逆行した日から三日が経過した。
あれから様々な勉学をこなしている間に調べてみたが色々な驚きが待っていた。
まずは、俺の記憶する戦況と今の時代の戦況が大きく異なっていた。
深海棲艦に艦娘達は敗北を重ねており海域解放がうまくいっていないということ、これについては理由がすぐにわかった。
提督の指揮が杜撰、私利私欲に目がくらんでいる愚か者ばかり。はっきりいって海域解放よりも自身の昇進ばかりに目がいっている。
俺の記憶が確かなら優秀な提督ばかりで海域解放がかなり順調だったはずだ。
この違いに続いて驚いたのが艦娘達。
俺がいるこの屋敷、実家なのだが、前は赤城と武蔵だけだったのだが、前よりも多くの艦娘達が家で生活をしていた。
赤城の他に俺が出会ったことがない艦娘がいるという。
その艦娘達と近々面会することになっている。
最後に、俺の部屋に置かれていた物。
「……なんで、こいつがあるんだろうなぁ」
部屋の窓枠に腰かけて手の中にある機械を触る。
戦極ドライバー。
マッドサイエンティスト戦極凌馬が作り上げた人類救済のための装置。
そして、人類を滅ぼそうとした森の果実を精製したアイテム、ロックシード。
「しかし、みたことのないロックシードだな」
手の中で遊んでいるロックシードのナンバーは07。オレンジロックシードの筈なのだが、こいつはやけに赤黒い。
まるで。
「ブラッドオレンジか?でも、こんなものはなかったはず」
それにしてもナンバー07ね。
変身すれば鎧武みたいな姿になるのだろうか。
「葛葉、アンタは最後まで俺を救おうとしてくれたな……」
人外となった俺をなんとかしようと奮闘してくれたはじまりの男。
彼がいなかったら只の化け物として世界を壊そうとしただろう。
「それにしても、ユグドラシルが存在しないなんてどういうことなんだろうなぁ」
俺の記憶が確かならユグドラシルは既に存在していたはず。
ネットで調べてみたがヒットしなかった。
ユグドラシルが存在せず海域解放がうまくいっていない。
これだけのことで考えられる限り。
俺は逆行したわけじゃなくて、似た様な世界へ飛ばされたのではないのだろうか?
勿論、確証はない。
しかし、状況が俺の記憶と異なることから推測の一つだ。
とりあえず、俺がやることは複数ある。
一つはあの日の悪夢を回避する事。
この家を抜け出す事。
ヘルヘイムの浸食に備えること。
艦娘との仲をある程度改善する事。
最後に、クソおやじをぶっ飛ばす。
俺の目的としてはこれだな。
「さて、そろそろ」
「失礼するぞ、廉太郎」
ガラリと扉が開く。
振り返ると戦艦武蔵が立っていた。
にやりと彼女が笑う。
「あぁ、廉太郎、そろそろ訓練だ。迎えに来たぞ」
「そうか」
この時から武蔵は変にスキンシップをとってきていたがどうやら既に危険領域になりつつあったようだ。
抱きしめようとしてくる武蔵をやんわりと回避して廊下へ出る。
すぐに武蔵が追い付く。
体が出来上がっていないから色々と不便だ。
背後から抱きしめられる。
「離してくれ」
「ダメだ」
「自分で歩ける」
「私がこうしたいのだ」
普段の俺なら鳥肌が立つものなのだが関係修復のため我慢する。
「しかし、お前は少し変わったな」
「いきなりなんだ?」
「少し前まで従順な子供という印象だったのだがここ数日で戦士の顔になりつつある。何か衝撃的なものでもあったか」
人生逆行してやり直しています。
なんてことは口が裂けても言えなかった。
探るように見てくる赤い眼から逃れるために言い訳をする。
「少しでも成長してこの家から出ていきたいんだよ」
「そうか」
「……何にもいわないんだな」
俺の記憶が確かなら武蔵はこの時過剰な反応を起こしていたはず。
「なに、貴様がどこかへいこうというのなら私はついていくのみだ」
「ついてくること確定かよ」
「当たり前だ。お前は我々の全てだ。何があろうと共にいるぞ」
「俺がお前達といることを望んでいなかったら?」
「……それは、悲しいな」
メガネの奥で悲しそうに瞳を揺らす。
小さな罪悪感が生まれる。
「冗談だ。忘れてくれ」
「では、この武蔵と約束してもらおう」
「……約束?」
後ろから強く抱きしめられる。
柔らかい感触と心臓の鼓動のような音が聞こえてきた。
「何があろうと我々を見捨てないと……共に歩んでほしい……それだけでいいんだ。私達はお前にいて欲しい」
縋るような言葉。
嘗ての俺なら否定していただろう。
彼女達はクソおやじと交わした契約があるからこんなことをいってくる。
俺という存在を見ておらず、ただ、契約履行の為にこんなことをいう機械だと。かつては考えただろう。
だが、あの少女との出会いが、触れた温もりが俺の間違いを正して、本当の愛というものを教えてくれた。
だから。
「善処するよ」
「……本当か!?」
強く抱きしめられていて後ろを見れないからわからないが声からして武蔵はかなり喜んでいる。
「絶対はいえない……可能な限り約束は守るさ」
「そうか!任せろ!」
何を!?
嫌な予感がむくむくと膨れ上がるがそんなことを考える間もなく武蔵に道場へ連れていかれた。
薄暗い酒場。
そこで二人の男性が会話をしていた。
「本当にここを襲撃するだけで一億なんだな?」
「嘘はいわんさ。ただ、あそこにはとんでもない兵器がわんさかいる。そいつらが邪魔でね。潰してくれればいい」
スーツを着た男がガラの悪そうな男へ話す。
「襲撃する際、コイツを使えばいい」
「なんで?この棒きれは」
「超人に変えるアイテムさ」
「は?超人」
「あそこの兵器はとんでもないといっただろう?拳銃やナイフで歯が立たない。そこでこれの出番さ。こいつがあればあいつらを辛勝といわず良い戦いを繰り広げられる。後は使い手次第というところになる」
「へぇ」
細長い機械のアイテムを男は受け取る。
側面にはSという文字が記載されていた。
「とにかく、あの屋敷を襲撃して黒崎廉太郎という人物を抹殺してくれればいい。それが叶ったらさらに一億上乗せしようじゃないぁ」
「その言葉に嘘はないな?よし、やってやる!」
機嫌をよくした男はさらに酒を飲み始める。
隣にいたスーツの男は頼むぞ、といって立ち上がる。
酒場から出た所でやってきた車に乗り込む。
「悪く思うな、クソ息子。お前は存在していることが迷惑になりつつあるんだ。ま、父親の為にその命を散らしてくれ」
スーツを着た男は笑みで顔を歪めながらシートへ深く腰掛ける。