本当は一つの話は一括で投稿するつもりでしたが、自分の執筆スピードや文字数とかを考えて、分割で投稿することにしました。
たぶんこれからも分割で投稿していくと思います。そのほうが定期的に投稿できそうですし、文字数少ないほうが見直しがしやすいので。
今回はけっこうオリジナル入ってます。楽しんでいただけると嬉しいです。
※2016/6/28、レビテーションを念力に変更。理由はあとがき参照。
かなでがルイズの使い魔としての生活を始めて数日経った、ある夜。
「明日は虚無の曜日だから、街に出かけるわよ」
自室にてルイズはかなでに言った。すると彼女は小首を傾げた。
「街に何しに行くの?」
ルイズはガクッとずっこけた。そして目尻を釣り上げてかなでを睨みつけ、怒鳴った。
「なにすっとぼけたこと言ってんのよ!? あんたの服を買いに行くのよ! このあいだそういう話したじゃないの!」
かなではしばし記憶をたどると、
「ああ、そういえばそうだったわね」
と、納得して頷いた。
現在彼女はシエスタから下着や服を借りていた。今着ているメイド服だってそうだ。だがいつまでも借りっぱなしというわけにはいかない。
そこへ、ルイズとかなでの他に、この場にいる人間が手をあげた。
「あの~~質問よろしいでしょうか、ミス・ヴァリエール」
「なにかしらシエスタ?」
ルイズは第三者の名を呼ぶ。初めはメイドとしか呼んでなかったが、かなでを通して接することが多いので、いつのまにか名前で呼ぶようになった。
「はい。カナデさんの服を買いに行くのに、どうしてわたしがいるんでしょうか?」
「いい質問ね。それはね、あなたの意見が欲しいからよ。さすがにカナデに貴族としての格好をさせるわけにはいかないわ。だから平民としての観点から服選びを手伝ってほしいのよ」
「そうだったんですか。分かりました! ドンと任せてください」
シエスタは張りきるように胸を叩いた。
そして翌日、三人は街へと向かった。
目指すはトリステインの王都、トリスタニア。
王都のとある武器屋。
薄暗い店内の壁や棚には武具が
その中に一本の剣があった。錆びたボロボロの剣であるが、実はこの剣には他にはない秘密があった。なんと意思を宿しているのだ。
(俺はこんなところで何をしてんだろーなぁ……)
自分が使われなくなって随分と経つが、はたして最後に使われたのはいつだったろうか?
記憶をたどるが、どうにも思い出せない。あまりにも長い年月が経ったせいで忘れてしまった。
かつては良き使い手に恵まれていた………ような気がする。
このままずっと樽の中に放置されたままなのだろうか?
ごくまれに、自分の記憶を呼び起こすきっかけなんかを探しに行きたいとも思うのだが、悲しきかなそこは剣。持ち運んでくれる人間がいないと話にもならない。
(はぁ………やっぱずっとこのままなのかねぇ……)
心の中で諦めにも似たため息をつく。
するとカウンターにいる店主が偶然にもため息をついた。
「客が来ねえなぁ……」
店主は50歳くらいの親父で、パイプをくわえ、
退屈していた剣はなんとなく返答した。
「こりゃ潰れるのも時間の問題だな」
すると店主は剣を睨みつけた。
「誰のせいだと思ってんだデル公!」
「どう考えてもてめえのせいだろ?」
「うっせ、いつもいつも商売の邪魔しやがって! おかげで商売あがったりだぁ!」
「よく言うぜ。てめえの売り方にはいつも
剣は店主のことが心底気に入らなかった。この店主、仕事は一応ちゃんとこなすが、客が金持ちの
「この野郎、剣のくせに生意気な! 貴族に頼んで溶かしてやろうかぁ!!」
「おう上等だ、やってみろ! どうせこの世にゃ飽き飽きしてたところさ!」
二人の会話はヒートアップしていく。互いに頭に血が上っているようだ。剣には頭も血もないが。
と、そこで店の扉が開き、二人の口喧嘩がピタっと止んだ。
入ってきたのは金髪を短く切った一人の女剣士だった。ところどころ板金で保護された鎖かたびらに身を包み、腰に細く長い剣を下げている。
そして彼女は店主に馴染みのある顔だった。
「アニエスじゃねえか。今日はどうした?」
「ああ、ちょっと新しい装備が欲しくてな」
アニエスと呼ばれた女剣士が店内を見渡す。
剣も彼女については知っていた。女でありながらなかなかの実力の持ち主のようだ。使い手としては十分である。
だからつい、自分を買ってくれないかと、期待を抱いてしまう。
「親父、銃はあるか?」
残念、剣はお呼びではなかった。
意思持つ剣は心の中でがっくりとうなだれた。
馬を駆ること3時間。ルイズ達は王都に到着した。
乗ってきた馬を街の門の側にある駅に預け、一行は城下町を歩いていく。
ちなみに今日のかなでの服装はインナー含め自前の制服姿。ルイズとシエスタはいつもの格好である。
「カナデ、ここが王都トリスタニアよ」
先頭を行くルイズが自慢するように嬉々として紹介する。
だが、
「腰が痛いわ」
「街の案内に対してそれか!」
ルイズが思わずツッコミを入れる。
かなでは初めて乗った馬のせいで腰が痛かった。今はわりとマシになってきたが、時々腰をさすっている。
そうして歩いてる道中、かなでは物珍しそうに白い石造りの街並みを見渡した。石畳で整備された道の幅は5メートル程で、道端にはいろいろな種類の露店が溢れ、商人達が客寄せの声を張り上げている。その道を
「人が多いのね」
「当然よ。このブルドンネ街は一番の大通りなのよ」
ルイズは胸を張る。すると気づいたようにかなでの方を振り返る。
「そうだカナデ。上着の
普通のスリもそうだが、さらに警戒するのはメイジのスリだ。
メイジの全てが貴族ではない。訳あって
「ちゃんと持ってるわ」
かなでは懐にしまってある
「って、なに出してんのよ!? すぐにしまいなさい!」
「そうですよカナデさん! 狙ってくれっていってるようなものじゃないですか!」
ルイズとシエスタの言葉にかなでは、
(たしかにそうね)
と納得して懐にしまおうとする。
その時、財布がフッと消えた。
「?」
かなでは空いた手のひらを見つめる。ルイズらは一瞬時が止まったように硬直した。が、ルイズはすぐに事態を悟った。スリだ。
「言ったそばからぁー!!」
ルイズの凄まじい絶叫が響いた。
通行人達が何事かとルイズへ目を向ける。とうの彼女はすぐに犯人を探そうとあたりを見渡していた。
すると、周りがルイズ達に注目する中、一人裏路地へと逃げるように入っていく人影を偶然にもとらえた。
「あれだわ!」
直感で犯人だと思ったルイズは弾かれたように駆け出し、裏路地へと入っていった。かなでもすぐさま続く。
一人取り残されたシエスタはポカンとしていたが、ふと我に返ると、
薄暗い裏路地には他に人はおらず、前方にはローブを纏った怪しげな人物だけが歩いていた。
「待ちなさい!」
ルイズが怒気を滲ませて叫ぶと、相手はビクッと跳ねてこちらを振り返った。30歳くらいの痩せこけた男で、手にはルイズの財布を握っていた。間違いなく犯人だ。
スリはこちらを見たとたん、一目散に逃げ出した。
二人も慌ててあとを追った。
ルイズは己の運動能力に自信があった。魔法が使えないので歩くことが多かったし、乗馬でも鍛えているからだ。かなでもガードスキルの恩恵で高い能力を持つ。だから十分に追いつけるはずだった。
問題はこの裏路地だ。幅が人二人分程度しかない
だが相手は障害だらけの悪路をなんなくスムーズに駆け抜ける。しかも何度も角を曲がってこちらをまこうとするのだ。
「ああ、もう! いっそ空でも飛べれば楽なのに!」
ルイズは悔しそうに叫ぶ。
するとそれを聞いたかなでは、足に力を入れると大きくジャンプし、すぐ近くの民家の屋根に飛び乗った。オーバードライブで強化された身体能力があればこそだ。
(空は飛べないけど、これでもいくぶんかはマシね)
スリが向かったと思われる方へ駆け出し、屋根から屋根へと飛び移りながら探していく。
ちなみにルイズは追跡に夢中で、かなでがいなくなったことに気づかず走り続けていた。
スリが何度目かの角を曲がった。ルイズも同じ角を曲がる。
だがその先にスリの姿はなかった。
「い、いないィ!?」
すぐに近くの曲がり角をいくつか覗くが、どこにも見当たらない。完全に見失ってしまった。
「なんでよ!? なんでいなくなってんのよ!」
ルイズは頭を抱え
「それもこれも、カナデが不用意に財布を出すから!」
振り返り、失態を犯した使い魔を怒鳴りつけた。
しかしそこにかなでの姿はなかった。
「………あれ?」
ルイズはかなでがいなくなったことに、やっと気づいた。
「ど、どこにいったのよぉーーーーー!!!」
ルイズの叫びは虚しくこだました。
土がむき出しの舗装されてない道を歩きながら、スリの男は後ろを振り返る。あの貴族の小娘達が追ってくる様子はない。やはり自分と違ってこんな小汚い裏路地の土地勘などないようだ。
「ハァ、ハァ……よし、まいてやったぞ……ざまぁ見ろ」
全力疾走してきたスリは右腕で汗を拭うと、左手に持つ財布を開いて中身を確認する。金貨がぎっしりだ。
「おお! 小娘のわりには案外持ってるな! ヒヒヒっ……むこうは今頃、さぞ悔しがってるだろうなぁ!」
こんなことができるのも自分がメイジだからだ。コモン・マジックの"念力"を使えばこんな重い財布なんて、なんなく盗み取れる。
スリは上機嫌で歩いていった。
そんな彼の前に、空から銀髪の少女がズドンッと降り立った。
「は?」
突然のことに硬直した。
背を向けている少女が振り返ると、相手は先ほど財布をすった小娘だった。
「なっ!? お、お前どうやって僕を見つけた!? いやそれよりどこからやってきた!?」
取り乱すスリに、少女……立華かなでは最寄りの家の上あたりを指さし、
「屋根の上を走りながらあなたを見つけたのよ」
続いて手を差し出した。
「盗んだ財布を返して」
「か、返すわけないだろ!」
するとかなではスリに向かって歩き出す。
「ち、近づくな!」
スリは大きくバックステップして距離を取ると、杖を取り出して構えた。かなでは足を止める。
「そうだ! そ、そのままじっとしてろよ」
右手の杖を向けたまま後ずさりする。
「ガードスキル・ハンドソニック」
かなでは右手に光とともに手甲剣を出現させた。
スリはギョっとする。
「な、なんだお前、剣を隠してたのか!」
実際は違うのだが、そんなことには気づかない。怒鳴り散らすスリをよそに、かなでは再び歩き出した。
「や、やるつもりか!? 僕はトライアングルのメイジなんだぞ!」
とは言うものの、この男先ほどからビビリすぎである。メイジとしての能力は高くても、人間としては小心者らしい。さっきからずっと後ずさってばっかだ。
だがそうしながらも、スリは詠唱を完成させていた。
「
スリの足元の地面から
迫るそれをかなでは剣で力任せに叩き落とした。
「………へ?」
スリは呆然としたが、すぐにハッとなり、次々と土弾を発射した。
しかし結果は全て先ほどと同じだった。
「な、ななな、なんなんだよお前!?」
スリは錯乱していた。平民の、しかもひ弱な小娘が、土弾を叩き落すなどありえないことだった。
かなでは相手を取り押さえようと、踏み込むようにジャンプし、一気に距離を詰めた。
「く、くそ!」
スリは咄嗟にフライの魔法を唱え、ギリギリのところで遥か上空へと逃れた。
かなではハンドソニックを消すと、大ジャンプし、両手で掴みかかろうとする。しかしスリはフライをたくみに使って避ける。かなでは目標を失った空を突きぬけた。
(バカめ! ただのジャンプと自由に動けるフライならこっちのほうが有利だ!)
自分の少し上の方にいる、宙で身動きできない少女にほくそ笑みながら、スリは空を飛んでいった。このままどこかの路地に逃げ込んで身を隠す
対してかなでは、こちらを見ながら飛行するスリを、狙いを定めるようにじっと見つめた。
そして、
「ガードスキル・ハーモニクス」
かなでの体が一瞬光ると、彼女の分身がスリめがけミサイルのごとく撃ちだされた。
正面から見ていたスリは驚いて目を見開く。そしてかなでが何をしたのか理解する間もなく、クロスチョップの構えで突っ込んできた分身の体当たりを腹にもろにくらった。
「ぐふっあ!?」
その状態でスリは十数メートル吹っ飛び、一軒の
今回はここまでです。できれば一週間ごとに投稿できたらなと思ってます。
今回メイジのスリを出しましたけど、これは原作読んだとき「魔法でスリやるならどんな感じだろう?」と気になったのがきっかけですね。(原作でも特に明記されてなかったはずですし)
いろいろ考えてみた結果、レビテーションとかの浮遊魔法がそうじゃないかな、という考えに至りました。
※追記
感想にて、風系統魔法のレビテーションより、コモン・マジックの念力の方が向いてるという意見がきました。
たしかにそのとおりだと思い、使用魔法を差し替えました。