嫌な予感が全身を駆け抜ける。
この感覚は間違いない、誰かが殺意を持って何かをしようとしている。
以前の体で何度も味わってきた感覚。
体が勝手に動いて机のドライバーとロックシードを掴む。
寸で止める。
飛び出したらどうなるか?
出来上がっていない体で戦えるのか。そんな疑問が浮かんでは消える。
こうして考えている間も外の戦闘は激化していた。
「とにかく、外に」
「廉太郎!」
扉を開けて廊下に出た所で弓を携えた赤城がやってくる。
「あか」
「今すぐ部屋へ戻ってください!一歩も外に出ることなく」
「ごめん」
心配してやってきたのだろう。
そんな赤城を通り抜けて廊下を走る。
先ほどから片目がおかしかった。
この感覚はありえない。
この体で起こり得るはずのないもの。
「どうなってんだ、一体」
俺は右目を隠す。
手で隠すとその部分は真っ暗になるはず、しかし、暗くなることはなく、右目は誰かの目を通して異形の怪物達を映し続けている。
全力で走っている俺は気づく。
目の前で広がる景色が段々と変化をしていく。
走る速度も上がり、体付きも子供から大人へ変わる。
気がつけば屋敷を抜け出して塀の前に来ていた。
「あ、なんだ、てめぇ?」
俺の姿に気付いた蜘蛛のような異形が顔を上げる。
傍では大破している武蔵の姿が。
「武蔵……」
口から洩れた声は嘗ての俺、大人になった低く怒りに震えたものだ。
本来なら彼女に嫌悪や憎悪しかないもののはずだった。しかし、電と接して、彼女達と向き合おうと考えたからか不思議と最初の感情は消え去り、彼女を傷つけた相手に苛立ちを覚えている。
よくみると武蔵の他に曙や不知火、他の艦娘の姿があった。
震える手でドライバーを装着する。
目の前の異形がインベスなのか、それに類似するものなのかはしらない。
深く考える必要があるのだろうが今はどうでもいい。
「ここまではらわたが煮えくり返ったのはいつ以来だろうか!」
『ブラッドオレンジ!』
頭上から裂け目、クラックが発生して血のように赤い球体が現れる。
ドライバーにブラッドオレンジロックシードをはめ込み、カッティングブレードを下す。
『ブラッドオレンジアームズ!邪ノ道、オンステージ!』
球体を頭からかぶり、変身する。
その姿は嘗て使用していた黒影やタイラントと違う。
本来の色とかけ離れているがこれの使用者は世界を救うために葛藤、翻弄されながらも誰かのために手を伸ばし続けた。
その戦士の名前は鎧武。
しかし、纏っている鎧武は俺の知っている姿と異なる。
真紅に近い姿にどろどろしている禍々しい力。
疑問を残しながらも俺は目の前の敵を殲滅することに意識を向ける。
「わけわかんねぇ、姿しやがって!」
近づいてくる蜘蛛の怪物へ太刀を一振り。
それだけで吹き飛ばされる蜘蛛の怪物。
仲間がやられた事でコウモリみたいな怪物が口を開く。
「驚きましたねぇ、貴方もドーパントですか?」
「違う」
腰の無双セイバーを抜きながら名乗る。
この名前を使うべきか悩んだが、俺は守る為に戦う。
今まで異なる自分に変わる為に叫ぶ。
「鎧武、アーマードライダー鎧武だ」
太刀を構えると同時に接近、コウモリの怪人は翼を広げて離れる。入れ替わるように蜘蛛の怪物が口から糸の弾丸を放つ。
それをギリギリで躱す。
無双セイバーの撃鉄を起こしてエネルギー弾を撃つ。
「ぐぺっ!?」
「てめぇは寝ていろ」
倒れた蜘蛛の怪人を一瞥して空のコウモリを睨む。
「貴方、何者ざんす!?」
「さっき名乗った」
武器を合体させてナギナタモードへ切り替えて、セイバーの側面にロックシードをはめ込む。
エネルギーを纏った刃を空中に向けて繰り出す。
コウモリ怪人はギリギリのところで躱した。
「本当に何者ですかぁ!?これは報告に」
「だから」
連結させていた武器を外して地面を蹴る。
「逃がさない、っていっているだろ!!」
叫びと共に繰り出した刃はコウモリの怪人を切り伏せる。
爆発と断末魔が空に響き渡った。
着地すると目の前に奇妙な細長い機械が落ちてくる。
「あ?」
機械を取ろうとすると目の前で四散した。
首を傾げる。
逃げようとする蜘蛛の怪人の背中に無双セイバーの光弾を撃つ。
「ぎゃぱぁ!?」
背中を爆発させて倒れる蜘蛛の怪人。
バックルのカッティングブレードを押して空に舞う。
エネルギーを纏ったキックを蜘蛛の怪人に叩きこむ。
爆発して四散する機械。
吹き飛ぶ人は頭を打ち付けて気絶する。
「これだけか」
ロックシードを閉じてバックルを外す。
その途端、しゅるしゅると体から熱と何かが抜けていく。
「あ、ダメだ」
気絶する。
瞼を閉じようとする力に抗えず俺は意識を手放す。
倒れた黒崎廉太郎へ武蔵は駆け寄る。
「……廉太郎、お前は一体?」
倒れた廉太郎は普段の十二歳前後の姿へ戻っている。
先ほどの凛々しい姿はなんだったのか。
そんな疑問を抱きながらも彼へ手を伸ばそうとする。
「ふむ、やはり彼はその力を使ったか」
「お前は」
つかつかと瓦礫の上を踏みながらやってくるのは一人の妖精。
ぼさぼさの髪を一まとめにしているが白いメッシュのようなものがあり、メガネをくいくいと手で押さえる動作を繰り返している怪しい妖精。
「しがない妖精だよ。それにしてもまさかここへきて数日足らずで変身か、やはり“彼”は“彼”ということだね」
「一体、何を」
「キミに教えてあげよう。彼の秘密を、そして……キミ達の事を彼がどう考えているかねぇ」
ニタニタと笑みを浮かべて話し始める妖精。
話を聞いていた武蔵の瞳から段々と光が消えていく。
武蔵は無言で立ち上がると廉太郎を抱えて離れる。
その姿を見て、妖精はにこりと微笑む。
「私の提案を断ったんだ。これくらいの罰ぐらいあってもいいよね?黒崎廉太郎君」
手の中に現れたワインを一口、妖精は離れていく。
最後のあれは一体なんなんだぁ