「はー、今すぐ逃げ出したい」
黒崎は鎮守府のある一室にいた。
部屋でくつろいでいた所、長門に呼び出され、理由も話さずここへ通されたのである。
「…それで、いい加減、俺をここへ呼んだ理由を教えてくれてもいいんじゃないか?」
「しいて言えば、遠征組が帰ってきたからお前にあってもらう」
「遠征?」
「鎮守府の資材は有限だ。それを収集、調査することを目的とするのが遠征だ」
「へぇ、その遠征組が戻ってきたのか」
「そうだ。中々、お前に会うことが出来なかったことで楽しみにしているのでな。こういう場を設けた」
「ふーん、ま、どうでも」
ガチャリ、
どうでもいいと言おうとしたところで扉が開く。
入ってきた人物を見て、黒崎は硬直する。
何故ならやってきた六名のうち見知った顔があったのだ。
硬直していた黒崎へその人物は微笑むと挨拶をする。
「霞よ。久しぶりね。廉太郎」
「初雪です。お会いしたかった…廉太郎さん」
霞と初雪。
あの頃と少し姿が変わっているが見間違えるわけがなかった。
動けない黒崎を二人は微笑んでみていた。
続いてやってきた四名が控えめながらに挨拶する。
「初霜です!よろしくお願いします!」
「弥生です。よろしく」
「深雪だ!よろしくな!」
「軽巡、神通です」
「このメンバーが遠征組だ。中々、こちらへ戻ってくることが少ないから仲良くしてやってくれ」
「そういうことよ」
「また、お会いできて、本当に嬉しいです」
長門の言葉に霞と初雪が抱き付いてくる。
拒絶しようにも羨ましそうに見てくる四人をみて黒崎は動きを止めた。
全身に鳥肌が立つ、それを我慢しなければならいことは苦痛だった。
「ン、満喫よ」
「久しぶりに気分が高まります」
霞と初雪が離れる。
「それじゃあ…」
「失礼します」
初霜と弥生が抱き付く。
「あー、ワタシも参加するぜ!」
左右に抱き付いた二人に対して深雪は黒崎の後ろから抱き付いた。
しばらくして、彼女達も離れる。
残った神通はそれとなく断った。
流石に年上の自分が抱き付くのも恥ずかしいと思ったのだろう。
「これでいいのか?」
「あぁ、さて、部屋へ戻ってもらおうか」
長門にいわれて黒崎は部屋へ向かう。
去り際に霞と初雪の二人が抱き付いて囁いた。
「これからアンタと一緒にいられると思うなら幸せよ」
「毎日が楽しくなりそうです」
「あ、あの…大丈夫ですか?」
外へ出たところで神通がおずおずと話しかけてくる。
「神通だったか?あぁ、大丈夫……といいたいな」
「無理はなさらないでください。その心配、しますから」
「どうも」
おずおずと話す神通の言葉に黒崎は軽く返す。
神通はきょろきょろと周りを見ていた。
「その、黒崎さん、と呼んでもいいですか?」
「どうぞ。名前で呼んでも構わないぞ」
「そ、それは、その、は、恥ずかしいので」
「恥ずかしがり屋なんだな」
「うぅ」
顔を赤らめる神通を見て黒崎は小さく笑う。
少し、楽しかった。
息抜きともいえる。
黒崎は神通を見る。
見下ろすと神通と目が合う。
「その、これからもよろしくお願いします…ね、黒崎さん」
「あぁ」
「疲れた」
黒崎に許された時間、銭湯。
そこで彼は湯船に体を沈めていた。
日本人だからというわけではないが黒崎は銭湯が大好きだった。
長い時間はいることで体の疲れが取れる。
この時間が幸せだった。
最近、黒崎は一人になれない。
朝から夕方にかけて必ず艦娘が傍にいる。
夜、睡眠時間は最近、眠れないという事で吹雪が押しかけてきていた。
流石にシングルベッドで二人は無理があるが、泣いている女の子を追い返す勇気はない。
これが原因かもしれないが仕方のないことと割り切る。
故にこの銭湯の時間が黒崎にとって憩いの時間となっていた。
この日までは――。
「失礼します~」
ガラガラと開いてニコニコ笑顔の白雪が入ってくる。
絶句している黒崎を横に白雪は一糸まとわぬ姿でシャワーを浴びて湯船へ侵入してきた。
「ふぅ~、気持ちいいですね」
白雪はニコニコと黒崎の隣へ近づこうとした。
黒崎はそくささと離れる。
しかし、彼女は気にせずに近づいてきた。
「離れろ」
「嫌です。いいじゃないですか“昔”はこうやっていたんですから」
笑顔のまま白雪は離れようとしない。
昔と変わらない彼女の姿に抵抗したかった。
しかし、そうすることは許されない。
「断るなんてことはしませんよね?廉太郎さんはいつも私に優しい。何があろうと拒絶しない。嫌がることもあるかもしれません。でも、最後は私を受け入れてくれる。そうですよね?」
ハイライトが消えた目で黒崎を見る白雪。
ここで完全に拒絶すれば終わるだろう。
勿論、自分の命が。
黒崎は裸だろうと艦娘に勝てる気がしなかった。
特にあの六人には。
「そういえば、廉太郎さん」
抱き付いたままだった白雪が顔を上げる。
「最近、吹雪ちゃんと仲が良いみたいですね?」
「……」
光が消えた瞳が黒崎を捉えて離さない。
「まぁいいです。大事にしてあげてくださいね?私の大事な家族の一人ですから」
「……仲良くはするさ…今は」
いずれ逃げ出すつもりの黒崎は長く居るつもりはない。
何があろうとここから逃げ出す。
例え…。
「あぁ、黒崎さんは優しいですね。本当にやさしい…だからこそ、ずっとそばにいてほしい…何があろうと私は」
白雪の言葉は湯が流れる音でかき消された。
六人のうち二人が発覚。