十二年前、
幼い少年が暗い夜道を走っていた。
服が所々敗れながら、後ろを何度も振り返っている。
その顔は恐怖で染まっていた。
ガサガサと小さな音がすると激しくびくついている。
荒い息を吐いていた時、頭上から聞こえてくるプロペラ音。
顔を見上げると艦載機がぐるぐると回っている。
「みつか」
「その通り」
背後の声に振り返ろうとした時、ぎゅっと抱きしめられる。
足が地面を離れて宙に浮く。
振り返ろうにもしっかりと密着されている。
「全く、我々から逃げようとするなど愚策だな」
「は、離して!」
「いいや、離さないさ」
より強く密着されて少年は恐怖する。
「わかっているはずよ」
別の所から音がして別の女性がやってきた。
「そう、貴方を逃がすつもりなんてない」
少女も現れる。
「そもそも逃げることが愚かなのよ。アンタを手放すつもりなんてないから」
自分と同じくらいの少女も現れる。
「忘れないでくださいね」
「………廉太郎は、私達の」
六人はそういって、少年の――
「っ!!」
全身に冷や汗を流しながら黒崎廉太郎の意識は覚醒する。
嫌な夢を見たと思い、体を起こそうとして動きを止めた。
加賀が自分を見下ろしている。
その目は酷く、冷たい。
「…目が覚めたのね」
「あぁ、最悪の目覚めだ」
「痺れ薬を飲まされたかしら?それとも」
「お前がいるからだ」
黒崎は精神的に参っていた。
赤城に襲われ、さらにあの夢をみた。止めとばかりに自分を見ている加賀。
――もう、うんざりだ。
籠の中の鳥。
実験動物にされている気分。
監視されている。
蓄積されていった疲労が怒りに変換されて爆発した。
「私?」
「あぁ、そうだよ。俺はお前達艦娘が大嫌いだ!なんで俺に付きまとう、どうして俺の人生を滅茶苦茶にする!もうたくさんだ!俺はお前達なんか必要としていない!」
積もった怒りは止まることを知らず、目の前の加賀へぶつける。
「俺はもう、お前達の事なんかみたくない!!」
拒絶の言葉をぶつけられた加賀は表情を変えない。
「そう」
「出ていけ!!」
近づこうとした加賀の手を振り払う。
ショックを受けた様な表情の加賀は後ろへ下がる。
「……それが、貴方の答えなの?」
「うるさい!」
とうとう、子供のように叫んで黒崎は言う。
「失せろ!!」
しばらくして加賀は部屋から出ていく。
残された黒崎は床へ座り込む。
後からやってくる自己嫌悪。
――加賀が悪いわけじゃない。
全てはあの日、選択を誤った自分が原因だ。
尾を引いて今も追いかけている。
「クソッ…俺は」
黒崎廉太郎の実家、黒崎家。そこは由緒ある名家でありさらにいえば現在、深海棲艦と戦う艦娘達を“見つけ”出した家でもある。
先代、黒崎の父親が提督として艦娘達を指揮して深海棲艦の上陸を阻止し続けていた。
そして、息子である自分もいつか提督として艦娘達を率いることとなる。教え込まれていた廉太郎はそのつもりだったし、小さいころから触れ合っていた艦娘達のためにやるつもりだった。
それがおかしくなったのはいつだったか。
切欠は今でもわからない。
ある日、艦娘の一人が父親と契約を交わした。
その契約の内容を偶然にも息子たる自分が知ることが出来た。
内容があまりに人の意思を無視したものだ。
怒りよりも恐怖が勝り家から飛び出した。けれど、失敗した。
そう、失敗したのだ。
六人の艦娘。
黒崎家にいて、家族のように接してきた艦娘達が廉太郎を連れ戻した。
それからが恐怖の時間だった。
体に刻まれた恐怖は今も残っている。
表面上はなんとか取り繕っているが赤城達を前にするだけで震えて動けなくなりそうだった。
「くそっ、最悪だ」
この気分のまま昔のことを思いだし、余計に暗くなる。
その時だ。開いている扉から一人の男が姿を見せた。
「おやおや、搾りかすになっていると思っていたが意外と元気そうだね」
「…!?」
扉の向こうからやってきたのはなんと、戦極凌馬だった。
「戦極、凌馬?」
「久しぶりだねぇ、黒崎廉太郎君」
彼はニコニコとベッドへ腰を下ろす。
立ち上がって相手の顔を見る。
「どうやって、ここに」
「この程度のセキュリティーなら突破することはたやすい。まぁ、時間が少ないんだけどね」
「何の用ですか?」
「取引だ。黒崎廉太郎君」
戦極凌馬は手にあるアタッシュケースをちらつかせながら言う。
「ユグドラシルタワーへ戻りたい。キミの力を貸してくれ」
「俺の力?そもそもタワーへ戻るなら」
「閉じ込められているキミは知らないだろうから現状を教えてあげよう」
戦極凌馬から伝えられた内容は衝撃のものだった。
ヘルヘイムの森。
そこには先住民といえる者達がいた。
オーバーロード。
彼らはヘルヘイムの持ちの力を自由に扱える。ユグドラシルはオーバーロード捕獲作戦へ乗り出したが失敗。
それどころかオーバーロードによってユグドラシルタワーが占拠された。
街は事実上閉鎖されているらしい。
「どうして、ユグドラシルタワーへ戻ろうと?」
「研究資料…そして、最大の目的があるのさ」
「……最大の目的?」
「それはキミの知らなくていいことさ…ところで、協力してくれるのかい?拒否するかい?できるならキミの力を借りられるならありがたいところなんだけど」
この話は渡りに船だ。
戦極凌馬が何かを企んでいるのはわかる。けれど、ここから抜け出せるのなら協力するのもやぶさかではない。
「わかった、アンタをユグドラシルタワーまで護衛すればいいんだな?」
「引き受けてくれるかい?助かるよ…そんな、キミにプレゼントだ」
持っていたアタッシュケースを開く。
そこにあったのはゲネシスドライバーとエナジーロックシード。
「…これは」
そのドライバーとエナジーロックシードに見覚えがあった。
某国の王子がやってきた際にアーマードライダーバロンと戦った男が使用していたものだ。
異なるのはドラゴンフルーツエナジーロックシードにナンバリングが施されていることだろう。
「俺を実験動物にするつもりですか?」
「安心したまえ、これはちゃんと調整を終えているよ。あんな私の研究を金目当てにするような奴が使う様なものと異なる」
「……信じておくことにします」
「さて、ここからでようか…」
「しかし、この首輪が」
「ふむ」
黒崎につけられている首輪を見ていた戦極凌馬は道具を取り出して弄る。
しばらくして音を立てて首輪が落ちた。
「これで、問題ないだろう?監視カメラは既に偽の映像を流してある。のんびりと外に出てもいいけれど、時間が惜しいから搭載した光学迷彩で抜け出そう」
「わかりました」
『レモンエナジー!』
『ドラゴンフルーツエナジー』
「変身」
「…変身」
ゲネシスドライバーにエナジーロックシードをはめ込んで変身する。
黒崎が変身した姿は嘗て某国の執事が変身したタイラントの姿と酷似していた。
異なる点があるとすれば胸部にエンブレムが刻まれているという事だろう。
「このエンブレム。
「私がデザインした。中々のものだろう?」
「まぁ…はい」
相変わらず彼の美的感覚は素晴らしいと思わずにいられなかった。
「さ、行くよ」
彼に促される形で外へ出る。
その際、思い出したように戦極凌馬が黒崎廉太郎へ告げる。
「キミのその姿は…名前を付けるならタイラントリペアってところかな?」
「名前はいいですよ。それで、車などは」
「黒影トルーパーの部隊が放置した車両がある。それでいく」
「わかりました」
二人のアーマードライダーは外へ抜け出す。
目的地はユグドラシルタワー。
一人は己の野望のため。もう一人は今いる場所からの逃走。
目的は違えど利害の一致から二人は行動を共にする。
黒崎廉太郎が逃げ出した。
その報告を聞いて一人の艦娘が彼のいた部屋へ足を踏み入れる。
灰色の髪に露出の多い格好。
かけているメガネの奥は鋭い瞳。
「ふむ、第三者の手を借りて逃げ出したようだな」
「ごめんなさい。私のミスだわ…まさか、首輪を外されるなんて」
傍で謝罪する赤城に彼女は問題ないという。
「お前の事だ。アイツの体内に発信機を仕込んでいるのだろう?」
「えぇ」
「ならば、問題ない。奴はどこへいこうと我々の手から逃れることはない…そう、必ず取り戻す」
傍に置かれていた機械を握りつぶして彼女は笑う。
「待っていろよ。廉太郎。どこへ逃げようともこの武蔵が貴様を見つけ出して…そうして、抱きしめてやる。お前は私の愛しい存在なのだからな」
「当然、武蔵も行くのなら私も行きます」
「廉太郎は、私達のもの」
「…妙高に雲龍か」
「私達六人で必ず連れ戻しましょう…そして」
「あぁ、あの日の約束を果たしてもらおう」
武蔵の言葉に全員が頷く。
赤城、妙高、霞、白雪、雲龍、そして武蔵。
あの日の約束を果たすべく、逃走した彼を捕まえる為。
最高練度の彼女達は出撃する。
全ては黒崎廉太郎を捕えるため。
まさかのユグドラシルタワー突入に黒崎君参戦。
鎧武要素を出したいところから話に参加させることにします。
今回、タイラントにしました。
殆どの人が黒影・真を想像していたでしょう。ですが、あれはユグドラシルタワーにあります。
なので、変身できません。
なんで、ゲネシスあるんだよという質問はなしで。