天使ちゃんな使い魔   作:七色ガラス

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今回は決闘後の後日談的な内容です。

それにして………どういうことだおい。
後日談なんだから前回から間を置かずに投稿するはずだったのに……気づけば2週間近く経過してた。まさかこんなにかかるなんて思ってなかった(汗)

そいうわけで、読者の皆様、大変お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした(謝)


※2016/3/17、ディテクト・マジック使用に対してのルイズの返答を「かしこまりました」から「分かりました」に変更。

※2016/7/20、ルイズらを呼び出したさいのオスマンのセリフを若干変更。


第7話 かなでの素性

 決闘を終えたかなでは、呆然と突っ立っているルイズのもとへと歩いてきた。決闘の時、彼女は自分を庇って飛び出した。無傷のはずだが、一応安否を確認する。

「怪我はない?」

 するとルイズは我に返り、すごい形相で迫ってきた。

「あんた! あれはどういうことよ!?」

 かなでは言われてる意味が分からず、小首を傾げる。

「あれ?」

「とぼけるんじゃないわよ! さっきギーシュとの決闘で使ってた魔法みたいなものよ! まさかとは思うけど"先住魔法"じゃないわよね……」

「そんなこと言ってた人もいたわね。先住魔法って何?」

「エルフ達が使う魔法よ。わたし達メイジは杖がなきゃ魔法を使えないけど、先住魔法はそんなことないし、ずっと強力なの。じゃなくて!!」

「ガードスキルのこと?」

「ガードスキル? それがさっきの魔法の名前? とにかくそれよ! あんなことができるなんて聞いてないわよ! というかなんでできるのよ!」

 大声で問いただすルイズ。かなでが使った力は今朝夢で見たものと同じだった。彼女はそのことが気になってしかたなかった。

 対するかなでの返答は、

「私もさっき知ったわ」

「はぁ?」

 なんともこちらの予測の斜め上をいくものだった。もっと『隠してた』とか『理由があって言えなかった』とか予想していたのに。

 そこへルイズを呼ぶ者が現れた。

「ミス・ヴァリエール!」

「ミス・ロングビル?」

 名を呼ばれてそちらを向くと、ミス・ロングビルが小走りで彼女らのもとへと近づいてきた。他にも教師が何人か来ており、その者達は決闘を見ていた生徒に解散するよう命じていた。

「オールド・オスマンがお呼びです。至急学院長室へ来るようにと。そちらの使い魔の(むすめ)も一緒にとのことです」

「学院長が?」

 一体なんの用だろうか? もしかして今回の決闘騒ぎについてのお叱りでは? でもそうだとすると、ギーシュも当事者のため一緒に呼ばれると思うのだが………。

 そのことを尋ねると、用があるのは自分達だけらしい。

「……分かりました、すぐに参ります」

 こうしてルイズはかなでを連れて、本日二回目の学院長室行きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学院長室には机に座るオスマン、その後ろにコルベールがいた。ミス・ロングビルはルイズらを連れてきた後、退出させられた。

「何度も足を運ばせてすまんのぉ、ミス・ヴァリエール」

「いいえ、構いませんオールド・オスマン。それで用というのは?」

「それはじゃの、お主の使い魔についてじゃ。さて、そちらのお嬢さんは名をなんというのかの?」

「彼女の名前はカナデといいます」

 ルイズが答えると、オスマンはかなでを見据えた。

「うむ、ではカナデ君。すまないが『ディテクト・マジック』をかけさせてもらうぞい。良いかな二人とも?」

 かなでは小首を傾げると、ルイズが小声で説明した。

「ディテクト・マジックっていうのは魔力を探知するのに使う魔法よ。あと学院長と話すことになったら、ちゃんと敬語使いなさいよ」

 言葉遣いについてあらかじめ注意する。余談だが、ルイズが自分に対するかなでの言葉遣いを今まで(とが)めなかったのは、ただ見かけが可愛いから無意識のうちに許容(きょよう)してしまっていたからである。

 ルイズはオスマンに魔法の使用について「分かりました」と返答し、かなでもルイズの説明に納得して、首を縦に振った。

 二人の了承を得たオスマンは、自身の背丈(せたけ)と同じくらいはある大きな杖を軽く振り、同時に短くルーンを呟いた。杖の先端から光の粉が飛び出し、かなでにまとわりついた。

「……ふむ」

 ディテクト・マジックの後、オスマンはかなでをじっと見つめた。

 彼はミス・ロングビルが二人を連れてくる間、コルベールにかなでが召喚された際にディテクト・マジックを使ったか(たず)ねた。その際、コルベールは魔法を使用し、その結果かなでがただの平民であると確認したとのことだった。

(わしも今調べてみたが、たしかに平民の娘じゃのぉ……。やはり直接問いただすしかなさそうじゃな)

 オスマンは鋭い視線をかなでに向けた。

「カナデ君といったか……。君は何者じゃ?」

 かなでは困ったように小首を傾げた。

(何者と聞かれてもなんて答えればいいのかしら? 名前?)

 だが前に、使い魔にされた祭にルイズに二度目の自己紹介をして怒鳴られたことを思い出す。どうすればいいのかと思案していたところで、ルイズが助け舟を出した。

「オールド・オスマン、なぜそのようなことを?」

「ん? ふむ、実は先程の決闘を見ておっての。あぁ、それについては咎めはせんよ。ただのぉ……カナデ君のあの力がどうしても気になってしまっての。ディテクト・マジックを使ってみても魔力の存在は感知できん。しかしただの平民にあのようなことができるとも思えん。じゃからこうして尋ねることにしたのじゃ」

 ルイズは納得した。自分もかなでの力の正体は気になる。

 かなでとしては、どうしたものかと考えていた。ガードスキルについて説明するには、色々と話さなければならない。別にそれでも構わないのだが。

「改めて聞こう、カナデ君。君は……君の力は一体何なのじゃ?」

 オスマンが真剣な顔と声で、再び尋ねた。

 言っていいのか数秒考える。そして、相手がまじめな様子なので、正直に話すことにした。

「あれはガードスキルというものです」

「ふむ。して君はなぜそれを使えるのかね?」

「あたしが前にいた所で能力(スキル)を作ったからです」

「作った? しかしそんなことができる場所とはいったい?」

「死後の世界です」

「………なんじゃと?」

 全員が、かなでが何を言いだしたのか理解できなかった。

「それはどういう意味かの?」

「そのままの意味です。あたしは地球の、死後の世界から来ました」

「………詳しく話してくれんかの? まずチキュウというのは……」

 それからオスマンとかなでの問答が始まった。

 かなでは、地球がハルケギニアとは別の世界であること。

 自分がそこで生まれ、若くして死んだこと。

 未練を残した若者達の(たましい)が流れ着く死後の世界の学園にいたこと。

 そこで見つけたエンジェルプレイヤーというものを使ってガードスキルを開発したこと。

 会話や説明があまり得意ではないかなでだったが、なんとか頑張(がんば)ってそれらのことを話した。

「……そして死後の世界では、心残りが晴れれば来世へと旅立てる。あたしもそうだったけど、気がついたらルイズに召喚されてました」

 かなでが説明を終えると、オスマンとコルベールは彼女に対して、なんともいえない目を向けていた。

「……なるほどのぉ、君の言い分は分かった」

 オスマンは長い(ひげ)をさすりながら呟いた。

「しかし死後の世界から来たと言われて、それを素直に信じるかというと、のぉ……」

「別にあたしの話を信じなくてもいいです」

「……お主、そんなのでよいのか?」

 どこか投げやり的に聞こえる発言に、オスマンらは若干呆れる。

「自分でも荒唐無稽(こうとうむけい)な話だと思うし、人に理解されないのはよくあることですから」

「ふむ、たしかに荒唐無稽ではあるの。とはいえ、お主の話の真偽(しんぎ)を確かめる(すべ)はない。なら気にしてもしょうがないしの。大事なのかこれからのことじゃな」

 オスマンは目を細めた。

「さてカナデ君。もしこの先、君の出自を聞かれた際は死後の世界から来たというのは言わんほうがよかろう。そうじゃの……。東方の、ロバ・アル・カイリエから来たということにしとこう。その方が妙な事にならんしの」

「分かりました」

 彼の提案にかなでは納得して、首を縦に振った。

「うむ、用件は以上じゃ。二人共、時間をとらせてすまんかったの」

「いえ、では失礼いたします」

 ルイズは一礼し、かなでもそれにならう。そしてルイズはかなでを連れて退出した。

 扉が閉められ、二人の足音が遠ざかっていく。完全にそれが聞こえなくなったところで、コルベールが口を開いた。

「オールド・オスマン、彼女の話、どう思いますか?」

「お主はどうなのじゃ? 本当だと思うかの?」

「……正直、信じきることができません。もし本当だというなら……」

 コルベールは言葉に詰まった。その先を口にするのをためらっているようだった。

「君の気持ちは分からんでもないよ。あの少女が本当に死後の世界から来たというなら、ミス・ヴァリエールは……」

「はい、彼女は幽霊……いえ、死者を蘇らせて召喚したことになります」

「いや、カナデ君の話からして、むしろ"生まれ変わらせた"というのが正しいかのぉ」

 そんな常軌を(いっ)したことが、はたしてメイジに可能なのだろうか?

「考えても分からんか……。その答えを知るのは、おそらく始祖ブリミルだけじゃろう」

 オスマンは椅子から立ち上がると、窓際に向かった。遠い空を眺め、遥か歴史の彼方へと想いを馳せる。

「記すこともはばかれる使い魔か……。始祖ブリミルの使い魔も、彼女と同じような存在であったのだろかのぉ……」

「その答えもまた、考えても出ないものですね……」

 そう呟くコルベールもまた、始祖のいた時代に想いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学院長室を後にしたルイズらは自分達の部屋に戻っていた。

 ベッドに腰を下ろしたルイズは先程のかなでの話を思い返す。

 死後の世界から来たなどと到底信じられなかった。

 だがそれを作り話だと一蹴(いっしゅう)できない要因があった。

 今朝の夢である。夢の中で、かなでは自分が死んでいるような発言をしていたし、ガードスキルとやらも使っていた。

 かなでの話は全部本当のことなのだろうか?

「ルイズ」

 ふと話しかけられたので、意識を現実に戻す。

「なによカナデ?」

「この後の予定は?」

「予定?」

 そう聞かれて本日の授業日程を思い返す。

「………特にないわ。今日、二年生は午後の授業はお休み。召喚した使い魔とコミュニーケーションをとるのよ」

 自分もそのはずだったが、かなでの素性(すじょう)を今さっき聞いたばかり。ほとんど済ませてしまったようなものである。

「そう、だったら―――」

 かなでが何か言おうとしたところで、ノックの音が聞こえた。

「誰かしら?」

 ルイズは立ち上がると入口まで歩いていき、ドアを開けた。

 そこにいたのは、なにやら落ち着かない様子のギーシュだった。

「どうしたのよギーシュ」

「ああ、君の使い魔に言わねばならないことがあってね。入って構わないか?」

「別にいいわよ」

 入室を許されたギーシュは部屋に入る。そしてかなでの前まで歩いていき、彼女に向き合う。

 そして勢いよく頭を下げた。

「すまなかった」

 突然の謝罪にルイズとかなでは困惑した。

「君の言うとおり、僕が浅はかだった。二人のレディの心を傷つけ、あまつさえ君にもひどい迷惑をかけた。本当にすまなかった」

 ルイズは驚いた。まさかあのギーシュが頭を下げるにくるとは……。

 かなでは謝罪に対し首を横に振った。

「気にしていないわ。それよりも」

「ああ。モンモランシーとケティにもきちんと謝るさ」

 頭を上げてそう言うと、ギーシュは部屋を出ていこうとする。だが扉の前に来たところで、彼はルイズの方を向いた。

「それにしてもルイズ。君の使い魔は何者なんだい?」

「………カナデは東方から来た特別な力の持ち主らしいわ」

 さっそくオスマンが提示した設定を口にする。死後の世界から来たなどとは、やはり言うわけにはいかなかった。

「そうか、東方か。確かに向こう側なら僕らの知らない力が存在しててもおかしくないな……。それにしてもルイズ、彼女は君があの時望んだとおりの使い魔だね」

 ギーシュの言葉にルイズは小首を傾げた。

「どう言う意味よ?」

「君は使い魔召喚の時に言ったじゃないか。”神聖で、美しく、強力な使い魔”と。ミス・カナデはまさに美しさと力強さを持つ使い魔じゃないか」

 笑いながらそう言って、ギーシュは部屋を出ていった。

 彼が去った後、ルイズはかなでを見つめた。

 可愛らしい容姿、そしてドットとはいえメイジを圧倒した力。たしかにギーシュの言うとおりだと思った。………神聖であるかは、まぁ物静かな姿はそんな感じもするかもしれないが、実際のところ少々微妙ではあると思う。

 ルイズの視線に気付いたのか、かなでも相手を見つめ返す。

「ルイズ、洗濯に行ってくるわ」

「は?」

 唐突(とうとつ)な言葉に、怪訝な顔をする。

 しかしよく見ると、いつの()にか、かなでは昨日ルイズが脱いだ下着が入ってるカゴを持っていた。

 もしかしてさっき言いかけたのはこれだったのだろうか?

「いいわ、行ってきなさい」

 かなでは頷くとカゴを持って部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を降り、塔の外へと出たかなで。

 そこで彼女は、自分が再びミスを犯したことに気づく。

(洗濯する場所を聞くの忘れた………)

 ほんの少し前、昼食時にも同じ失敗をしたというのに。

 自分の間抜けさにちょっと落ち込む。

 ルイズに聞きに戻ろうとしたところで、視界の隅にシエスタの姿が目に入った。

(また彼女に聞こうかしら?)

 かなでは駆け出してシエスタのもとまで来た。

「シエスタ」

「あ、カナデ様……」

 呼び止められたシエスタが振り返る。しかし様子がおかしかった。なんだかよそよそしい。かなでは小首を傾げた。

 するとシエスタは深々と頭を下げた。

「先程は失礼しました」

「なんのこと?」

「なにって……カナデ様がメイジ様だったなんて知らず……わたしったら馴れ馴れしい態度をとってしまい……」

「あたしがメイジ?」

 ()に落ちないかなで。シエスタが姿勢を正して話し始めた。

「わたし、決闘見てたんです。カナデ様が魔法でミスタ・グラモンのゴーレムを倒すのを……」

 それで納得した。シエスタの言う魔法とはガードスキルのことだろう。だからそれを使える自分がメイジだと思っているのだ。

(そういえばたしかルイズも最初、ガードスキルを魔法と呼んでいたわね)

 やはり(はた)から見て、あれはそういうふうに見えるものなのだろう。

 かなでは誤解を解こうと、首を横に振った。

「あたしはメイジじゃないわ」

「え? で、でも、分身を出したり、一瞬で別のところに移動したり……」

「あれは魔法じゃないわ。ガードスキルよ」

「ガードスキル?」

 シエスタは首を傾げる。いまいち納得していないようだった。

「あれはあたしが前にいた所で自衛のために作った能力よ。でも魔法じゃないし、あたしはメイジでも貴族でもないの。だから今までどおりでいいわ」

 そう言われたシエスタは、しばし難しい顔をして考え込んでいたが、その後は笑顔を浮かべた。

「分かりました。カナデさんがそう言うならそうします」

「そうしてもらえると嬉しいわ」

「はい、それで何か御用でしたか?」

「洗濯したいから、どこですればいいのか教えてほしいの」

 かなでは下着の入ったカゴを見せつけた。

「カナデさんがやるんですか?」

 シエスタは意外そうな顔をする。本来それは自分達使用人の仕事のはずである。

「それがあたしの役割だから」

「そうですか。分かりました、洗い場はこっちです」

 シエスタが先導して歩き出したので、かなでは後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案内されたのは学院を囲む城壁の一角だった。ライオンのような獣の顔を模した彫像が壁に埋め込まれており、その口からは絶えず水が流れ、その下の、城壁に沿って造られた半円状の溜まり場へと落ちていた。

 それを見てかなではなんとなく、地球の公園とかにある噴水を思い出した。

「洗濯はこの水汲み場でするんですよ。ちょっと待っててくださいね」

 そう言ってシエスタは、近くに建つ二階建ての小屋の中へ、小走りで入っていった。しばらくして洗剤と木製の洗濯板を入れたタライを持って戻ってきた。

 それからは洗濯板の使い方を教えてもらい、下着を洗い始めた。とはいえ現代文明の中で育ったかなで。初めての手洗いがうまくいくはずもない。

 そこでシエスタが代わりにやって、お手本を見せながら指導してもらった。

 かなでは彼女の(そば)にしゃがみ、真剣に洗い方を覚える。

 洗濯を終えたシエスタは、洗った下着の入ったタライを手に持って立ち上がった。かなでも同じく立ち上がる。

「シルクは陰干しにしてくださいね」

 そう言ってシエスタはタライをかなでに手渡した。 

「助かったわ」

「どういたしまして。それにしてもカナデさん、洗濯とかしたことなかったんですか?」

「手で洗濯なんて、前までいた所ではやらなかったから」 

「そういえば、カナデさんて、どちらの出身なんですか?」

 その質問に、かなではオスマンに言われたとおりに答える。

「………東方の方よ」

「まぁ! ではロバ・アル・カリイエから来たんですか!?」

「そうね」

「随分と遠いところから召喚されたんですね……」

 シエスタがある方角の空の彼方を見上げる。おそらくそちらが東方なのだろう。

 それから彼女は視線を戻し、何気なく聞いてきた。

「そこではどんなことをしてたんですか? さっき、自衛って言ってましたが、何かと戦ってたりしてたんですか?」

「武器で人に危害を加えようとする人達に対抗してたわ。だけど、この力が原因でかえって敵視されることもあったわね。いきなり銃で撃たれたこともあったし」

「………えっ!? 銃って、あの鉛の玉を撃ちだす武器ですよね? 大丈夫だったんですか?」

「ガードスキルで大抵は平気だったわ。ああ、でも、足とかお腹とか撃たれて血が出たことが……」

「今サラッと、とんでもないこと言いましたよね!? お腹とか死んじゃうじゃないですか!」

「結果として死ななかったわ」

 理由は死後の世界だったからであるが、それは言わない約束なので口にしなかったし、詳しい説明もしなかった。

 当然、死後の世界のことなんて知らないシエスタとは認識のズレが生じることになるのだが。

「………その、大変だったんですね、カナデさん……。でも味方の人とかはいたんですよね。さすがに一人ってことは……」

「いないわ」

「え?」

「味方なんていなかったわ。あの人達の相手はあたし一人でしてた。それにガードスキルを使えるのはあたしだけだったし」

 その言葉にシエスタは愕然とし、かなでが今までどんな人生を送ってきたのか、その鱗片(りんぺん)垣間見(かいまみ)た気がした。

 たった一人で武装した者達と戦ってきた。しかも死ぬような怪我を負ってまで……。

 どれほど辛かっただろう……。どれほど心細かっただろう……。

 おのずとシエスタの目に涙が浮かんだ。

「すみません、カナデさん」

 涙を拭ったシエスタが悲壮感漂う顔で頭を下げた。

 突然の謝罪にかなでは困惑した。

「どうしたの?」

「食堂で逃げ出してしまったことです。あの時はただ怖くて、カナデさんを見捨てて逃げて……」

「別にそれは悪いことじゃないと思うわ」

「いいえ! そんなことありません!」

 シエスタはバッと頭を上げた。

「わたし、カナデさんが、貴族にも負けない不思議な力があるから強いと思ってました。でもそれは間違ってました。本当に強いのはカナデさんの心です!」

 シエスタの目がなにやらキラキラと輝いている。彼女は胸の前で手を組むと、ぐいっとかなでに迫った。

「困ったことがあったらなんでも言ってくださいね。わたしはカナデさんの味方ですから!」

 今の彼女には、これまで一人ぼっちで辛い人生を送ってきたかなでを守っていこうという、ある種の使命感に燃えていた。

 実のところ、あの世界の生活での最後の方では、自分を愛してくれた男をはじめ、色々と親しい人達ができたのだが。

「改めてよろしくお願いしますね、カナデさん!」

「………よろしくお願いするわ」

 この意気込みがなんなのか、かなでには分からなかったが、まぁ悪いことではないだろうと納得する。

 こうして二人は、それぞれの認識のズレを生じながらも、良好な関係へと発展していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、就寝時間。

 ルイズは自室にて、衣類を脱いでネグリジェに着替え、ベッドに横になった。

 かなでは昨晩同様に藁束で寝ようとした。そこをルイズに止められた。

「いいわよ。ベッドで寝なさい」

 ルイズがベッドの奥の方へ移動し、人一人分が入れるスペースを作る。

「でも」

「わたしがいいって言ってるんだから遠慮しないの」

「ならお言葉に甘えて」

 かなでがベッドに潜り込もうとする。

「それとあんた、服は脱いだほうがいいんじゃない? 寝にくいだろうし、シワにもなるわ」

「それもそうね」

 かなではルイズの意見を素直に聞き入れると、制服を脱いで、空いている椅子にかけた。

 上下白の下着姿となったかなでがベッドに潜り込む。

 二人並んで横になると、ルイズは指を鳴らして部屋の灯りを消した。

「ルイズ」

 暗がりの中、かなでが呟いた。

「何?」

「昼間は守ってくれようとしてくれて、ありがとう」

 おそらく決闘のときのことを言っているのだろう。突然の話題にルイズは目を丸くした。

「どうしたのよ突然?」

「なんとなく……。まだお礼を言ってなかったと思って」

「別に礼なんていらないわ」

 その言葉に、かなでは顔を横に向ける。同じようしてこちらを見ているルイズと目が合った。

「守るのは当然よ。使い魔を見捨てるメイジはメイジじゃないもの」

「そう」

「そういえばあんた、決闘の時、なんで最初からガードスキル使わなかったのよ?」

「現実の世界で使えるなんて思わなかったから。ハーモニクスが発動して、初めて使えることに気づいたわ」

「なにそれ? もっと早くに、使えるかどうか試しておけばよかったのに」

「………………その手があったわね」

 数秒の沈黙の後に呟かれた答えに、ルイズは呆れた。

「あんた、間抜けでしょ………」

「知ってる」

「自覚はあるのね……」

 ルイズは呆れを通り越して苦笑するしかなかった。

 それっきり、二人は首を元に戻した。

「おやすみなさい、ルイズ」

「おやすみ」

 寝る前の挨拶をかわし、両者は目を閉じ、眠りについた。

 そして、ルイズは再び、あの不可思議な夢を見ることになる。




今回で物語は一区切り的な感じです。第一部終了みたいな。

ここでご報告があります。今回投稿に時間がかかりましたが、これからの投稿はもっと間を置くことになります。
理由としてはリアルでの時間ですね。仕事関係やその他いろいろのせいで、時間がとれなくなってきました。(おかげでゼロの使い魔最新刊だってほんの少ししか読めてないし……)
作品の終わりまでの内容はほぼできているので、あとは少しずつ書いていこうと思います。
では皆様、もしよければ、これからもよろしくお願いします。




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