寄ることを決めた。だから、武蔵」
手を伸ばして武蔵の手を取る。
「お前が俺と居ようとするなら俺と来い。どんな結果になるかはわからないが、それでもいいなら、来てくれ」
武蔵は目を閉じる。少しして、目を開けて微笑む。
「私はお前と共に居たい。この気持ちに嘘はない。廉太郎、武蔵は廉太郎と共にある」
そういって彼女は廉太郎の手を取った。
「やれやれ、俺はお邪魔だな」
スカルはそういって変身を解除する。
武蔵を先に屋敷へ戻して、俺は鳴海壮吉と話をしている。
「それは?」
「ある森の果実をこのドライバーの力で精製した物……ロックシードと呼ばれる」
俺は懐からブラッドオレンジと先ほど見つけた果実で精製したメロンロックシードをみせる。
相良の言葉に嘘はないようでヘルヘイムの森の浸食は起こりつつあるということだ。蔓に絡まっていたヘルヘイムの果実。
あれを手に取って手にしたものがメロンロックシード。
何の因果かと笑いそうになったが力を借りた様な気がした。
武蔵と渡りえた。
「そう遠くない未来。この果実が脅威をもたらす危険がある。俺はそれを取り除くために戦う」
「ガイアメモリを抑制するドライバーと同じ力があるという事か。お前もある意味、仮面ライダーというわけか」
「は?」
仮面ライダー?なんだそれ?
「俺たち以外に素顔を仮面で隠し異形と戦う者達を街の者達は“仮面ライダー”と呼び始めた。お前もそれと同じだろう」
「どうだろうな。結果的に人を救う事に繋がるが、行動理由は自分のためだ」
「お前、帽子を被れば似合うだろうな」
「いきなり」
「ガイアメモリの件は俺に任せろ。お前は自分の道を迷わずに進め」
帽子をかぶりなおして鳴海壮吉は立ち上がる。
「女難があるだろうが、頑張るんだな」
ぽんぽんと俺の頭を撫でて鳴海壮吉は去っていく。
最後まで子供扱いしやがって。元の年齢に戻っても子供扱いしたら許さないぞ。
そんなことを思いながら俺はロックシードを懐にしまう。
「これからだ」
武蔵との関係にひと段落ついたと思いたい。
まだまだ問題は山積みだ。
ヘルヘイムの果実がこの世界にあった以上、戦いは避けられない。
腹をくくろう。
今度は迷わない、逃げない。
俺は。
「黄金の果実を手にする」
「そうはうまくいかないよ?黒崎廉太郎君、キミは黄金の果実ではない。この私の、戦極凌馬の力で進化するのだ。今度こそ、この私の手で人間が進化する。黄金の果実はそのために手にするのさ。人間というくだらない枠に戻させはしないよ?彼女達の望みを果たしてあげる為にもね?」
悪意は伝染する。ヤンデレという形で!
今回、メロンアームズをだしましたがこれから別のものをだします。
尚、次回から少し時間が進みます。
次回、彼らがでてくる!