天使ちゃんな使い魔   作:七色ガラス

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※2016/2/21、以下を修正。
・かなでがサラマンダーを見下ろす際に、しゃがむ描写をカット。


第4話 二つ名のゆらい

 ルイズ達が部屋から出ると、廊下の向かいのドアがほぼ同時に開いた。中から赤髪の女子生徒が出てくる。

 かなではその顔に見覚えがあった。昨日広場で見かけたキュルケという女性だ。

 彼女はルイズを見ると、ニヤっと笑って挨拶(あいさつ)した。

「おはよう。ルイズ」

「おはよう。キュルケ」

 対するルイズは顔をしかめて、嫌そうに返した。

 次にキュルケはルイズの斜め後ろにいるかなでを見た。

「使い魔ちゃんもおはよう」

「おはよう」

 挨拶をかわすと、かなでは改めてキュルケの容姿を見つめた。

 ルイズとは正反対の体型である。燃えるような赤い長髪に、褐色の肌。突き出た豊満な胸。ブラウスのボタン上二つを外してはだけさせた胸元からは、立派な谷間が覗いている。まさにナイスバディであった。

 キュルケもまた、かなでを値踏みするように上から下へと視線を動かしていた。

「ふ~~ん」

 一通り見終えると、キュルケは合点がいったというような表情を浮かべた。

 ルイズは含みのありそうなそれに機嫌が悪くなった。

「なによ」

「使い魔はそのメイジにふさわしいものが呼び出されるっていうけど、なるほど」

「だからなにがよ?」

 ルイズが怪訝(けげん)な顔をしていると、キュルケはからかうように笑った。

「あら分からないの? よかったわねルイズ。同じ幼児体系の娘が使い魔になって」

「な!!」

 ルイズは昨晩(さくばん)認めようとしなかった自分とかなでの共通点を指摘されて、頭に血が一気に上って真っ赤になった。

「こういうのなんて言うんだっけ? 類は友を呼ぶだったかしら?」

「うるさいわね!」

 そんなルイズの反応を楽しんだのか、キュルケは上機嫌だ。

「ま、類は友を呼ぶとはわたしも同じだけどねぇ~。フレイムー」

 キュルケが勝ち誇った声で使い魔を呼ぶ。すると部屋の中から、トラ並みの大きさの、四足歩行のオレンジ色トカゲがのっそり出てきた。しかもただのトカゲではない。なんと尻尾の先端で炎が燃え盛っているのだ。

「使い魔にするならやっぱこういうのよね~~♪」

「ぐぬぬぬ~~~!!」

 ルイズは出てきた火トカゲの姿を見て悔しがる。

 その横でかなでは火トカゲを見下ろした。

「それってもしかして、サラマンダーかしら?」

 かなでは生前、ネット等で見たファンタジーものの知識を掘り返す。マンガ、アニメ、ゲーム。いろんな作品に登場してた気がする。

「あら、よく知ってるわね。どう、この鮮やかで大きい炎の尻尾。間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? すごいでしょ。メイジの実力を測るには使い魔を見ろってよく言うけど、属性も相まって、まさにわたしにぴったりの使い魔だわ♪」

 自慢話を聞かされたルイズは、半眼でキュルケを睨んだ。

「あんた、火属性だものね、”お熱のキュルケ”」

「わたしの二つ名は”お熱”じゃなくて”微熱”よ。お分かり? ”ゼロのルイズ”は記憶力もゼロなのかしら?」

 そう言うと、キュルケはルイズの胸をつついた。

「ゼロなのは胸と魔法だけにしときなさい」

 その言葉に、怒りでルイズの頭にさらに血が上った。しかしこれ以上キュルケに無様な顔を見せるのが(しゃく)なので、どうにか冷静な態度を取ろうとがんばった。

「じじじょ女性の価値を胸の大きさだけで、きっ……決めるなんて、すごく頭の悪い考えだわ。 むむむ、胸に栄養取られて、頭がカカカ、カラッポなのね!」

 冷静を装って反論するが、声が震えており、怒りを抑えられていないのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。

「声震えてるわよ~」

 ルイズのありさまに呆れると、キュルケは両腕で豊満な胸を抱え上げ、その魅力を存分に強調する。そしてかなでに問いかけた。

「ねぇ使い魔ちゃん。あなたはどうかしら? こんなに胸の大きなわたしをバカだと思う?」

「あなたがバカかは分からないけど……」

 かなでの視線がキュルケの胸に行く。次に自分の胸を見下ろす。それから再びキュルケの豊満な胸を見た。

「……(うら)やましいわ」

「なに素直に(うら)やましがってるのよ! もっと悔しがりなさいよ!」

 ルイズは、羨望(せんぼう)に満ちた瞳のかなでを(とが)めようとつっかかった。

「? どうして?」

「あんた胸小さいじゃない! この女の巨乳に嫉妬(しっと)とかあるでしょ!」

 貧相な体のかなでなら当然自分と同様の気持ちなのだろう。巨乳を見せつけるこの女に対して、もっと色々文句を言いたいはずだ。そうルイズは思った。

「確かに、自分のがもう少しあったらとは思うわ」

 かなでの言葉にルイズは勢い付いた。

「そうでしょ! そうよね! だったら!」

「でも別に嫉妬なんてしてないわ」

 途端ルイズは言葉に詰まった。

「な、なんでよ?」

 同類のはずのかなでの気持ちが理解できず、狼狽(ろうばい)するルイズ。

 その姿を見てキュルケは愉快そうに笑った。

「アハハハ! 聞いたルイズ。主人と違って使い魔ちゃんは大人ね~! あんたも見習って、そんな子供ぽくてみっともない嫉妬なんてやめたら?」

「こ、子供? みみみ、みっともないですって!?」

 ルイズは愕然とした。

 キュルケはその反応に満足すると、かなでを見た。

「あなた気に入ったわ。名前は?」

「かなで、立華かなで」

「変わった名前ね。じゃあお先に失礼♪」

 そう言ってキュルケは颯爽(さっそう)と上機嫌で去っていった。サラマンダーがその後を追う。

 彼女の姿が見えなくなったあたりでルイズは復活。拳を握り締め、地団駄を踏んだ。

「あの女ぁ! 自分がちょっと胸大きいからって! むむむ、胸大きからって!!」

 そんなルイズを、かなでは無表情で見つめた。

「悔しいの?」

「当たり前でしょ! あんな自慢されて! ああもう!」

「そう。大変ね」

「なに他人事みたいに言ってんのよ!」

 怒り心頭のルイズ。そこでかなでは気になったことを質問した。

「さっき言ってた二つ名って何?」

「メイジの属性に対してつく名前よ。キュルケは火属性が得意だから“微熱”なの」

 なるほど、とかなでは納得した。だが気にあることはもう一つある。

「キュルケがルイズのこと、"魔法がゼロ"って言ってたけど、どういう意味なの?」

「……知らなくてもいいことよ」

 打って変わって静かに、不機嫌そうに返す。

 そしてルイズは早歩きで歩き出した。

 かなでは慌ててその後を追った。

 階段を降り、一階の出入り口から外に出る。

 そこへ、ルイズを呼び止める者の声が聞こえた。

「ミス! ミス・ヴァリエール!」

「ミスタ・コルベール!?」

 見ると、昨日の使い魔召喚の担当をしていた教師コルベールが手を振りながらルイズ達のもとへと走ってきた。

「おはようミス・ヴァリエール。さっそくで申し訳ないが、昨日言っていた……」

「使い魔のルーンの件ですね。きちんとこの娘の胸に刻まれていました。これがスケッチです」

 ルイズはコルベールにスケッチを手渡した。

「そうか、やはり成功だったか。ん、これは……」

 コルベールはそこに書かれているルーンを興味深げに見た。

「どうかされたんですか? もしかして、なにか問題が……」

「ああ、いや失礼。珍しいルーンだったもので。大丈夫ですよ、なんの問題もないよ」

 不安げに訪ねてくるルイズを安心させるように答えたコルベールは、またスケッチのルーンに目を落とす。そして再びルイズを見た。

「ミス・ヴァリエール、これをしばらく預けてくれないだろうか? 少し調べてみたいのでね」

「分かりました」

「解読できたらすぐに報告する。楽しみにしていてくれたまえ」

「ありがとうございます」

 とはいえ、正直いって楽しみにできない。なにせ平民の少女に刻まれたルーンだ。たいした解読結果は出ないだろう。

 去っていくコルベールを見送るルイズは、その後ため息を吐いた。 

 そこへかなでが話しかける。

「ルイズ、朝食はいいのかしら?」

「ああ! 急がないと!!」

 我に返ったルイズは食堂へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイズ達は学園の敷地内の中心にある一番背の高い本塔に来た。

 内部に入る際、ルイズはかなでを一旦外で待たせ、厨房へ足を運んだ。そこで給仕の一人へかなでの食事について指示を出す。

 戻ってくると、かなでを引き連れてアルヴィーズの食堂へと歩いて行った。

 中には百人は優に座れるだろう長テーブルが3つあり、食堂正面に向かって、右から一年、二年、三年の席となる。教師達の席は奥のロフトである。

 二年生のルイズは当然真ん中のテーブルへ向かう。

 それぞれの席には、朝から食べるには贅沢すぎる料理が並んでおり、美味しそうな匂いを漂わせていた。

「椅子を引きなさい」

 命令され、かなでに黙って椅子を引き、そこにルイズが座った。

「あたしはどうすればいいの?」

 かなでの問に対し、ルイズは下を指さした。

「足元を見なさい」

 そう言われて視線を下げて床を見ると、一枚の皿があった。中身は小さな肉の欠片の入ったスープと、端には硬そうなパンが二つあった。

「これは?」

「あんたのご飯よ」

 これが先程、ルイズが給仕に指示して用意させたものだった。

 かなではしばしそれを見つめると、無表情でルイズの方を向いた。

「あんまりね」

 対するルイズは毅然(きぜん)とした態度で答えた。

「ここは本当は貴族しか入れないけど、そこを特別な計らいで入れてあげたの。平民で使い魔なあんたがここに入れて、床で食事ができるだけでも感謝されるべきことなのよ。それにね……」

 ルイズは一旦言葉を止め、咎めるような視線をかなでに向けた。 

「初日から朝寝坊するような使い魔には当然のお仕置きよ」

 これが今朝のことに対してルイズが考えついた(しつけ)だった。

「そう。そういうことなら仕方ないわね」

 お仕置きを言い渡されたかなでは大人しく床に座った。

 ルイズは姿勢を正して目をつむった。

 他の貴族らと共に、始祖ブリミルなるものと女王陛下に対して祈りの声を唱和する。それを終えると、ルイズは美味しそうに豪華な料理を口にほおばり始めた。

 かなでは黙って貧相な食事を口にし始めた。硬いパンをかじる。

 見かけから想像していたが、やはり硬い。

(罰なら仕方ないと思ったけど……)

 どうにか噛みちぎり、何度も咀嚼(そしゃく)する。

(………麻婆豆腐が恋しくなってきたわ)

 かなでは美味しくない食事の最中(さなか)、そう思わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食が終わると、ルイズはかなでを連れて教室に向かった。

 教室に入った瞬間、二人は生徒達から好奇の目を向けられた。それらを全て無視してルイズは自分の席に向う。その後ろを歩くかなでは石造りの教室を見渡した。

(教室は高校とかのじゃないのね。階段式に席が設置されてるから、大学の講義室に近いかしら)

 そんなことを考えていたら、ルイズが自分の席に着いた。かなでは生徒ではないので、ルイズの横の階段に座らされた。

 かなでは他の生徒が連れている使い魔達を眺めた。フクロウ、猫などの他、宙を浮く目玉の生物、六本足のトカゲなどがいる。キュルケの足元にはサラマンダーのフレイムがいた。

(不思議な生き物がいっぱいいるわね……)

 しばらくすると、紫のローブとツバの広いトンガリ帽子を被ったふくよかな中年女性教師が入ってきた。

「こんにちは、今日から一年、『土』の系統の授業を受け持つシュヴルーズと申します。二つ名は赤土。"赤土のシュヴルーズ"です。皆さんよろしくお願いしますね」

 女性教師は教壇に着いて挨拶を済ませると、生徒達を見渡した。

「このシュヴルーズ、毎年皆さんが召喚した使い魔を見るのが楽しみなのですが……おやおやミス・ヴァリエール。変わった使い魔を召喚したようですね」

 すると教室がルイズへの嘲笑に包まれた。

「おいルイズ! 召喚できなかったからって、平民の娘連れてくるなよな!」

「違うわよ”風邪っぴきのマリコルヌ”、ちゃんと召喚したんだから!!」

「風邪っぴきだって! 僕の二つ名は”風上”だ! 間違えるな"ゼロのルイズ"」

 マリコルヌとルイズが立ち上がって口論を始める。そこでシュヴルーズが杖を振るうと、二人はストンと着席した。

「二人とも、みっともない口論はおやめなさい」

 それで口喧嘩は終わり、授業が始まった。

 シュヴルーズの授業はまず魔法の基礎知識のおさらいから始まった。

 かなではその話を真剣に聞き入った。

 魔法には地水火風の四系統と、『虚無』という失なわれた系統があるらしい。そしてメイジは四系統の内いずれか一つ得意な系統を持つとのことだ。その中でシュヴルーズは自分の土の系統が、農業や建築に活躍していることを誇らしげに語った。

(系統……あの人は"赤土"だから『土』、キュルケは”微熱”だから『火』、さっきのマリコルヌという人は……たぶん『風』? ……じゃあルイズの"ゼロ"はなんの系統かしら?)

 かなでが魔法について考えていると、授業は座学から実技に移った。

 シュヴルーズは教壇の上に石ころを数個置き、その内の一つに向け、ルーンを唱えて杖を振り下ろす。

 次の瞬間、ただの石ころが光り輝く金色の物質に変化した。

 これにはかなでだけでなく生徒一同が驚き、教室中がざわめいた。

「ゴ、ゴールドですか!?」

 キュルケが身を乗り出して質問する。

「いいえ、ただの真鋳(しんちゅう)です。ゴールドを錬金できるのはスクウェアです。トライアングルのわたしにはまだ無理ですね」

(スクウェア? トライアングル?)

 新たな単語に首を傾げるかなで。ルイズに聞こうかと思ったが、今は授業中なので後にすることにした。

「さて、それでは誰かに実践してもらいましょうか」

 シュヴルーズは辺りを見渡した後、

「ではミス・ヴァリエール。あなたにやってもらいましょう」

 ルイズを指名した。

 その途端、生徒達が緊張に包まれた。

 キュルケがおずおずと手を上げる。

「あの、ミセス・シュヴルーズ。ルイズはやめておいたほうが……」

「なぜです? 確かに彼女が実技が苦手だと言うのは聞いていますが、同時に、努力家であり座学は優秀だという話も聞いています。さあミス・ヴァリエール、失敗を恐れることはありませんよ」

 しかしルイズは困ったようにもじもじするだけ。視線をあっちこっちに移す。

 ふとかなでの姿が視界に入った。

(……そうよ、わたしは使い魔を召喚できたのよ。もうゼロなんかじゃないんだから!)

 意を決したように立ち上がる。

「分かりました。やります」

 ルイズは階段を下って教壇の前に立つ。生徒達はこの世の終わりであるかのような顔をすると、一斉に机や椅子の下に潜り込んだ。

 その様子をかなでは不思議に思う。石の材質を変えるだけなのに、どうしたというのだろうか?

 その理由を彼女はまだ知らない。

「ちょっと、カナデ! あなたもこっちに来なさい」

「?」

 机の下のキュルケに呼ばれたかなでは、疑問を感じながらも彼女の隣へと向かい、一緒に隠れる。

「どうして隠れるの?」

「今に分かるわ」

 そう言って、キュルケは顔を少しだけ出してルイズを確認する。かなでも同様に様子を見る。

「そろそろね……」

 ルイズが読み上げるルーンを聞きながら身構えていたキュルケは、自分とかなでの顔を引っ込めた。

 そしてルイズが魔法を使った。

 次の瞬間、爆発が起きた。衝撃と煙が派手に押し寄せる。

 かなでは爆音と衝撃に驚く。そして煙が晴れるのを見計らって顔を出してみると、ボロボロの教室と壊滅している教壇付近。そして気絶して床に転がっているボロボロのシュヴルーズと、同じくボロボロのルイズの姿が見えた。

 ルイズは取り出したハンカチで上品に顔を拭くと、一言。

「ちょっと失敗したわね」

 それに対して生徒達からは、

「どこが”ちょっと”だ!!!」

「いい加減にしてよね、ゼロのルイズ!!」

「才能ゼロ! 魔法成功率ゼロのルイズ!!」

 次々と反撃の罵声が飛び交った。

 そしてかなではルイズの"ゼロ"の意味を理解した。




文字数が多いわりに、あまりストーリー進んでない感じですかね……?

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