油断したら艦娘に拉致されました   作:断空我

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16.隠された真実

目を開けると赤城の顔がドアップにあった。

 

「!!」

 

息を飲んで後ずさろうとしたが首の痛みで動きを止める。

 

「全く」

 

溜息を零しながら赤城は黒崎の頬を掴む。

 

「愚かなことをしましたね。私達から本気で逃げられると思っているのですか?」

 

「…そう思わなきゃ、こんなことはしない」

 

「どうして、私達を拒絶するのです」

 

「どうして、俺以外を求めない?」

 

逃げないように赤城が黒崎の体を抱きしめる。

 

「この温もりです」

 

「なんだと?」

 

「私達は人間でも艦のどちらでもない。中途半端なんですよ。最初は機械みたいに敵を殲滅するはずだった…それを変えたのが貴方です」

 

「……それは」

 

「無邪気なあなたは私達と家族のように接してくれた…そんなことをしてくれたのはあなただけなんですよ…だから、欲しい」

 

「俺をモノのように扱っていてか?」

 

「貴方が逃げるからです。拒絶するも、受け入れるもしない。どちらもしないから私達は徹底的に追いかける。逃がしはしません」

 

「……今の俺ならはっきりと答えられるよ。お前達を拒絶するってな」

 

「そういうと思いました…でも、それなら覚悟はできています」

 

赤城は少し離れると懐から小刀を取り出す。

 

儚げな表情のまま赤城は自らの心臓を刺そうとした。

 

その手を黒崎は止めていた。

 

無意識のうちに、止めていたのだ。

 

「ほら」

 

わかっていたように赤城はその手を掴む。

 

温もりが黒崎の手に伝わる。

 

「貴方はどっちつかずなんです。だから…私達は」

 

――貴方を求めてしまう。

 

今まで否定した言葉。

 

少し前の黒崎なら迷わず否定できただろう。

 

しかし、それを、できなかった。

 

黒崎廉太郎は赤城達を拒絶できなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤城が外へ出ると待っていたように武蔵が立っていた。

 

「どうだった?」

 

「拒絶、されなかったわ」

 

「……そうか」

 

武蔵はキセルを口から離しながら天井を見る。

 

「変化か」

 

「貴方はどう思うの?」

 

「良い方向なら認めるさ。悪い方向なら断固阻止する…なにより」

 

悲しそうな顔を武蔵は浮かべた。

 

「私達は立ち止まれない…もう、そこまできているからな」

 

「……じゃあ」

 

「大本営は気づいている。いずれ、何か行動を起こすだろう」

 

「……みんな、ばらばらになるのでしょうか?」

 

「させんよ。それだけは絶対に阻止する…あんな連中にこき使われるのはもううんざりだ」

 

武蔵はそういうと離れていく。

 

「あぁ、連中に廉太郎が戻ってきたことを伝えておいてやれ」

 

「吹雪さんなどは喜ぶでしょうね」

 

「暴走しようものなら雲龍と妙高に任せよう。アイツの監視は白雪と霞の二人だ」

 

「わかりました…ところで、あの娘は?」

 

「姉妹の元へ返した。廉太郎に会いたがっていたがしばらくはダメだ」

 

「まさか、あの子を選ぼうとするなんて」

 

「我々が失ったものをあの艦娘は持っていた。それだけのことだ」

 

振り返らずに離れていく。

 

赤城はそんな武蔵の背中を見てから、もう一度、黒崎のいる部屋を見た。

 

「……私達はもう、止まれないんですよ。あの日から」

 

黒崎廉太郎という存在の味を染めてしまった日から武蔵、赤城達は道を決めた。

 

欲するという事を知った彼女達は止まらない。

 

止まれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

繰り出された拳を黒崎は受け流す。

 

「ほう」

 

驚いた声を出しながらも長門は攻撃の手を緩めない。

 

「どうやら人外になったということに嘘偽りはないようだな」

 

「満足したか?」

 

数十分に及ぶ拳のやり取りに辟易しながら黒崎は尋ねる。

 

「少し前なら優位に立てたのだが…残念だ」

 

「カカァ天下は過ぎ去ってんだよ」

 

「もう、長門も気が済んだでしょ?」

 

長門の傍に控えていた艦娘、陸奥がやれやれといいながら黒崎の傍へ腰を下ろす。

 

「何だ?」

 

「火遊びしにきたの」

 

「自爆しろ」

 

「つれないわね」

 

陸奥の態度に黒崎は変わらない。

 

先ほどから同じやり取りが繰り返されているのだ。

 

横に長門が座る。

 

「陸奥ばかりかまうな。私にも手を出せ」

 

「永遠に寝ていろ」

 

「本当につれない態度だな」

 

「言ってろ…外に出るから離れろ」

 

「どこへいくのかしら?」

 

「トイレだ」

 

「ふむ、私も」

 

「このチョーカーは発信機も兼ねているんだろ?だったらついてくる必要はないだろ。その時間ぐらい待っていられないのかよ」

 

「そうよ。少しくらいは我慢しましょ」

 

「…仕方あるまい」

 

二人から離れて黒崎は外へ出る。

 

トイレへ向かうと思いきやその足は執務室へ向かっていた。

 

「…グッ」

 

執務室へ向かう度にチョーカーの電撃が流れる。

 

本来なら気絶するほどの威力だがオーバーロードへ至ったことから大したダメージではない。

 

――痛みは続くけれど。

 

段々と呼吸が荒くなりながらも黒崎は扉を開ける。

 

ギィィィィと錆びついたような音を立てながらも中へ入る。

 

そこにあったものをみて、黒崎は息を飲んだ。

 

 

「…これは」

 

執務席から豪華な絨毯にべっとりと赤い色が付着していた。

 

残り香からそれが血の臭いだと察する。

 

ユグドラシルを狙う敵や半分インベスとなった人間を始末してきた黒崎だからこそわかったものだ。

 

「…これだけの量だ…生きていないだろうな」

 

「うん、すでに死んでいる」

 

背後から聞こえた声に黒崎は振り返る。

 

そこにいたのは雲龍だ。

 

「雲龍…お前、ここで何があったのか知っているのか」

 

「知っている」

 

「…教えてくれ。この血は…」

 

「廉太郎の、予想通り。これはここにいた提督のもの」

 

「…殺したのか?」

 

「そうしないと、私達が死んでいた」

 

「……そうか」

 

「廉太郎、わかって、いた?」

 

「予想はできていたさ。用意された死体。艦娘達がおかしなことをしているのに姿を見せない提督や、憲兵…こんなケースは想像したくなかったけどな」

 

目の前に広がる血や銃の弾痕。

 

それだけで、黒崎は此処で何が起こったか予想できた。

 

できてしまっていた。

 

「艦娘による暴動か」

 

「…正解、でも、ここの提督は、最低、だった」

 

雲龍の言葉と目でどれだけこの提督が最低なのか理解できた。

 

おそらく、ここは近年、話題となっているブラック鎮守府だったのだろう。

 

ちなみにブラックだからと言って全てが悪いわけではない。

 

無理な進軍があったとしても、食事や補給などはされているグレーの鎮守府だってある。

ようはそこに属している艦娘達がどう判断するかだ。

 

「夜伽の相手を求められたこともある…その時は腕をへし折った」

 

どうやらこっちの提督は最低の人種だったようだ。

 

後ろから雲龍が抱き付いてくる。

 

「私の純潔は廉太郎、のもの」

 

そういって抱き付いてくる雲龍は黒崎を捉えて離さない。

 

ここで拒絶しても雲龍はさらに押してくる。

 

そうしたら、逃げることはできない。阻止するために話を推し進めた。

 

「じゃあ、この鎮守府の運営は」

 

「…敵を潰すことはやっている。それ以外は何もしない…だって」

 

雲龍は囁くように言う。

 

「大本営も機能していないから」

 

 




あと、数話くらいで話が終わるかな?


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