SAO ~ソードアークス・オンライン~外伝 The・Start-前日譚- 作:羽山飛鳥
始まりの出会い ~The beginning of the meeting~
ナベリウス森林エリアの外れ、原生種「ガルフ」の群れに囲まれた。
二人のアークス候補がそこにいた。
一人の格好は白いトレンチコートに身を包み、サングラスを付け、帽子を被っている。その格好はまるでマフィアのそれだ。両手には自在槍<ワイヤードランス>
もう一人の格好は黒いズボンに白い長袖のパーカーを着ており、一見するだけでは一般人のように見える。左手には抜剣<カタナ>
アークスにすらなっていない見習いだけでは本来ならば対処できない状況。普通なら諦めるだろう。
"普通"なら
「ピンチだな」
「そう言いながら笑ってる様に見えるんだけど?」
「そりゃあんたもだろ?」
「あら、バレた?」
しかし、囲まれている二人は諦めた雰囲気もなく、それどころか楽しそうに笑みを浮かべている。
徐に一人がもう一人に話しかけた。
「こんな状況で何だけど、名前聞いてなかったな、俺はオキだ。あんたは?」
「今更な自己紹介だな…ハヤマ、よろしく、オキさん」
「…んじゃ自己紹介も終わったし、背中預けるからな?はやまん」
「は、はやまん?…まあいいや、お互いに、ね」
「「いくぞ、遅れんなよ!」」
---これは、彼らの、全ての始まりの物語。
SAO-ソードアークス・オンライン-
外伝
The・Start-前日譚-
---A.P.237 11/25 12:00
惑星ナベリウス森林
アークス士官学校演習区域外れ
「やっばいなぁ、思ったより外れた場所まで来ちゃった。アザナミさんに連絡入れたほうがいいかねぇ…もしもし」
アークスになる為の士官学校で利用されている森林エリアの外れに俺はいた。
いや、フィールドワークをしてたら気がついたらここまで来ちゃってたわけで…
今回マップ機能無しでの探索だっていうのにそれをすっかり忘れてたのはまずかった。
いやしかし、これは将来的に必要なことでだな…冷静に対処をする為の…
内心言い訳しながら、俺は自分の訓練教官のアザナミさんに連絡を入れる。
『はいはい、こちらアザナミだよー、ってハヤマ君かい?どうしたんだい、今はフィールドワークの最中だろう?』
「それなんですけど、どうも演習区画の外れまで来ちゃったみたいで…フィールドワークに集中しすぎたのか、戻り道判らなくなっちゃいまして…今回マップ無しでの探索だったのすっかり忘れてまして…」
『あらら…それで連絡してきたわけか、オッケー、ちょーっとまってね座標確認するから………あー、ちょっとまずいかな』
アザナミさんは少し険しい声でそう言った。
「まずい?」
『その辺、今日はフォトンがちょっと乱れてて原生種がいつもより凶暴になってるみたいなんだ…で、入れないようにバリケード張るように言われてたんだけど、どうやら抜けがあったみたいだね』
「うわ…本当ですか?」
『どうやらバリケードはもう張られちゃってて戻ることもできそうにないね…かと言ってフォトンの乱れのせいですぐにテレパイプ出せないみたいだし…今からマップ送るから指定した座標まで向かってもらっていいかな?そこならテレパイプ出せるっぽいんだ』
「本当ですか!助かります」
よかった、ひとまずなんとかなりそうだ。
『見たところハヤマ君以外に同じく規制区域の方に行っちゃってる人が一人いるらしいから、合流して行動したほうがよさそうだね。こっちから救援に向かうにも直ぐには向かえなさそうだから、ひとまず座標に向かって、戦闘になる可能性があるから常に警戒を怠らないこと、とにかく気をつけるように!戦闘に関してはハヤマ君は普通に新人アークス並に戦えるから、大丈夫だとは思うけどね』
「規制区域ですからね、わかりました。もう一人と合流、それと戦闘準備ですね」
『通り道の所でいるみたいだから合流自体は楽なはずだよ、ひとまずこっちも準備するから一度切るね、無茶はしないように!』
「了解!」
アザナミさんとの通信を終え、俺は指定された座標に向かうのだった。
出会いの章
Chapter of the encounter 1
始まりの出会い
~The beginning of the meeting~
「たしか、もう一人がこのあたりにいるって話だったけど」
指定された座標に向かう道中、例の規制区域に入り込んだ候補生を探しながら進んでいた俺は、周りを見渡しながら進んでいた。幸い辺りは見渡しがよく、探す手間は省けそうだ。
その時
-ガサッ「!」
道の隅にあった草むらが揺れた、直ぐに持っていた武器<カタナ>を構えて戦えるようにする。
「原生種か、こいつはたしかウーダン…」
出てきたのは薄茶の毛並みの猿「ウーダン」、原生種の中では弱い部類だが、油断はできない。
「ギャギャ!」
ウーダンが飛び掛るように蹴って来た。それに合わせて後ろに下がる。
次に右からの大振りの攻撃、隙ができた!
「--シッ!」
ウーダンの動きに合わせて右から真横をすり抜ける様に背後に回り込む、ウーダンは咄嗟の事に対処できず右往左往する
「おらぁ!」
-シャッ、シャッ、ザンッ!
すかさずカタナを素早く振いウーダンを切り刻む、背後から無防備な状態で切り刻まれたウーダンは前のめりに倒れ、そのまま消滅した。
「ふぅ…一人で実戦は初めてだから緊張したけど、何とかなったかな」
今までアザナミさんや、ほかの教官がいる状態での戦闘しかしていなかったので不安だったがうまくいって良かった。
しかし
「ギャッ!」「--しまっ!?」
気が緩み過ぎていた俺はもう一体のウーダンに気が付けなかった、やられる…!
せめても防御しようと構えた、その時
「油断しすぎじゃ…」
--ヒュッ「ギャッ!?」
「ねぇ…かなっとぉ!!」
ドッガン!!
横から突然ワイヤーが伸びてきて、飛び掛って来たウーダンを捕らえたかと思うとそのまま振り回され地面に叩きつけられた。その衝撃でどうやら息絶えたようだ。
「よぉ、あんた。大丈夫か?」
声をかけられた方を向くと、そこにいたのは白いトレンチコートを羽織り、帽子を被り、サングラスをかけた、まるでマフィア見たいな風貌の男だった。その両手にはウーダンを倒すのに使ったであろう武器<ワイヤードランス>が握られていた。
「……マフィアの方ですか?」
「んなわけあるかっ」
「ですよねー、となるとあなたが例の候補生?」
「…ん?例の?」
「実はですね………」
---説明中---
「なるほど、確かに今日は妙に人気が無いとは思ってたが、規制区域だったとはな」
「教官に確認連絡したら、どうやらバリケードが十全じゃなかったみたいで、俺らはたまたまそこを抜けてきちゃった見たいなんですよ」
先に進みながら、俺は合流した候補生の人に事情を説明する。
「普段のフィールドワークだと、俺はあの辺よく散策しててな、慣れてたからって来たんだが、まさかそんなことになってるとは…」
見た目は怖いけど、普通にいい人みたいだ。
「…所で、あんたが使ってるその武器<カタナ>だろ?噂の試運転のクラス<ブレイバー>の武器の一つ、俺らの代の候補生に試運転依頼受けてる奴が居るって話は聞いてたが…使い勝手はどんな感じだ?」
彼は俺が腰に下げている武器を見ながら尋ねてきた。
「使い勝手ですか、大剣や槍に比べればリーチは短いけどその分機動力が高いので、立ち回りやすいかな、攻撃力も最初は見劣りすると思いますけど、使い慣れてくれば<ハンター>が使う武器にも負けないと思います。PA<フォトンアーツ>も連撃型、剛撃型どっちもあるんで、かなり自由なスタイルで戦えると思いますよ」
「…随分と把握してるんだな」
「そりゃ、この武器一本で戦ってますからね」
試運転を頼まれた時にコンセプトを聞いて、自分にあってると思って引き受けたけど、扱えば扱うだけ可能性が広がるこの武器は色々戦い方を考える俺としては理想の武器だった。
「そういえば、敬語とか使わないで普通に話してくれていいぞ、堅っ苦しいのは苦手なんでな」
説明し終わると、思い出したようにそう言われた。
「あ、マジで?それなら普通に喋らせてもらうよ、俺も堅苦しいのは苦手なんだ。いやー助かった。あんまり敬語得意じゃないんだよね」
なんて話していたらもうすぐ指定座標の近くまで来ていた。
「そろそろ、座標の所かな……あれは「ガルフ」…か?」
マップを確認しながら前方を見ると、原生種が道を塞ぐように立っていた。
あの原生種の名前は「ガルフ」黒い毛並みで顔に黄色いラインが入っている狼のエネミーだ。
基本的に群れで行動し、獲物を追い込むように戦う。
道を塞いでいるのは3体、数はこちらのほうが不利だ。武器を構え戦闘準備に入ろうとした
その時
「…やべーな、囲まれてる」
その一声で周囲を見渡すと、来た道にも3体、左右の高台の場所に2体ずつ、正面を見据えると、1体増えて4体になっていた。合計11体
「……」
増えていた原生種は「フォンガルフ」。ガルフの親分的な原生種で、サイズもガルフに比べ少し大きく、黄色いラインは赤色のラインに変わっている。厄介なのはその咆哮、ガルフの動きを指揮するだけでなく、攻撃の威力を上げる能力がある。
どうやら、待ち伏せしていたようだ。
俺らは互いに背中を合わせて囲んでいるガルフ共を見据える、少しでも隙を見せたらいっせいに飛び掛ってくるだろう。
「ピンチだな」
彼は自然と口にするが
「そう言いながら笑ってる様に見えるんだけど?」
警戒を怠らずチラっと彼を見やると、口元がニヤッと笑っていた。
「そりゃあんたもだろ?」
「あら、バレた?」
お互いこんな危機的状況だっていうのに笑ってる。なんだかんだでこういう状況は燃えるもんだ、男ってもんは。
「こんな状況で何だけど、名前聞いてなかったな、俺はオキだ。あんたは?」
彼…オキはこれから戦うっていうのに自己紹介をしてきた。そういえばしてなかった。なんて考える俺も相当だろうが。
「今更な自己紹介だな…ハヤマ、よろしく、オキさん」
俺も自己紹介をする、互いに名前を把握したことでちょっとした連携が生まれた気がする。
「…んじゃ自己紹介も終わったし、背中預けるからな?はやまん」
「は、はやまん?…まあいいや、お互いに、ね」
「「いくぞ、遅れんなよ!」」
俺らは笑いながら、互いに目の前の敵へ駆け出した。
----其処からは結構派手に暴れまわった。
「おら…よっと!!」
オキさんはワイヤードランスのリーチや特性を活かして、ガルフを捕まえて振り回し、他の
ガルフにぶつけ、そこに蹴りを叩き込んだり
「遅いんだよっ!次っ!!」
俺は攻撃を鞘で受け止め止まったところに抜刀して反撃をお見舞いし、切り上げたり
「はやまん!ほーれ受け取れ!!」
「ちょっ!?無茶言うな!!」
オキさんが投げてきたガルフを切り払ったり
「おらっ沈んでろ!!」
「オキさん、それ貰いっ!」
「ちょっおまっ!?」
俺がオキさんが捕まえて倒そうとしてたのを横からかっさらったり。
「さーて、お山の大将さんよぉ、お前で最後だぜ」
最後に残ったフォンガルフはオキさんの操るワイヤーでふん縛られ、オキさんはふん縛ったまま上に飛び上がる。
「はやまん、合わせろ!!」
「オッケー!!」
そしてその勢いのまま地面に叩きつけ、俺がそこに合わせて斬る!
…結果ものの数分の内に11体いたガルフ共は全滅してしまった。
---その後は無事座標地点に到達し、無事アークスシップに帰還した。
まぁ、規制区域に入っちゃったから怒られたけど。
今は罰としてキャンプシップの掃除をさせられてる。
「ったく、規制区域入ったって言っても、そもそもバリケードしっかり張らねぇのが原因だってのに」
オキさんはブツブツ言いながら端末を拭いている。
「しょうがないって…話聞いてなかった俺らも悪いといえば悪いんだから…」
そんなオキさんを見ながら俺も俺で床を掃いている。ま…下手すれば大怪我してたかもしれないのにお互い多少擦り傷負ったくらいで済んだわけだし、これで済んでるだけまだマシだと思う。
「…しかし、俺ら初めて組んだっていうのに結構いいコンビネーションだったな」
「そうだね、お互い動きが見えてたみたいに上手く動けたよ」
ガルフとの戦いを思い出してみたけど、実際かなりの連携だったと思う。
「なぁはやまん、アークスになったら一緒にチーム組まねえか?」
「チーム?」
オキさんが掃除していた手を止めてそう言ってきた。
「ああ、なんだかはやまんとは上手くやってけそうでな、話もしやすいし、息もぴったりときた。面白そうだし、組むっきゃねーだろ?」
「……」
俺も手を止めて考える、確かにすごく息が合って、すごい戦いやすかったし、何より面白そうなのは同意だ。
「俺でよければ、喜んで」
「うっし、決まりだな、んじゃ終わったら飯食いに行こうぜ!」
「おう!改めて宜しくな、オキさん!」
「ああ、よろしく頼むぜ、ハヤマ!」
これが、俺らの絆の始まりだった。
その後、苦楽を共にする、大切な、大事な、家族のような仲間たちと出会い、ともに歩んでいく、全ての始まり…。
---これは、後にアークスを救い、1万人のプレイヤー達を救う英雄たちの…---
「あ、掃除遅かったほうが奢りな」
「ちょっ!?いきなり言うなせこい!!」
「言ったもん勝ちだしゃーおらぁ!!」
「んのやろぉ!?」
---…出会いと、そこに至るまでの…前日譚である---
というわけで今回はオキ、ハヤマの出会い編でした。実際にアークスだったらどんな出会い方をするだろう、と色々考えて書かせていただきました。次回は、コマチとの出会い編をお送りする予定です、ミケ編まではこの土日で書き上げたいですね。