「成程ね……。話はわかったけれど、ごめんベル君。まだフリーのサポーターをしてる人が居るって話は入ってきてないんだ」
「やっぱりそうですか……」
ギルド本部の面談用ボックスルーム。
そこで僕はエイナさんにパーティの現状について説明すると共に、フリーのサポーターがいないか聞いてみたのだけれど、結果はこの通り。まぁここで、才能溢れて性格も合う冒険者志望で無所属のサポーターが雇い主を募集中、なんて都合よくは行かないよね。
「それにしても少し前まであんなに頼りなかったベル君が、今じゃあ7階層に進出した上で戦利品が持ちきれないなんてね」
申し訳なさそうな顔をしていたエイナさんだけど、その言葉と共に僕に笑顔を見せてくれる。僕もリリとのパーティが褒められたようで嬉しくなって言葉を返した。
「頼れる仲間が居てくれるからですよ」
「それにしたって元サポーターの子を説得して冒険者にしちゃうなんて凄いよベル君は」
エイナさんはそう言って褒めてくれるけれど、それは違うと僕は思う。
「いえ、リリには元々その力があったんです。……僕と会うまで専業サポーターをやってたのが不思議なくらいだったんですから」
僕が少し声を落としてそう言うと、エイナさんも僅かに瞼を伏せる。
リリの抱えた事情に関して、僕は本人に了解をとった上でエイナさんにも話してあるからだ。
「それは……無理も無いかもね。でもそんな子を勇気付けたベル君はやっぱり凄いと思うな」
いや、凄いのは僕じゃなくてリリなんだけど……。
そう思ったけれど、水掛け論に成りそうな気がして僕はエイナさんに対し曖昧に笑うことで誤魔化すことにした。
「ところでエイナさん。ソーマ・ファミリアの事ですけど……」
僕がそう切り出すと、エイナさんも表情を改めて真剣な目をする。
「……うん。裏は取れたよ」
「じゃあ、ギルドの対応としては?」
「はっきりとは分からないけれど、私が報告すればそれ相応のペナルティが課せられる筈だよ。たぶん、酒造の禁止とかになるんじゃないかな」
「お酒造りの禁止ですか?」
予想外の内容に、僕は思わず鸚鵡返しに質問する。
ギルドの下す罰則といえば多額のヴァリスと言う形が多いのに、酒造りの禁止と言うのが相応しいペナルティになるのだろうか。
「実はソーマ・ファミリアについて調べている最中に神ロキと話をする機会があってね」
「神ロキって……ロキ・ファミリアの主神ですか?」
「そう、そのロキ様。それで運よく神ソーマについての話が聞けたんだけど、本当にお酒造りのことしか興味がない世捨て人みたいな神らしいのよね……。この事も併せて報告すれば、多分一番効果的なペナルティってことで酒造禁止の命令が下されると思う」
罰金は罰金で別に要求するかもしれないけれどね、とエイナさんは言う。
「そうですか……リリから自分のファミリアの事に無関心だとは聞いて居ましたけど、まさかお酒造り以外に興味が無いとまでは思ってませんでした」
「ほんとにね、そりゃ曲者変わり者が多い神達だけど、その中でもとびきりって印象……それで、ベル君はどうするのかしら?」
エイナさんが僕を見てそう問いかける。
ギルドの職員であるエイナさんが、何故僕にこの問題でどうするかと聞くのか。
それはこの話のきっかけが、僕から彼女にソーマ・ファミリアの現状について相談を持ち掛けたからだった。
「そうですね……ギルドに報告するのは少し待って貰っても大丈夫でしょうか?」
「うーん、本当は良くないんだけど……ベル君には何か考えがあるのよね?」
「考えと言う程じゃないですけど、ただソーマ様にペナルティを科したとしても、たぶんあのファミリアの問題は解決しないと思うんです」
「そうね……神ソーマは大本の原因ではあるけれど、ファミリアの現状を主導している立場ではないみたいだから」
かと言って明確な罪状がないかぎり個別の団員にギルドが罰を科すと言う事は行われない。
ソーマ・ファミリアが起こした問題が、個別の団員の暴走なのか団長ら幹部の指示によるものなのか曖昧な現状では尚更だ。
「なんとか、ギルドに報告する前にソーマ様に個別に交渉することは出来ないでしょうか?」
「神ソーマと交渉を?」
「はい。お酒造りにしか興味が無いと言うなら、それはそれで交渉の余地はあると思うんです」
結局、ファミリアのことはそこの主神が何とかするしかないのだ。僕らがどうしたってソーマ・ファミリアの問題はソーマ様がファミリアに目を向けてくれない限りは根本的な解決は出来ない。
なら、ちょっと悪辣かも知れないけれど、酒造りにしか興味が無いと言うなら、こちらには報告すればギルドから酒造りの禁止の命令が出ると言う事で脅すことだってできる筈だ。
「たしかにそうかも。でも神ソーマはホームから一切出てこないって話だよ?」
「そうなんですよね……」
主神のソーマ様は無関心なだけかも知れないけれど、ソーマ・ファミリアの幹部陣に関しては全く信用が置けない。そのホームに乗り込んで直接交渉をするのは避けたかった。
「神ロキが乗り込んだ時には団員が出払っててもぬけの空だったらしいけど、いつもそうとは限らないしね……」
「え、乗り込んだって……ロキ様ってそんな事したんですか?」
「うん。そう言ってたよ」
「ロキ・ファミリアぐらいの力があればそうそう手出しはされないでしょうけど、なんでまたそんなことを?」
「うんとね、なんでも神ロキはお酒が大好きで、完成品のソーマ酒が欲しいあまり一人でソーマ・ファミリアのホームに乗り込んだんだって言ってたよ。結局お酒は手に入らなかったらしいけど」
「ええっ、神様だから神酒に酔った訳でもない筈なのに、そんな危ないことをするなんて……」
「あはは。まぁ神々って多かれ少なかれそう言うものだから……」
下界の子供達である自分達には理解できない思考回路。大なり小なり神様達はそう言う物を持っているのだとは言うけれど……その例に漏れず、ロキ様も一筋縄では行かない方みたいだ。
「うーん、なんとかソーマ様を引っ張り出す方法を考えてみます。それまでギルドへの報告は待って貰っても良いですか?」
「元々はベル君が持ってきた情報だから、それで早まった分くらいなら待ってあげられるけど……なるべく早くしてね」
ベル君だってまた他に被害が出てからじゃ嫌でしょ、とエイナさんは言う。
僕はその言葉に頷き、相談に乗って貰ったお礼を告げてから席を立った。
面談用ボックスから出てギルドを後にする。帰路の最中、考えているのはソーマ・ファミリアのことだ。他の人に被害が出てからじゃ嫌でしょ、とエイナさんは言った。それは全くその通りで、この問題はあまり先送りにはできない事を改めて感じる。
(う~~~ん……)
僕は頭をがりがりと掻いた。
元々僕は、リリが所属するファミリアで抱えた問題を何とかしたいと思っていた。
彼女はただ立場が悪いと言うだけじゃなく、僕等のホームに身を寄せる事でヘスティア・ファミリアに害があることすら恐れている。
普通はそんなことを恐れたりしない筈だ。
確かにもしソーマ・ファミリアのような大所帯の集団と敵対するような事になったら僕達じゃ大変なことになるだろうけれど、普通は相手が弱いからって他派閥の人間に堂々と手出しなんかしない。ギルドの目が届きにくいダンジョンの中での闇討ちなら可能性は高まるけど、それだって絶対にばれないわけじゃない。
リリがソーマ・ファミリアで人を殺すとか大金を盗むとか、そういう事をして団員に執拗に追われる理由があるならわかるけれど、ただファミリアを抜けたいだけの平団員まで襲うって言うのはやりすぎだ。
それでもリリがそれを恐れているのは、たぶん彼女の実体験から来てるからだ。そうなると、ソーマ・ファミリアはもう、日常的に
それならもう事が発覚しさえすれば、ギルドが介入できる状態だ。
上手くすればギルドに任せるだけで問題を解決できるかも、と思ってエイナさんに相談したものの、ソーマ・ファミリアが危険な事こそはっきりしたけれど、ギルド任せで解決、と言うほど都合良くは行かなかった。
ソーマ神様に対して交渉の手札があるのはギルドが事態に気付くまでの間だけ。
なんとか今のうちに接触したいけど、僕等がホームに忍び込むのは危険すぎる。
(親交のある神様に直接呼び出して貰う……とか?)
神様達は神の宴を開いたり出席したりして親交を深めたりすると言うし、団員を連れて出席する神様だっているって話だ。それでうちの神様に僕を連れて行って貰う……そういう形でならどうだろうか。
帰ったら神様に相談してみよう。そう思って僕は帰り道に足を進めるのだった。
カランカランと鐘の音を慣らしながら両開きの木の扉を開けて、僕はその建物に入る。
青の薬舗。ポーションを始めとした各種薬品を販売しているミアハ・ファミリアのホームだ。
棚で溢れた店内の正面奥にはカウンターがあり、その上には『御用の方は』と書かれた板と共に真鍮のベルが備え付けられている。僕がカウンターに近寄りそのベルに手を伸ばすと、それを鳴らす前に奥にある扉がきいと音を立てて開かれる。
「いらっしゃい……ベル」
カウンター奥の扉から出てきた
「こんにちは、ナァーザさん」
僕も彼女を見て笑顔を返した。すると、ナァーザさんが、すん、と小さく鼻を鳴らす。
「ダンジョンに潜った帰りにしては、早いね……」
そう言って彼女は暗にどうしたのか、と僕に問いかけるような視線を向ける。
「トラブルがあったって程じゃないんですけどね」
「ふぅん……それで、今日もポーションの補充?」
ナァーザさんは、カウンターの脇に置いてある試験管立てを二つ手元に引き寄せる。その二つの試験管立てには青の液体と緑の液体で満たされた試験管が納まっていた。
僕は彼女の察しの良さに笑って、財布からヴァリス硬貨を取り出す。
「そうです。ポーションを3つと解毒薬を2つ下さい。後、実はミアハ様にお願いしたい事があって……今ミアハ様は?」
「残念だけど、ミアハ様ならまたふらふら出掛けてる。はい、これ……」
「そうですか……あ、どうも」
出かけちゃってるのか。僕は少し落胆しながら、ナァーザさんが差し出す試験管を受け取った。
レッグホルスターから空の試験管を取り出し受け取ったポーションを収め、それから空になった使用済みの試験管をナァーザさんに差し出す。
普通ポーションの容器の値段は価格に含まれて販売されているけれど、捨ててしまうのも勿体無いので、僕は空いた容器は返却して再利用して貰っているのだった。
僕から受け取った空の試験管を顔の前で軽く振りながらナァーザさんが口を開く。
「いつもありがと……ミアハ様に用事なら、よかったら私が伝えておくけど……」
「そうですね、それじゃあお願いできますか?」
「うん、いいよ……」
彼女はそう言いながら、カウンターの端にあるスイングドアの止め具を外す。
「今、お茶を入れようと思ってお湯を沸かしてたの。話を聞くついで、ご馳走するから寄って行って……」
そういえば今は三時を回ったぐらいか……急いで帰っても神様もまだバイトだし、装備の手入れをしたあとは剣を振るぐらいしか用事はないからご馳走になろうかな。
「それじゃあ、お邪魔しますね」
僕はそう言ってドアを押してカウンターの内側に入ると、ナァーザさんの後についてリビングへとお邪魔することにした。
「今お茶を入れてくるから、ベルは座って待ってて……」
「え、手伝いますよ?」
「ううん、いいよ……」
「わかりました。それじゃあお言葉に甘えて」
しかたなく僕は頷いて席に座り、キッチンへ移動する彼女を見送る。
空の試験管を持ったまま歩くナァーザさんの後ろ姿。彼女の尻尾がふわりと揺れるのが僕の目に映るのだった。
ナァーザさんとお茶をして過ごした後、帰宅して装備の手入れを終えた僕は、廃教会の崩れかけた礼拝堂で僕が剣を振っていた。
何度も何度も剣を振るい、いつしか日の光が赤みを帯びてきた頃「お、やってるねー」と言う声が飛んでくる。手を止めて声の方向……廃教会の入り口を見ると、小さなバッグを手にした神様が手を振っていたのだった。
「おかえりなさい、神様」
「たっだいまーベル君。今日は早かったんだね」
「はい、ダンジョンでちょっとあったので……」
「何だって? まさかトラブルかいっ。今日は7階層に本格挑戦って話だったし……一体何があったんだい!」
「あ、いえ、トラブルって程の事じゃあ……実は予想以上に上手くいった所為で、戦利品が一杯になっちゃったので帰ってきたんです」
「え? あ……なんだそういう事だったのか。それなら逆に目出度いじゃないか。いや、ベル君たちも成長したものだね」
「えっと……そうですね、ありがとうございます」
こうして無邪気に僕等の成長を喜んでくれる神様を見ると、サポーターの問題もそう大したことでは無いように思えてくる。
(やっぱり神様はすごいな)
「それじゃあリリルカ君はどうしているんだい?」
「ああ、リリならもう帰って来て中にいますよ」
「そうかそうか。ならベル君も稽古は切り上げてご飯にしないかい? 実はまた残ったジャガ丸君を貰って来たからさ」
そう言って神様が手に持ったバッグを掲げてみせる。
「わぁ、じゃあ汗だけ拭いてすぐ降りますね」
「うん。待ってるから冷めないうちに食べちゃおうぜっ」
神様は手を振りながら祭壇の奥の通路に歩いて行く。僕はそれを見送った後、脇に置いてあった桶にかけてあったタオルを手にとって、桶の中の水に浸してから固く絞る。そのタオルでシャツを脱いだ上半身を拭いながら、今日の夕食はなんだろうなんて事を僕は思った。
僕が剣の練習をしている間にリリが夕食の用意をしてくれた。
そうして作ってくれていたキャベツとニンジンのリゾットや、神様のお土産のジャガ丸君に加えて夕食にする。野菜の甘みにチーズの香りが乗ったリゾットはとても美味しく、付け合せに出してくれたタマネギの酢漬けがとても合う。勿論じゃが丸君だって何時もどおりの美味しさだ。
「しかしあれだね、戦利品で荷物が一杯になるだなんて、キミ達の成長がボクは嬉しいよ。このまま行けばこのホームを抜け出せる日も近いに違いないぜ!」
「そんな風に喜んでいられる事じゃありません! いいですかヘスティア様、荷物が一杯になるだなんて本当はあっちゃいけない事なんですからね」
「まぁ良いじゃないか。今まではそんな心配すらなかったんだから、成長したことには違いないんだろ?」
「それはそうですけど……」
神様の楽観論に不服そうな声を漏らすリリ。
結果がよければ喜ぶ神様と過程に問題点があれば不満を覚えるリリと言う対照的な二人、僕は面白いなと思いながらホクホクのじゃが丸君を飲み込む。
「そうそう、エイナさんに話を聞いてみたけど、やっぱり無所属で雇い先を募集中のサポーターはいないみたい」
「ああ、やっぱりですか……。そうなると専業の雇われサポーターを雇用する事も考えないと行けませんね」
「うーん、でも僕達って今は予備の装備もないし、いっそ二人のままドロップアイテムは諦めて魔石だけ回収とかはダメかな?」
「何言ってるんですか。そんな手に入る筈のお金を捨てるような事絶対ダメです。ヘスティア様もそう思いますよね?」
「へ? そりゃまあ稼ぎは多いほうが嬉しいけど……」
「ほら、ヘスティア様だってこう言ってますよ」
「うーん、それはそうなんだけど……」
「それに敵の数や追加が多くなってますからリリ達だけじゃ足場が狭まりすぎて邪魔すぎます。サポーターが居たほうが良いに決まってますよ」
「それも、勿論なんだけどね……」
曰く、良きサポーターに恵まれてこそ、冒険者は真価を発揮できる。
曰く、サポーターの働きがあってこそ冒険者はダンジョンに潜れる。
曰く、彼等は縁の下の力持ちである。
冒険者の間でささやかれるサポーター論。これ自体は間違いないことだと思う。でも実際には殆どの場合、専業のサポーターは見下され虐げられている。
僕だってサポーターが居たほうが良いと思うけれど、リリの場合はサポーターと言うものを自分を基準にして考えてしまっているのではないかと僕は心配していた。
もしそうだったとしたら、サポーターを雇ったとしても多分リリが思っているようにはならないだろうなと僕は思った。
「じゃあ明日はダンジョンに潜る前に、バベルの一階でサポーターを探すと言う事で良いでしょうか?」
「うん、そうしようか」
リリの提案に僕は頷く。考えてみればリリみたいなサポーターとまた出会える可能性だってあるし、そうじゃなくても何か困るわけじゃないだろう。心配ばかりしても何もはじまらないし、探して雇うと決まったからには、なるべく良い人と出会えると良いなと僕は祈ることにした。
「そうだ神様。お願いしたい事があるんですけど」
「なんだいベル君。何でも言ってくれよ」
「はい。神様の知り合いの方でソーマ様と親交のある方とかっていらっしゃいませんか?」
「え、ソーマとかい? うーん、ちょっと思い当たらないけど……」
僕がこの話をはじめた瞬間、リリが表情を硬くする。
考え込む神様の横で、僕はリリに向き直って言葉を重ねた。
「リリにも聞いて欲しいんだけど……今僕はソーマ様と直接交渉したいと思ってるんだ。その為にソーマ・ファミリアの干渉がないところになんとか連れ出したいんだけど、良い方法ってないかな?」
僕がそう言うと、リリは俯くように目をそらして弱弱しい声で答える。
「ソーマ様と交渉なんて無理ですよ……あの人はリリ達のことになんて全く関心が無いんです」
「うん。そしてお酒造りのことだけに関心を持ってる。だからその趣味のことなら、放って置けないんじゃないかな」
「どういうことですか?」
「実はソーマ・ファミリアの行動についてエイナさんに調べて貰ったんだ。調査の結果やっぱり問題ありと言うことで、ギルドに報告をあげれば酒造りの禁止がペナルティとして科せられるだろうって」
「たしかに、それはソーマ様には放っておけないでしょうけど……」
「うん。それはボクも保証するよ。ボク達神々にとって自分の趣味や好みの話は何を置いても大事だからね」
リリと神様は、それぞれの見解から僕の予想を裏付けてくれる。
「僕達はソーマ・ファミリアにきちんとした善良なファミリアになって欲しい。ファミリア内で団員が争ったり、ステイタスの更新すらできなかったり、脱退したくてもできなくて、追われることに怯えたりする事の無いファミリアにね」
僕の言葉をリリは黙って聞いている。
「ギルドはソーマ・ファミリアに問題があるから罰則を科す。それなら、先にそれを教えることで自分から普通のファミリアに変わって貰えば良いんじゃないかなって」
「ソーマ・ファミリアを普通のファミリアに、ですか?」
「うん。事態が発覚する前に問題が解決されていればギルドが重い罰を科す理由はなくなるし、ソーマ様にだってその方が良いはずでしょ?」
「それはそうですが……」
リリは僕が話した理屈には納得しても、それでも前向きにはなれない様子だった。
「うーん、ボクが言うのもなんだけど、神々って捻くれ者ばっかりだからね。道理では更生したほうが良いって説かれても素直に従うかわからないかも知れないよ」
そこに神様にも否定的な言葉を重ねられてしまう。
「それは……でもどうしたって、最後はソーマ様に今のやり方を改めて貰うしか方法がないですよ。まさか力尽くでソーマ・ファミリアを潰すって訳には行きませんし」
「確かにベル君の言う事は最もなんだけどね……」
僕と神様が考え込むのを見ると、リリがグラスを取って一息に煽いだ。
水を流し込み、こくりこくりと彼女の喉がなる。そしてリリは笑顔を浮かべて口を開いた。
「ねぇお二人とも、それ以上今悩むのは止めにしませんか。リリのことならこうして居れば居場所なんかばれっこないですし、ダンジョンの探索だって上手く行ってるじゃないですか」
「でも、このままじゃ」
そう出掛かった僕の言葉を、リリはにっこりと笑って止める。
「そんなに気に病まないで下さい。ベルさんのおかげで、リリは今やっと冒険が上手く行くのは楽しいって思えるかも知れないんです。これでも感謝してるんですよ?」
「リリ……」
「だーかーらー、気にしないで下さいってば。私は今のままで十分充実してますから。ね?」
リリはそうして笑顔を浮かべるけれど、無理しているのは明らかだ。
でもこれ以上話を続けても進展がなく、リリの負担でしかないのが僕にもわかってしまう。
僕は複雑な気分を飲み込んで頷くことにした。
「うん、じゃあこの話はここまでにするよ。神様、神様にはソーマ様を呼び出せる伝手がないかどうか探して置いて貰っても良いでしょうか?」
「……へ、ボクかい? ああうん、わかったよ。知り合いにソーマと付き合いがある神がいないか探しておく」
「お願いします。あ、ミアハ様には聞いてもらえるようナァーザさんに話しておきましたから」
「了解だよベル君」
こうしてこの話はお開きにして、僕らは食事を続けた。
リリはその後も明るく振舞っていたけれど、やっぱりどこか我慢しているように感じてしまう。
僕は考え無しにリリにとって辛い話を始めてしまった事を後悔しながら、やっぱりこの問題はそのままにしておけない、と強く思ったのだった。