たとえ英雄になれないとしても   作:クロエック

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修練

「てやああああぁぁぁッ!!」

 

 気合の声と共に踏み込み、強振する。

 

 両手で持った柄の先にある凶悪な形状の鉄塊が、受け止めようとした相手の腕ごと胴体をひしゃげさせ吹き飛ばす。地面を転がり鈍い動きで身を起こそうとしているそのウォーシャドウへずんずんと歩み寄ったリリは、その手に持った戦槌を振りかぶった。

 鈍い音と共にそのモンスターに止めを刺した彼女が息をはく。僕はそれを確認すると、彼女に歩み寄って声をかけた。

 

「ふぅ……」

「調子よさそうだね」

「……えぇ、そうですね」

 

 リリの声は答えの内容とは裏腹に軽くない。

 

「やっぱり慣れない?」

「……はい。まさかリリがこんな戦い方をするとは思っていませんでしたから、違和感は拭えません」

「そっか……あんまり違和感があるならタケミカヅチ様にまた相談しようか? もしかしたらまた何か助言を貰えるかも知れないし」

 

 僕がそう提案すると、彼女は首を横に振った。

 

「いえ、結果が出てる以上はリリが慣れるべきなんです。お気遣いだけ頂戴しておきますよ」

「……わかった。無理はしないでね」

「勿論です」

 

 結果は出ている。そのリリの言葉通り、この6階層で新しい戦い方を試し始めてから三日、僕等の戦いは格段に楽になった。

 リリが持った重厚なウォーハンマー。彼女の持ったそれは直撃すればこの階層までの敵ならほぼ一撃で相手を無力化してしまう。僕はそれを見ながら、それを持つきっかけなったタケミカヅチ様との会話を思い出していた。

 

 

 

「戦槌の類が良いだろう」

 

 検証のために息も絶え絶えになった僕らにタケミカヅチ様はそう言ったのだった。

 

「ハァ……ハァ……戦槌……ですか?」

 

 リリが荒い息を整えながら問い返すと、「うむ」とタケミカヅチ様は頷いた。

 

「戦槌、戦棍、メイス、ハンマー。まぁ呼び方は何でも良いが」

 

 そう言ってその角髪の神様は説明をしてくれたのだった。

 

 面白い話だが、まずはそのスキルがどう作用しているのか調べなければ何とも言えん。

 リリの戦い方について相談をもちかけた時、タケミカヅチ様が言ったその言葉に頷いた僕らは、指示に従いながらリリのスキルを検証していく事になった。色々な重さのものをもって振ったり走ったり。比較対象が必要だと言う事で僕もリリと同じことをしていく。間に様々な物を挟んでリリと引っ張り合ったり押し合ったりもした。

 色々な検証の結果、タケミカヅチ様はリリのスキルについてこう評した。持ち主が持った物の重量によって一定以上の負荷が掛かった際にその負荷が一定の量に収まるまで強く軽減するものだ、と。

 

 要は、リリにとって動きが大きく制限される程重い物を持った時だけ、それをちょっと重いけど何とかなるという範囲までリリの負担を軽くしてくれるのだ。

 その性質上、軽いものを持ってもスキルの恩恵は受けられない。リリが通常扱える範囲の武器。短剣や木刀、僕の剣なんかを振ってみても軽いほど素早く重いほど振りは鈍る。

 でもリリにとって重いと感じるものを振ると、確かに重さで振りは鈍っていくのだけれど重量の増加に比べて明らかに鈍り方が緩かったんだ。本当ならリリの力じゃ持てないだろう重い瓦礫の塊でも、リリにとってはちょっと重いものを持っている、で済んでしまう。

 

 ちなみに物を抱えたリリごと僕やタケミカヅチ様が持ち上げようとしてみても、軽くなっていた感じはまったくしなかった。この事から重量自体が軽くなっているわけではないと思われた。仮に秤に載せたとしても多分重さに変化はないだろうと。

 

 このスキルの恩恵で、リリは確かに通常なら持てない重量の武器を扱う事はできる。

 だけど刀剣などで切り込んだ際、相手の体に食い込んだ刃を引き抜くのにも押し切るのにもそれだけの力が要求される。相手の攻撃を受け止めたり、鍔迫り合いの体制になった際にも力が必要なので刃を持った武器ではあまり利点を活かせないだろうとタケミカヅチ様は言った。

 

 逆に相手に触れた際には既に力を加える必要が無いもの。投石、トマホーク、ジャベリンなどの投射武器であれば十分に威力を発揮できるけれど、リリがスキルの恩恵を受けようとすれば重量のある武器を使わなきゃならない。スキルではある程度重いと言うところまでしか負担を軽減してくれないので、おそらく命中率等に問題がでるだろうと。

 スキルの恩恵を受ければ普通なら投げられない重いトマホークでも振りかぶりそれなりの速度で投げる事はできる。けれど軽めの手斧を素早く投げつけ斧が飛ぶ速度も高く出す、と言う事はリリにはできない。前者が役に立つ事も無いわけでは無いのだろうけれど、迷宮で主な武器として使おうとすれば積載量や取り回しの関係上後者でなければ難しい。数を持ち歩けない大きな武器を投げつけて外れてしまっては後が無いからだ。

 

 重量のある物体を加速させて相手へと叩きつけることで威力を発揮し、衝突(インパクト)の後は力をこめる必要が薄い近接武器。その例に当て嵌まる武器としてタケミカヅチ様があげたのが、戦槌だった。

 

「球遊びの様に打った物を吹き飛ばそうとするならば衝突の後も力を加え続けなければならんが、逆に衝突によって破壊を起こそうとする場合には必要な力は事前に加え切り打撃点を加速させる事が大事なのだ」

 

 そう言った理由からリリのスキルを活かそうとする場合にはハンマーに類する武器が向いているだろうとタケミカヅチ様は言う。他にはフレイルや鎖付きのモーニンスグスターなんかの武器なら自然と武器に与えた加速のみで攻撃する形になるそうだけれど、それらの武器は取り回しが難しくまた鎖部分が破損しやすいため扱いには慣れが居るらしい。

 

「それから、予備の武器は必ず持つ事だ」

 

 相手に武器を掴まれた際に組み合うための力がリリには欠けている。

 そう言った状況になった場合、力で揉み合うよりも素早く次の武器を繰り出して相手に叩きつけた方が良いだろうとタケミカヅチ様は説明する。

 

「防具は、そうだな……なるべく重装備にしたほうが良いだろう」

 

 タケミカヅチ様がそう言うと、リリはおずおずと口を開く。

 

「でも、リリが重戦士として戦うのは難しいのでは……」

 

 そのリリの言葉にタケミカヅチ様は頷いた。

 

「そうだろうな。だがお前が重い防具を身にまとった方が良いのは、重戦士として戦う為ではないのだ」

「……どういうことでしょうか?」

 

 疑問を浮かべるリリにタケミカヅチ様は防具を身につけるには別の意図があるのだと説明する。

 そもそも冒険者はあまり防具を身に纏わない軽装の人が多い。アマゾネスの人なら殆ど肌を露出して戦っていたりするぐらいだ。上層であれば防具によって相手の攻撃はある程度防げても、階層が深くなるにつれモンスターの攻撃力が高くなってくるとそれは難しくなってくる。

 入手できる素材も強力になっていくため防具を強力な物に変え続ける事も無理ではないけれど、装備を入れ替える負担が大きくなるため軽装を好む人が多いと言う。耐久のステイタスが上昇しランクアップした冒険者であれば、その肌でさえ気合をこめれば鉄の剣が刃が立たない程になると言うから尚更だ。

 

 じゃあ何故リリに重装備を勧めるのか。それは重さの為だとタケミカヅチ様は言う。

 ここでもまた"重さ"だ。

 

「たとえどう立ち回ったとしても、武器を振るい直接攻撃する限り相手との接触は避けられん」

 

 その際体格に劣るリリではどうしても踏ん張りが利かなくなってしまう。

 相手の攻撃を往なす技術や避けながら攻撃を当てる速度があれば良いけれど、そのどちらかで優位が取れない場合には体格差が大きな要素になる。重い鎧を着込んでおけば、それをある程度は覆す事が出来るだろうとタケミカヅチ様は言ってくれた。

 

「それにただ重い装備を振り回せるだけではいつまでも通用はしないだろう。結局冒険者として高みを目指すのであれば、ステイタスの成長に頼る事は避けられん」

 

 地上の存在である僕らがどれだけ重装備をしてみた所で限界があり、人知を超えたモンスターと相対していくには、神の恩恵(ファルナ)の力をより引き出して行かなくてはならない。

 その為に、素質で劣るのであればより強い負担をかけて戦う事が近道になる。リリが戦士として力を伸ばすためには、重い武具を背負って戦う事は決して無駄にはならないだろう、と。

 

「リリの成長の為に……ですか」

「そうだ。お前が自らの力で戦う事を願うならば、結局は弛まぬ努力以外に道は無い」

「自分の力で、戦う事を願うなら……」

 

 どんな工夫をこらし、どんなスキルや魔法を身に付けたとしても最後には自分を鍛え上げる意思と行動こそが大事なのだ。

 それを忘れるなと言うタケミカヅチ様の言葉に、リリは静かに頷いていた。

 

 

 

 あれからリリは変わった。

 まだ恐る恐る、一歩ずつだけれど、変化を拒むのではなく自分から試行錯誤する事を始めたんだ。

 

「はぁぁぁッ!!」

 

 両手持ちのウォーハンマーが薙ぎ払われる。

 巨大な単眼を持った蛙のモンスター、フロッグ・シューターは飛びすさってそれを回避し、長い舌を撃ち出す様に伸ばして反撃する。

 リリは戦鎚から手を離し、身をそらして伸ばされた舌を回避すると左腕に装着したハンドボウガンを速射。体に矢が撃ち込まれて叫び声を上げるモンスターに対して、即座に武器を拾いなおして駆け出していく。そして彼女は地を蹴って走る勢いのままに、背負うような形で振りかぶった戦鎚を叩き付けた。

 ぐしゃりと言う音と共にフロッグ・シューターの大きな単眼がつぶれ、体液と肉片が撒き散らされる。

 

 僕は最後のモンスターに止めが刺されるのを見て警戒を解いた。

 敵と遭遇した時、最後の一体になったらリリが単独で相手をして僕はフォローに回る。彼女が新しい戦い方を試行錯誤する間はそうしようと二人で話し合って決めたのだった。

 

「やったね、リリ」

 

 僕は鮮やかに敵を倒した彼女にそう声をかけるけれど、リリはため息をついて首を横に振った。

 

「いえ、今のはダメダメです……」

「え、なんで? 咄嗟に武器を放して矢を撃ったのなんて凄く格好良いと思ったけど……」

「はぁ……ありがとうございます。でも、これを見てください」

 

 僕がリリの視線を追うように地面で潰れたフロッグ・シューターに目をやると、大質量の直撃を受けたモンスターは魔石を砕かれて砂の様に急速に乾きひび割れて崩れていった。しかもリリが撃ち込んだ矢までがひしゃげて使い物にならなくなってしまっていた。

 

「あっちゃあ……」

 

 それを見てリリのため息の理由を察した僕も頭に手をやった。

 

「そもそも防具をしっかりしていれば、さっきの相手の苦し紛れの攻撃なんか弾きながら踏み込めたかもしれません。やっぱりタケミカヅチ様が仰った様にした方が良いみたいですね……」

 

 激しい動きにずれたマントを直しながらリリは言う。

 彼女は現在、今までの装備から大きなバックパックを小型の物に代え、その代わりに長さ1メドル程の柄に大きな柄頭をもった戦鎚を両手に持っていた。

 防具はまだ身につけていない。まずは武器を変えてどの程度戦えるのか試してみると言う彼女の意見に従ってこの三日間、6階層での狩りを繰り返していたのだった。

 

 ちなみに武器はゴブニュ・ファミリアからの貸し出し品で、これも試す前から購入はしたくないと言うリリが交渉の末に手に入れた成果だった。

 まずオーダーメイドで戦鎚を注文したいと言う希望を伝え、その注文仕様の詳細を詰める為に既存品を試したいと主張するリリ。ゴブニュ・ファミリア側が難色を示すと、彼女は試す武器は一旦買い取る形で担保として売値の全額を預ける。返却する時も破損や消耗があれば修理費用は別個支払うと申し出た。

 元々客からのオーダーメイドを積極的に受注しているあの鍛冶のファミリアはそういうことならと納得し、リリは体良く自分にあったサイズや重さの武器を探しながら試す機会を手に入れたのだった。

 

 リリの防具に関しては、小人族(パルゥム)の体格にあった重装備が市場に殆どないと言うことで、ドワーフ用に作られたゴブニュ・ファミリアの品を手直しする形でのハーフオーダーメイドで注文する事になった。

 

 それから更に一週間以上の時間たった。

 リリは毎日迷宮へ潜った後にゴブニュ・ファミリアを訪れては、彼女の専属みたいになっているドワーフの鍛冶師とやり取りを交わしている。

 柄はもっと長いほうが良いとか、それでは取り回しがどうとか、柄頭はもっと重く大きい物でも良いだの、鎧を着込むなら先にそれを身につけてから武器の重さは決めた方が良いだろうだなんていつも活発に言い合っている。

 

 時にはリリが慣れない近接戦から怪我を負うこともあった。

 大降りの一撃を完全な形で避けられてしまい、隙を晒した彼女の胴へニードルラビットから角を立てて頭ごと体当たりで飛び込まれてしまう。

 すぐさま僕がモンスターを相手取って倒したけれど、リリは体を角に深く抉られて重症だった。僕は咄嗟に地上の治療施設まで戻る事は諦めて高等回復薬(ハイ・ポーション)を使ってリリの怪我を癒す。

 その日は大事を取って地上に帰還したけれど、ここ最近の二人で出した利益が吹き飛んでしまった。

 

 けれどリリは諦めなかった。

 新しい戦い方を試す最中なのだから、事故が起こるのは仕方ないと。上手くいき始めてダンジョンでの稼ぎも上向いているのだから、リカバリーできる範囲の支出であれば構わないと。

 前のリリとは全く違うその言葉に僕は息を呑んだ。そんな僕を見て彼女は笑ってこう言ったんだ。

 

「ベルさんだって、全然諦めなかったじゃないですか。リリだけそんなに早く怖気づいたりなんて、そんな格好悪い事出来ません」

 

 それに、諦めかけてた事……自分の力でモンスターと戦い倒す事が出来るようになってちょっと楽しいんです。そう言ってリリは誤魔化すように笑った。

 深手を負ったばかりなのに、心配する僕を逆に勇気付けるように笑った彼女を見て僕は胸を打たれてしまう。

 

 

 リリは変わろうとしている。

 彼女自身の力で一歩を踏み出して、自分を変えようとしているんだ。

 僕は、そんな彼女について行けるのだろうか。

 

「……38……39……40……」

 

 夕暮れの中、僕は廃教会の脇にある小さな空き地で素振りを繰り返している。

 タケミカヅチ様との出会いから大きく変わる事になったリリとは違い、僕があの武神様に示されたのは、起伏の無い平坦で長い道のりだった。

 

 初対面のあの日、木刀で打ち合いステイタスの恩恵の有無の差があるにもかかわらず簡単にあしらわれてしまった僕にタケミカヅチ様はこう言ったのだった。

 

「ふむ……お前の腕の程はわかったが、さてどうするか……」

「えっと、何かだめでしたか?」

「そう言うわけではない。だが今のお前が体系づけられた武術を納めようとすれば少々時間がかかり過ぎるだろうな」

「そうですか……えっと、つまり僕はどうしたら良いんでしょうか?」

「そうだな、まず何より剣の振り方について教えることにするか」

「剣の振り方、ですか?」

「ああ、そうだ」

 

 タケミカヅチ様は頷くと、僕にもわかるように説明をしてくれた。

 多少の実戦経験はあっても、技術的にはほとんど素人の僕がこれから武術を納めようとすればある程度の時間がかかってしまう。正規の武術は順序立てて基礎から身につけていくものだけれど、半端に技を覚えた状態で実戦を繰り返すと逆に技が害になってしまうこともあるものだと。

 でも僕は現役の冒険者で迷宮に潜る毎日を送っているから技が身に着くまで修行に集中すると言うわけには中々行かない。

 

「それに武術と言うのは基本的に人対人を想定したものだ。相手の技の虚実を見切り、またこちらの技を見切らせない。あるいは相手の構えから繰り出される攻撃を予測し、受け、あるいは捌く。そうした技術は相手が人型で知性を持ち、技を使う場合に有効になってくるものだ」

 

 それはわかるか? と言うタケミカヅチ様の言葉に僕は頷く。

 闇雲にこちらを襲ってくる野獣の様なモンスターや、ゴーレムやスケルトンの様な相手にフェイントの駆け引きが生じるとは思えないし、ドラゴンやヘルハウンドのブレスを相手に受けるも捌くも意味はないだろう。

 

「無論応用が利く部分が無いわけでは無い。だが俺の子供達には幼少から武術を教え込んできたが、それでも上層ですら生易しいとは言えぬ様子であったからな」

「そうなんですか……」

 

 子供の頃からずっとタケミカヅチ様に師事してもそうなら、僕が付け焼刃で技を習った処でそう上手くいかないと言うのは納得するしかなかった。

 

「だからこそお前には剣の振り方だけを教えようと思う」

 

 改めて僕を見てそう言うタケミカヅチ様に、僕は今度こそ頷いた。

 駆け引きも守りも排してただ剣を振ることを身に付ける。それが一番堅実で確実に役立つ技術なのだ、と言うことは僕にも理解できたからだ。

 

「ではまず俺がこの木刀を振ろう。お前は自分の剣を抜き俺を真似て型を覚えるのだ」

「はいっ」

 

 そこから僕はタケミカヅチ様の見よう見まねから始まって、剣の振り方を覚えることになった。

 振り下ろし、斜め、横薙ぎ、振り上げに突き。片手と両手、体制を崩さずに次の攻撃へ繋げられる振り方、余力を残さず渾身の力を込める斬り方。

 剣を振り続け、僕が間違った振り方を覚えて行きそうになった時には、タケミカヅチ様がそれを指摘し修正してくれる。

 そして今日が終わっても、三日に一度はこうして僕の剣の型を見て、その間に歪んでしまったところがあればまた直してくれると言ってくれた。

 

「一朝一夕に身につく物ではないし、どこまで行っても収めたと言う物でもない。だからただ只管に剣を振れ。振れば振っただけ、それはお前の血肉になるだろう」

 

 その言葉を思い出しながら、僕は素振りを繰り返す。

 一振り一振り、今日の迷宮での戦いを思い出しながら振る。

 漫然とこなすのではなく、どんな一太刀も倒すべき敵がいると思って振るのだ。そう言われた言葉に従って僕は剣を振り続けた。

 

 こうしている間にもリリはゴブニュ・ファミリアの元で装備の話を詰めているのだろう。

 

 リリはきっと強くなる。

 

 僕よりずっと長い間、彼女は辛い環境で努力し続けて来た。だから、それは当り前のことなのだと思う。それでも劇的な変化をしていく彼女に対して、ただこうやって剣を振り続けるしかない自分に、僕は焦りを覚えずにはいられなかった。

 

「……50っ! はぁ……はぁ……次は片手突きだ……」

 

 毎日素振りをした所で、僕の戦いには殆ど変化がない。それでも、タケミカヅチ様はこれが今僕にできる一番の修業だと言った。

 だから僕は、感じる焦りを追い払うように剣を振ることに没頭し続けたのだった。

 

 


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